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第3部 周りと仲良くしろと言われました
62.女の子の衣裳を決めるのは楽しいです
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こちらにも準備があると言い、三日後にまた皇帝に茶会に招かれることになった。
『エリーザの衣裳を用意しなきゃ!』
紅児は西洋系のかわいい少女である。透き通るような白い肌に澄んだエメラルドの瞳が美しい。少し朱色がかった赤い髪をしているが、それが暗紫紅色に変わった時どのような印象になるのだろうと香子は想像した。
(紅夏と一緒になるっていうのはなんかもやもやするけど、守ってくれる人はいた方がいいよね……)
母国に帰る際、一人で行かせるわけにはいかないと香子は思う。祖国に帰るのだから何も問題はないはずだが、三年以上も行方不明になっていたのだ。帰国した後あらゆる好奇心と悪意が紅児を襲うだろう。その時に紅児を守ってくれる者がいなければ香子は考えてしまうのだ。
香子はどうしたって紅児に付いていくことはできないから。
侍女たちとわいわい衣裳選びをし、紅児を着せ替え人形にした。
『エリーザはかわいいから、この薄桃色の衣裳がいいかしらね?』
『いっそのこと花嫁様とお揃いにしてみてはいかがでしょう?』
『差し色だけ変えれば印象も変わりますし』
本来であれば紅児が香子と衣裳の色を揃えるなどあってはならないことである。だがここは四神宮で、紅児は香子の客人だ。同等、とまではいかないがそれなりの身分を保証されているということを香子はアピールしたかった。
『さすがに花嫁様と同じ衣裳はまずいわ。紅夏様の衣裳と合わせたらどうかしら?』
香子は内心ムッとした。あの不遜な眷属に紅児を預けるのは複雑だった。
(わかっててもムカつく)
だが全ては紅児の為だ。そう思って顔を上げると、侍女たちがじっと香子を見ていた。
『? ど、どうしたの?』
『いえ……花嫁様は日に日に美しさに磨きがかかっていらっしゃいますね』
侍女の一人が悪びれずに答えた。香子はなんともいえない顔をした。
『……それは……貴女たちの手入れが上手だからではないかしら?』
侍女たちは全員首を振った。
『いいえ! 同じようにお世話したとしても花嫁様のように美しくなることは決してありません!』
『そうです! その透き通るような真っ白い肌。そしてたわわになっていく形のいいお胸! 妖艶に括れていく腰などは私たちのお世話では……むぐぐ……』
『貴女はそろそろお黙りなさい!』
『雪のように白いそのお肌も、艶やかな御髪(おぐし)も、私共の手入れだけではとてもとても……』
『なんでしたらまた公主様方にお会いしてその肌を見比べていただいては……』
香子はどういう顔をしたらいいのかわからなかった。
『花嫁様は理想的な身体をしていらっしゃいますよね』
衣裳決めで先ほどまで振り回されていた紅児がにっこりしてそう言った。
『……頼むからもう終わりにして……』
みなも知ってはいることだが、それらは全て四神に愛されている証拠である。暗紫紅色の艶やかな髪は朱雀に愛されている証であり、雪のように白い肌は玄武に愛された証。みずみずしくつい触れてしまいたくなる肢体は青龍に、そしてどんどんたわわになっていく胸は白虎に愛されている証拠だった。
(私は美人ではないけれど、肌の質感が変わっただけでキレイに見られるなんて不思議だわ……)
香子は元々かわいい顔をしている。背は低めで痩せ型だ。彼氏がいたこともあるいわゆる普通の女の子であったが、四神に愛されることで神も人も魅了する存在に変わってしまった。だが香子は自分がそんな存在になっていることは気づいていない。四神に抱かれることで人でなくなっていることはわかっているが、そこまで影響があるとは理解していなかった。
そんな風に中断もあったが、どうにか衣裳を合わせることができた。
『ではこちらを少し手直ししまして、明日合わせるということでよろしいでしょうか?』
『ええ、よろしくね』
侍女たちは興奮冷めやらぬ面持ちで下がった。頬がほんのりと赤くなっていたのはもう仕方のないことである。
(あー、びっくりした……)
白虎を呼びにいくように侍女には頼んだので、そろそろ来てくれるだろう。それまではできるだけ表情を動かさないように、と香子は思っていたが、延夕玲から見て香子の表情はバレバレだった。
夕玲からすれば香子の容姿が絶賛されるのは当たり前である。出会った頃よりも更に美しくなっていく香子を眺め、絶対に守らなくてはと思いを新たにする。青藍に向かって夕玲への扱いに対して香子がくってかかったということは聞いている。きちんと眷属の手綱も握ろうと日々奮闘している香子に、夕玲が好意を持たないわけがなかった。香子のことを思えば、夕玲は最近時折四神に対しても憤りを感じることがある。もちろん夕玲が口を出すことではないが、香子には幸せに笑っていてほしかった。
部屋の表にいる黒月から声がかかる。白虎が来たようだった。
『香子、終わったのか』
自ら扉を開いて流れるような動きで香子の元へ向かい、白虎は小首を傾げた香子をすぐにその腕の中に収めてしまった。
『白虎様、私まだお茶を……』
『我の室で飲めばよい。行くぞ』
『……もう』
香子は少しだけ拗ねたような顔をしたが、すぐにはにかんだ。それに侍女たちだけでなく夕玲もまた見惚れた。知らぬは香子ばかりである。
ーーーーー
一部侍女暴走中(ぉぃ
「貴方色に染まる」70話辺り。香子が眷属にくってかかったという話は第二部66話を参照してください。
『エリーザの衣裳を用意しなきゃ!』
紅児は西洋系のかわいい少女である。透き通るような白い肌に澄んだエメラルドの瞳が美しい。少し朱色がかった赤い髪をしているが、それが暗紫紅色に変わった時どのような印象になるのだろうと香子は想像した。
(紅夏と一緒になるっていうのはなんかもやもやするけど、守ってくれる人はいた方がいいよね……)
母国に帰る際、一人で行かせるわけにはいかないと香子は思う。祖国に帰るのだから何も問題はないはずだが、三年以上も行方不明になっていたのだ。帰国した後あらゆる好奇心と悪意が紅児を襲うだろう。その時に紅児を守ってくれる者がいなければ香子は考えてしまうのだ。
香子はどうしたって紅児に付いていくことはできないから。
侍女たちとわいわい衣裳選びをし、紅児を着せ替え人形にした。
『エリーザはかわいいから、この薄桃色の衣裳がいいかしらね?』
『いっそのこと花嫁様とお揃いにしてみてはいかがでしょう?』
『差し色だけ変えれば印象も変わりますし』
本来であれば紅児が香子と衣裳の色を揃えるなどあってはならないことである。だがここは四神宮で、紅児は香子の客人だ。同等、とまではいかないがそれなりの身分を保証されているということを香子はアピールしたかった。
『さすがに花嫁様と同じ衣裳はまずいわ。紅夏様の衣裳と合わせたらどうかしら?』
香子は内心ムッとした。あの不遜な眷属に紅児を預けるのは複雑だった。
(わかっててもムカつく)
だが全ては紅児の為だ。そう思って顔を上げると、侍女たちがじっと香子を見ていた。
『? ど、どうしたの?』
『いえ……花嫁様は日に日に美しさに磨きがかかっていらっしゃいますね』
侍女の一人が悪びれずに答えた。香子はなんともいえない顔をした。
『……それは……貴女たちの手入れが上手だからではないかしら?』
侍女たちは全員首を振った。
『いいえ! 同じようにお世話したとしても花嫁様のように美しくなることは決してありません!』
『そうです! その透き通るような真っ白い肌。そしてたわわになっていく形のいいお胸! 妖艶に括れていく腰などは私たちのお世話では……むぐぐ……』
『貴女はそろそろお黙りなさい!』
『雪のように白いそのお肌も、艶やかな御髪(おぐし)も、私共の手入れだけではとてもとても……』
『なんでしたらまた公主様方にお会いしてその肌を見比べていただいては……』
香子はどういう顔をしたらいいのかわからなかった。
『花嫁様は理想的な身体をしていらっしゃいますよね』
衣裳決めで先ほどまで振り回されていた紅児がにっこりしてそう言った。
『……頼むからもう終わりにして……』
みなも知ってはいることだが、それらは全て四神に愛されている証拠である。暗紫紅色の艶やかな髪は朱雀に愛されている証であり、雪のように白い肌は玄武に愛された証。みずみずしくつい触れてしまいたくなる肢体は青龍に、そしてどんどんたわわになっていく胸は白虎に愛されている証拠だった。
(私は美人ではないけれど、肌の質感が変わっただけでキレイに見られるなんて不思議だわ……)
香子は元々かわいい顔をしている。背は低めで痩せ型だ。彼氏がいたこともあるいわゆる普通の女の子であったが、四神に愛されることで神も人も魅了する存在に変わってしまった。だが香子は自分がそんな存在になっていることは気づいていない。四神に抱かれることで人でなくなっていることはわかっているが、そこまで影響があるとは理解していなかった。
そんな風に中断もあったが、どうにか衣裳を合わせることができた。
『ではこちらを少し手直ししまして、明日合わせるということでよろしいでしょうか?』
『ええ、よろしくね』
侍女たちは興奮冷めやらぬ面持ちで下がった。頬がほんのりと赤くなっていたのはもう仕方のないことである。
(あー、びっくりした……)
白虎を呼びにいくように侍女には頼んだので、そろそろ来てくれるだろう。それまではできるだけ表情を動かさないように、と香子は思っていたが、延夕玲から見て香子の表情はバレバレだった。
夕玲からすれば香子の容姿が絶賛されるのは当たり前である。出会った頃よりも更に美しくなっていく香子を眺め、絶対に守らなくてはと思いを新たにする。青藍に向かって夕玲への扱いに対して香子がくってかかったということは聞いている。きちんと眷属の手綱も握ろうと日々奮闘している香子に、夕玲が好意を持たないわけがなかった。香子のことを思えば、夕玲は最近時折四神に対しても憤りを感じることがある。もちろん夕玲が口を出すことではないが、香子には幸せに笑っていてほしかった。
部屋の表にいる黒月から声がかかる。白虎が来たようだった。
『香子、終わったのか』
自ら扉を開いて流れるような動きで香子の元へ向かい、白虎は小首を傾げた香子をすぐにその腕の中に収めてしまった。
『白虎様、私まだお茶を……』
『我の室で飲めばよい。行くぞ』
『……もう』
香子は少しだけ拗ねたような顔をしたが、すぐにはにかんだ。それに侍女たちだけでなく夕玲もまた見惚れた。知らぬは香子ばかりである。
ーーーーー
一部侍女暴走中(ぉぃ
「貴方色に染まる」70話辺り。香子が眷属にくってかかったという話は第二部66話を参照してください。
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