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第3部 周りと仲良くしろと言われました

70.巻き込むのはやめてほしいと思います

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 朱雀が言った通りだった。
 平時にそうそう重要なことなどないのである。国同士のやりとりであればいろいろあるのかもしれないが、四神は国に所属しているわけではない。本来ならば姿を見ただけで十分なのだ。ただ、現世にいる神だから取り込めるならば取り込もうなどと余計なことを考えるやからがいるというだけの話である。
 香子はボースーの使者の用件を白雲から聞かされて不機嫌そうな顔をした。

『……だから言ったであろうに』

 笑い混じりに朱雀が言い、香子を自分の膝に乗せた。そのまま抱きしめて香子の髪に口づける。
 食後の席だった。食後のお茶を飲んでいた時にそうされて、香子はなんともいえない顔をした。一応飲み終わってはいたし、湯呑も持っていなかったからかまわないといえばかまわないのだが、そういうことは人前でしてほしくないと香子は思うのだ。
 ようは恥ずかしいのである。

『朱雀様、下ろしてください』
『だめだ。下ろしたら拗ねるであろう』

 クツクツと笑いながら朱雀に言われ、香子はむっとした。
 張錦飛が来た翌日の昼のことである。使者の用件なども事前に準備してあったとはいえ、返答は比較的早いといえた。だとしてもこのやりとりは不毛だと香子は思う。面会を求めるのならば事前に用件やら何やらをまとめておくべきだ。こちらが断るのが前提とはいえ中書省の仕事もいいかげんではないか。

『……面会希望とかのやりとりももっと簡素化できないものですかね? どうせ断るんですし』
『そうだな。人というのは面倒くさいものだ』

 四神が笑んだ。
 話はそれで終わったかに見えたが、今度は皇帝から呼び出しがあった。
 香子はとても嫌そうな顔をした。何故皇帝などの顔を見なければならないのか。しかも今回は皇太子も同席するという。さすがに皇帝からの話だということで、香子たちは謁見の間で王英明と、その上司という者から話を聞いた。
 香子は白虎の腕に抱かれたまま白虎に心話で話しかけた。

〈白虎様、一応用件を聞いてください〉
〈会うつもりか?〉
〈本音を言えば断りたいですけど、相手は皇帝ですからね。それにまだ各国の要人は帰国していないでしょう?〉
〈……そのようだな〉

 非公式とはいえ、その席に各国の要人を招いて顔合わせのようなことをするつもりに違いない。宴席であればもう香子たちが出席する義務はないので突っぱねられるが、お茶を、と言われてしまえば話は別だ。

〈先に断りたい旨伝えて、それからですね〉
〈わかった〉

 白虎が白雲に目配せした。念話で知らせたようだ。これらのやり取りを聞かれずに行えるというのはとても助かると香子は思う。心話を使えないと一方通行ではあるが、四神が伝えたい相手に伝えることはできる。それって神様っぽいよね、と香子はこっそり思った。実際神様である。

(神様が下々の者に言いつけるってシチュ、嫌いじゃないなぁ……)

 ただしそれはあくまで香子に被害が及ばないことが前提である。

『……断れ』

 白雲が告げた。
 跪いていた王の上司が、

『そ、それは……私の一存では決めかねます……』

 と脂汗を流しながら言った。管理職というものもたいへんだなぁと香子はのん気に思った。

『なれば、何故そなたが参った? 話が伝わるものをよこすがいい』
『そ、それは……』

 白雲もなかなか酷なことを言う。王が跪いている上司をこっそりつついた。替われ、ということだろう。

『王……控えておれ』
『いえ、私から説明をさせてください』

 小声でのやりとりだが全て香子には聞こえている。最近耳がよくなったなぁと香子は思っているが、それは明らかに四神の影響を受けていた。
 王が顔を上げた。相変わらずイケメンだなと香子は思った。

『白雲殿、どうか私に発言をさせていただきたい』
『王殿か。申してみよ』
『此度は各国の要人の帰国前の面会希望です。宴席はまた別に設ける予定ですが、そちらに四神と花嫁様はお姿を見せないだろうとの予想から、非公式でも一目会いたいという要望が皇上(皇帝)に上がったそうです』
(やっぱり)

 香子は内心げんなりした。四神に会い、一言でも交わしたというだけで帰国後の権力が変わるのだろう。そんなことの為に呼び出されるのかと思ったら香子は少し腹が立ってきた。

『……皇帝の面子を保つ為なのね?』

 香子の呟きは風に流れ、王とその上司に届いた。

『そ、それは……』
『端的に申しますとそういうことです』
『王っ!』

 脂汗をかいた上司に小声で叱責され、王は肩を竦めた。香子は白雲に目配せした。王がなんらかの罰を受けるのは回避してほしかった。

『……王殿、とてもわかりやすい説明であった。のちほど褒美を取らせよう。返事は直接皇帝に知らせる故、下がれ』
『は? し、しかし……』
『下がれ』
『……承知しました……』

 王の上司は状況がよくわかっていないようである。それでも白雲の言に従った。

『王への褒美は私への贈り物の中から適当なものを見繕って運んでちょうだい。勤めている部署に直接運んだ方がいいわ。上司の見ている前で渡すように』
『承知しました』

 白雲と趙文英に手配を頼み、香子は白虎に抱かれて四神宮に戻った。

『香子、皇帝に直接断ればいいのだな?』

 玄武が当たり前のように言う。香子は頭が痛くなるのを感じた。それでも聞くだけマシだと香子は思うようにした。

『茶室に行きましょう。断るかどうするのか決めるのはお茶を飲んでからでもいいでしょう?』

 玄武に微笑みかけると、玄武は嬉しそうに笑んだ。表情があまり動かないのでほんのりというかんじだが、香子は内心身もだえた。

(ステキすぎるの禁止ぃ……)

 香子は目が潰れるとばかりにそっと目を伏せたのだった。
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