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第3部 周りと仲良くしろと言われました

49.もふもふを堪能させてもらっていたのです

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 先に四神宮に戻るということを、白虎は念話で玄武に伝えていたらしい。
 白虎の寝室のベッドの上で香子はため息をついた。それが思ったよりも甘く感じられて香子は赤面した。

『白虎様……どうか毛に触れさせていただいてもよろしいですか?』
『……抱いてしまうやもしれぬぞ』
『……それは困ります』

 香子は白虎をもふりたいとは思っているがそれで抱かれてしまうのは困る。昼間からは嫌だということもあるが、二人きりでいて抱かれるというのはまだ怖いのだ。
 うまくいかないものだと香子は残念そうに息をついた。
 白虎に髪を撫でられる。

『……我に抱かれるのは嫌か』

 香子の頬がほんのりと赤く染まった。

『……いやなわけではないんです。ただ、昼間からは困りますし……その……』
『申してみよ』

 きっと四神と香子の間には言葉が足りない。四神には人の常識とか、習慣のようなものは理解できないし、もちろんそれは感情についても同様のはずだ。

『正直……まだ白虎様に抱かれるのは怖いんです……』
『……それをそなたの口から聞けてよかった』
『すいません』
『何を謝る? 知らずにそなたに無体をしてしまうよりはずっといい。青龍を呼んだぞ』
『え?』

 白虎は優しいなと香子は思う。その優しさに甘えて忍耐を強いてしまっている。

(でも怖いものは怖いんだよね……)

 こればかりは慣れるしかないのだ。先代の花嫁が白虎に抱かれるまでにとてもたいへんだったというのは夢で体感済である。あれは本当に夢だったのか、実は香子が張燕の生まれ変わりだったのではないかと錯覚してしまうほどだったが、違うということだけはわかっている。どうして違うとわかるのか説明はできないが、香子は己と張燕は全く異なる存在だと理解していた。
 念話で呼ばれたのだろう、青龍がやってきてくれた。

香子シャンズ
『青龍様、ありがとうございます』
『そなたの姿を見られるのは我の喜びだ。いつでも呼ぶといい』

 さらりと言われて香子はうっと詰まった。スマートすぎて困ってしまう。

『青龍よ。我が香子に触れてしまいそうになった時は止めてくれ』
『承知しました』

 そんなことで呼び出してしまったことをとても申し訳ないと香子は思う。青龍は香子を抱き上げた。『目を閉じよ』と言われ、香子は素直に目を閉じた。ふわりと風が吹いたように、香子の身体に一瞬まとわりついた。

『よいぞ』

 先ほどよりも低い、唸るような声に白虎の姿が変わったことを知る。香子はそっと青龍の胸に頭を摺り寄せると真っ白い虎の姿になっている白虎の横に下ろしてもらった。

『白虎様……撫ででも、よろしいですか?』
『我はそなたのものだ。好きにするといい』
『ありがとうございます』

 香子はそっと白虎に抱き着いた。見た目よりも柔らかい虎の毛はとても気持ちがいい。抱き着いたらもう我慢ができなかった。
 香子はすりすりと白虎にくっつき、白虎の毛を何度も撫でた。

(はう~気持ちいい……毛並みよすぎ、たまらない~……)

 とても気持ちよくていつまでもこうしていたいと香子は思う。白虎の毛は極上だ。きっと張燕も、まずはこの毛並みを堪能させてもらえたならあそこまで恐れなかったかもしれない。

(でも、そんなことないか……)

 香子は最初からこの毛並みに魅了されていたが、この姿の白虎に抱かれようなどと思ったことはなかった。

『耳とか尻尾はだめですよね?』
『どうなってもいいならばかまわぬが』

 茶化すように白虎が答えた。

『……やめておきます』

 ちら、と抱かれながらならと思ってはみたが、抱かれている間にそんなことは一切考えられない。香子はただ翻弄されるだけだ。諦めて、香子は白虎にもたれながら毛を撫でさせてもらった。

(癒される……白虎様、最高……)

 うっとりしてしまう。

(白虎様……好き……)

 そうぼんやりと思った時、白虎の身体がぶるりとした。

「?」
『……青龍、香子を引き離せ』
『はい』

 即座に青龍によって抱き上げられ、香子は戸惑った。白虎が身体を丸めたかと思うと光が生まれ、その後に人の姿になった。光ったのは一瞬だったが、目がチカチカする。この光を直接見ないようにとの配慮で、いつも目を閉じるように言われているのだろう。そして今回は声をかける余裕もなかったようだった。

『……香子』
『はい?』
『我らが本性を現した時どうなるか覚えておらぬのか?』
『? ……あ……』

 白虎が何を言っているのか香子はわからなかったが、そのすぐ後であることを思い出した。香子の顔が真っ赤になる。

『白虎様、ごめんなさい……』
『朱雀兄にも頼んでおこう。今宵は我と過ごすように』
『……はい』

 香子は失念していた。
 本性を現した四神に触れている時に思ったことは、ほとんど彼らに伝わってしまうのだということを。

(す、好きって……バレちゃった……)

 顔の熱が去らなくて香子は困ってしまう。そんな香子を愛しくてならないというように青龍が見つめていた。
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