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第3部 周りと仲良くしろと言われました
95.少しずつ、想いは溢れるものです
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懲りない、という自覚は香子にもある。
だが紅児を心配するぐらいはいいではないか。紅夏と一緒になった方がいいということは香子も理解している。
(でもこんなに早く奪われるなんてぇ~)
デートしているだろう二人を思うと、香子は頭を掻きむしりたくなった。
(エリーザが幸せならばそれでいいの……いいのよ、うん)
手巾が目の前にあったら端っこを咥えてキーッとやりたい心境だった。(その時点で負けている)西洋系の愛らしい娘が紅夏なんかに手籠めにされるなんてぇ~と、考えただけでやっぱり穏やかには過ごせない。夕食時には紅夏が戻ってきて、食堂の隅にしれっと控えた。香子はいろいろ問い詰めたくてしかたなかったが、食堂では追及しなかった。
その後紅夏より簡単な報告を受け、紅児が楽しかったならそれでよかったことにした。
翌日には紅児からも話を聞いた。
『香山は香山だけじゃないのね。楽しみだわ』
聞くといろいろな施設があるらしいということがわかった。香子の記憶の中の香山は、バスで乗り付けて階段で上に登って、眺めを見てリフトで下りてきたという場所である。下りたら土産物屋の屋台がいっぱい並んでいて、香山は紅葉が有名だからと紅葉のしおりを買ってきた。実はリュックの中の本に挟まっているのがそうである。でも買った時はよく見ていなかったが、今見ると紅葉の葉っぱは葉っぱなのだが、しおりの中の葉は赤く塗られていることがわかる。ちゃちな作りではあるが香子はそれが嫌いではなかった。
こちらの世界では香山も頤和園もそう簡単に足を踏み入れられる場所ではないが、元の世界では有料で一般公開されていると言えば紅児だけでなく部屋付の侍女、延夕玲も驚いていた様子だった。
現在の国の体制のことを聞かれたので知っている範囲で答えた。紅児の国も王制らしく、王がいない国というのは想像できないようだった。ただ紅児の国の王制は独裁的ではなく、立憲君主制を採用しているように思えた。
(海の向こうまでは行けないよね)
それ以前に香子はこの国からは出られないだろう。もし、何十年か何百年か後にはこっそり旅行ぐらいはできるかもしれない。その時隣にいるのは誰だろうかとぼんやり思った。
紅児と紅夏の仲がよいようで何よりである。いくら番(つがい)であるとはいえ、紅児が紅夏に強制されているような関係だったら可哀想だし、そうであれば眷属たちを敵に回してでも紅児を守る覚悟はある。番なんて関係に甘えて紅児を娶るのが当然なんて考えている輩に、紅児を嫁がせたいとは香子は思えなかった。
(紅夏が紅児を大事にしてくれればそれでいいわ……)
『香子、如何した?』
はっとする。今日は青龍と過ごしていた。もう香子の部屋から青龍の室へ移動している。青藍が淹れてくれたお茶に手をつけない香子に、青龍はいぶかしげな表情をした。
『なんでもありません』
振り向いて青龍の顔をじっと眺める。最初に会った頃と比べて表情が出てきたと香子は思う。未だに少し変わる程度なのでぼうっとしているとわかりづらいが、能面のようだった秀麗な面に感情が浮かぶのは嬉しかった。この少し困っているような顔も、香子の為にあるのだ。
香子はふふっと笑った。
『香子?』
『んー……』
これは言ったら青龍に押し倒されてしまうだろうかと香子は首を傾げる。
でも今は青龍に想いを伝えたいと香子は思ったから、口を開いた。
『青龍様……好き……』
消え入りそうな声でそう告げた途端、きつく抱きしめられて口唇を奪われた。
「んっ……んっ……!」
舌を舐められると震えてしまう。四神に触れられるとそれだけで身体が喜んでしまうのを感じて、香子は頬を染めた。口づけはどこまでも甘く、抱きしめられる腕に香子は胸が高鳴る。本当に四神をみな好きになってしまったのだなと香子は再認識した。
こんなこと元の世界では許されないと思うのに、ここはもう異世界だし、元の世界に帰れはしないのだからいいではないかと弱い香子が自分をそそのかそうとする。けれど香子もただ抱かれて暮らしたくはないのだ。この国の歴史に触れたり、時には旅に出たりとこの世界を満喫したいのである。わがままと言うなかれ。香子にはそれだけの時間があるし、四神のおかげで金銭にも不自由はない。
(私って……すっごく恵まれてるんだよね?)
青龍が香子を抱いたまま立ち上がった。
「んぁっ……」
一瞬口づけが解かれる。青龍が香子の目を覗き込んできた。こんな時、白虎や朱雀ならば有無を言わさず寝室に香子を運ぶだろうに、青龍は時にこういう気遣いを見せるのだ。好きになるなという方が無理だった。
『青龍様』
『うん?』
『最後までは、だめですよ?』
『……わかっている。だが、今宵は如何か……』
『今はお答えできませんから……』
明日が張錦飛が来る日だったならばそれを中止にはしたくない。寝室に運ばれながら、後で確認しようと香子は思う。
でも今は熱の籠った瞳で香子を見つめる青龍と、甘く過ごしたかった。
ーーーーー
「貴方色に染まる」81話辺りです。
だが紅児を心配するぐらいはいいではないか。紅夏と一緒になった方がいいということは香子も理解している。
(でもこんなに早く奪われるなんてぇ~)
デートしているだろう二人を思うと、香子は頭を掻きむしりたくなった。
(エリーザが幸せならばそれでいいの……いいのよ、うん)
手巾が目の前にあったら端っこを咥えてキーッとやりたい心境だった。(その時点で負けている)西洋系の愛らしい娘が紅夏なんかに手籠めにされるなんてぇ~と、考えただけでやっぱり穏やかには過ごせない。夕食時には紅夏が戻ってきて、食堂の隅にしれっと控えた。香子はいろいろ問い詰めたくてしかたなかったが、食堂では追及しなかった。
その後紅夏より簡単な報告を受け、紅児が楽しかったならそれでよかったことにした。
翌日には紅児からも話を聞いた。
『香山は香山だけじゃないのね。楽しみだわ』
聞くといろいろな施設があるらしいということがわかった。香子の記憶の中の香山は、バスで乗り付けて階段で上に登って、眺めを見てリフトで下りてきたという場所である。下りたら土産物屋の屋台がいっぱい並んでいて、香山は紅葉が有名だからと紅葉のしおりを買ってきた。実はリュックの中の本に挟まっているのがそうである。でも買った時はよく見ていなかったが、今見ると紅葉の葉っぱは葉っぱなのだが、しおりの中の葉は赤く塗られていることがわかる。ちゃちな作りではあるが香子はそれが嫌いではなかった。
こちらの世界では香山も頤和園もそう簡単に足を踏み入れられる場所ではないが、元の世界では有料で一般公開されていると言えば紅児だけでなく部屋付の侍女、延夕玲も驚いていた様子だった。
現在の国の体制のことを聞かれたので知っている範囲で答えた。紅児の国も王制らしく、王がいない国というのは想像できないようだった。ただ紅児の国の王制は独裁的ではなく、立憲君主制を採用しているように思えた。
(海の向こうまでは行けないよね)
それ以前に香子はこの国からは出られないだろう。もし、何十年か何百年か後にはこっそり旅行ぐらいはできるかもしれない。その時隣にいるのは誰だろうかとぼんやり思った。
紅児と紅夏の仲がよいようで何よりである。いくら番(つがい)であるとはいえ、紅児が紅夏に強制されているような関係だったら可哀想だし、そうであれば眷属たちを敵に回してでも紅児を守る覚悟はある。番なんて関係に甘えて紅児を娶るのが当然なんて考えている輩に、紅児を嫁がせたいとは香子は思えなかった。
(紅夏が紅児を大事にしてくれればそれでいいわ……)
『香子、如何した?』
はっとする。今日は青龍と過ごしていた。もう香子の部屋から青龍の室へ移動している。青藍が淹れてくれたお茶に手をつけない香子に、青龍はいぶかしげな表情をした。
『なんでもありません』
振り向いて青龍の顔をじっと眺める。最初に会った頃と比べて表情が出てきたと香子は思う。未だに少し変わる程度なのでぼうっとしているとわかりづらいが、能面のようだった秀麗な面に感情が浮かぶのは嬉しかった。この少し困っているような顔も、香子の為にあるのだ。
香子はふふっと笑った。
『香子?』
『んー……』
これは言ったら青龍に押し倒されてしまうだろうかと香子は首を傾げる。
でも今は青龍に想いを伝えたいと香子は思ったから、口を開いた。
『青龍様……好き……』
消え入りそうな声でそう告げた途端、きつく抱きしめられて口唇を奪われた。
「んっ……んっ……!」
舌を舐められると震えてしまう。四神に触れられるとそれだけで身体が喜んでしまうのを感じて、香子は頬を染めた。口づけはどこまでも甘く、抱きしめられる腕に香子は胸が高鳴る。本当に四神をみな好きになってしまったのだなと香子は再認識した。
こんなこと元の世界では許されないと思うのに、ここはもう異世界だし、元の世界に帰れはしないのだからいいではないかと弱い香子が自分をそそのかそうとする。けれど香子もただ抱かれて暮らしたくはないのだ。この国の歴史に触れたり、時には旅に出たりとこの世界を満喫したいのである。わがままと言うなかれ。香子にはそれだけの時間があるし、四神のおかげで金銭にも不自由はない。
(私って……すっごく恵まれてるんだよね?)
青龍が香子を抱いたまま立ち上がった。
「んぁっ……」
一瞬口づけが解かれる。青龍が香子の目を覗き込んできた。こんな時、白虎や朱雀ならば有無を言わさず寝室に香子を運ぶだろうに、青龍は時にこういう気遣いを見せるのだ。好きになるなという方が無理だった。
『青龍様』
『うん?』
『最後までは、だめですよ?』
『……わかっている。だが、今宵は如何か……』
『今はお答えできませんから……』
明日が張錦飛が来る日だったならばそれを中止にはしたくない。寝室に運ばれながら、後で確認しようと香子は思う。
でも今は熱の籠った瞳で香子を見つめる青龍と、甘く過ごしたかった。
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「貴方色に染まる」81話辺りです。
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