348 / 597
第3部 周りと仲良くしろと言われました
45.思いつきはすぐ大事に発展します
しおりを挟む
『秋の大祭について、趙よりお尋ねしたいことがあるようです』
戻ってきた白雲がそう香子に伝えた。なんのことだろうと香子は首を傾げた。
『謁見の間まで行けばいいのかしら?』
『その方がよろしいかと』
ということは重要度が高い案件のようである。衣裳合わせも早くしなければならないだろう。そのことかなと香子は思った。軽く侍女たちに恰好を整えてもらい、香子は白虎に抱かれて四神宮の外へ出た。
四神宮の空気をそのまま持ちだしたようなかんじが香子はした。
(四神のいる場所は大気も安定しているのね)
白虎が謁見の間に足を踏み入れた。玄武、朱雀、青龍、白雲、青藍、黒月、延夕玲も一緒である。相変わらず紅夏の姿はない。そのことにどうしても香子はもやもやしてしまうのだった。
それはともかく趙文英である。王英明もいることから、香子は気を引き締めた。
一通り挨拶の口上を終えた後(万歳万歳万々歳というやつである)、スッと趙が半歩前に出る。
『四神、並びに白香娘娘にはご足労いただきありがとうございます。此度は皇上より秋の大祭の際のご希望を承ったとの連絡がございました。それによりまして、どうかその詳細をお教えいただけないでしょうか』
『ご希望?』
なにか皇帝に希望したことがあったっけ? と香子は首を傾げた。
(極力皇帝の顔なんか見たくないけどなんか要望出したかしら?)
香子にとって皇帝は女性の敵である。その評価は今のところ覆る気配はなかった。
『発言をお許しください』
『申せ』
王が半歩前に出て口を開いた。白虎が許可をする。趙が半歩下がった。
『ありがとうございます。本日朝議の後、皇上は四神より天啓を受けたとおっしゃられました。曰く、秋の大祭の折、月餅を民に振舞いたいと白香娘娘がおっしゃられていると』
香子はあー、と顔を覆った。天啓と聞いて念話だということがわかる。四神同士であれば意思疎通が可能だが、それ以外の者に対しては一方通行になるあれだ。
月餅を民に配るなんて話をしたのは今朝である。香子はちろりと玄武を見た。相変わらずの動かない表情がそこにあった。念話で皇帝に伝えたのは玄武だろうことは香子でもわかった。
『……そうですね。そういう話は玄武様にしました』
明らかにほっとしたような空気が伝わった。王が皇帝から直接聞くなんてことはないはずなので、また聞きの状態でここに来るのはたいへんだっただろう。香子は少し気の毒に思った。
『此度の大祭で民の前に顔を出すのは、夜前門の楼台からのみと聞いています。相違ないですか?』
『はい、そう承っております』
香子はまず前提条件から確認することにした。
『その楼台から民へ向けて、もし小さめの月餅などがあれば配れないかと思ったのです』
『確認させてください。それは放るという解釈でよろしいですか』
楼台の上からである。表現としては放るで間違いなかった。
『合っています』
『そうですね……この場で即答はできかねますが、可能ではあると考えます。民たちも喜ぶでしょう』
『ですが、できれば怪我人などが出ないようにしたいのです。月餅の用意の問題だけでなく警備の者たちに苦労はかけますが、もし可能であればみなに四神の加護を授けたいと考えています』
『四神の加護を……』
趙と王が頬を紅潮させた。それは感動しているようにも見受けられ、やっぱり四神の存在ってこの国ではすごいものなのだなと香子は再認識した。
『できるだけ早くよい返答ができるよう尽力させていただきます。その際、お手数ですがお配りになる月餅を選んでいただくことは可能でしょうか』
『ええ、せっかく民に配るのですもの。できれば試食をさせていただきたいわ』
香子、職権乱用である。月餅を選ぶと聞いて欲が出たようだった。なんだか黒月がいぶかしげな視線を香子に向けており、それを香子は気づいていたが無視することにした。
『ああそうだわ。小さめのものをお願いしたいから卵黄は入っていないものにしてちょうだい。できるだけたくさん配りたいから、数が用意できる店を限定して。品質は私が試食するものと変わらないものを民に配れるようにすることが条件よ。ただ……』
要望だけはしっかりしておくが、こんな突然の思いつきは本来通してはいけないものである。
『如何か……』
『本当に今朝思いついたことだから、無理なら無理でかまいませんと伝えてちょうだい』
目を伏せ弱弱しくそう言うと、趙と王の目の色が変わった。今回のことは香子のわがままだが、二人をして是非とも叶えてあげたいと思わせてしまったのである。
『承知しました!』
二人は力強く答える。黒月の、香子への視線がきつくなった。
(ど、どうしてもなんて言ってないし……)
香子は口笛でも吹いて誤魔化したい気分ではあったがさすがにそんなことをするわけにはいかない。そんなことをしたら夕玲にも行儀が悪いと怒られてしまう。詳細については一旦中書省に持ち帰って精査するらしいと聞いて香子は内心ほっとした。いくら香子が四神の花嫁であっても、そうすんなりわがままが通っていいはずはないのだ。
『じゃあ、よろしくね』
白虎の腕に抱かれたまま四神宮に戻った。そのまま香子は白虎の室に連れて行かれてしまう。その足はまっすぐ寝室に向かった。香子はこの腕の中にいたことを少しだけ後悔した。
戻ってきた白雲がそう香子に伝えた。なんのことだろうと香子は首を傾げた。
『謁見の間まで行けばいいのかしら?』
『その方がよろしいかと』
ということは重要度が高い案件のようである。衣裳合わせも早くしなければならないだろう。そのことかなと香子は思った。軽く侍女たちに恰好を整えてもらい、香子は白虎に抱かれて四神宮の外へ出た。
四神宮の空気をそのまま持ちだしたようなかんじが香子はした。
(四神のいる場所は大気も安定しているのね)
白虎が謁見の間に足を踏み入れた。玄武、朱雀、青龍、白雲、青藍、黒月、延夕玲も一緒である。相変わらず紅夏の姿はない。そのことにどうしても香子はもやもやしてしまうのだった。
それはともかく趙文英である。王英明もいることから、香子は気を引き締めた。
一通り挨拶の口上を終えた後(万歳万歳万々歳というやつである)、スッと趙が半歩前に出る。
『四神、並びに白香娘娘にはご足労いただきありがとうございます。此度は皇上より秋の大祭の際のご希望を承ったとの連絡がございました。それによりまして、どうかその詳細をお教えいただけないでしょうか』
『ご希望?』
なにか皇帝に希望したことがあったっけ? と香子は首を傾げた。
(極力皇帝の顔なんか見たくないけどなんか要望出したかしら?)
香子にとって皇帝は女性の敵である。その評価は今のところ覆る気配はなかった。
『発言をお許しください』
『申せ』
王が半歩前に出て口を開いた。白虎が許可をする。趙が半歩下がった。
『ありがとうございます。本日朝議の後、皇上は四神より天啓を受けたとおっしゃられました。曰く、秋の大祭の折、月餅を民に振舞いたいと白香娘娘がおっしゃられていると』
香子はあー、と顔を覆った。天啓と聞いて念話だということがわかる。四神同士であれば意思疎通が可能だが、それ以外の者に対しては一方通行になるあれだ。
月餅を民に配るなんて話をしたのは今朝である。香子はちろりと玄武を見た。相変わらずの動かない表情がそこにあった。念話で皇帝に伝えたのは玄武だろうことは香子でもわかった。
『……そうですね。そういう話は玄武様にしました』
明らかにほっとしたような空気が伝わった。王が皇帝から直接聞くなんてことはないはずなので、また聞きの状態でここに来るのはたいへんだっただろう。香子は少し気の毒に思った。
『此度の大祭で民の前に顔を出すのは、夜前門の楼台からのみと聞いています。相違ないですか?』
『はい、そう承っております』
香子はまず前提条件から確認することにした。
『その楼台から民へ向けて、もし小さめの月餅などがあれば配れないかと思ったのです』
『確認させてください。それは放るという解釈でよろしいですか』
楼台の上からである。表現としては放るで間違いなかった。
『合っています』
『そうですね……この場で即答はできかねますが、可能ではあると考えます。民たちも喜ぶでしょう』
『ですが、できれば怪我人などが出ないようにしたいのです。月餅の用意の問題だけでなく警備の者たちに苦労はかけますが、もし可能であればみなに四神の加護を授けたいと考えています』
『四神の加護を……』
趙と王が頬を紅潮させた。それは感動しているようにも見受けられ、やっぱり四神の存在ってこの国ではすごいものなのだなと香子は再認識した。
『できるだけ早くよい返答ができるよう尽力させていただきます。その際、お手数ですがお配りになる月餅を選んでいただくことは可能でしょうか』
『ええ、せっかく民に配るのですもの。できれば試食をさせていただきたいわ』
香子、職権乱用である。月餅を選ぶと聞いて欲が出たようだった。なんだか黒月がいぶかしげな視線を香子に向けており、それを香子は気づいていたが無視することにした。
『ああそうだわ。小さめのものをお願いしたいから卵黄は入っていないものにしてちょうだい。できるだけたくさん配りたいから、数が用意できる店を限定して。品質は私が試食するものと変わらないものを民に配れるようにすることが条件よ。ただ……』
要望だけはしっかりしておくが、こんな突然の思いつきは本来通してはいけないものである。
『如何か……』
『本当に今朝思いついたことだから、無理なら無理でかまいませんと伝えてちょうだい』
目を伏せ弱弱しくそう言うと、趙と王の目の色が変わった。今回のことは香子のわがままだが、二人をして是非とも叶えてあげたいと思わせてしまったのである。
『承知しました!』
二人は力強く答える。黒月の、香子への視線がきつくなった。
(ど、どうしてもなんて言ってないし……)
香子は口笛でも吹いて誤魔化したい気分ではあったがさすがにそんなことをするわけにはいかない。そんなことをしたら夕玲にも行儀が悪いと怒られてしまう。詳細については一旦中書省に持ち帰って精査するらしいと聞いて香子は内心ほっとした。いくら香子が四神の花嫁であっても、そうすんなりわがままが通っていいはずはないのだ。
『じゃあ、よろしくね』
白虎の腕に抱かれたまま四神宮に戻った。そのまま香子は白虎の室に連れて行かれてしまう。その足はまっすぐ寝室に向かった。香子はこの腕の中にいたことを少しだけ後悔した。
2
お気に入りに追加
4,015
あなたにおすすめの小説
旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハー異世界ラブコメ〜
ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉
転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!?
のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました……
イケメン山盛りの逆ハーです
前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります
小説家になろう、カクヨムに転載しています
明智さんちの旦那さんたちR
明智 颯茄
恋愛
あの小高い丘の上に建つ大きなお屋敷には、一風変わった夫婦が住んでいる。それは、妻一人に夫十人のいわゆる逆ハーレム婚だ。
奥さんは何かと大変かと思いきやそうではないらしい。旦那さんたちは全員神がかりな美しさを持つイケメンで、奥さんはニヤケ放題らしい。
ほのぼのとしながらも、複数婚が巻き起こすおかしな日常が満載。
*BL描写あり
毎週月曜日と隔週の日曜日お休みします。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~
月
恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん)
は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。
しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!?
(もしかして、私、転生してる!!?)
そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!!
そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?
女性が全く生まれない世界とか嘘ですよね?
青海 兎稀
恋愛
ただの一般人である主人公・ユヅキは、知らぬうちに全く知らない街の中にいた。ここがどこだかも分からず、ただ当てもなく歩いていた時、誰かにぶつかってしまい、そのまま意識を失う。
そして、意識を取り戻し、助けてくれたイケメンにこの世界には全く女性がいないことを知らされる。
そんなユヅキの逆ハーレムのお話。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
美幼女に転生したら地獄のような逆ハーレム状態になりました
市森 唯
恋愛
極々普通の学生だった私は……目が覚めたら美幼女になっていました。
私は侯爵令嬢らしく多分異世界転生してるし、そして何故か婚約者が2人?!
しかも婚約者達との関係も最悪で……
まぁ転生しちゃったのでなんとか上手く生きていけるよう頑張ります!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる