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第3部 周りと仲良くしろと言われました
76.毎晩誰と過ごすのか決めるのはたいへんです
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まだ朱雀が共にでなければ、香子は白虎と夜を過ごせない。
それでかまわないと白虎は言い、玄武も共にと言う。
香子はさすがにそれはと勘弁してもらった。
四神を愛している自覚はあるが、玄武までいたら身体が持たないからだった。
『……我とは、だめなのか?』
手を取られ、指に口づけられて香子は頬を染めた。
『明日の、夜ではだめですか……?』
『いけなくはない。だが、そなたと過ごす夜が減ることがつらいのだ』
玄武の翡翠色の瞳はまるで魔性のようだと香子は思う。耳に心地いいバリトンにも『可以(いいですよ)』と返事をしたくなる。でもそれではだめなのだと香子は内心首を振った。白虎と肌を重ねるのは心理的負担も大きい。それに玄武まで加わったら頭がショートしてしまう。
今宵は玄武とは共に過ごしたくはない。その複雑な感情の名前が香子にはわからなかった。
『明日の夜に、お願いします……』
『わかった』
玄武は残念そうに香子の手をそっと離した。
なんで夜共に過ごす相手について毎晩悩むことになるのかと香子は考えてしまう。誰かに嫁いだらそこは悩まなくてすむのだろうが、そうなると本当に愛欲の日々になるらしいのでそれも悩みどころだ。
(子を成すまではってことだよね……次代の神を宿すまではって……でもそうしたらもう共にはいられなくなるの?)
そう考えたら香子は切なくなった。そうして疑問にも思った。
(なんでそんな思いを私がしなきゃいけないんだろう)
ちょっと腹が立ってきた。天皇が決めた? とか言われても納得はできない。そういえば大分前に四神を通して質問したけれど天皇はいつになったら答えてくれるのだろうか。神様の時間の流れというのは人とは違うようだから、もしかしたら返事をもらえるのは百年後かもしれない。でもそんなに長いこと待ってはいられない。それなら、毎日自分が天に祈ればいいのではないだろうかと香子は思った。
そう思ったら香子は少しだけ気持ちが楽になった。
黙って自分の思いの中に入ってしまう香子をただ見守ってくれる四神のことも、香子は愛しく思う。
『玄武様』
『如何か』
『明日の夜は……いっぱい愛してください』
口にするのはとても恥ずかしかったが、香子は想いをきちんと伝えなければいけないと思ったのだ。そう言った香子の顔が一気に赤くなる。
『……香子、今すぐにでもそなたを攫ってしまいたい』
色を含んだバリトンが甘く響く。すぐにでも陥落しそうな己を香子は叱咤した。
『だが、今宵は我慢しよう。明日の夜は覚悟しておけ』
もうどうしたらいいのかわからなくて、香子は両手で自分の顔を覆った。
その日の夜は白虎の室で、白虎と朱雀と共に香子は過ごした。
朱雀の熱を受けると、それだけで頭に靄がかかったようになる。その状態で抱かれれば、香子が白虎を怖いと思う気持ちが緩く綻ぶのだ。そして今はそれでいいと白虎は言う。いずれ朱雀の熱を受けなくても白虎を受け入れられるようになれればいいと香子も思うが、そうなるにはまだ先が長そうだった。
翌朝、香子は白虎の毛に埋もれていた。
もふもふーもふもふーもふもふー! と香子は白虎にしがみついてその肌触りのいい毛を堪能していた。
さわさわなでなでと、ぎゅうぎゅう抱きついての至福のひと時である。
『香子……そなに触れると我慢ができなくなるが……』
『だめです』
すぐ横に朱雀がいるのだ。白虎に襲われそうになったら止めてくれることになっているので香子は幸せを満喫していた。
『香子は毛が好きなのだな』
『この肌触りがたまりません!』
朱雀に確認すように言われて香子は即答した。もふもふは正義である。もふもふさえあればがんばれると、香子はなんの根拠もなく思う。
『では、我の羽毛はどうだ?』
『朱雀様の、羽毛、ですか?』
そういえば春の大祭で朱雀の上に乗せてもらった時のことを香子は思い出した。朱雀の羽毛は思っていたよりも柔らかく、優しく香子を包んでくれた。全て赤系の色をした朱雀の羽は、赤ってこんなに色の種類があるのだと驚くほどに鮮やかでキレイだった。
『……朱雀様の羽毛も、とてもキレイですよね』
その時のことを思い出し、香子はうっとりと呟いた。白虎の毛も触り心地がいいし大好きなのだが、朱雀にももしかして触れさせてもらえるのだろうかと香子は朱雀を窺った。
『今宵は玄武兄も共にであったな。玄武兄がたっぷりとそなたを愛すであろうから変わるのは止めておこう。明日の夜はどうか』
香子は即答しそうになったが、踏み止まった。
(夜? 羽毛に触れさせてもらうだけなのになんで夜なの?)
『あのぅ……朱雀様、どうして夜なんですか?』
『本性を現すと理性がきかなくなるのでな』
やっぱりそういうことなのかと香子はがっかりした。
『……いいです。朱雀様の羽毛は諦めます』
『そうか。だが触れたくなったらいつでも言うといい』
『……はい』
朱雀の羽毛に埋もれながら抱かれるとか勘弁してほしいと香子は思ったのだった。
それでかまわないと白虎は言い、玄武も共にと言う。
香子はさすがにそれはと勘弁してもらった。
四神を愛している自覚はあるが、玄武までいたら身体が持たないからだった。
『……我とは、だめなのか?』
手を取られ、指に口づけられて香子は頬を染めた。
『明日の、夜ではだめですか……?』
『いけなくはない。だが、そなたと過ごす夜が減ることがつらいのだ』
玄武の翡翠色の瞳はまるで魔性のようだと香子は思う。耳に心地いいバリトンにも『可以(いいですよ)』と返事をしたくなる。でもそれではだめなのだと香子は内心首を振った。白虎と肌を重ねるのは心理的負担も大きい。それに玄武まで加わったら頭がショートしてしまう。
今宵は玄武とは共に過ごしたくはない。その複雑な感情の名前が香子にはわからなかった。
『明日の夜に、お願いします……』
『わかった』
玄武は残念そうに香子の手をそっと離した。
なんで夜共に過ごす相手について毎晩悩むことになるのかと香子は考えてしまう。誰かに嫁いだらそこは悩まなくてすむのだろうが、そうなると本当に愛欲の日々になるらしいのでそれも悩みどころだ。
(子を成すまではってことだよね……次代の神を宿すまではって……でもそうしたらもう共にはいられなくなるの?)
そう考えたら香子は切なくなった。そうして疑問にも思った。
(なんでそんな思いを私がしなきゃいけないんだろう)
ちょっと腹が立ってきた。天皇が決めた? とか言われても納得はできない。そういえば大分前に四神を通して質問したけれど天皇はいつになったら答えてくれるのだろうか。神様の時間の流れというのは人とは違うようだから、もしかしたら返事をもらえるのは百年後かもしれない。でもそんなに長いこと待ってはいられない。それなら、毎日自分が天に祈ればいいのではないだろうかと香子は思った。
そう思ったら香子は少しだけ気持ちが楽になった。
黙って自分の思いの中に入ってしまう香子をただ見守ってくれる四神のことも、香子は愛しく思う。
『玄武様』
『如何か』
『明日の夜は……いっぱい愛してください』
口にするのはとても恥ずかしかったが、香子は想いをきちんと伝えなければいけないと思ったのだ。そう言った香子の顔が一気に赤くなる。
『……香子、今すぐにでもそなたを攫ってしまいたい』
色を含んだバリトンが甘く響く。すぐにでも陥落しそうな己を香子は叱咤した。
『だが、今宵は我慢しよう。明日の夜は覚悟しておけ』
もうどうしたらいいのかわからなくて、香子は両手で自分の顔を覆った。
その日の夜は白虎の室で、白虎と朱雀と共に香子は過ごした。
朱雀の熱を受けると、それだけで頭に靄がかかったようになる。その状態で抱かれれば、香子が白虎を怖いと思う気持ちが緩く綻ぶのだ。そして今はそれでいいと白虎は言う。いずれ朱雀の熱を受けなくても白虎を受け入れられるようになれればいいと香子も思うが、そうなるにはまだ先が長そうだった。
翌朝、香子は白虎の毛に埋もれていた。
もふもふーもふもふーもふもふー! と香子は白虎にしがみついてその肌触りのいい毛を堪能していた。
さわさわなでなでと、ぎゅうぎゅう抱きついての至福のひと時である。
『香子……そなに触れると我慢ができなくなるが……』
『だめです』
すぐ横に朱雀がいるのだ。白虎に襲われそうになったら止めてくれることになっているので香子は幸せを満喫していた。
『香子は毛が好きなのだな』
『この肌触りがたまりません!』
朱雀に確認すように言われて香子は即答した。もふもふは正義である。もふもふさえあればがんばれると、香子はなんの根拠もなく思う。
『では、我の羽毛はどうだ?』
『朱雀様の、羽毛、ですか?』
そういえば春の大祭で朱雀の上に乗せてもらった時のことを香子は思い出した。朱雀の羽毛は思っていたよりも柔らかく、優しく香子を包んでくれた。全て赤系の色をした朱雀の羽は、赤ってこんなに色の種類があるのだと驚くほどに鮮やかでキレイだった。
『……朱雀様の羽毛も、とてもキレイですよね』
その時のことを思い出し、香子はうっとりと呟いた。白虎の毛も触り心地がいいし大好きなのだが、朱雀にももしかして触れさせてもらえるのだろうかと香子は朱雀を窺った。
『今宵は玄武兄も共にであったな。玄武兄がたっぷりとそなたを愛すであろうから変わるのは止めておこう。明日の夜はどうか』
香子は即答しそうになったが、踏み止まった。
(夜? 羽毛に触れさせてもらうだけなのになんで夜なの?)
『あのぅ……朱雀様、どうして夜なんですか?』
『本性を現すと理性がきかなくなるのでな』
やっぱりそういうことなのかと香子はがっかりした。
『……いいです。朱雀様の羽毛は諦めます』
『そうか。だが触れたくなったらいつでも言うといい』
『……はい』
朱雀の羽毛に埋もれながら抱かれるとか勘弁してほしいと香子は思ったのだった。
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