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第3部 周りと仲良くしろと言われました

55.シーザン王女とお話をしてみました

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 にこにこしながら、香子は用意された椅子に腰かけているシーザンの王女を眺めた。見れば見るほど美人である。まだ成人したばかりなのか、肌もなんとも瑞々しい。
 シーザン王女は香子を凝視した。そしてその透き通るような肌に見惚れた。

『……花嫁殿は、肌の手入れをどのようにされているのか。そなに美しい肌をわらわは今まで見たことがないぞ』

 スキンケアの方法を聞きにきたのかしら? と香子は内心当惑した。そうは言われても外出時の化粧以外はなにもしていないと思う。香子は困ったように首を傾げた。

『……特になにも……?』
『そんなはずはない。その美しさの理由を隠すのは理解できるが、かえって白々しいぞ』

 なんとも無礼な娘だなと香子は感心してしまった。お姫様というのはみんなこんなかんじなのだろうか。昭正公主には直接会ったことはないが、一度はちょっかいをかけてきた。皇后もすこぶる態度が悪かったし……と香子は内心ため息をついた。

『花嫁様は四神に愛されている。四神に愛されれば愛されるほど花嫁様は美しくなる。手入れなどする必要ない』

 黒月がとうとう口を挟んでしまった。香子は、四神を通して黒月の発言を封じればよかったと後悔した。

(あー……黒月、ごめんなさい……)
『そこな者、誰が発言を許したか!』

 案の定シーザン王女が一喝した。付き従ってきた侍女も黒月に対して厳しい眼差しを向けた。

『……シーザンの姫、あれは四神の眷属です。人の身分は関係ありません。ご承知おきください』

 黒月から漂う敵意がとんでもない。下手したら今にも飛び掛かっていきそうである。香子はひやひやした。

『四神の眷属とな……』

 けれどシーザン王女は眷属という言葉に反応した。香子はまた嫌な予感がした。

『四神の眷属には女子(おなご)もおるのか。男もおるのじゃろう。花嫁殿、どうか四神の眷属をわらわに紹介してはくれぬか?』
『……紹介はかまいませんが、どうする気なのですか?』

 シーザン王女がニヤリと笑む。

『知れたこと。夫として国に連れ帰ろうぞ』

 香子は内心呆れた。シーザン王国の教育はどうなっているのか。ただ、眷属に関していうとあまり知識がないことも予想された。

『そういえば花嫁殿は一人異国からの客人を招いているとか。できれば交流の機会をいただくことは可能じゃろうか?』

 どうやら紅児のことまで嗅ぎつけているらしい。この国の情報に対するセキュリティはどうなっているのだと香子は聞きたくなった。とはいえ相手は王国、常日頃からどうにかしていろいろな情報を集めようとしている。赤い髪の娘がいると聞けば下男や下女を通じて情報が流れるのはしかたないことなのかもしれなかった。

『交流は難しいかとは思いますが、聞いてみましょう。同席させることぐらいはできるかもしれません』
『客人故に強制もできぬか』
『……何故強制しなければならないのです』

 シーザン王女の物言いに、さすがに香子はカチンとした。この人を人とも思っていない娘には多少なりとも灸をすえる必要があるだろう。

『花嫁殿はお優しいのだな』
『……限度はあります。客人が望まぬというのであれば同席は見送りましょう。ただ、眷属と話をする機会ぐらいは設けさせます。四神の眷属は人ではありません。くれぐれも人の身分などを振りかざさぬよう願います』
『……だが花嫁殿には従うのだろう?』

 香子はふふふと笑った。

『私は四神の花嫁ですよ?』

 大人げないということはわかっているが、このままではシーザン王女は増長するだけだ。王女個人のことであれば問題はないが、四神を怒らせたりすればシーザン王国そのものがなくなってしまう。

『四神の花嫁とはそこまで権力を有するのか。気に入った! 客人と眷属の紹介の件、任せたぞ』

 そう言ってシーザン王女は去っていった。香子はほっとして息を吐いた。

『花嫁様……』

 黒月がとても低い声を出した。香子は自分が最大の危機にさらされていることを理解した。四神の眷属は相手が花嫁であっても制御できないというのが本当のところである。

『……しょうがないじゃない。ああいう子は一度鼻っ柱を折ってあげないといけないのよ。エリーザには指一本触れさせる気はないし……』
『……そもそも会わなければよかったのでは?』
『それであの子が暴走しなければいいわ。ああいう子はこちらが面会を拒絶したら面子を潰されたとして更に過激な行動をとるものよ。そんなことをされたら……』
『シーザン王国は潰す』
『……白虎様……』

 椅子になっている白虎が機嫌良さそうに言った。

『国は潰したら潰したで面倒なのですよ。何があったにしろ、上をすげかえるぐらいにしてくださいませ』
『……人というのはいろいろ面倒だな』
『群れることで発展してきたのです。相手は年若い娘です。まだ心を入れ替える機会はございましょう』
『そなたは優しすぎる』
『優しくは、ないですよ?』

 シーザン王が娘だけしか伴ってきていないのは問題だ。奥さんは国に残してきたのか、それとも亡くなったのか。そこらへんも調べる必要があるかもしれないと香子は思った。
 そんなことをしていたせいで香子は舞台の舞をほとんど見損ねてしまった。悔しいので宴席の料理をあれもこれもと平らげる。おいしいものでも食べなければとてもやっていけない。

(四神についての教育とか、あんまりしてこなかったんだろうなぁ……)

 皇帝の側にいるシーザン王を眺める。周辺国はどれぐらい四神に対して理解しているのか、それは知っておいた方がいいと香子は思った。



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「貴方色に染まる」67話辺りです。興味ありましたらそちらもご覧くださいませ~
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