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第3部 周りと仲良くしろと言われました
51.中秋の宴席に出てみます
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秋の大祭の本番は夜である。本来ならば香子は夜だけ出ればいいはずだが、各国から四神に目通りを願いたいと国王たちが訪れるので日が落ちる前から宴席に出ることになっていた。
それはもうしょうがないと香子は思う。なにせ四神のみで送り出すことはかなわない。四神だけだと絶対にそういうものには出席しないからだ。必然的に香子も一緒に出ることになる。
(まぁ、ごはんがおいしければいいよ。ごはんがおいしければ……)
引きこもり属性の香子としては勘弁してほしいところであったが、今年だけだからと四神と共に宴席に向かった。気分はドナドナである。
秋の大祭のメインは白虎なので、香子は白虎の腕に抱かれている。延夕玲は香子付きの女官だが、皇太后など手伝いの為に昼前から出かけていた。皇太后から呼び出された時夕玲は香子を置いていくことを渋っていたが、香子は快く送り出した。
『四神宮にいても退屈でしょう? せっかく声をかけていただいたのだからいってらっしゃい』
『……承知しました』
香子が許可を出せば夕玲も行きやすいだろう。夕玲は自分のいない間の指示を各所にし、出かけていった。四神宮ではそれほど女官の仕事はないとはいえ、四神宮にいる女官は夕玲だけだ。夕玲としては侍女頭の陳秀美だけに任せるのは不安だったようだが、準備は全て整っている。段取りさえ間違わなければ特に問題はなかった。
香子は四神宮に勤める者たちに配ろうと思い、別に月餅を用意していた。こちらは小さめのものではなく一般的な大きさのものである。(香子にとっては一般的という意味。大きすぎず小さすぎずのサイズ)かつて直径二十センチメートルぐらいある月餅が売られているのを見たことがあったが、あれは家族用だろうと香子は思っている。好きな人なら一人で食べるのかもしれないが。
(もうみんなもらっているかもしれないけど……)
自己満足だ、と開き直り香子は昼食前みなに月餅を配った。中身は香子が好きな餡である。エリーザにはくるみ餡の入った物を渡した。
『くるみが入っているの、おいしいわよ』
『そういうのもあるんですね……』
秦皇島にいた時も中秋の時は月餅を食べたことがあるらしいが、あまり印象には残っていなかったようだった。一般的に小豆餡の月餅を食べていたのだろうと、香子は勝手に想像した。
そして香子は、自分が四神宮にいない時間は自由にしていてもいいと言い置いた。街へくり出しても、四神宮に残ってもいい。そこらへんは各自に任せることにした。どちらにせよ月の給金は変わらない。少しでもみなに楽しんでもらえたらいいと香子は思った。
宴席の為の衣裳は落ち着いた色合いのものである。外側の長袍は薄緑色で、白で白虎が刺繍されている。これは宴席の最中も脱いではいけないというのだから少し面倒ではある。とはいえ長袍を脱いでも内側の黒い衫は袖が長くとても広い。長袍を脱いだところで料理が食べやすくなるとはとても言えない衣裳だった。
そんなわけで香子は開き直り、四神に料理を取らせることにした。給仕の者が慌てて手を出そうとしたがそれは先に断った。香子への給餌を四神が他の者にさせるわけがないのである。
『それ、お肉ですか?』
『そうだな』
『お肉じゃないのがほしいです』
野菜類、卵、魚の料理を取ってもらって香子はいただいた。
(うん、確かにあれもこれもおいしい。全部ちゃんと温かいし。でも毎日食べるものじゃないなー)
やはりこれらは特別な料理なのだ。桂魚(ケツギョ)の姿蒸しが出てきた時香子は満面の笑みを浮かべた。
『白虎様、あのお魚! いっぱい食べたいです!』
『香子は本当に魚が好きなのだな』
玄武が機嫌良さそうに多めに取ってくれた。
『まだ食べたければ言うといい』
『はい。あと、頬肉が食べたいです』
香子は欲望に忠実だった。そんな香子たちを各国の王たちが見ていたが、香子は極力気にしないようにした。目が合ったら負けだと香子は思った。四神の姿を一目でもいいから見たいと言ったのはあちらである。それがとんでもなく控えめな表現であることはわかっているが、口をきく際は間違いなく香子がドナドナされる。王になど関わり合いを持ちたくはなかった。
(いただいた衣裳の着方は気になるんだけどなー……コスプレみたいに適当に着て夜に使う? うーん……)
香子としては自分ではなく誰か、そういう衣裳が似合う美女にでも着てみせてほしいのだが、そんなことを言おうものなら本気で美女たちが贈られてきそうなので何も言わない。各国から贈られた衣裳なので売ることもできないし、結局箪笥のこやしにしなってしまうのが地味にストレスだった。
皇帝、皇后、皇太后、そして各国の王や派遣された者たちが見守る中、香子はできるだけ気にしないようにして料理を味わった。こういう場面だと物の味がわからなくなることもあるが、香子は元々食い意地が張っているので早々に慣れた。毛嫌いしている皇帝も宴席にはいるもののすぐ近くにいるわけではない。それに各国の王がいる席である。誰かがこちらに来る心配もなかった。
そして当然ながら各国の王は四神に取り次ぎを願っていたが、それらは後日四神にその気があればという非常に曖昧な言葉で断られたのである。もちろん彼らは諦めておらず、四神に会えないならば眷属だけでもと水面下の攻防は続いていた。
知らぬは香子ばかりである。
『うん、フカヒレ最高!』
『そんなにこれがいいのか?』
『たまりません!』
フカヒレがふんだんに入ったスープも、香子はこれでもかと飲んだ。これぞ宮廷料理! と香子の食欲はいつまでも衰えを見せなかった。
ーーーーー
「貴方色に染まる」64話の頃です。よろしければあちらもご覧ください。
それはもうしょうがないと香子は思う。なにせ四神のみで送り出すことはかなわない。四神だけだと絶対にそういうものには出席しないからだ。必然的に香子も一緒に出ることになる。
(まぁ、ごはんがおいしければいいよ。ごはんがおいしければ……)
引きこもり属性の香子としては勘弁してほしいところであったが、今年だけだからと四神と共に宴席に向かった。気分はドナドナである。
秋の大祭のメインは白虎なので、香子は白虎の腕に抱かれている。延夕玲は香子付きの女官だが、皇太后など手伝いの為に昼前から出かけていた。皇太后から呼び出された時夕玲は香子を置いていくことを渋っていたが、香子は快く送り出した。
『四神宮にいても退屈でしょう? せっかく声をかけていただいたのだからいってらっしゃい』
『……承知しました』
香子が許可を出せば夕玲も行きやすいだろう。夕玲は自分のいない間の指示を各所にし、出かけていった。四神宮ではそれほど女官の仕事はないとはいえ、四神宮にいる女官は夕玲だけだ。夕玲としては侍女頭の陳秀美だけに任せるのは不安だったようだが、準備は全て整っている。段取りさえ間違わなければ特に問題はなかった。
香子は四神宮に勤める者たちに配ろうと思い、別に月餅を用意していた。こちらは小さめのものではなく一般的な大きさのものである。(香子にとっては一般的という意味。大きすぎず小さすぎずのサイズ)かつて直径二十センチメートルぐらいある月餅が売られているのを見たことがあったが、あれは家族用だろうと香子は思っている。好きな人なら一人で食べるのかもしれないが。
(もうみんなもらっているかもしれないけど……)
自己満足だ、と開き直り香子は昼食前みなに月餅を配った。中身は香子が好きな餡である。エリーザにはくるみ餡の入った物を渡した。
『くるみが入っているの、おいしいわよ』
『そういうのもあるんですね……』
秦皇島にいた時も中秋の時は月餅を食べたことがあるらしいが、あまり印象には残っていなかったようだった。一般的に小豆餡の月餅を食べていたのだろうと、香子は勝手に想像した。
そして香子は、自分が四神宮にいない時間は自由にしていてもいいと言い置いた。街へくり出しても、四神宮に残ってもいい。そこらへんは各自に任せることにした。どちらにせよ月の給金は変わらない。少しでもみなに楽しんでもらえたらいいと香子は思った。
宴席の為の衣裳は落ち着いた色合いのものである。外側の長袍は薄緑色で、白で白虎が刺繍されている。これは宴席の最中も脱いではいけないというのだから少し面倒ではある。とはいえ長袍を脱いでも内側の黒い衫は袖が長くとても広い。長袍を脱いだところで料理が食べやすくなるとはとても言えない衣裳だった。
そんなわけで香子は開き直り、四神に料理を取らせることにした。給仕の者が慌てて手を出そうとしたがそれは先に断った。香子への給餌を四神が他の者にさせるわけがないのである。
『それ、お肉ですか?』
『そうだな』
『お肉じゃないのがほしいです』
野菜類、卵、魚の料理を取ってもらって香子はいただいた。
(うん、確かにあれもこれもおいしい。全部ちゃんと温かいし。でも毎日食べるものじゃないなー)
やはりこれらは特別な料理なのだ。桂魚(ケツギョ)の姿蒸しが出てきた時香子は満面の笑みを浮かべた。
『白虎様、あのお魚! いっぱい食べたいです!』
『香子は本当に魚が好きなのだな』
玄武が機嫌良さそうに多めに取ってくれた。
『まだ食べたければ言うといい』
『はい。あと、頬肉が食べたいです』
香子は欲望に忠実だった。そんな香子たちを各国の王たちが見ていたが、香子は極力気にしないようにした。目が合ったら負けだと香子は思った。四神の姿を一目でもいいから見たいと言ったのはあちらである。それがとんでもなく控えめな表現であることはわかっているが、口をきく際は間違いなく香子がドナドナされる。王になど関わり合いを持ちたくはなかった。
(いただいた衣裳の着方は気になるんだけどなー……コスプレみたいに適当に着て夜に使う? うーん……)
香子としては自分ではなく誰か、そういう衣裳が似合う美女にでも着てみせてほしいのだが、そんなことを言おうものなら本気で美女たちが贈られてきそうなので何も言わない。各国から贈られた衣裳なので売ることもできないし、結局箪笥のこやしにしなってしまうのが地味にストレスだった。
皇帝、皇后、皇太后、そして各国の王や派遣された者たちが見守る中、香子はできるだけ気にしないようにして料理を味わった。こういう場面だと物の味がわからなくなることもあるが、香子は元々食い意地が張っているので早々に慣れた。毛嫌いしている皇帝も宴席にはいるもののすぐ近くにいるわけではない。それに各国の王がいる席である。誰かがこちらに来る心配もなかった。
そして当然ながら各国の王は四神に取り次ぎを願っていたが、それらは後日四神にその気があればという非常に曖昧な言葉で断られたのである。もちろん彼らは諦めておらず、四神に会えないならば眷属だけでもと水面下の攻防は続いていた。
知らぬは香子ばかりである。
『うん、フカヒレ最高!』
『そんなにこれがいいのか?』
『たまりません!』
フカヒレがふんだんに入ったスープも、香子はこれでもかと飲んだ。これぞ宮廷料理! と香子の食欲はいつまでも衰えを見せなかった。
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「貴方色に染まる」64話の頃です。よろしければあちらもご覧ください。
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