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第3部 周りと仲良くしろと言われました

57.仕えるのは相変わらずたいへんです(趙視点)

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 各国の王族や大使はあと一週間ほどこちらに滞在するらしかった。その間に外交関係の話し合いをするのだろう。なかなか面倒な話だなと香子は思ったが、そういうことには一切関わらないのでどうでもよかった。四神は俗世とは無縁である。
 面会の希望などは中書省でさばかれ、それでもごり押しされたものは四神宮に回ってくる。主官である趙文英は内心ため息をついた。
 オロス王国やシーザン王国からの面会希望の書簡が毎日送られてくるのだ。大使であれば断ることも容易だが相手が一国の王となると難しい。オロス王国は一目会えたらというかんじなのでそれほど気にするほどではないが、シーザン王国の方は厄介だった。

(確か……中秋の夜の宴席でシーザンの姫と言葉を交わされたとか……)

 一応そういった内容は白雲から報告は受けている。四神と香子の行動については趙が全て把握しておかないとたいへんなことになるので、起こったことはできるだけ伝えてもらうようにはしていた。趙は中秋の翌朝、とても早い時間に白雲から報告を受けたが、何故かその時は黒月も一緒だった。

「趙殿、我は……シーザンの姫に花嫁様も、紅児も会わせたくないと思っている」
「そうですか。できるだけ調整はします。ただ、私では……」
「わかっている。人の身分というものは厄介だ。だができるだけ会わせたくないのだ!」
「黒月、あまり趙殿を困らせるな」
「はい、申し訳ありません。趙殿、すまなかった」
「……いえ」

 趙は激昂する黒月を、眩しいものを見るように眺めた。背も高く、すらりとした美しい女性だ。普段は無表情だが、香子に関しては感情と共に表情が動く。忠心、というだけではないだろう。黒月は香子を好ましく思うが故に心配しているのだ。

(好きだな……)

 趙は思う。香子を思い、香子を傷つけようとする者を排除しようとする姿は容姿だけでなくとても美しい。

(私が彼女の”つがい”ならばどんなにいいか……)

 実のところその件に関しては、かなり以前に白雲に伺いを立てたことがあった。白雲も普段は無表情だが、連絡役を務めるだけあって趙との接触は一番多い。故に、たまに軽口を叩くぐらいの関係にはなりつつあった。
 その時の会話を思い出して、趙は内心嘆息する。

「黒月か? あれはまだ成人しておらぬ故、”つがい”に出会っていたとしてもまだわからぬであろうな」
「成人していない!?」

 趙はあまりの衝撃に思わず声を上げてしまった。

「四神の眷属は生まれてから五十年経たないと子を成すことができぬのだ。故に、容姿はいかに成人しているように見えても未熟者として扱われる。子を成せるようになれば、近くに”つがい”がいればわかるようになるのだが……」
「黒月は……今は何歳なのですか?」
「四十を超えたところだ」
「あと十年!?」

 趙は驚愕した。つまり、あと十年経たないと趙が黒月の”つがい”なのかどうかわからないのである。そうでなかった時の落胆は如何ばかりか想像に難くない。ただもう趙の両親は他界しているし、親戚に関しても四神宮の主官となることで縁はほぼ切れたといってもいい状態だ。四神宮に勤めるにあたって、趙は己の一族が四神や花嫁に対してなんらかの働きかけをしないようにと、中書令を通じて念書を得ていた。それにより一族の者たちからは今後一切の援助をしないと申し渡されており、趙はほぼしがらみを受けない状態となっていた。(元より援助は受けていなかった)

「……趙殿、黒月でよいのか?」

 白雲が心配そうに声をかける。趙は首を傾げた。

「で、いいのかとは?」
「黒月と”つがい”である保証はない。趙殿が花嫁様に対してよいように動いているのは重々承知している。もし四神の眷属がいいというならばこちらで未婚の者と引き合わせよう。もしかしたら”つがい”でなくとも趙殿と共にあってもよいと望む者がいるかもしれぬ」

 趙は面食らった。そこまで自分を白雲が買ってくれているとは思ってもみなかったからだった。

「いえ……今はまだ黒月さんを見ていたいと思っています。十年が待てなければ自分で探しますし、もし十年待って違ったなら……その時は紹介していただくことは可能でしょうか……」

 なかなか都合のいい言い分だと趙も思ったが、今はまだそこまでしか考えられなかった。

「……趙殿が誠実だということは伝わった。”つがい”だけはどうにもならぬが……それ以外の手助けが必要であれば言うといい。可能な限り趙殿に応えよう」
「ありがとうございます」

 今はそれだけで十分だった。
 回想を終え、趙は書簡を眺めて嘆息する。やはり一度ぐらいは顔を出してもらうことになるのだろうかと思ったら、趙は胃がきりきりと痛み出すのを感じた。

「白雲殿に相談する必要はあるな……」

 なにせシーザンの姫からの面会希望が強すぎる。

「その前に王と調整か……」

 シーザンの姫がもしこちらに突撃してきたらたいへんなことになる。外交問題にまで発展してしまうだろう。

「……王族というのは何故ああも……」

 趙を四神宮の主官としたことを、お節介だったのではないかと心配していた香子の顔が浮かんだ。

(花嫁様とまではいかないが、もう少し慎みという言葉を知ってほしいものだ……)

 不敬は承知の上である。
 侍女に王英明への言付けを頼み、趙は白雲とも話し合うことにした。


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「貴方色に染まる」68話辺りです。興味ありましたらそちらもご覧くださいませ~
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