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第3部 周りと仲良くしろと言われました
73.茶会は根回しが大切だと思うのです
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茶会当日の昼食はあまり味わって食べることができなかった。
香子はなんだかんだいって緊張していた。
(ううう……心ここにあらずでおいしいごはんを味わえなかったなんて~……)
食べるの大好き、中華料理は至高! と思っている香子にとってそれは由々しきことだった。なにせ中国に留学する際一生分の中華を食べ尽くしてくる! と決意したほどなのだ。でも四年では一生分には足りなかったようで、香子はまだまだ中華料理を食べたくてしかたない。ちなみに、中華料理と言えば日本人の口に会うように作られた中華風の料理を指す。中国で食べられている料理のことは中国料理と呼ぶのが正しいそうだ。ただしこれはあくまで日本での言い方であり、中国語では「中国菜」である。香子がおいしく食べているので言い方はあえて中華料理としている。
閑話休題。
『皇帝め……許すまじ……』
昼食を終えて食休みをし、侍女たちに髪形や衣裳を整えてもらいながら香子は呟いた。侍女たちは一瞬目を見開いたが手の動きは止まらない。香子が皇帝に対して不遜なのはみなもう気にしてはいなかった。延夕玲がごほん、と咳払いをする。
『あ、ごめん』
『……貴人が仕える者に謝ってはなりませぬ』
『はーい』
いつものやりとりではあるが、香子は十分和んだ。やはり夕玲の存在も大事なようである。
今回は四神全員を伴って行く必要はない。中秋節の主役である白虎と、玄武か朱雀が行けば問題ないはずだ。白虎の腕に抱かれて向かうことにしたので香子の衣裳は白虎の色に合わせて全体的に白っぽい。そこに四神の色を少しずつ添えてある衣裳は贅沢なものである。
(毎回衣裳を新調してるような気がするんだよねぇ……)
もちろん贈物の中から選ばれる時もあるようだが、自分の為にどれだけの衣裳が用意されているのかと、香子は想像しただけで眩暈がしそうだった。
白虎に抱き上げられて移動するのが基本なので髪形はそれほど高く結い上げられることはない。髪の上の方に少しまとめ、あとは下ろすスタイルである。まとめた部分に簪を刺し、薄く紅を差したらできあがりだ。
王英明が迎えに来ているという連絡を受けて、白虎が迎えにきた。その腕の中に収まり、御花園に連れていかれた。
『そのように着飾ったそなたも美しいな』
『そ、そんな、ことは……。侍女たちが上手なのです……』
『いくら侍女たちが上手に着飾ったとしても、素材がよくなければここまで美しくはならぬだろう』
セクハラだと香子は思ったが、ここにはそんなことを気にする者はいない。
『もう、言わないんです……』
『恥じらうそなたが愛しすぎる。戻ってよいか』
『だめに決まっているでしょう!』
そんなやりとりを経て、どうにか御花園に着いた。
本日のメンバーは、白虎、朱雀、香子、白雲、青藍、黒月、夕玲である。御花園では皇帝、皇太子、オロス王、シーザン王、ボースー大使、バージースータン大使が待っていた。
(うわあ、むさい……)
香子は彼らを見て内心げんなりした。人数をしぼった結果なのだろうが、それにしても、である。
『監兵神君、陵光神君並びに白香娘娘、このたびは……』
皇帝自らが立ち上がったことで周りの面々も立ち上がる。それを朱雀が制した。
『大仰な挨拶はいらぬ。我らは茶をしに来たにすぎぬ』
『陵光神君、ありがとうございます!』
挨拶の口上ぐらい述べさせてもいいのではないかと香子は思ったが、それすらも朱雀は面倒くさいようだった。
案内された席に着く。香子の席も用意されていたが、白虎は香子を抱いたまま腰掛けた。これはかなりいら立っているなと香子は思う。下ろしてくれないということはここにいる者たちを敵認定しているということである。最近そんなようなことを四神から教えてもらった。だがいくら一国の王だって香子に粉をかけるような命知らずはいないはずだと香子は思う。
しかし、値踏みするような視線を感じて香子は内心首を傾げた。
(……命知らずがいる……?)
香子はあえて気にしないことにし、蓋碗を手に取った。お茶は龍井だった。まだ風味がしっかりあってとてもおいしい。香子は思わず顔を綻ばせた。
『……失礼ですが、花嫁様は”人”だと聞いております。しかし人ならざる美しさがありますな……』
口を開いたのはボースーの大使だった。
『……花嫁を見る許可を誰が出した?』
白虎が低い声で唸る。今にも本性を現しそうで、香子はそっと白虎の腕に触れた。さすがに香子を見たぐらいで罰せられては外交問題になってしまう。
『ひっ……も、申し訳ございません……』
さすがにまずいと思ったのか、ボースーの大使が椅子から下りてその場で跪いた。
『四神は花嫁殿が共でなければ顔も出してはいただけないのだ』
皇帝が取り成した。つまり、香子のことはそこに在っても言及してはいけないのである。
『監兵神君、ここは朕の顔を立ててはくれぬか』
『……いいだろう。ただし二度目はないぞ』
茶会はその後一気に重苦しい雰囲気となった。しかしそれは皇帝が事前に根回しをしていなかったから起こったことである。香子は一欠けらも同情しなかった。白虎に杏仁酥を二枚ぐらい取らせて香子はがじがじと食べる。いつ食べてもこのクッキーはおいしいと思いながら他のお茶菓子もこれでもかと食べたのだった。
ーーーーー
「一生分の……」については第一部17話参照のこと。
「前略、山暮らしを始めました。」が第四回ライト文芸大賞で読者賞をいただきました!
応援ありがとうございましたー♪
香子はなんだかんだいって緊張していた。
(ううう……心ここにあらずでおいしいごはんを味わえなかったなんて~……)
食べるの大好き、中華料理は至高! と思っている香子にとってそれは由々しきことだった。なにせ中国に留学する際一生分の中華を食べ尽くしてくる! と決意したほどなのだ。でも四年では一生分には足りなかったようで、香子はまだまだ中華料理を食べたくてしかたない。ちなみに、中華料理と言えば日本人の口に会うように作られた中華風の料理を指す。中国で食べられている料理のことは中国料理と呼ぶのが正しいそうだ。ただしこれはあくまで日本での言い方であり、中国語では「中国菜」である。香子がおいしく食べているので言い方はあえて中華料理としている。
閑話休題。
『皇帝め……許すまじ……』
昼食を終えて食休みをし、侍女たちに髪形や衣裳を整えてもらいながら香子は呟いた。侍女たちは一瞬目を見開いたが手の動きは止まらない。香子が皇帝に対して不遜なのはみなもう気にしてはいなかった。延夕玲がごほん、と咳払いをする。
『あ、ごめん』
『……貴人が仕える者に謝ってはなりませぬ』
『はーい』
いつものやりとりではあるが、香子は十分和んだ。やはり夕玲の存在も大事なようである。
今回は四神全員を伴って行く必要はない。中秋節の主役である白虎と、玄武か朱雀が行けば問題ないはずだ。白虎の腕に抱かれて向かうことにしたので香子の衣裳は白虎の色に合わせて全体的に白っぽい。そこに四神の色を少しずつ添えてある衣裳は贅沢なものである。
(毎回衣裳を新調してるような気がするんだよねぇ……)
もちろん贈物の中から選ばれる時もあるようだが、自分の為にどれだけの衣裳が用意されているのかと、香子は想像しただけで眩暈がしそうだった。
白虎に抱き上げられて移動するのが基本なので髪形はそれほど高く結い上げられることはない。髪の上の方に少しまとめ、あとは下ろすスタイルである。まとめた部分に簪を刺し、薄く紅を差したらできあがりだ。
王英明が迎えに来ているという連絡を受けて、白虎が迎えにきた。その腕の中に収まり、御花園に連れていかれた。
『そのように着飾ったそなたも美しいな』
『そ、そんな、ことは……。侍女たちが上手なのです……』
『いくら侍女たちが上手に着飾ったとしても、素材がよくなければここまで美しくはならぬだろう』
セクハラだと香子は思ったが、ここにはそんなことを気にする者はいない。
『もう、言わないんです……』
『恥じらうそなたが愛しすぎる。戻ってよいか』
『だめに決まっているでしょう!』
そんなやりとりを経て、どうにか御花園に着いた。
本日のメンバーは、白虎、朱雀、香子、白雲、青藍、黒月、夕玲である。御花園では皇帝、皇太子、オロス王、シーザン王、ボースー大使、バージースータン大使が待っていた。
(うわあ、むさい……)
香子は彼らを見て内心げんなりした。人数をしぼった結果なのだろうが、それにしても、である。
『監兵神君、陵光神君並びに白香娘娘、このたびは……』
皇帝自らが立ち上がったことで周りの面々も立ち上がる。それを朱雀が制した。
『大仰な挨拶はいらぬ。我らは茶をしに来たにすぎぬ』
『陵光神君、ありがとうございます!』
挨拶の口上ぐらい述べさせてもいいのではないかと香子は思ったが、それすらも朱雀は面倒くさいようだった。
案内された席に着く。香子の席も用意されていたが、白虎は香子を抱いたまま腰掛けた。これはかなりいら立っているなと香子は思う。下ろしてくれないということはここにいる者たちを敵認定しているということである。最近そんなようなことを四神から教えてもらった。だがいくら一国の王だって香子に粉をかけるような命知らずはいないはずだと香子は思う。
しかし、値踏みするような視線を感じて香子は内心首を傾げた。
(……命知らずがいる……?)
香子はあえて気にしないことにし、蓋碗を手に取った。お茶は龍井だった。まだ風味がしっかりあってとてもおいしい。香子は思わず顔を綻ばせた。
『……失礼ですが、花嫁様は”人”だと聞いております。しかし人ならざる美しさがありますな……』
口を開いたのはボースーの大使だった。
『……花嫁を見る許可を誰が出した?』
白虎が低い声で唸る。今にも本性を現しそうで、香子はそっと白虎の腕に触れた。さすがに香子を見たぐらいで罰せられては外交問題になってしまう。
『ひっ……も、申し訳ございません……』
さすがにまずいと思ったのか、ボースーの大使が椅子から下りてその場で跪いた。
『四神は花嫁殿が共でなければ顔も出してはいただけないのだ』
皇帝が取り成した。つまり、香子のことはそこに在っても言及してはいけないのである。
『監兵神君、ここは朕の顔を立ててはくれぬか』
『……いいだろう。ただし二度目はないぞ』
茶会はその後一気に重苦しい雰囲気となった。しかしそれは皇帝が事前に根回しをしていなかったから起こったことである。香子は一欠けらも同情しなかった。白虎に杏仁酥を二枚ぐらい取らせて香子はがじがじと食べる。いつ食べてもこのクッキーはおいしいと思いながら他のお茶菓子もこれでもかと食べたのだった。
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「一生分の……」については第一部17話参照のこと。
「前略、山暮らしを始めました。」が第四回ライト文芸大賞で読者賞をいただきました!
応援ありがとうございましたー♪
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