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第3部 周りと仲良くしろと言われました
47.秋の大祭の衣裳を決めています
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そのまた翌日は皇太后にお呼ばれした。衣裳を用意してくれたのだという。香子は素直にありがたいことだと思った。
『暗紫紅色の髪でも薄緑の衣裳がよう似合うのぅ。それにその白の長袍じゃ』
香子は衣裳部屋でカカシ状態になっていた。香子の身体の大体のサイズはわかっているはずなのに、その都度測られるのが香子としてはどうも納得がいかない。
『……老仏爺、失礼ですが……私の身体を測る意味ってあるのですか?』
『もちろんじゃ。以前測った時よりも胸が大きくなっておる。本来ならばあまり強調はせぬ方がよいのだが、花嫁様はそのままでよかろう』
香子は内心ガッツポーズをした。この歳になってようやく胸が大きくなったようである。
『む、胸が……』
『四神の影響であろうがな。花嫁様の身体はとても美しいと侍女たちがうるさいぞ』
『ええと……』
香子はどう反応したらいいのかわからない。そのなんとも言えない表情に皇后がコロコロと笑った。
『花嫁様はほんに愛らしい』
『…………』
香子は顔を伏せた。女性にはかなわない。皇后ともそれなりに仲良くなれたようで嬉しく思った。
『万瑛、花嫁様を困らせるでない』
『申し訳ありません』
皇太后が皇后を窘める。香子は慌ててとんでもないと手を振った。その様子がおかしかったのか皇太后と皇后が笑む。香子は内心ムッとしたがそれを顔に出してはいけないと堪えた。香子が不機嫌そうな顔をすればそれだけで誰かの首が飛んだりするのである。そこらへんは本当に気をつけなければいけないと香子は思っている。
光沢のある白地に白い糸で白虎が縫われている。ところどころ金色が混じったその長袍はうっとりするほど美しかった。これが秋の大祭の為だけに用意された衣裳であることがもったいないと香子は思ってしまう。かといって他の時に着る機会はない。どうしてもそこらへんが悩ましかった。
そういえば春の大祭の時の衣裳はどうなっているのだろうと香子は思った。
サイズなどを合わせ、衣裳を針子に返してからお茶をする。今回は皇太后の中でイメージができていたから衣裳も早く決まったようだった。春の時は衣裳が多かったということもあったが、たいへんだったなと香子はしみじみ思った。
(あの時は何枚着替えさせられたんだっけ……?)
香子は思い出したくないぐらい多かったような気がした。今回は昼からの宴席(正確には夕方前。昼というのも誤解を与えそう)と夜前門の楼台に出る時の衣裳が必要らしい。昼の宴席用の衣裳もまた豪奢だった。内側は黒く、外側は薄緑に白で白虎の刺繍がされている長袍を着ることになっていた。ちなみに内側の黒い衫は薄い色で袖が長く大きいものだ。胸の上から臙脂色の裙を着るようになっている。これらを用意したのは皇后であり、彼女たちのこだわりがよくわかった。香子としてはこれが着たいなどの希望も特になかったので決めてもらえるのはありがたかった。
『そういえば、春の大祭の時の衣裳ってどうなっているのでしょう?』
『四神宮にしまってあるのではないか?』
『そうなのですか?』
後ろに控えている延夕玲を窺うと頷かれた。
『恐れながら申し上げます。春の大祭の際の御召し物は全て四神宮にて丁重に保管しております』
『ありがとう』
『春の大祭と同じ衣裳を中秋で着ることはできぬが……花嫁様の好きな時に着ればよかろう』
『……そういうものなのですか』
一度しか袖を通さないのはもったいないと香子は思うが、そういうものだと言われたらしかたない。
(もし……誰かの領地に行った時なら……)
誰の元に嫁ぐのかまだ香子は決められないが、タイムリミットは刻々と近づいてきている。嫁いだからといって好きなように外出することはできないだろう。その時に着てテンションを上げるぐらいかなと香子は思った。
『ところで……大祭の際に月餅を配りたいと聞いたが、どうするつもりじゃ?』
『ああ!』
衣裳もそうだが月餅についても聞きたかったのだろう。皇太后と皇后がなにやらそわそわしていた理由に香子は合点がいった。
『ええと……ただの思いつきなので実現できるかどうかは別なのですが……』
前門の上から小さい月餅を投げて民に配ったらどうかと思ったという話をすると、皇后が感心したように頷いた。
『ふむ……よき考えであるとは思うが、投げるとなるとその……』
皇太后が言葉を濁した。民が怪我をするのではないかということを考えているのだろう。皇太后はすごいなと香子は感心した。
『問題はない。我は風を司る。全て民たちの手元に届けよう』
それまで香子の椅子になっていた白虎が口を開いた。
『さすがは白虎様です。差し出がましい口を聞きまして……』
『よい、そなたの懸念ももっともだ。民を慈しむ心、忘れるでないぞ』
『ありがたきお言葉、肝に銘じます』
皇太后がとても嬉しそうに頷いた。
『して……そうなると数が必要となろう。手配はできていらっしゃるのか?』
『今頼んでいる状態なのでなんともいえません。小ぶりの月餅を大量に、ということになりますから無理なら無理で諦めます』
『……せっかくの花嫁様の気遣いじゃ。できるだけ叶えるよう妾も考えよう』
『ありがとうございます』
香子としてはあまり権力を使うような真似はしたくないがしかたない。どうも男たちに任せるとああでもないこうでもないとなかなか決まらないようなのだ。
香子は内心にんまりした。
ーーーーー
明けましておめでとうございます。今年も四神をどうぞよろしくお願いします~。
『暗紫紅色の髪でも薄緑の衣裳がよう似合うのぅ。それにその白の長袍じゃ』
香子は衣裳部屋でカカシ状態になっていた。香子の身体の大体のサイズはわかっているはずなのに、その都度測られるのが香子としてはどうも納得がいかない。
『……老仏爺、失礼ですが……私の身体を測る意味ってあるのですか?』
『もちろんじゃ。以前測った時よりも胸が大きくなっておる。本来ならばあまり強調はせぬ方がよいのだが、花嫁様はそのままでよかろう』
香子は内心ガッツポーズをした。この歳になってようやく胸が大きくなったようである。
『む、胸が……』
『四神の影響であろうがな。花嫁様の身体はとても美しいと侍女たちがうるさいぞ』
『ええと……』
香子はどう反応したらいいのかわからない。そのなんとも言えない表情に皇后がコロコロと笑った。
『花嫁様はほんに愛らしい』
『…………』
香子は顔を伏せた。女性にはかなわない。皇后ともそれなりに仲良くなれたようで嬉しく思った。
『万瑛、花嫁様を困らせるでない』
『申し訳ありません』
皇太后が皇后を窘める。香子は慌ててとんでもないと手を振った。その様子がおかしかったのか皇太后と皇后が笑む。香子は内心ムッとしたがそれを顔に出してはいけないと堪えた。香子が不機嫌そうな顔をすればそれだけで誰かの首が飛んだりするのである。そこらへんは本当に気をつけなければいけないと香子は思っている。
光沢のある白地に白い糸で白虎が縫われている。ところどころ金色が混じったその長袍はうっとりするほど美しかった。これが秋の大祭の為だけに用意された衣裳であることがもったいないと香子は思ってしまう。かといって他の時に着る機会はない。どうしてもそこらへんが悩ましかった。
そういえば春の大祭の時の衣裳はどうなっているのだろうと香子は思った。
サイズなどを合わせ、衣裳を針子に返してからお茶をする。今回は皇太后の中でイメージができていたから衣裳も早く決まったようだった。春の時は衣裳が多かったということもあったが、たいへんだったなと香子はしみじみ思った。
(あの時は何枚着替えさせられたんだっけ……?)
香子は思い出したくないぐらい多かったような気がした。今回は昼からの宴席(正確には夕方前。昼というのも誤解を与えそう)と夜前門の楼台に出る時の衣裳が必要らしい。昼の宴席用の衣裳もまた豪奢だった。内側は黒く、外側は薄緑に白で白虎の刺繍がされている長袍を着ることになっていた。ちなみに内側の黒い衫は薄い色で袖が長く大きいものだ。胸の上から臙脂色の裙を着るようになっている。これらを用意したのは皇后であり、彼女たちのこだわりがよくわかった。香子としてはこれが着たいなどの希望も特になかったので決めてもらえるのはありがたかった。
『そういえば、春の大祭の時の衣裳ってどうなっているのでしょう?』
『四神宮にしまってあるのではないか?』
『そうなのですか?』
後ろに控えている延夕玲を窺うと頷かれた。
『恐れながら申し上げます。春の大祭の際の御召し物は全て四神宮にて丁重に保管しております』
『ありがとう』
『春の大祭と同じ衣裳を中秋で着ることはできぬが……花嫁様の好きな時に着ればよかろう』
『……そういうものなのですか』
一度しか袖を通さないのはもったいないと香子は思うが、そういうものだと言われたらしかたない。
(もし……誰かの領地に行った時なら……)
誰の元に嫁ぐのかまだ香子は決められないが、タイムリミットは刻々と近づいてきている。嫁いだからといって好きなように外出することはできないだろう。その時に着てテンションを上げるぐらいかなと香子は思った。
『ところで……大祭の際に月餅を配りたいと聞いたが、どうするつもりじゃ?』
『ああ!』
衣裳もそうだが月餅についても聞きたかったのだろう。皇太后と皇后がなにやらそわそわしていた理由に香子は合点がいった。
『ええと……ただの思いつきなので実現できるかどうかは別なのですが……』
前門の上から小さい月餅を投げて民に配ったらどうかと思ったという話をすると、皇后が感心したように頷いた。
『ふむ……よき考えであるとは思うが、投げるとなるとその……』
皇太后が言葉を濁した。民が怪我をするのではないかということを考えているのだろう。皇太后はすごいなと香子は感心した。
『問題はない。我は風を司る。全て民たちの手元に届けよう』
それまで香子の椅子になっていた白虎が口を開いた。
『さすがは白虎様です。差し出がましい口を聞きまして……』
『よい、そなたの懸念ももっともだ。民を慈しむ心、忘れるでないぞ』
『ありがたきお言葉、肝に銘じます』
皇太后がとても嬉しそうに頷いた。
『して……そうなると数が必要となろう。手配はできていらっしゃるのか?』
『今頼んでいる状態なのでなんともいえません。小ぶりの月餅を大量に、ということになりますから無理なら無理で諦めます』
『……せっかくの花嫁様の気遣いじゃ。できるだけ叶えるよう妾も考えよう』
『ありがとうございます』
香子としてはあまり権力を使うような真似はしたくないがしかたない。どうも男たちに任せるとああでもないこうでもないとなかなか決まらないようなのだ。
香子は内心にんまりした。
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明けましておめでとうございます。今年も四神をどうぞよろしくお願いします~。
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