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第3部 周りと仲良くしろと言われました
99.話が脱線してしまうのはしかたがないようです
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『女子(おなご)同士の会話には口を挟んではなりませぬ』
皇太后にそう言われ、白虎は本当に何も言えなくなってしまった。白虎はムッとしたように黙った。玄武が苦笑する。
『江緑』
『はい、玄武様』
『白虎についてはいくらからかっても構わぬが、こと香子に関しては冷静ではいられぬのだ。それは四神の性と心得よ』
白虎様にはいいんだ、と香子は内心苦笑した。
『はい。その教え、肝に銘じましょう』
皇太后は柔和な笑みを浮かべているが、その実目が笑っていないのが怖いと思った。香子に対する時、最近皇太后の目は笑っていることの方が多いのでちょっとそういうのが香子は怖い。
『花嫁様、静宜園(香山公園)には人をやったと伺いましたが、紅葉はどうであったのでしょう?』
『すでに赤く色づいていると聞きました。せっかくですからその美しい景色を老仏爺と共に見たいと思いました』
『ほ、ほ……花嫁様はかわいいことをおっしゃる。この年寄りと紅葉を見てもなんということもございますまい。ですが、せっかくですからそのお誘いに乗らせていただきましょうぞ』
『ありがとうございます』
静宜園は山なのでできるだけ暖かい恰好をしていくことや、山の上に上る際は輿を手配することなどを提案した。
『花嫁様はかつて静宜園に訪れたことがおありだとか』
『はい、大学の郊遊(遠足)で連れて行ってもらったことがあります』
『学生が大勢で見に行ったと聞いたが、にわかには信じられぬのぅ。花嫁様の元の世界とこちらの世界は繋がっているらしいが、皇族の土地を一般開放するなどとは』
『元の世界ではすでに皇帝も皇族もおりませんので』
皇太后は嘆息した。
『真に、信じられぬ話じゃ』
皇族という話をすれば漢王室の末裔という人もいるらしいし、清王朝の皇族は生きている。聞いた話だとその皇族は故宮で書を売り、その売り上げを故宮の修繕費などに充てているとか。今もそうしているかどうかは知らないが素晴らしい話だと香子は思った。
閑話休題。
『ですが私たちはただ香山に登って下り、お土産を買って帰っただけです。他の施設については入れないようになっていましたので、紅葉を見てきただけでしたね』
『土産とは? 何を買ったのじゃ?』
香子はにっこりした。
延夕玲に預けたものを皇太后の女官に渡してもらう。
『安物のしおりです』
『ほほう』
皇太后は女官によって差し出されたしおりをまじまじと眺めた。あんまり見られると本当にちゃちなことがバレてしまうと香子は苦笑した。
漢詩のようなものが印刷された紙に赤く色を塗った紅葉の葉が添えられ、それをラミネート加工(パウチ加工)されているというだけのしおりである。買った時は紅葉の葉が赤く塗られていることには気づかなかったが、そのうち使ううちに気づいて香子は苦笑した。紅葉の葉には違いないし、ラミネート加工されているので使いやすい。だから香子はたまたま本に挟んで持っていたのだった。
『確かに安物のようじゃが……この透明なものはなんじゃ?』
『それはプラスチックという素材です。おそらく、こちらの世界では作られていないかと』
『作ることは可能なのかえ?』
皇太后の目がギラリと光った。これは施政者の目だと気づき、香子は冷汗をかいた。
『……材料さえあれば作成は可能かと思いますが……私は作り方は知りません』
『そうか……それは残念じゃのう』
プラスチックの元は石油だ。こちらの世界で石油の採掘がされているとは考えづらいし、またそれを推進したいとは香子は思えない。プラスチックは便利だが、処理をきちんとしなければ大気汚染や海洋汚染の原因になる。
北京の大気汚染はひどかったなと香子は思い出した。香子が大陸にいた当時、大陸にいると煙草を吸う四倍肺が汚れるなどという話を聞いたことがあった。実際には誰が言い出したのかは知らないし、根拠があるかどうかもわからない。
でも鼻をかめば黒いものが出てきてびっくりしたし、黄砂の時期は世界が本当に黄色くなって驚いた。経済成長の為にはやむをえないとはいえ、香子はこちらの世界をあのような状態にはしたくなかった。
『して、材料とはなんなのじゃ?』
『化石です』
『化石、とな……』
正しくは化石燃料だが、それは化石ではない。けれど香子は皇太后が理解できるように自分が説明できるとは思えなかった。イメージがしやすいものとして、香子は化石と伝えたにすぎない。
『ふむ……なかなかに難しいものからできているのじゃな』
『はい。個人ではその材料を加工することはできません』
しおりを見せたことで別のことに興味を向かせてしまったことを香子は反省した。
静宜園には案内人がいることから、事前に皇太后と香子たちが向かうことを連絡しておもてなしをしてもらうこととする。香子は香山に登りたいということを伝え、皇太后は静宜園でお茶と食事をしたいという希望を出した。
そうして十日後、香子は皇太后と出かけることになったのだった。
ーーーーー
今年も読んでいただきありがとうございました。来年もよろしくお願いします。
皇太后にそう言われ、白虎は本当に何も言えなくなってしまった。白虎はムッとしたように黙った。玄武が苦笑する。
『江緑』
『はい、玄武様』
『白虎についてはいくらからかっても構わぬが、こと香子に関しては冷静ではいられぬのだ。それは四神の性と心得よ』
白虎様にはいいんだ、と香子は内心苦笑した。
『はい。その教え、肝に銘じましょう』
皇太后は柔和な笑みを浮かべているが、その実目が笑っていないのが怖いと思った。香子に対する時、最近皇太后の目は笑っていることの方が多いのでちょっとそういうのが香子は怖い。
『花嫁様、静宜園(香山公園)には人をやったと伺いましたが、紅葉はどうであったのでしょう?』
『すでに赤く色づいていると聞きました。せっかくですからその美しい景色を老仏爺と共に見たいと思いました』
『ほ、ほ……花嫁様はかわいいことをおっしゃる。この年寄りと紅葉を見てもなんということもございますまい。ですが、せっかくですからそのお誘いに乗らせていただきましょうぞ』
『ありがとうございます』
静宜園は山なのでできるだけ暖かい恰好をしていくことや、山の上に上る際は輿を手配することなどを提案した。
『花嫁様はかつて静宜園に訪れたことがおありだとか』
『はい、大学の郊遊(遠足)で連れて行ってもらったことがあります』
『学生が大勢で見に行ったと聞いたが、にわかには信じられぬのぅ。花嫁様の元の世界とこちらの世界は繋がっているらしいが、皇族の土地を一般開放するなどとは』
『元の世界ではすでに皇帝も皇族もおりませんので』
皇太后は嘆息した。
『真に、信じられぬ話じゃ』
皇族という話をすれば漢王室の末裔という人もいるらしいし、清王朝の皇族は生きている。聞いた話だとその皇族は故宮で書を売り、その売り上げを故宮の修繕費などに充てているとか。今もそうしているかどうかは知らないが素晴らしい話だと香子は思った。
閑話休題。
『ですが私たちはただ香山に登って下り、お土産を買って帰っただけです。他の施設については入れないようになっていましたので、紅葉を見てきただけでしたね』
『土産とは? 何を買ったのじゃ?』
香子はにっこりした。
延夕玲に預けたものを皇太后の女官に渡してもらう。
『安物のしおりです』
『ほほう』
皇太后は女官によって差し出されたしおりをまじまじと眺めた。あんまり見られると本当にちゃちなことがバレてしまうと香子は苦笑した。
漢詩のようなものが印刷された紙に赤く色を塗った紅葉の葉が添えられ、それをラミネート加工(パウチ加工)されているというだけのしおりである。買った時は紅葉の葉が赤く塗られていることには気づかなかったが、そのうち使ううちに気づいて香子は苦笑した。紅葉の葉には違いないし、ラミネート加工されているので使いやすい。だから香子はたまたま本に挟んで持っていたのだった。
『確かに安物のようじゃが……この透明なものはなんじゃ?』
『それはプラスチックという素材です。おそらく、こちらの世界では作られていないかと』
『作ることは可能なのかえ?』
皇太后の目がギラリと光った。これは施政者の目だと気づき、香子は冷汗をかいた。
『……材料さえあれば作成は可能かと思いますが……私は作り方は知りません』
『そうか……それは残念じゃのう』
プラスチックの元は石油だ。こちらの世界で石油の採掘がされているとは考えづらいし、またそれを推進したいとは香子は思えない。プラスチックは便利だが、処理をきちんとしなければ大気汚染や海洋汚染の原因になる。
北京の大気汚染はひどかったなと香子は思い出した。香子が大陸にいた当時、大陸にいると煙草を吸う四倍肺が汚れるなどという話を聞いたことがあった。実際には誰が言い出したのかは知らないし、根拠があるかどうかもわからない。
でも鼻をかめば黒いものが出てきてびっくりしたし、黄砂の時期は世界が本当に黄色くなって驚いた。経済成長の為にはやむをえないとはいえ、香子はこちらの世界をあのような状態にはしたくなかった。
『して、材料とはなんなのじゃ?』
『化石です』
『化石、とな……』
正しくは化石燃料だが、それは化石ではない。けれど香子は皇太后が理解できるように自分が説明できるとは思えなかった。イメージがしやすいものとして、香子は化石と伝えたにすぎない。
『ふむ……なかなかに難しいものからできているのじゃな』
『はい。個人ではその材料を加工することはできません』
しおりを見せたことで別のことに興味を向かせてしまったことを香子は反省した。
静宜園には案内人がいることから、事前に皇太后と香子たちが向かうことを連絡しておもてなしをしてもらうこととする。香子は香山に登りたいということを伝え、皇太后は静宜園でお茶と食事をしたいという希望を出した。
そうして十日後、香子は皇太后と出かけることになったのだった。
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今年も読んでいただきありがとうございました。来年もよろしくお願いします。
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