400 / 597
第3部 周りと仲良くしろと言われました
97.夜空を飛んだことを思い出しています
しおりを挟む
皇太后からの再度の返信は翌朝届けられた。今日の午後に皇太后の元へ来るようにと書かれていたようだった。
『慈寧宮へお伺いすればいいのかしら』
『はい』
延夕玲が答えた。
昼食は食べてからなので早くても未の正刻(午後二時)以降に伺うことになる。そんなアバウトでいいのかと思うのだが、先ぶれを三十分ぐらい前にすればいいらしい。皇太后にもだいぶ余裕が出てきたみたいだと香子は思った。
朝食の後、部屋に戻って少ししてから白虎が迎えにきた。そのまま室に連れて行かれたので、香子は白虎にもふらせてほしいとお願いした。
『癒しが必要なんです~』
『ならば今宵は我とも過ごしてもらおうか』
白虎がクックッと笑いながら言う。
『……まずは予定の確認をさせてください。明日って……』
『明日、花嫁様の予定は入っておりません』
白雲がしれっと教えてくれた。なんかもう白雲が香子の秘書っぽくなりつつある。侍女頭の陳から聞いているのだろうか。
『あら、そう? ありがとう』
白雲に礼を言ってから、余計なことをとちょっとだけ香子は思った。これで夜は白虎とも過ごすことになってしまった。嫌なわけではないが、香子としても複雑なのである。
約束通り寝室でもふもふに顔を埋めながら、香子は昨夜のことを思い出していた。
青龍の背に乗って見る王都は、多少飛べばすぐに真っ暗になって何も見えなくなる。
『青龍様はこんなに暗くても見えるのですか』
『見える』
香子の目には本当に何も見えない。けれどこの暗闇が香子は嫌いではなかった。それは青龍と一緒にいるからだろうということも、香子にはわかっていた。
『私が暮らしていた北京も、それほど明るくはなかったんです。でもここまで暗くはなかった……』
目が慣れてくれば夜の闇も天上が紺色で美しく見えるし、輝く星で多少は明るく見える。でもその光は地上には届かないから、やっぱりあまり地上が見えはしない。
『夜目が利くようになればいいのに』
そうしたら、世界は白黒かもしれないけどもっと見えるようになるのにと、香子は少し残念に思った。
『あ、でも夜目が利いたら利いたで昼間は眩しく感じられるのかしら? 昼間は普通に見えるけど、夜もよく見えるようになるとかって都合がよすぎるかしら?』
そんな独り言を呟いていたら、なんだか、徐々にいろんなものが見えてきたような気がした。
『あれ?』
香子は青龍の背に乗ったまま首を傾げた。
『香子、如何した?』
『なんだか……とてもよく見えるようになってきた気がします……』
『ならばそなたの願いが届いたのだろう』
『ええー……?』
それってどうなのよ? と香子は疑問に思う。大体香子を管理している神は誰なのだろう。天皇が香子を召喚したのではないのか。では香子の身体を変えているのは誰なのだろう。
『青龍様……どなたに願いが届いたのでしょうか?』
おそるおそる聞いてみたら、
『そなたを好ましく思う神々だ』
という返事があった。
神々? と更に謎が深まってしまった。
『青龍様、具体的な神の名前はご存知ですか?』
『……人間がどう呼んでいるかなど知らぬ』
ですよねー。
『だが……人皇も地皇もすることがなければ力を貸してくれるだろう』
三皇ってなんなんだろうと香子は頭が痛くなるのを感じた。とはいえ夜目が利くようになったのは素直に嬉しい。
(夜目が利くようになったのはとても嬉しいです。ありがとうございます)
心の中で天に向けて礼を言い、今ならばと香子は思った。
『……青龍様、私……長城を見てきたいのですが、可能ですか?』
『上を飛んでいけばよいか』
『はい、そんなに長い時間は無理だと思うので、少しだけ飛んでいただけるとありがたいです』
本当は嘉峪関の方までも見に行きたい気もするが、それは誰かと結婚してから連れて行ってもらおうと香子は考えた。
『遠慮はせずともよい。そなたが望むだけ飛ぼう』
『でも……』
『今宵ぐらいは兄らも許してくれるはずだ』
『はい……ありがとうございます』
香子は泣きそうになった。四神はどこまでも香子に甘い。香子が無理だと思うことを言っても、できるだけ叶えてくれようとする。大祭の参加については確かにとても渋られたけれど、それでも香子の希望を叶えてくれた。
『玄武様たちに伝えていただけますか? 長城を見てから帰ると。遅くなるかもしれないって』
『ああ、伝えておこう』
万里の長城の近くまで青龍に飛んでもらい、暗い中城壁を眺めた。今夜は山海関の方まで青龍は飛んだ。こちらの世界の夜の海の様子に香子は震えた。
『すごい……』
こんなところまで兵士がいて、北を見張っているなんて。この大陸の北にはオロス国がある。オロス国との間には遊牧の部族がいるらしく、国境付近ではたびたび略奪などをするのだと張錦飛にも教えてもらった。
この国で生きていくのだと、香子はやっと実感が湧いてきたようだった。
そんなことを思い出しながら、香子は白虎の毛にぐりぐりと顔をすり寄せたのだった。
ーーーーーー
香子の夜目が利くようになった!
三皇 中国古代の伝説上の三人の聖なる帝王。伏羲(ふっき)・女媧(じょか)・神農(しんのう)。あるいは、伏羲・神農・黄帝、または天皇氏・地皇氏・人皇氏などともいう。
(情報精選版 日本国語大辞典より抜粋)
『慈寧宮へお伺いすればいいのかしら』
『はい』
延夕玲が答えた。
昼食は食べてからなので早くても未の正刻(午後二時)以降に伺うことになる。そんなアバウトでいいのかと思うのだが、先ぶれを三十分ぐらい前にすればいいらしい。皇太后にもだいぶ余裕が出てきたみたいだと香子は思った。
朝食の後、部屋に戻って少ししてから白虎が迎えにきた。そのまま室に連れて行かれたので、香子は白虎にもふらせてほしいとお願いした。
『癒しが必要なんです~』
『ならば今宵は我とも過ごしてもらおうか』
白虎がクックッと笑いながら言う。
『……まずは予定の確認をさせてください。明日って……』
『明日、花嫁様の予定は入っておりません』
白雲がしれっと教えてくれた。なんかもう白雲が香子の秘書っぽくなりつつある。侍女頭の陳から聞いているのだろうか。
『あら、そう? ありがとう』
白雲に礼を言ってから、余計なことをとちょっとだけ香子は思った。これで夜は白虎とも過ごすことになってしまった。嫌なわけではないが、香子としても複雑なのである。
約束通り寝室でもふもふに顔を埋めながら、香子は昨夜のことを思い出していた。
青龍の背に乗って見る王都は、多少飛べばすぐに真っ暗になって何も見えなくなる。
『青龍様はこんなに暗くても見えるのですか』
『見える』
香子の目には本当に何も見えない。けれどこの暗闇が香子は嫌いではなかった。それは青龍と一緒にいるからだろうということも、香子にはわかっていた。
『私が暮らしていた北京も、それほど明るくはなかったんです。でもここまで暗くはなかった……』
目が慣れてくれば夜の闇も天上が紺色で美しく見えるし、輝く星で多少は明るく見える。でもその光は地上には届かないから、やっぱりあまり地上が見えはしない。
『夜目が利くようになればいいのに』
そうしたら、世界は白黒かもしれないけどもっと見えるようになるのにと、香子は少し残念に思った。
『あ、でも夜目が利いたら利いたで昼間は眩しく感じられるのかしら? 昼間は普通に見えるけど、夜もよく見えるようになるとかって都合がよすぎるかしら?』
そんな独り言を呟いていたら、なんだか、徐々にいろんなものが見えてきたような気がした。
『あれ?』
香子は青龍の背に乗ったまま首を傾げた。
『香子、如何した?』
『なんだか……とてもよく見えるようになってきた気がします……』
『ならばそなたの願いが届いたのだろう』
『ええー……?』
それってどうなのよ? と香子は疑問に思う。大体香子を管理している神は誰なのだろう。天皇が香子を召喚したのではないのか。では香子の身体を変えているのは誰なのだろう。
『青龍様……どなたに願いが届いたのでしょうか?』
おそるおそる聞いてみたら、
『そなたを好ましく思う神々だ』
という返事があった。
神々? と更に謎が深まってしまった。
『青龍様、具体的な神の名前はご存知ですか?』
『……人間がどう呼んでいるかなど知らぬ』
ですよねー。
『だが……人皇も地皇もすることがなければ力を貸してくれるだろう』
三皇ってなんなんだろうと香子は頭が痛くなるのを感じた。とはいえ夜目が利くようになったのは素直に嬉しい。
(夜目が利くようになったのはとても嬉しいです。ありがとうございます)
心の中で天に向けて礼を言い、今ならばと香子は思った。
『……青龍様、私……長城を見てきたいのですが、可能ですか?』
『上を飛んでいけばよいか』
『はい、そんなに長い時間は無理だと思うので、少しだけ飛んでいただけるとありがたいです』
本当は嘉峪関の方までも見に行きたい気もするが、それは誰かと結婚してから連れて行ってもらおうと香子は考えた。
『遠慮はせずともよい。そなたが望むだけ飛ぼう』
『でも……』
『今宵ぐらいは兄らも許してくれるはずだ』
『はい……ありがとうございます』
香子は泣きそうになった。四神はどこまでも香子に甘い。香子が無理だと思うことを言っても、できるだけ叶えてくれようとする。大祭の参加については確かにとても渋られたけれど、それでも香子の希望を叶えてくれた。
『玄武様たちに伝えていただけますか? 長城を見てから帰ると。遅くなるかもしれないって』
『ああ、伝えておこう』
万里の長城の近くまで青龍に飛んでもらい、暗い中城壁を眺めた。今夜は山海関の方まで青龍は飛んだ。こちらの世界の夜の海の様子に香子は震えた。
『すごい……』
こんなところまで兵士がいて、北を見張っているなんて。この大陸の北にはオロス国がある。オロス国との間には遊牧の部族がいるらしく、国境付近ではたびたび略奪などをするのだと張錦飛にも教えてもらった。
この国で生きていくのだと、香子はやっと実感が湧いてきたようだった。
そんなことを思い出しながら、香子は白虎の毛にぐりぐりと顔をすり寄せたのだった。
ーーーーーー
香子の夜目が利くようになった!
三皇 中国古代の伝説上の三人の聖なる帝王。伏羲(ふっき)・女媧(じょか)・神農(しんのう)。あるいは、伏羲・神農・黄帝、または天皇氏・地皇氏・人皇氏などともいう。
(情報精選版 日本国語大辞典より抜粋)
2
お気に入りに追加
4,015
あなたにおすすめの小説
旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハー異世界ラブコメ〜
ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉
転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!?
のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました……
イケメン山盛りの逆ハーです
前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります
小説家になろう、カクヨムに転載しています
明智さんちの旦那さんたちR
明智 颯茄
恋愛
あの小高い丘の上に建つ大きなお屋敷には、一風変わった夫婦が住んでいる。それは、妻一人に夫十人のいわゆる逆ハーレム婚だ。
奥さんは何かと大変かと思いきやそうではないらしい。旦那さんたちは全員神がかりな美しさを持つイケメンで、奥さんはニヤケ放題らしい。
ほのぼのとしながらも、複数婚が巻き起こすおかしな日常が満載。
*BL描写あり
毎週月曜日と隔週の日曜日お休みします。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~
月
恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん)
は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。
しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!?
(もしかして、私、転生してる!!?)
そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!!
そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?
女性が全く生まれない世界とか嘘ですよね?
青海 兎稀
恋愛
ただの一般人である主人公・ユヅキは、知らぬうちに全く知らない街の中にいた。ここがどこだかも分からず、ただ当てもなく歩いていた時、誰かにぶつかってしまい、そのまま意識を失う。
そして、意識を取り戻し、助けてくれたイケメンにこの世界には全く女性がいないことを知らされる。
そんなユヅキの逆ハーレムのお話。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
美幼女に転生したら地獄のような逆ハーレム状態になりました
市森 唯
恋愛
極々普通の学生だった私は……目が覚めたら美幼女になっていました。
私は侯爵令嬢らしく多分異世界転生してるし、そして何故か婚約者が2人?!
しかも婚約者達との関係も最悪で……
まぁ転生しちゃったのでなんとか上手く生きていけるよう頑張ります!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる