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第3部 周りと仲良くしろと言われました
92.あれもこれも複雑な気持ちです
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朱雀は当たり前のように香子を寝室に運ぼうとした。
『朱雀様! だめです! お話がしたいですっ!』
『何を話すというのだ?』
朱雀が楽しそうに居間で足を止めた。わかっていてやっているということが理解できるから、香子はムッとした。
『朱雀様は、いつも意地悪です……』
『拗ねたそなたも愛らしい』
『紅夏、待ちなさい』
香子は紅夏が席を外そうとするのを制した。何故香子が朱雀の室に来たら紅夏が席を外すのか意味がわからない。せめてお茶ぐらい淹れていけと香子は思った。
『……花嫁様、何か?』
あからさまに迷惑そうに言われ、香子は大仰に嘆息した。本当に四神の眷属たちは香子に対して態度が悪すぎる。
『そろそろエリーザの休みがまた取れるでしょう? 香山にエリーザを連れて行ってほしいの』
『香山に、でございますか?』
『この国のキレイなところをできるだけ見せてあげたいわ。私、老仏爺とも行きたいから、紅葉が見たいから下見に行ってもらうって名目で仲良くしていらっしゃい』
紅夏が笑みをはいた。
『かしこまりました。趙殿にはそのことは?』
『まだ伝えていないわ』
『では伝えて参りましょう。お気遣いいただき、ありがとうございます』
紅夏の目が細められた。紅夏が喜んでいるのは癪だが、紅児を楽しませるには紅夏の手伝いがいる。香子は、そこはもう諦めることにした。紅夏は当たり前のように室を出て行った。
『……朱雀様、眷属があんな態度でいいんですか?』
『元々我は手伝いはいらぬと伝えていた。あやつらは人と話す際には有用だが、我はいなくてもかまわぬ』
『ああー……』
そういえばそうだった、と香子は思い出した。眷属は元々押しかけてきたのだ。だから眷属が自由に動いていても四神は全く気にしない。自分たちと香子が愛し合うのを邪魔しなければいてもいなくてもかまわないというスタンスである。
(いてくれて、すっごく助かった……)
正直四神宮に来たのが四神だけだったら、香子は四神を好きにならなかったかもしれない。眷属が人とのクッション役になってくれているから四神を愛していられるのだと香子は理解していた。なにせ四神は神である。香子の苦悩はどこまでいっても理解できないし、ただただ香子に気持ちを押し付けるだけだろう。四神や、この国のことを聞いたとしても四神は説明が下手だし、それをうまく伝える意義も感じていない。
(だから、先代の花嫁は壊れたのかもしれない……)
何も知らないまま先代の白虎に求婚されて、どうにかして夫婦になったはいいけど勝手に置いていかれて。きっとその辺の説明もほとんど聞かずに白虎の愛だけを押し付けられたのだろうと香子は思った。
次代の花嫁が召喚される時には、そこらへんも申し送り事項として文書の作成をしておかなければと香子は拳を握りしめた。花嫁が犠牲になるなんてありえない。
朱雀を椅子にしたまま香子はお茶を啜った。茶葉はいつだって最高品質の物が揃えられている。
(なんて贅沢……)
嗜好品とはよくいったものだ。香子はほうっとため息をついた。
『そなたは本当に茶が好きなのだな』
『私は……中国に関わるものが好きなのです。例えば、今話している言語もそうです』
香子は笑んだ。
『言語?』
『私の元々の言語は日本語ですよ。中国語(漢語)の音がたまらなく好きなんです。優しく話してもらえるだけで嬉しくなってしまいます』
『それは知らなんだ』
朱雀が楽しそうに笑った。シノワズリ(中国趣味)というほどではないが、香子は大陸に関わるものが好きでたまらない。中国語の音も好きで、自分で発音するのも好きだ。自分の口から好きな音が出せるということにうっとりしてしまうほどである。もちろんそんなことは誰にも言わない。これは香子だけの大事な秘密だった。
『そなに中国? を好きだったから、香子は連れてこられてしまったのやもしれぬな』
『……天皇の考えることなんて、わかりませんよね』
正直天皇からの返事なんて、生きているうちにもらえるかどうかわからない。神々は自分たちの時間などあってないようなものだから、ちょっと保留されようものなら軽く百年は超えそうである。
『わからぬな』
朱雀は即答した。
たまにはこうして朱雀と過ごすのもいいかもしれないと香子はぼんやり思う。白虎や青龍と過ごすのもいいが、香子としてはまだ少し遠慮があるのだ。その点朱雀であれば何事も聞き流してくれそうな、そんな安心感がある。
(朱雀様、基本人の話聞いてないもんね)
朱雀はいつだってしたいようにしている。もちろん香子のことも尊重はしているが、それは朱雀が認める範囲に過ぎない。
『香子、そなたに触れさせよ』
そろそろ我慢ができなくなったようだった。香子はくすっと笑ってしまう。
『……最後まではしないでくださいね?』
『何故?』
『お昼ご飯、ちゃんと食べたいですから』
抱かれてしまうと後始末がたいへんなのだ。四神は香子が寝る時に身体を拭いてくれているようだが(毎回気絶するように寝ているので香子は知らない)、衣裳を整えたり、髪を直されたりする時がいたたまれない。しっかり抱かれなくてもそれは変わらないかもしれないが、朱雀は香子を抱く時熱を与える。そうしたらもう一時辰(二時間)は身動きがとれない。それは香子にとっては望ましくないことだった。
『なれば舐めさせよ』
『もうっ……朱雀様は……』
香子は真っ赤になった。四神に愛されているのは嬉しいが、やっぱり恥ずかしかった。
『朱雀様! だめです! お話がしたいですっ!』
『何を話すというのだ?』
朱雀が楽しそうに居間で足を止めた。わかっていてやっているということが理解できるから、香子はムッとした。
『朱雀様は、いつも意地悪です……』
『拗ねたそなたも愛らしい』
『紅夏、待ちなさい』
香子は紅夏が席を外そうとするのを制した。何故香子が朱雀の室に来たら紅夏が席を外すのか意味がわからない。せめてお茶ぐらい淹れていけと香子は思った。
『……花嫁様、何か?』
あからさまに迷惑そうに言われ、香子は大仰に嘆息した。本当に四神の眷属たちは香子に対して態度が悪すぎる。
『そろそろエリーザの休みがまた取れるでしょう? 香山にエリーザを連れて行ってほしいの』
『香山に、でございますか?』
『この国のキレイなところをできるだけ見せてあげたいわ。私、老仏爺とも行きたいから、紅葉が見たいから下見に行ってもらうって名目で仲良くしていらっしゃい』
紅夏が笑みをはいた。
『かしこまりました。趙殿にはそのことは?』
『まだ伝えていないわ』
『では伝えて参りましょう。お気遣いいただき、ありがとうございます』
紅夏の目が細められた。紅夏が喜んでいるのは癪だが、紅児を楽しませるには紅夏の手伝いがいる。香子は、そこはもう諦めることにした。紅夏は当たり前のように室を出て行った。
『……朱雀様、眷属があんな態度でいいんですか?』
『元々我は手伝いはいらぬと伝えていた。あやつらは人と話す際には有用だが、我はいなくてもかまわぬ』
『ああー……』
そういえばそうだった、と香子は思い出した。眷属は元々押しかけてきたのだ。だから眷属が自由に動いていても四神は全く気にしない。自分たちと香子が愛し合うのを邪魔しなければいてもいなくてもかまわないというスタンスである。
(いてくれて、すっごく助かった……)
正直四神宮に来たのが四神だけだったら、香子は四神を好きにならなかったかもしれない。眷属が人とのクッション役になってくれているから四神を愛していられるのだと香子は理解していた。なにせ四神は神である。香子の苦悩はどこまでいっても理解できないし、ただただ香子に気持ちを押し付けるだけだろう。四神や、この国のことを聞いたとしても四神は説明が下手だし、それをうまく伝える意義も感じていない。
(だから、先代の花嫁は壊れたのかもしれない……)
何も知らないまま先代の白虎に求婚されて、どうにかして夫婦になったはいいけど勝手に置いていかれて。きっとその辺の説明もほとんど聞かずに白虎の愛だけを押し付けられたのだろうと香子は思った。
次代の花嫁が召喚される時には、そこらへんも申し送り事項として文書の作成をしておかなければと香子は拳を握りしめた。花嫁が犠牲になるなんてありえない。
朱雀を椅子にしたまま香子はお茶を啜った。茶葉はいつだって最高品質の物が揃えられている。
(なんて贅沢……)
嗜好品とはよくいったものだ。香子はほうっとため息をついた。
『そなたは本当に茶が好きなのだな』
『私は……中国に関わるものが好きなのです。例えば、今話している言語もそうです』
香子は笑んだ。
『言語?』
『私の元々の言語は日本語ですよ。中国語(漢語)の音がたまらなく好きなんです。優しく話してもらえるだけで嬉しくなってしまいます』
『それは知らなんだ』
朱雀が楽しそうに笑った。シノワズリ(中国趣味)というほどではないが、香子は大陸に関わるものが好きでたまらない。中国語の音も好きで、自分で発音するのも好きだ。自分の口から好きな音が出せるということにうっとりしてしまうほどである。もちろんそんなことは誰にも言わない。これは香子だけの大事な秘密だった。
『そなに中国? を好きだったから、香子は連れてこられてしまったのやもしれぬな』
『……天皇の考えることなんて、わかりませんよね』
正直天皇からの返事なんて、生きているうちにもらえるかどうかわからない。神々は自分たちの時間などあってないようなものだから、ちょっと保留されようものなら軽く百年は超えそうである。
『わからぬな』
朱雀は即答した。
たまにはこうして朱雀と過ごすのもいいかもしれないと香子はぼんやり思う。白虎や青龍と過ごすのもいいが、香子としてはまだ少し遠慮があるのだ。その点朱雀であれば何事も聞き流してくれそうな、そんな安心感がある。
(朱雀様、基本人の話聞いてないもんね)
朱雀はいつだってしたいようにしている。もちろん香子のことも尊重はしているが、それは朱雀が認める範囲に過ぎない。
『香子、そなたに触れさせよ』
そろそろ我慢ができなくなったようだった。香子はくすっと笑ってしまう。
『……最後まではしないでくださいね?』
『何故?』
『お昼ご飯、ちゃんと食べたいですから』
抱かれてしまうと後始末がたいへんなのだ。四神は香子が寝る時に身体を拭いてくれているようだが(毎回気絶するように寝ているので香子は知らない)、衣裳を整えたり、髪を直されたりする時がいたたまれない。しっかり抱かれなくてもそれは変わらないかもしれないが、朱雀は香子を抱く時熱を与える。そうしたらもう一時辰(二時間)は身動きがとれない。それは香子にとっては望ましくないことだった。
『なれば舐めさせよ』
『もうっ……朱雀様は……』
香子は真っ赤になった。四神に愛されているのは嬉しいが、やっぱり恥ずかしかった。
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