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第3部 周りと仲良くしろと言われました
94.割り切れない気持ちを話したら嫉妬されました
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やきもきするがしかたない、と香子は嘆息した。
皇太后に根回しもした。皇太后は、
『では妾のわがままということにしよう。妾が花嫁様を連れて静宜園(香山)に行きたいのだと言えばよい』
と言ってくれた。その後皇帝が皇太后のところへ突撃したりといろいろあったらしいが、皇太后はのらりくらりとかわして香子と香山に向かうことを了承させたとか聞いた。皇帝の苦虫を噛み潰したような顔を思い浮かべるだけで、香子は溜飲が下がるのを覚えた。あまりはっきり表には出さないようにしているが、本当に香子は皇帝を毛嫌いしているのである。
『何がそんなに気になるのか』
白虎に顔を覗き込まれてしまった。白虎の室である。
『保護しているかわいい娘が紅夏なんかにほだされて手籠めにされるのかと思うと切なくて切なくて……』
『ふむ』
白虎は無表情になった。
『我の記憶では、あの娘は村の男に嫁ぎたくなくてここまで出てきたのではなかったか』
『……よく覚えてましたね』
『そなたが話してくれたことは忘れてはおらぬ』
香子は顔が熱くなるのを感じた。こういうことをさらりと言うから四神はもうっ! と思ってしまうのだ。
『そういえばそうだったと思います』
『あの娘もここで働くのは構わぬが、いずれ誰かに嫁ぐ必要があるのではないか』
『うっ……』
香子は言葉をつまらせた。未だ紅児は不安定な状態である。この国の法律だとまもなく成人するだろう紅児は、村にいたままであればすでに婚約者がいて結婚の準備を進めているだろう頃合いである。下手したらもう結婚前の試用期間的なかんじで相手の家に入っていてもおかしくはない。紅児の元の国ではまだまだ成人しないはずだからそれを適用させたとしても後約三年である。三年でいい相手が見つかるかどうかも未知数だし、そもそもセレスト王国からかまだなんの返答も来ていない。もしこの国で一生を過ごすことになれば、誰かに嫁がないわけにはいかないのだ。
(女子は、結婚しないといけないもんね……)
そう、この国では独身でいることはできないと言っていい。
元の世界の己の国でも結婚しなければなんやかや言われていた。それでも独身で過ごす女性がいなかったわけではない。でもこの国はだめなのだ。それが許される国ではない。
『……紅夏が相手としては最善だと?』
『眷属は番(つがい)を何よりも大切にする。お互いが世界の全てなのだ。それは我も変わらぬ』
どさくさに紛れて唇を寄せられ、香子はしょうがないなぁとそれに応えた。
「んっ、んんっ……」
けれどそれは昼間からする口づけではなかった。ちゅっと触れた唇から舌が伸ばされ、香子の口内を甘く舐めた。四神との口づけは本当に気持ちいいから香子は困ってしまう。
顎を優しく押さえられ、逃げることもできなくて、香子は舌を何度も舐められた。少しざらついた舌が気持ちよくて、香子の目にうっすらと涙が浮かんだ。
『……もうっ……』
やっと口づけが解かれた時には、香子は胸を喘がせていた。
『そなたが愛しくてたまらぬ故な』
『……私はまだ……ですけど、紅夏がエリーザに手を出すのは認められませんよ!』
いいとは香子も言えない。下手なことを言ったらまた床に運ばれてしまうことが間違いないからだった。
『愛し合っているのではないのか?』
『まだそこまで気持ちを交わしていないはずです! それにエリーザは未成年です! 立場的には黒月と変わりません』
『だが、あの娘の国では婚前の性行為は推奨されているのではなかったか?』
『ああもう! なんでそんなことばっかりはっきり覚えてるんですかっ!』
なんなんだあの国は! と香子はいきり立った。婚前交渉が推奨されてる国とかなんなんだ。身体の相性をみるのは確かに大事かもしれないが、それは13歳頃性教育を行われた後ならばかまわないというのだから、香子としては信じられない。しかも結婚前に性行為を一度も行ったことのない女性は魅力がないなどの理由で離縁されてしまうこともあるらしいと聞き、香子はカルチャーショックを受けた。
『とにかく! よっぽどのことがない限りは認められませんっ! だってエリーザは元の国で性教育を受けていないんですからっ!』
『それは確かにそうだな』
はーっ、はーっと香子は荒い息をついた。何故こんなに自分が興奮しているのか香子はわからなかった。白雲と陳秀美についてはかまわないだろう。陳はいわゆる後家さんだし、白雲と幸せになってほしいと香子は思っている。延夕玲も成人はしているのだが、青藍が強引に口説くような真似をしなければいい。ただしやはり紅児についてはだめだと香子は思うのだ。
『だがそうなると、性教育さえ受ければかまわないという話にはならぬのか?』
『だったらなおのこと性教育なんて受けさせませんよっ!』
白虎は面白そうに笑んだ。
『香子は本当に面白いな』
香子はムッとした。
『白虎様、それ全然褒めてませんよ……』
『もろもろのことを含めて、そなたが愛しくてならぬ』
『うっ……!』
その流し目は反則である。
『香子』
『な、なんですか?』
『この国の女子は、嫁ぐ際に性教育などは受けていないはずだ』
『あ……』
そういえばそうだったと香子は頭を抱えたくなった。
『全て夫に身を任せ、よいように従う。それをあの娘にもさせよとは言わぬ。だが……』
白虎は香子を抱いたまま長椅子から立ち上がった。
『今は我だけを見てはくれぬか?』
あ、と香子はやっと気づいた。白虎は紅児のことを気にかける香子に嫉妬していた。
『……抱かないでくださいね?』
それだけ伝えて、香子は素直に白虎の寝室に運ばれたのだった。
ーーーーー
セレスト王国の常識については、「初めての人になってくれませんか?」(一迅社/メリッサ文庫)を参照してください。
「貴方色に染まる」77話~です。紅児が紅夏とデート中です。よろしければこちらもどうぞ。
皇太后に根回しもした。皇太后は、
『では妾のわがままということにしよう。妾が花嫁様を連れて静宜園(香山)に行きたいのだと言えばよい』
と言ってくれた。その後皇帝が皇太后のところへ突撃したりといろいろあったらしいが、皇太后はのらりくらりとかわして香子と香山に向かうことを了承させたとか聞いた。皇帝の苦虫を噛み潰したような顔を思い浮かべるだけで、香子は溜飲が下がるのを覚えた。あまりはっきり表には出さないようにしているが、本当に香子は皇帝を毛嫌いしているのである。
『何がそんなに気になるのか』
白虎に顔を覗き込まれてしまった。白虎の室である。
『保護しているかわいい娘が紅夏なんかにほだされて手籠めにされるのかと思うと切なくて切なくて……』
『ふむ』
白虎は無表情になった。
『我の記憶では、あの娘は村の男に嫁ぎたくなくてここまで出てきたのではなかったか』
『……よく覚えてましたね』
『そなたが話してくれたことは忘れてはおらぬ』
香子は顔が熱くなるのを感じた。こういうことをさらりと言うから四神はもうっ! と思ってしまうのだ。
『そういえばそうだったと思います』
『あの娘もここで働くのは構わぬが、いずれ誰かに嫁ぐ必要があるのではないか』
『うっ……』
香子は言葉をつまらせた。未だ紅児は不安定な状態である。この国の法律だとまもなく成人するだろう紅児は、村にいたままであればすでに婚約者がいて結婚の準備を進めているだろう頃合いである。下手したらもう結婚前の試用期間的なかんじで相手の家に入っていてもおかしくはない。紅児の元の国ではまだまだ成人しないはずだからそれを適用させたとしても後約三年である。三年でいい相手が見つかるかどうかも未知数だし、そもそもセレスト王国からかまだなんの返答も来ていない。もしこの国で一生を過ごすことになれば、誰かに嫁がないわけにはいかないのだ。
(女子は、結婚しないといけないもんね……)
そう、この国では独身でいることはできないと言っていい。
元の世界の己の国でも結婚しなければなんやかや言われていた。それでも独身で過ごす女性がいなかったわけではない。でもこの国はだめなのだ。それが許される国ではない。
『……紅夏が相手としては最善だと?』
『眷属は番(つがい)を何よりも大切にする。お互いが世界の全てなのだ。それは我も変わらぬ』
どさくさに紛れて唇を寄せられ、香子はしょうがないなぁとそれに応えた。
「んっ、んんっ……」
けれどそれは昼間からする口づけではなかった。ちゅっと触れた唇から舌が伸ばされ、香子の口内を甘く舐めた。四神との口づけは本当に気持ちいいから香子は困ってしまう。
顎を優しく押さえられ、逃げることもできなくて、香子は舌を何度も舐められた。少しざらついた舌が気持ちよくて、香子の目にうっすらと涙が浮かんだ。
『……もうっ……』
やっと口づけが解かれた時には、香子は胸を喘がせていた。
『そなたが愛しくてたまらぬ故な』
『……私はまだ……ですけど、紅夏がエリーザに手を出すのは認められませんよ!』
いいとは香子も言えない。下手なことを言ったらまた床に運ばれてしまうことが間違いないからだった。
『愛し合っているのではないのか?』
『まだそこまで気持ちを交わしていないはずです! それにエリーザは未成年です! 立場的には黒月と変わりません』
『だが、あの娘の国では婚前の性行為は推奨されているのではなかったか?』
『ああもう! なんでそんなことばっかりはっきり覚えてるんですかっ!』
なんなんだあの国は! と香子はいきり立った。婚前交渉が推奨されてる国とかなんなんだ。身体の相性をみるのは確かに大事かもしれないが、それは13歳頃性教育を行われた後ならばかまわないというのだから、香子としては信じられない。しかも結婚前に性行為を一度も行ったことのない女性は魅力がないなどの理由で離縁されてしまうこともあるらしいと聞き、香子はカルチャーショックを受けた。
『とにかく! よっぽどのことがない限りは認められませんっ! だってエリーザは元の国で性教育を受けていないんですからっ!』
『それは確かにそうだな』
はーっ、はーっと香子は荒い息をついた。何故こんなに自分が興奮しているのか香子はわからなかった。白雲と陳秀美についてはかまわないだろう。陳はいわゆる後家さんだし、白雲と幸せになってほしいと香子は思っている。延夕玲も成人はしているのだが、青藍が強引に口説くような真似をしなければいい。ただしやはり紅児についてはだめだと香子は思うのだ。
『だがそうなると、性教育さえ受ければかまわないという話にはならぬのか?』
『だったらなおのこと性教育なんて受けさせませんよっ!』
白虎は面白そうに笑んだ。
『香子は本当に面白いな』
香子はムッとした。
『白虎様、それ全然褒めてませんよ……』
『もろもろのことを含めて、そなたが愛しくてならぬ』
『うっ……!』
その流し目は反則である。
『香子』
『な、なんですか?』
『この国の女子は、嫁ぐ際に性教育などは受けていないはずだ』
『あ……』
そういえばそうだったと香子は頭を抱えたくなった。
『全て夫に身を任せ、よいように従う。それをあの娘にもさせよとは言わぬ。だが……』
白虎は香子を抱いたまま長椅子から立ち上がった。
『今は我だけを見てはくれぬか?』
あ、と香子はやっと気づいた。白虎は紅児のことを気にかける香子に嫉妬していた。
『……抱かないでくださいね?』
それだけ伝えて、香子は素直に白虎の寝室に運ばれたのだった。
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「貴方色に染まる」77話~です。紅児が紅夏とデート中です。よろしければこちらもどうぞ。
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