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第3部 周りと仲良くしろと言われました

41.朝ごはんに春巻は幸せだと思います

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 毎朝春巻が食べられるのは幸せなことだと香子は思う。
 それは四神宮の厨師コックが作ることもあれば、市井の厨師である馬遼が作ることもある。四神宮の厨師が作るものはいろいろ入っていて、形も整えられていてとても上品だ。最近凍石のおかげで魚介類が手に入りやすくなったことから、香子が、『海老春巻が食べたいな』と呟いたら本当に海老がふんだんに入った春巻が出てきた。もちろん香子は狂喜した。ただ普通の大きさの春巻だと食べづらいので、元の世界では細めで長くなっているものがあるということを厨師に伝えたら、厨師はその通りに作ってくれた。再現度がハンパない。食はとにかく充実しているようである。
 今朝の春巻は馬遼が作ったものだった。包み方こそ丁寧になったが入っている物はそのままである。もやし、ピーマン、肉の細切りなどが詰め込まれた春巻は食感がとにかくシャキシャキしていてとてもおいしい。しかも一本一本が大きいので食べでがある。おかげで今朝も香子はご機嫌だった。

『ほんにそなたはおいしそうに食べるな』

 朱雀が笑みを浮かべて言う。香子は頷いた。まだ口の中に物が入っている。香子はごっくんと飲み込んでから口を開いた。

『おいしいですから!』

 いつものやりとりである。

『毎朝食べているようだが、飽きはせぬのか?』

 玄武に尋ねられ、香子は首を傾げた。

『なんででしょーね? 飽きませんね。もしかしたら、ごはんとか、水餃子みたいなものなのかもしれません』
『そういうものか』

 こう聞いたからといって四神が飽きているわけではないらしい。元々四神は食に興味がない。というより、四神の花嫁以外に興味がないのだ。香子にできるだけ寄り添おうとして、香子の「好き」を集めているようである。意外と四神は健気なのだ。
 さて、今日は食べ終えたら朱雀の室だ。わかってはいるが香子は今だけ現実から目を反らした。
 食休みを終えた後玄武の室から直接朱雀の室に運ばれそうになり、それはさすがに香子も抵抗した。

『朱雀様、お願いですから着替えをさせてください』
『今日はこのままでもよいではないか』
『よくないです!』

 香子は睡衣ねまきのままである。それに朱雀の長袍を羽織っている状態だ。こんな格好では居間で過ごすことも難しい。朱雀は一日香子をベッドから出すつもりがないようだが、香子もそれはさすがに嫌だった。まだ愛欲の日々は過ごしたくはない。

『どうか、綺麗でいさせてくださいませ……』

 内心恥ずかしさに身もだえながら、香子は朱雀の胸にこてんともたれて呟くように言った。

『そなたはいつも愛らしいが……更に美しいそなたを見たいとも思う。……かなわぬな』
『部屋に送ってくださいますね?』
『ああ、だが居間で待たせてもらうぞ。せっかくのそなたを独占できる日だ。できることならば片時も離れていたくはない』

 笑みを浮かべてそんな恥ずかしい科白をさらりと言うから、どこまで朱雀が本気なのかわからないと香子は思う。でも基本四神は嘘がつけないから、香子を愛しく思っているということはとてもよく感じられた。(伝えないことは多々ある)

(ううう……恥ずかしい……)

 自分で言うのも、四神に言われるのも、あれもこれも香子は恥ずかしくてしかたなかった。
 侍女たちによって更に美しく着飾らせられ、大好きな赤っぽい猫眼石キャッツアイのブレスレットを嵌められて、やっと香子は落ち着いた。長いのをぐるぐると腕に巻いた形である。相手は石なのでそれなりに重いが、香子はこれをとにかく気に入っていた。もちろん四神宮の外ではつけない。あくまでお遊びのようなものである。
 宝石箱には翡翠のネックレスなども入っているが圧倒的に猫眼石のものが多い。これらは全て贈物である。

『随分増えたわね』
『はい。もうこちらの箱もいっぱいでございます』

 侍女たちがにこにこしながら応えた。最近香子は贈物の選定作業は侍女たちに任せており、侍女がこれはどうするかなど迷う物を持ってきたのを選ぶぐらいしかしていない。いらない物は全て貴族や富豪などに売られ、収益はそれらの作業にあたる者の賃金を除いて全て寄付していた。溜め込んでおいてもいいが使わないし、毎日のように贈られてくることから保管場所もすぐにいっぱいになってしまう。

(私に贈られても何もできないししないんだけど)

 第一目録は見ているが誰が贈ってきたかなど香子はチェックもしていない。それらの作業は全て中書省で行われている。何かあればそちらで全て対応するはずである。

(さてと……)

 鏡を見せられて髪形を確認し、

『ありがとう。とても綺麗ね』

 侍女たちをねぎらってから香子は居間に向かう。

『朱雀様、お待たせしました』

 居間でお茶を飲んでいた朱雀がスッと立ち上がる。

『ああ、そなたはほんに美しいな』

 感嘆したように呟き、朱雀は香子を抱き上げた。
 その様子を目の当たりにした侍女たちは内心とても身もだえたのだが、朱雀の言にはにかんだ香子は全く気付かなかった。
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