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第3部 周りと仲良くしろと言われました

36.参加することになったのでまたお茶をしてみました

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 香子が正式に秋の大祭に出るという知らせは白雲から趙文英に伝えられ、その後無事皇帝や皇太后に届けられた。皇帝は喜び、宰相は胸を撫で下ろした。皇太后は知らせを受けて上機嫌になった。さっそく香子を茶会に誘ったぐらいである。もちろんそれを香子は受けた。
 皇帝はともかくとして、皇太后にはかなりやきもきさせた自覚が香子にはあった。だから謝罪も含めてである。白虎が一緒に行くことは決定事項で、後は一日一緒に過ごすことになっていた玄武にも頼んだ。

香子シャンズ、今日は我に一日をくれたのではなかったか?』

 床の中で、本日の午後に茶会をと急きょ連絡を受けた香子が返事をしてしまったことから、玄武がからかうように言った。

『う……そ、それはそうなんですけど……』
『ならば……』
『でも、老仏爺には迷惑をかけてしまいましたから。帰ってきたら、その……』
『わかった。戻ってきたらもう離さぬぞ?』
『はいぃ……』

 抱きしめられながら耳元で甘いバリトンに囁かれて、香子は身体がぐずぐずに溶けてしまうのではないかと思った。それぐらい四神の声には破壊力がある。特に玄武のバリトンは最強だと香子はこっそり思っていた。
 そんな玄武と香子は朱雀がにまにましながら眺めていた。むぅっと香子は思ったが、助けを求めるようなことはできない。むしろ朱雀に参戦を許したら悪化すること必至である。
 困ったものだ、と香子は内心ため息をついた。
 朝食を玄武の室で食べた後はまた昼まで玄武の寝室でごろごろして過ごした。最後まではしないという条件で転がったが、全身余すところなく触れられ、舐められて、もう抱かれた方がよかったのではないかと思うほど香子は甘く溶かされた。

(ううう……)

 爛れている、と香子は思う。でも本来香子の役割はなのだ。
 四神に愛されて、眷属や次代の四神を産むのが香子の務めである。もちろん四神は優しいから香子の意志を尊重してくれるが、もちろんその忍耐が限界を迎えることもしばしばある。その度に翻弄されることが少なくなればいいなと香子は思うのだ。
 白虎には午後皇太后のお茶会に招かれて一緒に行くということは玄武を通して知らせてあったので、昼食後準備をして御花園に向かった。本日は玄武と白虎に合わせた衣裳を着せられた。白地に金と黒で虎と亀の見事な刺繍の入った長袍を着せられた。よくこんな衣裳を作ったなと惚れ惚れしてしまうようなデザインだった。刺繍もまた見事で、香子は移動中の白虎の腕の中に長袍をまじまじと眺めた。

(私専用だし、両方ってことはここにいる間しか着ない衣裳だよね。すごいなぁ……)

 毎年正月には王城に来るというからそういう時には袖を通してもいいのかもしれないが、それでも四神の誰かに嫁いだ後こういう二神を表したような衣裳はどうなのだろう。

『香子、なにをそんなに面白い顔をしているのだ』

 とうとう白虎に尋ねられてしまったが、香子はうまく説明できそうもなかったので断片だけ伝えた。

『衣裳が綺麗だなぁって……』
『そうか』

 白虎がククッと笑う。微妙な香子の胸の内はわからないだろうが、それでも何か感じるところはあったのかもしれない。白虎はそれ以上追及しようとはしなかった。
 秋である。中秋節まであと二週間というところで、香子はぎりぎりになってしまったことを申し訳ないと思った。だが理不尽な要求は聞かないと気持ちを新たにした。今日は白虎、玄武、白雲、黒月、延夕玲が付き従った。四阿から少し離れたところで王英明が控えている。
 御花園の四阿では皇太后が皇帝、皇后と共に待っていた。

老仏爺ラオフオイエ、本日はお招きありがとうございます』

 白虎の腕の中からではあるが香子が挨拶する。それに皇太后はほ、ほと笑った。

『なんとも花嫁様のお美しいこと……堅苦しい挨拶はなしでゆこうぞ。ささ……』

 促されて香子はやっと椅子に下ろされた。
 用意されたお茶は黄金桂だった。どこからともなく金木犀の香りが漂ってくるような気が、香子はした。まだ木々は色づかないが、空気が秋っぽいと香子は感じた。

『此度は皇上も同席しています。一言お礼をと』
『よいだろうか』

 皇太后に促されて、皇帝がこちらへ向き直った。

『礼など必要ない』

 白虎がけんもほろろに告げる。

『そういうわけにも参りませぬ。秋の大祭は春、春節と並ぶ重要な大祭です。今年は各国からの使者も多く、国によっては王自ら参るところもありまして……』
『それが我らになんの関係が?』
『……できましたら晩餐会に出席をしていただければと……』

 白虎が香子を見やる。香子に任せるということなのかもしれなかったが、任されても困る。

『約束はせぬ』

 玄武が厳かに告げた。
 惚れる、と香子は内心身もだえた。

『しかし……』
『人の事情は我らには関係のないこと。人同士でやるといい。此度は香子が出たいと言う。秋の大祭の行程をまず明確にせよ。話はそれからだ』

 惚れる。香子は両手で顔を覆いたくなったが堪えて杏仁酥(アーモンドクッキー)をカリカリと食べた。おいしい。やっぱり好きだと香子は思った。

『……わかりました。執明神君、ありがとうございます』

 普通こういうことは専門の者が話してくれることではないのだろうかと香子は思ったが、まずは皇帝が、というのが重要なのだろうと思い直した。四神はそういうことは一切気にしないだろうが、人間の身分制度とかそういうものはなんとも面倒くさいものである。

『花嫁様はほんにその杏仁酥がお好きですな』

 皇太后がにこにこしながら言う。

『はい、おいしいです』

 香子はお茶をしに来たので、気にせず飲み食いすることにした。難しいことは全て丸投げである。趙文英や王英明が困るだろうことは想像できたが、そこは内心ごめんなさいをしておいた。
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