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第3部 周りと仲良くしろと言われました
74.政治的な話はやめていただきたいのです
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身分が高い者たちによる御花園での茶会は、最後の方になってやっと少し和やかになった。
そうはいっても白虎の膝に腰掛けている香子に彼らの視線が向いてしまうのはしかたがないことだ。
(私は空気ですから!)
と思いながらも、香子はお茶に対してもお湯のお代わりを頼んだし、お茶菓子もいっぱい食べた。ここはあえて空気を読まないスタイルである。
『昨今凍石という近くにあるものを凍らせる石というものが発見されたと聞きましたが、それらの石は離れた国でも利用可能なものなのでしょうか?』
皇帝と雑談をしているオロス王が口にした内容に、香子は茶を噴きだしそうになった。どうにかごっくんと飲み込んでこらえる。ここで噴き出したりしたら香子が何かを知っていると答えるようなものだ。
(凍石はまだ国内でしか知られてないはず……って各国の諜報ぐらいは入ってて当然かー……)
政治的なやりとりは香子にはわからないが、面倒だなと思った。
『さすがオロス王ですな。ですが一年中涼しい気候の貴国では必要ないでしょう』
皇帝がチクリと言う。そういうやりとりは別のところでやってほしいなぁと香子は思う。でもその石の出所が四神なのはみな知っているだろうから、オロス王もあえてここで言い出したに違いなかった。
『大唐の皇帝にはかないませんな。ただ我が国でも温暖な気候の土地は少なからずあるのですよ。そこで獲れる物を運搬するには……お分かりでしょう』
香子は内心首を傾げた。地図がないからわからないが、ウラジオストック辺りまではオロスの範囲なのだろうか。それとももっと南寄りに島かなにかがあって……?
『……石の有効範囲については商人が一番詳しいだろう。だが、他国に深く足を踏み入れると途端に効力を失うとは聞いている』
オロス王は嘆息した。
『やはり”石”については四神の恵みのようですね。羨ましいことだ』
『オロスにはこれらを超える技術力があると聞いている。石は使えなくても問題はなかろう』
皇帝は冷たくあしらった。
(でも絶対石があった方が便利だよね。だって石でできること以外にリソースがさけるもの)
それが四神だけではなく、眷属が滞在するだけでも影響があるとしたら。それは眷属だけでも近くに置きたいと思うに違いなかった。
(白虎様、おなかいっぱいになりました)
白虎の腕にそっと触れて心話で伝える。もう戻ろうという意思表示だ。
『……ふむ。茶菓子を馳走になった。朱雀兄、戻りましょう』
『そうだな』
朱雀が頷く。
『これは失礼いたしました。土産を持たせなさい』
皇太子がここでやっと口を開き、侍女に指示をした。土産ってなんだろう? と香子は首を傾げた。
『こたびはこちらの招きに応じていただけたこと、まことに感謝しています。またお話を聞かせてください』
皇太子自ら立ち上がり、香子を抱き上げた白虎を促した。次代の皇帝も四神を大事に思っているというアピールである。みな立ち上がり、四阿から出て白虎たちを見送った。
『……香子、戻るぞ』
『はい……はい?』
白虎がそう言った途端景色が変わった。どうやらまた瞬間移動をしたようである。さすがに朱雀は残ってくれたようだが、王英明や趙文英は生きた心地がしないに違いない。
香子は白虎の腕の中からきょろきょろと辺りを見回した。どうやら直接白虎の室に戻ってきたようだった。
『……朱雀様にお伝えいただけましたか?』
『白雲にも伝えた』
『ならいいですけど……』
朱雀に伝えただけだと、朱雀は自分だけがわかっていればいいので誰にも言わない可能性もある。だが白雲は眷属たちの中では気配りの者だ。きっと王や趙にも伝えてくれているだろうと香子はほっとした。
『白虎様、どうかなさいましたか?』
『……あの大使……』
大使というと……と香子は考える。もしかしたら香子のことを言ったボースーの大使のことだろうか。
『八つ裂きにしてやればよかったか……』
『……それはダメです』
『何故だ』
『戦争にはならないまでも、大唐の立場が不利になります。四神への信仰も薄れるやもしれません』
白虎は不快そうに眉を寄せた。
『我らへの信仰などどうでもいい。そなたさえいれば』
『私が、そんなことをなさる白虎様は嫌だと言ってもですか?』
白虎は目を見開いた。本当に、随分表情が動くようになってきたものである。
『それは困る……』
『大唐の立場を守れとは申しません。ですが、私の気持ちは考えていただきたいです。だから……』
『なんだ?』
『あの時、堪えてくださりありがとうございました。白虎様、大好きです……』
香子は白虎の腕の中ではにかんだ。それに白虎がニヤリとする。
『……そなたにはかなわぬな』
そう言って、白虎は香子を寝室に運んだ。香子の背を冷汗が流れた。
(好きは好きだけど……大好きだけどっ! 昼から爛れた生活は嫌あああーーーっ!)
だがスイッチの入ってしまった白虎が止まるはずもなく、香子は昼から全身を愛でられてしまった。それでも最後まで抱くことはしなかったのだから、白虎の忍耐は素晴らしいといえよう。
(もー……いいかげん学ぼうよ、私……)
香子はまたとても後悔したのだった。
そうはいっても白虎の膝に腰掛けている香子に彼らの視線が向いてしまうのはしかたがないことだ。
(私は空気ですから!)
と思いながらも、香子はお茶に対してもお湯のお代わりを頼んだし、お茶菓子もいっぱい食べた。ここはあえて空気を読まないスタイルである。
『昨今凍石という近くにあるものを凍らせる石というものが発見されたと聞きましたが、それらの石は離れた国でも利用可能なものなのでしょうか?』
皇帝と雑談をしているオロス王が口にした内容に、香子は茶を噴きだしそうになった。どうにかごっくんと飲み込んでこらえる。ここで噴き出したりしたら香子が何かを知っていると答えるようなものだ。
(凍石はまだ国内でしか知られてないはず……って各国の諜報ぐらいは入ってて当然かー……)
政治的なやりとりは香子にはわからないが、面倒だなと思った。
『さすがオロス王ですな。ですが一年中涼しい気候の貴国では必要ないでしょう』
皇帝がチクリと言う。そういうやりとりは別のところでやってほしいなぁと香子は思う。でもその石の出所が四神なのはみな知っているだろうから、オロス王もあえてここで言い出したに違いなかった。
『大唐の皇帝にはかないませんな。ただ我が国でも温暖な気候の土地は少なからずあるのですよ。そこで獲れる物を運搬するには……お分かりでしょう』
香子は内心首を傾げた。地図がないからわからないが、ウラジオストック辺りまではオロスの範囲なのだろうか。それとももっと南寄りに島かなにかがあって……?
『……石の有効範囲については商人が一番詳しいだろう。だが、他国に深く足を踏み入れると途端に効力を失うとは聞いている』
オロス王は嘆息した。
『やはり”石”については四神の恵みのようですね。羨ましいことだ』
『オロスにはこれらを超える技術力があると聞いている。石は使えなくても問題はなかろう』
皇帝は冷たくあしらった。
(でも絶対石があった方が便利だよね。だって石でできること以外にリソースがさけるもの)
それが四神だけではなく、眷属が滞在するだけでも影響があるとしたら。それは眷属だけでも近くに置きたいと思うに違いなかった。
(白虎様、おなかいっぱいになりました)
白虎の腕にそっと触れて心話で伝える。もう戻ろうという意思表示だ。
『……ふむ。茶菓子を馳走になった。朱雀兄、戻りましょう』
『そうだな』
朱雀が頷く。
『これは失礼いたしました。土産を持たせなさい』
皇太子がここでやっと口を開き、侍女に指示をした。土産ってなんだろう? と香子は首を傾げた。
『こたびはこちらの招きに応じていただけたこと、まことに感謝しています。またお話を聞かせてください』
皇太子自ら立ち上がり、香子を抱き上げた白虎を促した。次代の皇帝も四神を大事に思っているというアピールである。みな立ち上がり、四阿から出て白虎たちを見送った。
『……香子、戻るぞ』
『はい……はい?』
白虎がそう言った途端景色が変わった。どうやらまた瞬間移動をしたようである。さすがに朱雀は残ってくれたようだが、王英明や趙文英は生きた心地がしないに違いない。
香子は白虎の腕の中からきょろきょろと辺りを見回した。どうやら直接白虎の室に戻ってきたようだった。
『……朱雀様にお伝えいただけましたか?』
『白雲にも伝えた』
『ならいいですけど……』
朱雀に伝えただけだと、朱雀は自分だけがわかっていればいいので誰にも言わない可能性もある。だが白雲は眷属たちの中では気配りの者だ。きっと王や趙にも伝えてくれているだろうと香子はほっとした。
『白虎様、どうかなさいましたか?』
『……あの大使……』
大使というと……と香子は考える。もしかしたら香子のことを言ったボースーの大使のことだろうか。
『八つ裂きにしてやればよかったか……』
『……それはダメです』
『何故だ』
『戦争にはならないまでも、大唐の立場が不利になります。四神への信仰も薄れるやもしれません』
白虎は不快そうに眉を寄せた。
『我らへの信仰などどうでもいい。そなたさえいれば』
『私が、そんなことをなさる白虎様は嫌だと言ってもですか?』
白虎は目を見開いた。本当に、随分表情が動くようになってきたものである。
『それは困る……』
『大唐の立場を守れとは申しません。ですが、私の気持ちは考えていただきたいです。だから……』
『なんだ?』
『あの時、堪えてくださりありがとうございました。白虎様、大好きです……』
香子は白虎の腕の中ではにかんだ。それに白虎がニヤリとする。
『……そなたにはかなわぬな』
そう言って、白虎は香子を寝室に運んだ。香子の背を冷汗が流れた。
(好きは好きだけど……大好きだけどっ! 昼から爛れた生活は嫌あああーーーっ!)
だがスイッチの入ってしまった白虎が止まるはずもなく、香子は昼から全身を愛でられてしまった。それでも最後まで抱くことはしなかったのだから、白虎の忍耐は素晴らしいといえよう。
(もー……いいかげん学ぼうよ、私……)
香子はまたとても後悔したのだった。
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