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第3部 周りと仲良くしろと言われました
60.皇帝とお茶なんかしたくありません
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翌日の昼過ぎに香子は青龍と朱雀を伴って皇帝の呼び出しに応じた。話によっては紅児に知らせなくてもいいだろうと香子は思ったので、紅児には行先を告げないようにみなには言いつけた。今回は延夕玲も四神宮に残すという徹底ぶりである。
夕玲は当初戸惑ったような表情をしたが、今回だけはお願いね、と香子が手を合わせたらしぶしぶ了承した。夕玲と青藍はそういう関係になりつつあるので、シーザンの姫が青藍に色目を使うようなところを見たら嫌だろうと香子は思ったのだ。
(……いくらなんでも色目までは使わないだろうけどねー……)
それでも相手は若く、美しい、権力を持った娘である。
『シーザン王は何を考えているのかしら?』
四神が答えられないことはわかっている。香子は白雲を窺った。
『……権力者の考えというのは時に度し難いものといえましょう。シーザン王国は我らの領地から山を挟んだ西側にございます。ですので土地や気候の恩恵を受けているものも少なくはありません。我ら眷属の中にはシーザン王国へ足を延ばすものもおります』
『ああ……思ったよりも眷属は身近ってことなのね』
『おそらくは』
ただ、身近に感じられるのと人の結婚相手として望めるかというのは別問題だろうと香子は思う。こちらに来ている眷属たちは黒月を除いてみな”つがい”を見つけてしまった。それも判で押したように四神宮で巡り合った相手だ。ということはやはり、黒月の相手も四神宮に関係する誰かなのではないかと香子は勝手に思っている。
(でもまだ成人してないんだよねー。黒月が成人するまでこっちにいるとかありえないし……どうなるんだろう……)
あまりにも皇帝の呼び出しに応じたくなくて、香子は余計なことをいろいろ考えてしまった。
まだ昼間は暖かいからか、御花園の四阿に招かれた。まだところどころ花が咲き、紅葉する気配はない。
(香山公園も色づき始めるのは11月以降だったっけ……)
北京の郊外にある香山公園に香子はかつて行ったことがあった。香炉峰(標高527m)に上ったこともある。階段がきつかったという記憶があった。香山公園は紅葉を見に行く場所というイメージがある。
(頤和園も行きたいし、香山公園も行きたいな)
香子は皇帝、シーザン王、シーザンの姫が並んで腰掛けている場において現実逃避がしたくなった。
今回香子は青龍の腕の中におり、朱雀、白雲、青藍、黒月が付き従っている。香子は冷ややかな目で皇帝を見た。
『孟章神君(青龍)、陵光神君(朱雀)、白香娘娘、此度は招きに応じていただきありがとうございます』
いささか砕けた物言いではあるが、これは四神と皇帝の立場を明確にしたものである。皇帝が立ち上がったことで、シーザン王と姫も立ち上がった。
『免礼(かまわぬ)』
青龍が答えたことでみな着席した。シーザン王の顔色が少し悪い。さすがに四神の立ち位置というものが理解できたようだ。そうはいっても引けないものもあるらしい。
蓋碗と茶菓子が並べられ、侍女たちが礼をして下がった。香子は空気を読まず、蓋碗に手を伸ばした。香子は四神の花嫁。四神より立場は下と思われているかもしれないが、こういう場に足を延ばすかどうかは香子の胸三寸にかかっている。
『あら、烏龍茶かしら。とても香りがいいわ』
『白香娘娘にはかなわぬな』
皇帝が苦笑する。
『……此度は何用か?』
香子の椅子になっている青龍が機嫌悪そうに聞く。その冷たい声音にシーザン王は一瞬恐れるような表情をした。香子は我関せずとお茶を啜っている。まだ秋茶が届くには早いかもしれないが、いい味だと香子は思った。
皇帝は苦笑した。
『此度はシーザン王の要請だ。どうしても四神に頼みたいことがあるそうだ』
『申してみよ』
青龍の言に、シーザン王は意を決したように口を開いた。
話としてはこうだ。シーザンの姫は香子のところに客人として滞在しているという赤い髪の異国の娘に興味を持った。異国の話が聞きたいので是非渡りをつけてほしい。それと同時に四神の眷属を紹介してほしいという内容だった。
概ね香子が予想した通りである。しかしわざわざ王まで引っ張り出して言うには大仰ではないかと香子は思った。
『客人については本人の意志によりますから約束はできかねます』
『赤い髪ということは花嫁様の縁故ではないのですかな?』
『違います。髪の色のことを言ったら姫とも縁故になってしまうではありませんか』
香子は扇子で口元を隠し、コロコロと笑った。
髪の色などなにほどでもないと香子は示した。
『しかし……四神宮の客人の髪の色までよくご存知でいらっしゃること』
香子は皇帝を睨みつけた。確かに紅児の髪の色は目立つだろうが、その情報が漏れているというのも考え物である。皇帝は一瞬目に動揺の色を見せたが、それはすぐに凪いでしまった。さすがに皇帝相手では分が悪い。
眷属はともかくとして、紅児に関しては本人の返事を得てからだと香子は突っぱねた。今回姫は発言はしなかったが、自信に満ちた表情に変わりはない。姫は紅児に会いたいわけではないだろう。おそらく紅児と紅夏がそういう関係だということもわかっているはずだ。
香子は内心うんざりしながら茶会を辞した。お茶がおいしかったことだけが救いである。
(あー、もう気が重いなぁ……)
紅児が断ってくれないかなと思うが、なんとなく紅児はがんばってしまいそうだなとも香子は思った。
ーーーーーー
「貴方色に染まる」68、69話辺りです。興味ありましたらそちらもご覧くださいませ~
夕玲は当初戸惑ったような表情をしたが、今回だけはお願いね、と香子が手を合わせたらしぶしぶ了承した。夕玲と青藍はそういう関係になりつつあるので、シーザンの姫が青藍に色目を使うようなところを見たら嫌だろうと香子は思ったのだ。
(……いくらなんでも色目までは使わないだろうけどねー……)
それでも相手は若く、美しい、権力を持った娘である。
『シーザン王は何を考えているのかしら?』
四神が答えられないことはわかっている。香子は白雲を窺った。
『……権力者の考えというのは時に度し難いものといえましょう。シーザン王国は我らの領地から山を挟んだ西側にございます。ですので土地や気候の恩恵を受けているものも少なくはありません。我ら眷属の中にはシーザン王国へ足を延ばすものもおります』
『ああ……思ったよりも眷属は身近ってことなのね』
『おそらくは』
ただ、身近に感じられるのと人の結婚相手として望めるかというのは別問題だろうと香子は思う。こちらに来ている眷属たちは黒月を除いてみな”つがい”を見つけてしまった。それも判で押したように四神宮で巡り合った相手だ。ということはやはり、黒月の相手も四神宮に関係する誰かなのではないかと香子は勝手に思っている。
(でもまだ成人してないんだよねー。黒月が成人するまでこっちにいるとかありえないし……どうなるんだろう……)
あまりにも皇帝の呼び出しに応じたくなくて、香子は余計なことをいろいろ考えてしまった。
まだ昼間は暖かいからか、御花園の四阿に招かれた。まだところどころ花が咲き、紅葉する気配はない。
(香山公園も色づき始めるのは11月以降だったっけ……)
北京の郊外にある香山公園に香子はかつて行ったことがあった。香炉峰(標高527m)に上ったこともある。階段がきつかったという記憶があった。香山公園は紅葉を見に行く場所というイメージがある。
(頤和園も行きたいし、香山公園も行きたいな)
香子は皇帝、シーザン王、シーザンの姫が並んで腰掛けている場において現実逃避がしたくなった。
今回香子は青龍の腕の中におり、朱雀、白雲、青藍、黒月が付き従っている。香子は冷ややかな目で皇帝を見た。
『孟章神君(青龍)、陵光神君(朱雀)、白香娘娘、此度は招きに応じていただきありがとうございます』
いささか砕けた物言いではあるが、これは四神と皇帝の立場を明確にしたものである。皇帝が立ち上がったことで、シーザン王と姫も立ち上がった。
『免礼(かまわぬ)』
青龍が答えたことでみな着席した。シーザン王の顔色が少し悪い。さすがに四神の立ち位置というものが理解できたようだ。そうはいっても引けないものもあるらしい。
蓋碗と茶菓子が並べられ、侍女たちが礼をして下がった。香子は空気を読まず、蓋碗に手を伸ばした。香子は四神の花嫁。四神より立場は下と思われているかもしれないが、こういう場に足を延ばすかどうかは香子の胸三寸にかかっている。
『あら、烏龍茶かしら。とても香りがいいわ』
『白香娘娘にはかなわぬな』
皇帝が苦笑する。
『……此度は何用か?』
香子の椅子になっている青龍が機嫌悪そうに聞く。その冷たい声音にシーザン王は一瞬恐れるような表情をした。香子は我関せずとお茶を啜っている。まだ秋茶が届くには早いかもしれないが、いい味だと香子は思った。
皇帝は苦笑した。
『此度はシーザン王の要請だ。どうしても四神に頼みたいことがあるそうだ』
『申してみよ』
青龍の言に、シーザン王は意を決したように口を開いた。
話としてはこうだ。シーザンの姫は香子のところに客人として滞在しているという赤い髪の異国の娘に興味を持った。異国の話が聞きたいので是非渡りをつけてほしい。それと同時に四神の眷属を紹介してほしいという内容だった。
概ね香子が予想した通りである。しかしわざわざ王まで引っ張り出して言うには大仰ではないかと香子は思った。
『客人については本人の意志によりますから約束はできかねます』
『赤い髪ということは花嫁様の縁故ではないのですかな?』
『違います。髪の色のことを言ったら姫とも縁故になってしまうではありませんか』
香子は扇子で口元を隠し、コロコロと笑った。
髪の色などなにほどでもないと香子は示した。
『しかし……四神宮の客人の髪の色までよくご存知でいらっしゃること』
香子は皇帝を睨みつけた。確かに紅児の髪の色は目立つだろうが、その情報が漏れているというのも考え物である。皇帝は一瞬目に動揺の色を見せたが、それはすぐに凪いでしまった。さすがに皇帝相手では分が悪い。
眷属はともかくとして、紅児に関しては本人の返事を得てからだと香子は突っぱねた。今回姫は発言はしなかったが、自信に満ちた表情に変わりはない。姫は紅児に会いたいわけではないだろう。おそらく紅児と紅夏がそういう関係だということもわかっているはずだ。
香子は内心うんざりしながら茶会を辞した。お茶がおいしかったことだけが救いである。
(あー、もう気が重いなぁ……)
紅児が断ってくれないかなと思うが、なんとなく紅児はがんばってしまいそうだなとも香子は思った。
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「貴方色に染まる」68、69話辺りです。興味ありましたらそちらもご覧くださいませ~
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