387 / 598
第3部 周りと仲良くしろと言われました
84.四神も複雑な気持ちになることがあるようです
しおりを挟む
お茶菓子、という量ではなかった。みなもうお茶以外は受け付けないようである。
香子はいささか欲望を抑えきれなかったようだった。だが香子からしてみれば”おいしいは正義”である。その他にも”かわいいは正義”とかいろいろ持論はあるが今回は割愛する。
『なかなか得難い経験であったが……花嫁様はこれを妾に食べさせたくて声をかけたわけではあるまい?』
『はい……老仏爺のご慧眼には恐れ入ります。実は、四神宮に送られてくる贈物の件でご相談がありまして……』
香子は最近送られてくる物の傾向を話し、民族衣装などについて言及した。
『ほほう……各国の衣裳が送られてくるのか。確かにそれは困るやもしれぬのぅ』
『はい。着方もわかりませぬし、かとって着方を知る為に外部の者を招き入れるわけにも参りません。ただ本当に美しい衣裳ばかりなのでその布を使ってこちらの衣裳に仕立て直せないかと思ったのです』
『不可能ではなかろう。そういうことであれば近々仕立て屋を呼ぶことにしよう。次はそれらの衣裳を持参せよ。後は仕立て屋が考えるであろう』
『ありがとうございます。ですが中には加工ができぬものもあるやもしれません。その際は無理をしなくてもよいと仕立て屋に伝えていただけると幸いです』
皇太后はそれを聞いて嘆息した。
『花嫁様はほんに気を使われるのぅ。かようなことは花嫁様が気にすることではあるまいに』
皇太后はそしてにっこりした。
『じゃが、そこも花嫁様のよきところじゃ。民を思いやる優しい心根、万瑛、そなたもそのようにあらねばならぬぞ』
『はい、肝に銘じます』
『そ、そんな大それたものではありません……』
香子としては貧乏性が高じて、というやつではあるが皇太后はそうはとらなかったようだった。物は考えようである。
恐縮しつつその日はそこでお開きになった。食べられなかったお菓子は包んでもらえたので、香子はほくほくしていた。ただそのお菓子をいつ食べるのかという問題もあるが。乾き物が主なので翌日でも食べられるだろうが、それを侍女たちが出してくれるかどうかは別である。香子としては持ち帰った菓子は自分以外が食べてくれても全然構わなかった。
青龍に抱かれて四神宮に戻る。香子は景色を見ながら戻りたいと青龍に告げたので、走廊(廊下)をゆっくり歩いて戻ってもらった。途中他の侍女や官吏などに会ったが、香子は以前ほどは気にしなくてなっていた。抱かれて移動するのはもう今更である。四神が下ろしてくれないのだからしかたない。ここで下ろしてほしいなどと言っても青龍は絶対に下ろしてくれないし、機嫌も悪くなることは間違いなかった。
(私は人形、私は人形……)
そう思ってやり過ごすこともしばしばである。慣れてはきていても恥ずかしさは変わらない香子だった。
四神宮に戻ると、青龍はまっすぐ己の室に香子を運んだ。この当たり前に持ち帰りをされてしまうのもどうかと思う。
『青龍様、本日の結果をせめて伝えさせていただいても?』
『白雲が共にいただろう。あ奴が報告をすればいいことだ』
それはそうなんだけど、とも香子は思ったが、青龍の目を見て何も言えなくなった。
青龍はとても我慢していたのだ。青龍にとって香子に危害を加えようとした皇后は断罪すべき咎人だった。だが香子が許せというから聞いているだけである。青龍は何故香子が皇后を気遣うのか理解できない。そもそも理解する必要もない。
だから今そのやり場のない思いは香子にのみ向けられていた。
『青龍様』
青龍の足はまっすぐ寝室に向かう。香子は諦めた。今日は付き合ってもらったのだ。触れられるぐらいは許容しなければならないと香子はわかっていた。
『青龍様……抱かないでくださいね。夕食はみなでいただきたいので……』
『香子、今宵は……』
『そ、それは四神で相談していただければ……』
香子は頬を染めた。そんなこと聞かないでほしいと香子は思う。
『わかった』
青龍の口角が上がる。元々四神はあまり表情が動かない。青龍は特に動かないのだが、たまにこのように表情が動いた時、香子はどうしても見惚れてしまう。
(メンクイなんだからしょうがないよね! でも青龍様の言ったこととか忘れてないんだからっ!)
150年も生きているのに子どものようなことを言った青龍を香子は思い出す。行動まではしていないが、そういうところは皇后と一緒だったではないかと思ってしまうのだ。しかしそれを言ったら逆鱗に触れてしまうかもしれないので香子は決して口には出さないし、心の中で呼びかけたりもしない。
親しき中にも礼儀あり。ちょっと意味合いが違うかもしれないが、なんでも思ったことを言えばいいものではないと香子も思う。
『香子?』
『青龍様』
覆いかぶさってきた青龍の口づけを受ける。今日は付き合ってくれてありがとう。そんな気持ちを籠めて香子は口づけに応えた。
四神に対して、香子は自分が甘いことは自覚している。青龍のことだって今は愛しくてたまらないのだ。ただ、抱かれたら一日がかりだから躊躇してしまうけれど。
(誰かに嫁いだら……本当に愛欲の日々になっちゃうのかな……)
香子は身震いした。想像しただけで、あらぬところが熱を持ったような気がした。
香子はいささか欲望を抑えきれなかったようだった。だが香子からしてみれば”おいしいは正義”である。その他にも”かわいいは正義”とかいろいろ持論はあるが今回は割愛する。
『なかなか得難い経験であったが……花嫁様はこれを妾に食べさせたくて声をかけたわけではあるまい?』
『はい……老仏爺のご慧眼には恐れ入ります。実は、四神宮に送られてくる贈物の件でご相談がありまして……』
香子は最近送られてくる物の傾向を話し、民族衣装などについて言及した。
『ほほう……各国の衣裳が送られてくるのか。確かにそれは困るやもしれぬのぅ』
『はい。着方もわかりませぬし、かとって着方を知る為に外部の者を招き入れるわけにも参りません。ただ本当に美しい衣裳ばかりなのでその布を使ってこちらの衣裳に仕立て直せないかと思ったのです』
『不可能ではなかろう。そういうことであれば近々仕立て屋を呼ぶことにしよう。次はそれらの衣裳を持参せよ。後は仕立て屋が考えるであろう』
『ありがとうございます。ですが中には加工ができぬものもあるやもしれません。その際は無理をしなくてもよいと仕立て屋に伝えていただけると幸いです』
皇太后はそれを聞いて嘆息した。
『花嫁様はほんに気を使われるのぅ。かようなことは花嫁様が気にすることではあるまいに』
皇太后はそしてにっこりした。
『じゃが、そこも花嫁様のよきところじゃ。民を思いやる優しい心根、万瑛、そなたもそのようにあらねばならぬぞ』
『はい、肝に銘じます』
『そ、そんな大それたものではありません……』
香子としては貧乏性が高じて、というやつではあるが皇太后はそうはとらなかったようだった。物は考えようである。
恐縮しつつその日はそこでお開きになった。食べられなかったお菓子は包んでもらえたので、香子はほくほくしていた。ただそのお菓子をいつ食べるのかという問題もあるが。乾き物が主なので翌日でも食べられるだろうが、それを侍女たちが出してくれるかどうかは別である。香子としては持ち帰った菓子は自分以外が食べてくれても全然構わなかった。
青龍に抱かれて四神宮に戻る。香子は景色を見ながら戻りたいと青龍に告げたので、走廊(廊下)をゆっくり歩いて戻ってもらった。途中他の侍女や官吏などに会ったが、香子は以前ほどは気にしなくてなっていた。抱かれて移動するのはもう今更である。四神が下ろしてくれないのだからしかたない。ここで下ろしてほしいなどと言っても青龍は絶対に下ろしてくれないし、機嫌も悪くなることは間違いなかった。
(私は人形、私は人形……)
そう思ってやり過ごすこともしばしばである。慣れてはきていても恥ずかしさは変わらない香子だった。
四神宮に戻ると、青龍はまっすぐ己の室に香子を運んだ。この当たり前に持ち帰りをされてしまうのもどうかと思う。
『青龍様、本日の結果をせめて伝えさせていただいても?』
『白雲が共にいただろう。あ奴が報告をすればいいことだ』
それはそうなんだけど、とも香子は思ったが、青龍の目を見て何も言えなくなった。
青龍はとても我慢していたのだ。青龍にとって香子に危害を加えようとした皇后は断罪すべき咎人だった。だが香子が許せというから聞いているだけである。青龍は何故香子が皇后を気遣うのか理解できない。そもそも理解する必要もない。
だから今そのやり場のない思いは香子にのみ向けられていた。
『青龍様』
青龍の足はまっすぐ寝室に向かう。香子は諦めた。今日は付き合ってもらったのだ。触れられるぐらいは許容しなければならないと香子はわかっていた。
『青龍様……抱かないでくださいね。夕食はみなでいただきたいので……』
『香子、今宵は……』
『そ、それは四神で相談していただければ……』
香子は頬を染めた。そんなこと聞かないでほしいと香子は思う。
『わかった』
青龍の口角が上がる。元々四神はあまり表情が動かない。青龍は特に動かないのだが、たまにこのように表情が動いた時、香子はどうしても見惚れてしまう。
(メンクイなんだからしょうがないよね! でも青龍様の言ったこととか忘れてないんだからっ!)
150年も生きているのに子どものようなことを言った青龍を香子は思い出す。行動まではしていないが、そういうところは皇后と一緒だったではないかと思ってしまうのだ。しかしそれを言ったら逆鱗に触れてしまうかもしれないので香子は決して口には出さないし、心の中で呼びかけたりもしない。
親しき中にも礼儀あり。ちょっと意味合いが違うかもしれないが、なんでも思ったことを言えばいいものではないと香子も思う。
『香子?』
『青龍様』
覆いかぶさってきた青龍の口づけを受ける。今日は付き合ってくれてありがとう。そんな気持ちを籠めて香子は口づけに応えた。
四神に対して、香子は自分が甘いことは自覚している。青龍のことだって今は愛しくてたまらないのだ。ただ、抱かれたら一日がかりだから躊躇してしまうけれど。
(誰かに嫁いだら……本当に愛欲の日々になっちゃうのかな……)
香子は身震いした。想像しただけで、あらぬところが熱を持ったような気がした。
12
お気に入りに追加
4,015
あなたにおすすめの小説
旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハー異世界ラブコメ〜
ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉
転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!?
のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました……
イケメン山盛りの逆ハーです
前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります
小説家になろう、カクヨムに転載しています
転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~
月
恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん)
は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。
しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!?
(もしかして、私、転生してる!!?)
そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!!
そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?
目が覚めたら男女比がおかしくなっていた
いつき
恋愛
主人公である宮坂葵は、ある日階段から落ちて暫く昏睡状態になってしまう。
一週間後、葵が目を覚ますとそこは男女比が約50:1の世界に!?自分の父も何故かイケメンになっていて、不安の中高校へ進学するも、わがままな女性だらけのこの世界では葵のような優しい女性は珍しく、沢山のイケメン達から迫られる事に!?
「私はただ普通の高校生活を送りたいんです!!」
#####
r15は保険です。
2024年12月12日
私生活に余裕が出たため、投稿再開します。
それにあたって一部を再編集します。
設定や話の流れに変更はありません。
地味女で喪女でもよく濡れる。~俺様海運王に開発されました~
あこや(亜胡夜カイ)
恋愛
新米学芸員の工藤貴奈(くどうあてな)は、自他ともに認める地味女で喪女だが、素敵な思い出がある。卒業旅行で訪れたギリシャで出会った美麗な男とのワンナイトラブだ。文字通り「ワンナイト」のつもりだったのに、なぜか貴奈に執着した男は日本へやってきた。貴奈が所属する博物館を含むグループ企業を丸ごと買収、CEOとして乗り込んできたのだ。「お前は俺が開発する」と宣言して、貴奈を学芸員兼秘書として側に置くという。彼氏いない歴=年齢、好きな相手は壁画の住人、「だったはず」の貴奈は、昼も夜も彼の執着に翻弄され、やがて体が応えるように……
最愛の番~300年後の未来は一妻多夫の逆ハーレム!!? イケメン旦那様たちに溺愛されまくる~
ちえり
恋愛
幼い頃から可愛い幼馴染と比較されてきて、自分に自信がない高坂 栞(コウサカシオリ)17歳。
ある日、学校帰りに事故に巻き込まれ目が覚めると300年後の時が経ち、女性だけ死に至る病の流行や、年々女子の出生率の低下で女は2割ほどしか存在しない世界になっていた。
一妻多夫が認められ、女性はフェロモンだして男性を虜にするのだが、栞のフェロモンは世の男性を虜にできるほどの力を持つ『α+』(アルファプラス)に認定されてイケメン達が栞に番を結んでもらおうと近寄ってくる。
目が覚めたばかりなのに、旦那候補が5人もいて初めて会うのに溺愛されまくる。さらに、自分と番になりたい男性がまだまだいっぱいいるの!!?
「恋愛経験0の私にはイケメンに愛されるなんてハードすぎるよ~」
軽い気持ちで超絶美少年(ヤンデレ)に告白したら
夕立悠理
恋愛
容姿平凡、頭脳平凡、なリノアにはひとつだけ、普通とちがうところがある。
それは極度の面食いということ。
そんなリノアは冷徹と名高い公爵子息(イケメン)に嫁ぐことに。
「初夜放置? ぜーんぜん、問題ないわ!
だって旦那さまってば顔がいいもの!!!」
朝食をたまに一緒にとるだけで、満足だ。寝室別でも、他の女の香水の香りがしてもぜーんぜん平気。……なーんて、思っていたら、旦那さまの様子がおかしい?
「他の誰でもない君が! 僕がいいっていったんだ。……そうでしょ?」
あれ、旦那さまってば、どうして手錠をお持ちなのでしょうか?
それをわたしにつける??
じょ、冗談ですよね──!?!?
明智さんちの旦那さんたちR
明智 颯茄
恋愛
あの小高い丘の上に建つ大きなお屋敷には、一風変わった夫婦が住んでいる。それは、妻一人に夫十人のいわゆる逆ハーレム婚だ。
奥さんは何かと大変かと思いきやそうではないらしい。旦那さんたちは全員神がかりな美しさを持つイケメンで、奥さんはニヤケ放題らしい。
ほのぼのとしながらも、複数婚が巻き起こすおかしな日常が満載。
*BL描写あり
毎週月曜日と隔週の日曜日お休みします。
女性が全く生まれない世界とか嘘ですよね?
青海 兎稀
恋愛
ただの一般人である主人公・ユヅキは、知らぬうちに全く知らない街の中にいた。ここがどこだかも分からず、ただ当てもなく歩いていた時、誰かにぶつかってしまい、そのまま意識を失う。
そして、意識を取り戻し、助けてくれたイケメンにこの世界には全く女性がいないことを知らされる。
そんなユヅキの逆ハーレムのお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる