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第3部 周りと仲良くしろと言われました
71.時には譲れないこともあるのです
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四神は皇帝からの要請を断る気満々だった。
確かに断っても四神や香子にとっては全く問題はないだろう。単純に皇帝の面子が潰れるというだけの話である。そもそも皇帝が四神に影響力を持つということがおかしいのだ。たかが人間が四神と同等、または立場が上などということはありえない。だがそれによって大唐の権威が落ちるということも、香子にとっては避けたいことだった。
この複雑な心情をどう説明したらいいだろうかと香子は頭を悩ませる。各国の要人への帰国前の顔合わせだというなら四神が一堂に集まる必要はない。出席するのは白虎と……玄武か朱雀がいれば事足りるだろう。もちろん香子も出席必須である。
(私が出なきゃいけないっていうのが面倒なんだよねぇ……)
だが香子が行かなければ四神は絶対に参加しないだろうということがわかっているので、行かざるをえない。
『ええとですね。うまく伝えられないかもしれないのですが、よろしいですか?』
香子が口を開くと四神はみな首肯した。
『口を挟まないで聞いてください。まず、結論としては”出席します”』
四神が珍しく顔の筋肉を動かした。あんまり表情が動かないのに珍しいなと香子はのん気に思った。口を開こうとするのを堪えるのがえらいなとも思う。
(私は何様なのか)
香子は内心一人ツッコミをした。
そして、まずは関係ないような話からしていくことにした。
『私は皇帝が嫌いです。皇帝なのに皇后を疎んじていたところとか、そういう家庭のことに私を巻き込んだことは許せません。そもそも女性に対して相応の対応ができない男は大嫌いです。なので本当は顔も見たくありません』
きっぱりとそこは断っておく。四神がなんともいえない顔をした。
『ですが!』
とても不本意だということを香子は隠さなかった。
『私はこの国が大事です。全然街の様子も見られませんし、庶民の生活がどんな状態なのかも私は知りません。でもこの国にはいつまでも安泰であってほしい。その為には皇帝が他の国からナメられるわけにはいかないのです』
面子というのは大事なものだ。個人の面子はそれほどではないかもしれないが、国の体面は保たれなければならない。
つまり。
『私の個人的感情で大唐の権威が落ちるようなことがあってはいけないんです!』
出たくはないけど国のことを考えたら出ざるをえないという話だ。
『出席する理由は以上です』
そう言って香子は自分の品茗杯(茶杯)にお茶を注いで飲んだ。今日の烏龍茶も最高である。四神が出した品茗杯にもお茶を淹れた。
『ふむ……だが我らはこの国に所属しているわけではないぞ?』
朱雀が楽しそうに言った。
『ええ、ですから見返りはしっかり求めたいですし、時間も短く設定してほしいです。そうですね、大体二刻程度いれば問題ないでしょう』
『見返り、とは?』
玄武が口を開いた。
『……私、表に出たいんですよね。まだ先ですけど香山に紅葉を見に行きたいんです。老仏爺に声をかければ連れてってもらえるかしら?』
『香山とはどこか?』
『ええと、清漪園(頤和園)の更に西側にある山です。北京の郊外ですね。学校の遠足で連れて行ってもらったことがあるんですよ。たまには自然を見たいなーって』
『……夜の散歩ではだめか?』
玄武に言われて香子は首を振った。あれはただ真っ暗な中外の空気を感じるだけのものだ。元の世界と違って夜景がはっきり見えるわけでもない。夜はやはりとても暗いのだ。
『みんなで行きたいんです。だめ、ですか?』
香子が小首を傾げて玄武を窺うと、玄武は嘆息した。
『……そなたにはかなわぬ。その条件でいいだろう。だが……わかっているな?』
(ううう……)
途端にぶわりと玄武から色香が発せられたような気が香子はした。緑の瞳が情欲に染まる。こんな美しい神が自分を求めるなんて、香子は未だに信じられない気持ちでいる。
『よ、夜でお願いします……』
香子は頬を染めて顔を俯かせ、そう応えることしかできなかった。そんな香子を四神が愛しくてならないというように見つめる。
『では、我もいいか?』
青龍に聞かれて香子は首を振った。
『青龍様と白虎様はまた後日で!』
『何故だ?』
白虎が唸るような声を上げた。
『……心臓が持ちません。いつも、その……』
香子はあまりの恥ずかしさに顔を上げることができなかった。
『その、なんだ?』
朱雀が楽しそうに聞き返す。やっぱり意地悪だ、と香子は思った。
だがここで答えなければ逃がしてはもらえないだろうということもわかっていて。
『うまく言えないのですけど……わ、私はそうでなくても四神の顔が好きなんです! だから近くにいるだけでどきどきしてしまうのです。心臓というのは鼓動の回数が決まっていると聞いたことがありますから、このままでは早死にしてしまいます!』
香子はもう人ではないのでそんなことはありえないのだが、どきどきしてたいへんなのは事実なのでそう訴えた。
『それはたいへんだ。なれば、もっと慣れるようにならなければな』
『え』
玄武に抱き上げられた。
『朱雀、皇帝に返事をしておけ』
『承知しました』
『香子は我らに慣れる練習をしよう』
『えええええ』
嬉しそうな玄武の腕に囚われて、香子は玄武の室へ連れ込まれてしまったのだった。
確かに断っても四神や香子にとっては全く問題はないだろう。単純に皇帝の面子が潰れるというだけの話である。そもそも皇帝が四神に影響力を持つということがおかしいのだ。たかが人間が四神と同等、または立場が上などということはありえない。だがそれによって大唐の権威が落ちるということも、香子にとっては避けたいことだった。
この複雑な心情をどう説明したらいいだろうかと香子は頭を悩ませる。各国の要人への帰国前の顔合わせだというなら四神が一堂に集まる必要はない。出席するのは白虎と……玄武か朱雀がいれば事足りるだろう。もちろん香子も出席必須である。
(私が出なきゃいけないっていうのが面倒なんだよねぇ……)
だが香子が行かなければ四神は絶対に参加しないだろうということがわかっているので、行かざるをえない。
『ええとですね。うまく伝えられないかもしれないのですが、よろしいですか?』
香子が口を開くと四神はみな首肯した。
『口を挟まないで聞いてください。まず、結論としては”出席します”』
四神が珍しく顔の筋肉を動かした。あんまり表情が動かないのに珍しいなと香子はのん気に思った。口を開こうとするのを堪えるのがえらいなとも思う。
(私は何様なのか)
香子は内心一人ツッコミをした。
そして、まずは関係ないような話からしていくことにした。
『私は皇帝が嫌いです。皇帝なのに皇后を疎んじていたところとか、そういう家庭のことに私を巻き込んだことは許せません。そもそも女性に対して相応の対応ができない男は大嫌いです。なので本当は顔も見たくありません』
きっぱりとそこは断っておく。四神がなんともいえない顔をした。
『ですが!』
とても不本意だということを香子は隠さなかった。
『私はこの国が大事です。全然街の様子も見られませんし、庶民の生活がどんな状態なのかも私は知りません。でもこの国にはいつまでも安泰であってほしい。その為には皇帝が他の国からナメられるわけにはいかないのです』
面子というのは大事なものだ。個人の面子はそれほどではないかもしれないが、国の体面は保たれなければならない。
つまり。
『私の個人的感情で大唐の権威が落ちるようなことがあってはいけないんです!』
出たくはないけど国のことを考えたら出ざるをえないという話だ。
『出席する理由は以上です』
そう言って香子は自分の品茗杯(茶杯)にお茶を注いで飲んだ。今日の烏龍茶も最高である。四神が出した品茗杯にもお茶を淹れた。
『ふむ……だが我らはこの国に所属しているわけではないぞ?』
朱雀が楽しそうに言った。
『ええ、ですから見返りはしっかり求めたいですし、時間も短く設定してほしいです。そうですね、大体二刻程度いれば問題ないでしょう』
『見返り、とは?』
玄武が口を開いた。
『……私、表に出たいんですよね。まだ先ですけど香山に紅葉を見に行きたいんです。老仏爺に声をかければ連れてってもらえるかしら?』
『香山とはどこか?』
『ええと、清漪園(頤和園)の更に西側にある山です。北京の郊外ですね。学校の遠足で連れて行ってもらったことがあるんですよ。たまには自然を見たいなーって』
『……夜の散歩ではだめか?』
玄武に言われて香子は首を振った。あれはただ真っ暗な中外の空気を感じるだけのものだ。元の世界と違って夜景がはっきり見えるわけでもない。夜はやはりとても暗いのだ。
『みんなで行きたいんです。だめ、ですか?』
香子が小首を傾げて玄武を窺うと、玄武は嘆息した。
『……そなたにはかなわぬ。その条件でいいだろう。だが……わかっているな?』
(ううう……)
途端にぶわりと玄武から色香が発せられたような気が香子はした。緑の瞳が情欲に染まる。こんな美しい神が自分を求めるなんて、香子は未だに信じられない気持ちでいる。
『よ、夜でお願いします……』
香子は頬を染めて顔を俯かせ、そう応えることしかできなかった。そんな香子を四神が愛しくてならないというように見つめる。
『では、我もいいか?』
青龍に聞かれて香子は首を振った。
『青龍様と白虎様はまた後日で!』
『何故だ?』
白虎が唸るような声を上げた。
『……心臓が持ちません。いつも、その……』
香子はあまりの恥ずかしさに顔を上げることができなかった。
『その、なんだ?』
朱雀が楽しそうに聞き返す。やっぱり意地悪だ、と香子は思った。
だがここで答えなければ逃がしてはもらえないだろうということもわかっていて。
『うまく言えないのですけど……わ、私はそうでなくても四神の顔が好きなんです! だから近くにいるだけでどきどきしてしまうのです。心臓というのは鼓動の回数が決まっていると聞いたことがありますから、このままでは早死にしてしまいます!』
香子はもう人ではないのでそんなことはありえないのだが、どきどきしてたいへんなのは事実なのでそう訴えた。
『それはたいへんだ。なれば、もっと慣れるようにならなければな』
『え』
玄武に抱き上げられた。
『朱雀、皇帝に返事をしておけ』
『承知しました』
『香子は我らに慣れる練習をしよう』
『えええええ』
嬉しそうな玄武の腕に囚われて、香子は玄武の室へ連れ込まれてしまったのだった。
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