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第3部 周りと仲良くしろと言われました
87.不便とは特に感じていないと思います
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昼頃まで抱き合っていたというのに、夕飯を食べ、夜にはまた玄武と朱雀と共に香子は過ごした。
ただ川の字で寝たわけではない。大人のアレである。
(もー、どんだけ愛欲の日々ぃ~)
抱かれたら抱かれたで喜んでしまう自分の身体が憎いと香子は思う。いやいや抱かれるよりはいいが。
開き直ってしまえばいいということは香子にもわかっていた。もう毎晩抱かれるのは確定事項だ。身体が作り変わっているということで生理もこない。生理がないのにどうやって妊娠したかどうかわかるのかと聞いたら、『わかる』としか言われなかった。相手は神様だからそれでなんかわかるのだろうと香子は思った。なんでわかるのかとか追及するだけ無駄である。
翌日は張錦飛が来た。書はなかなか上達しない。学ばなければとは思っているが、元々香子は習字が好きではないのだ。それも上達しない要因なのかもしれなかった。
『だいぶ涼しくなってきましたが、ここは変わりませぬな』
書を習った後、いつも通り張とお茶をする。張がしみじみと言った。
『四神がいる間は気候が変わらないとは聞きました』
『ほうほう……それはとても貴重な時を共にさせていただいておりますな。ですが、秋の気配は感じられます』
『そうですね』
金木犀の香りがどこからともなく漂ってきていた。今日は晴れていて、陽射しは暑いぐらいだがそれでも夏の陽射しとは異なっているようだった。
『桂花(金木犀)のいい香りがしますなぁ』
『はい。離れていても感じますね』
侍女たちに頼んで花を摘んでもらうことにした。金木犀の花を浮かべて烏龍茶を飲んだらとてもおいしそうである。香子は元の世界では桂花烏龍茶を殊の外好んで飲んでいたのだった。
『香山の紅葉はそろそろ見ごろを迎えるでしょうか』
『まだ少し早いかもしれませぬな。花嫁様は香山をご存知でいらっしゃる?』
『はい、元の世界では香山公園という名称で一般に公開されておりました。一度連れて行ってもらったことがあります』
『ほうほう……清漪園(頤和園)も確かご覧になったことがあるのでしたな』
『はい、清漪園は二、三度行きました』
『花嫁様の元の世界は随分とみなが気軽にあちこち行ける世界だったのですなぁ』
張が羨ましそうに言った。
『そうですね。この世界よりは交通の便もよかったですし、いろいろなところへ行きました』
『他国に行かれたことはありましたか?』
張に聞かれて香子はドキッとした。そもそもこの大陸自体が香子にとっては他国だった。
『ええ、ありますよ。旅行程度なのでせいぜい十日ぐらいでしたが』
張は驚いたような顔をした。
『十日では行って帰ってくることもできぬではありませんか』
香子は苦笑した。確かにここから他国へ向かうとなるとそう簡単には着かないかもしれない。北にあるオロスの大地までどれぐらいかかるのだろうかと香子は考えた。
『私の世界では飛行機と呼ばれる物がありました。空を飛んで旅客を運ぶのです。ですから他国へ向かうのはそれほど時間はかかりませんでした』
『……なんとも、想像もつかぬ世界でございますな。そのようなところからいらしたのだとすれば、花嫁様にとってこの世界は不便ではないでしょうか?』
不便と言えば不便ではある。
だが、香子はそもそも四神宮から出ないのだ。基本が引きこもりの為それほど不自由は感じていない。ただ、気兼ねなく話せる友人はほしいとは思っていた。
『張老師、私はそもそも四神宮から出ませんから……不便と思ったことはありません』
『そうですか。花嫁様がこの国に不満がなければいいとは思いますが……』
香子はにんまりした。
『不満はもちろんありますが、張老師には言いません』
『そうですか』
張はほっほっほっと笑った。毎度のことだが、やっぱりバルタン星人かなと香子は思った。
今日も有意義だったと香子はご機嫌だった。張をその場で見送り、侍女に白虎に声をかけるよう頼んだ。昨日は白虎と過ごすことができなかったので。
(もふもふ……堪能できるといいけど……)
ただしエロはお断りである。ほどなくして、白虎が庭に現れた。すでに張の分の茶器は片付けられた後である。
『白虎様』
立って出迎えようとする香子を白虎は制した。
『書は少しは上達しているのか?』
白虎にからかうように聞かれ、香子は頬を膨らませた。
『……ご想像にお任せします』
なにせ白虎は香子の書の練習には付き合ってくれないのだ。スパルタだが真面目に付き合ってくれるのは青龍ぐらいである。とは言っても昼間は主に白虎か青龍と過ごしている為それはしかたない。ここのところたまに玄武と過ごしたり、朱雀と過ごしたりもしているが、それはそれで香子は照れてしまう。夜も一緒、昼も一緒というのはどういうわけか照れくさいのだ。
白虎の前に蓋碗が用意された。
『茶もよいが……我はそなたと室に戻りたいのだがな』
流し目をされて香子はびくっとした。
『……撫でさせてくださるだけでしたらいいですけど……』
『それで済むとそなたは本当に思っているのか?』
『思ってません……』
より好きな方が負けなのだろうか。恋とは勝負ではないと香子は思っているが、あと少し押されたら白虎の言うことを聞いてしまうかもしれない。
『白虎様のおなかに埋もれたい……』
『埋もれてもよいが我はそなたを愛でるからな』
『ううう……』
究極の選択だった。
いっそのこと猫でも飼おうかなと香子は思ってしまった。
ただ川の字で寝たわけではない。大人のアレである。
(もー、どんだけ愛欲の日々ぃ~)
抱かれたら抱かれたで喜んでしまう自分の身体が憎いと香子は思う。いやいや抱かれるよりはいいが。
開き直ってしまえばいいということは香子にもわかっていた。もう毎晩抱かれるのは確定事項だ。身体が作り変わっているということで生理もこない。生理がないのにどうやって妊娠したかどうかわかるのかと聞いたら、『わかる』としか言われなかった。相手は神様だからそれでなんかわかるのだろうと香子は思った。なんでわかるのかとか追及するだけ無駄である。
翌日は張錦飛が来た。書はなかなか上達しない。学ばなければとは思っているが、元々香子は習字が好きではないのだ。それも上達しない要因なのかもしれなかった。
『だいぶ涼しくなってきましたが、ここは変わりませぬな』
書を習った後、いつも通り張とお茶をする。張がしみじみと言った。
『四神がいる間は気候が変わらないとは聞きました』
『ほうほう……それはとても貴重な時を共にさせていただいておりますな。ですが、秋の気配は感じられます』
『そうですね』
金木犀の香りがどこからともなく漂ってきていた。今日は晴れていて、陽射しは暑いぐらいだがそれでも夏の陽射しとは異なっているようだった。
『桂花(金木犀)のいい香りがしますなぁ』
『はい。離れていても感じますね』
侍女たちに頼んで花を摘んでもらうことにした。金木犀の花を浮かべて烏龍茶を飲んだらとてもおいしそうである。香子は元の世界では桂花烏龍茶を殊の外好んで飲んでいたのだった。
『香山の紅葉はそろそろ見ごろを迎えるでしょうか』
『まだ少し早いかもしれませぬな。花嫁様は香山をご存知でいらっしゃる?』
『はい、元の世界では香山公園という名称で一般に公開されておりました。一度連れて行ってもらったことがあります』
『ほうほう……清漪園(頤和園)も確かご覧になったことがあるのでしたな』
『はい、清漪園は二、三度行きました』
『花嫁様の元の世界は随分とみなが気軽にあちこち行ける世界だったのですなぁ』
張が羨ましそうに言った。
『そうですね。この世界よりは交通の便もよかったですし、いろいろなところへ行きました』
『他国に行かれたことはありましたか?』
張に聞かれて香子はドキッとした。そもそもこの大陸自体が香子にとっては他国だった。
『ええ、ありますよ。旅行程度なのでせいぜい十日ぐらいでしたが』
張は驚いたような顔をした。
『十日では行って帰ってくることもできぬではありませんか』
香子は苦笑した。確かにここから他国へ向かうとなるとそう簡単には着かないかもしれない。北にあるオロスの大地までどれぐらいかかるのだろうかと香子は考えた。
『私の世界では飛行機と呼ばれる物がありました。空を飛んで旅客を運ぶのです。ですから他国へ向かうのはそれほど時間はかかりませんでした』
『……なんとも、想像もつかぬ世界でございますな。そのようなところからいらしたのだとすれば、花嫁様にとってこの世界は不便ではないでしょうか?』
不便と言えば不便ではある。
だが、香子はそもそも四神宮から出ないのだ。基本が引きこもりの為それほど不自由は感じていない。ただ、気兼ねなく話せる友人はほしいとは思っていた。
『張老師、私はそもそも四神宮から出ませんから……不便と思ったことはありません』
『そうですか。花嫁様がこの国に不満がなければいいとは思いますが……』
香子はにんまりした。
『不満はもちろんありますが、張老師には言いません』
『そうですか』
張はほっほっほっと笑った。毎度のことだが、やっぱりバルタン星人かなと香子は思った。
今日も有意義だったと香子はご機嫌だった。張をその場で見送り、侍女に白虎に声をかけるよう頼んだ。昨日は白虎と過ごすことができなかったので。
(もふもふ……堪能できるといいけど……)
ただしエロはお断りである。ほどなくして、白虎が庭に現れた。すでに張の分の茶器は片付けられた後である。
『白虎様』
立って出迎えようとする香子を白虎は制した。
『書は少しは上達しているのか?』
白虎にからかうように聞かれ、香子は頬を膨らませた。
『……ご想像にお任せします』
なにせ白虎は香子の書の練習には付き合ってくれないのだ。スパルタだが真面目に付き合ってくれるのは青龍ぐらいである。とは言っても昼間は主に白虎か青龍と過ごしている為それはしかたない。ここのところたまに玄武と過ごしたり、朱雀と過ごしたりもしているが、それはそれで香子は照れてしまう。夜も一緒、昼も一緒というのはどういうわけか照れくさいのだ。
白虎の前に蓋碗が用意された。
『茶もよいが……我はそなたと室に戻りたいのだがな』
流し目をされて香子はびくっとした。
『……撫でさせてくださるだけでしたらいいですけど……』
『それで済むとそなたは本当に思っているのか?』
『思ってません……』
より好きな方が負けなのだろうか。恋とは勝負ではないと香子は思っているが、あと少し押されたら白虎の言うことを聞いてしまうかもしれない。
『白虎様のおなかに埋もれたい……』
『埋もれてもよいが我はそなたを愛でるからな』
『ううう……』
究極の選択だった。
いっそのこと猫でも飼おうかなと香子は思ってしまった。
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