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第3部 周りと仲良くしろと言われました
35.言葉一つで翻弄されています
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昼食には香子のリクエスト通り水餃子が出てきた。もちもちしていて食べ応えがあってとてもおいしい。今日は中身がチンゲンサイと肉のものと、海老のもの、魚のものが用意されていた。
(そういえば西安に餃子宴ってあったなぁ。また食べてみたいなぁ……)
口には出さない。かつて西安に旅行へ行った際に食べたことがあったが、本当に沢山の種類の餃子を食べた。下手に口に出してしまうと厨師が張り切ってしまうので、そういうことは食堂では言わないようにしている。
『やっぱり水餃おいしいなぁ……』
海老だの魚だのといった魚介類は凍石のおかげでだいぶ食べられるようになっている。凍石さまさまだと香子は思う。魚を塩漬けにする仕事はかなり減ったとは聞いた。氷を作る人々なども含めて雇用を保証するように言ったがどうなっているだろうか。今度皇帝と顔を合わせることがあれば聞いてみようと香子は思った。
(……あんまり顔も合わせたくはないけど)
おなかがいっぱいになったことで、香子は少し落ち着いた。そういえば、と思い出す。
(中秋節、参加できるって伝えないといけないよね。老仏爺にはかなりやきもきさせちゃってるだろうし)
皇帝なんかはどうでもいいが、皇太后に迷惑をかけるのはいただけないと香子は思うのだ。
『香子、如何した?』
いろいろ考えを巡らせていたせいか香子は百面相をしていたらしい。白虎が楽しそうに声をかけた。
『ええと……』
確認をしていなかったことも香子は思い出した。でも確認するのもなんだか無粋な気がする。だがしかし、ここはしっかり確認しなければいけない場面だと香子は思い直した。
『あの……私、中秋節は参加していいのですよね……?』
『ああ、我の腕の中にずっとおさまっているならばかまわぬ』
反射的に応えそうになったが、香子はぐっとこらえた。あえて”白虎の腕の中にずっとおさまっているならば”と言われたのなら、降りる必要がでてくるのかもしれない。
『……下りる必要があるかどうかを確認してからでもよろしいですか?』
白虎が笑った。
『香子にはかなわぬな』
香子は白虎以外の三神を見やった。共に参加するのは白虎だけだが、四神全体がしぶしぶでも容認してくれなければ参加するのは難しいと思ってしまうのだ。
玄武をじっと見つめると苦笑された。一番反対していたのは玄武だと、香子は認識していた。
『……好きにするといい。その代わり、今宵から明日は一日我に付き合ってもらうぞ』
『はい! 玄武様大好き!』
思わず声が上がってしまった。それに面白そうな表情を浮かべたのは朱雀と青龍である。
『香子』
朱雀の声に香子はどきりとした。
(あーもう、あーもう……なんでこう私ってば!)
『我はどうなのだ?』
『も、もちろん朱雀様のことも、青龍様のことも大好きですよ!』
『……ならばよい』
青龍はスッと下がってくれたが、朱雀はそうもいかない。そして白虎もまた面白そうな表情をした。
(あーもうっ!)
面倒くさい神様たちである。でもそんな四神が好きなのだからいいのだろうと香子は思う。
『……明日は玄武様と一日過ごしますが……朱雀様は明後日一緒に過ごしていただけます? 青龍様と白虎様にはは申し訳ありませんが……』
『申し訳ないと思うなら、また我にも抱かせてくれ。そうだな、一日でよいぞ』
青龍が不穏なことを言いだした。
『や、約束はできかねます……』
『それは残念だ』
青龍は今度こそ引き下がった。白虎が香子の手を取る。
『香子』
(んもーっ、んもーっ、んもーっ!)
そろそろ牛になれそうだ。ステイ! とか香子としては言いたい心境だった。
『白虎様とは……昨夜、その……』
身体を重ねたではないかと言いたかったが、ここはまだ食堂だし、みんなに見られているしで言葉を濁した。四神に抱かれているということを、いくらみんなが知っていたとしても口にするのは恥ずかしいのだ。頬を染めた香子を見て侍女たちは内心身もだえていたが、もちろん香子はそのことに気づかなかった。
白虎に抱かれて落ち着いたことで香子の色香は減衰しているが、それでも四神に甘く抱かれていることで自然に生まれた色香は隠せない。きっと後宮で一番色っぽいと称される女性でも、香子の色香にはかなわないだろうと侍女たちは思っている。
つまり、今の香子はとんでもなく色っぽいのに恥じらっているという、侍女たちにとって「ああああもおおおお!」と叫び出したくなるような姿を見せているのだった。
ちなみに眷属には香子の色香は一切効かないので平然としている。四神は香子を愛しているので変わらず愛しくてならないというように見つめている。
『昨夜、なんだ?』
『……そういうところは、嫌です』
香子はぷい、とそっぽを向いた。
『……どうしたら好きになる?』
香子は目を丸くした。そんなことを言われるとは思わなかった。
『白虎様、青龍様、お茶しましょう……』
明日玄武と過ごすとなればしばらく青龍とはゆっくりできないだろうと香子は思った。だからといって初めて抱かれた白虎とも離れがたくて……といろいろ女心は複雑なのである。
『そうしよう』
『わかった。どこがいい?』
白虎が返事をし、青龍に場所を尋ねられる。今日も晴れていい天気だ。
『庭で、お願いします』
そうして午後は穏やかに、香子は白虎と青龍と過ごすことができたのだった。
(そういえば西安に餃子宴ってあったなぁ。また食べてみたいなぁ……)
口には出さない。かつて西安に旅行へ行った際に食べたことがあったが、本当に沢山の種類の餃子を食べた。下手に口に出してしまうと厨師が張り切ってしまうので、そういうことは食堂では言わないようにしている。
『やっぱり水餃おいしいなぁ……』
海老だの魚だのといった魚介類は凍石のおかげでだいぶ食べられるようになっている。凍石さまさまだと香子は思う。魚を塩漬けにする仕事はかなり減ったとは聞いた。氷を作る人々なども含めて雇用を保証するように言ったがどうなっているだろうか。今度皇帝と顔を合わせることがあれば聞いてみようと香子は思った。
(……あんまり顔も合わせたくはないけど)
おなかがいっぱいになったことで、香子は少し落ち着いた。そういえば、と思い出す。
(中秋節、参加できるって伝えないといけないよね。老仏爺にはかなりやきもきさせちゃってるだろうし)
皇帝なんかはどうでもいいが、皇太后に迷惑をかけるのはいただけないと香子は思うのだ。
『香子、如何した?』
いろいろ考えを巡らせていたせいか香子は百面相をしていたらしい。白虎が楽しそうに声をかけた。
『ええと……』
確認をしていなかったことも香子は思い出した。でも確認するのもなんだか無粋な気がする。だがしかし、ここはしっかり確認しなければいけない場面だと香子は思い直した。
『あの……私、中秋節は参加していいのですよね……?』
『ああ、我の腕の中にずっとおさまっているならばかまわぬ』
反射的に応えそうになったが、香子はぐっとこらえた。あえて”白虎の腕の中にずっとおさまっているならば”と言われたのなら、降りる必要がでてくるのかもしれない。
『……下りる必要があるかどうかを確認してからでもよろしいですか?』
白虎が笑った。
『香子にはかなわぬな』
香子は白虎以外の三神を見やった。共に参加するのは白虎だけだが、四神全体がしぶしぶでも容認してくれなければ参加するのは難しいと思ってしまうのだ。
玄武をじっと見つめると苦笑された。一番反対していたのは玄武だと、香子は認識していた。
『……好きにするといい。その代わり、今宵から明日は一日我に付き合ってもらうぞ』
『はい! 玄武様大好き!』
思わず声が上がってしまった。それに面白そうな表情を浮かべたのは朱雀と青龍である。
『香子』
朱雀の声に香子はどきりとした。
(あーもう、あーもう……なんでこう私ってば!)
『我はどうなのだ?』
『も、もちろん朱雀様のことも、青龍様のことも大好きですよ!』
『……ならばよい』
青龍はスッと下がってくれたが、朱雀はそうもいかない。そして白虎もまた面白そうな表情をした。
(あーもうっ!)
面倒くさい神様たちである。でもそんな四神が好きなのだからいいのだろうと香子は思う。
『……明日は玄武様と一日過ごしますが……朱雀様は明後日一緒に過ごしていただけます? 青龍様と白虎様にはは申し訳ありませんが……』
『申し訳ないと思うなら、また我にも抱かせてくれ。そうだな、一日でよいぞ』
青龍が不穏なことを言いだした。
『や、約束はできかねます……』
『それは残念だ』
青龍は今度こそ引き下がった。白虎が香子の手を取る。
『香子』
(んもーっ、んもーっ、んもーっ!)
そろそろ牛になれそうだ。ステイ! とか香子としては言いたい心境だった。
『白虎様とは……昨夜、その……』
身体を重ねたではないかと言いたかったが、ここはまだ食堂だし、みんなに見られているしで言葉を濁した。四神に抱かれているということを、いくらみんなが知っていたとしても口にするのは恥ずかしいのだ。頬を染めた香子を見て侍女たちは内心身もだえていたが、もちろん香子はそのことに気づかなかった。
白虎に抱かれて落ち着いたことで香子の色香は減衰しているが、それでも四神に甘く抱かれていることで自然に生まれた色香は隠せない。きっと後宮で一番色っぽいと称される女性でも、香子の色香にはかなわないだろうと侍女たちは思っている。
つまり、今の香子はとんでもなく色っぽいのに恥じらっているという、侍女たちにとって「ああああもおおおお!」と叫び出したくなるような姿を見せているのだった。
ちなみに眷属には香子の色香は一切効かないので平然としている。四神は香子を愛しているので変わらず愛しくてならないというように見つめている。
『昨夜、なんだ?』
『……そういうところは、嫌です』
香子はぷい、とそっぽを向いた。
『……どうしたら好きになる?』
香子は目を丸くした。そんなことを言われるとは思わなかった。
『白虎様、青龍様、お茶しましょう……』
明日玄武と過ごすとなればしばらく青龍とはゆっくりできないだろうと香子は思った。だからといって初めて抱かれた白虎とも離れがたくて……といろいろ女心は複雑なのである。
『そうしよう』
『わかった。どこがいい?』
白虎が返事をし、青龍に場所を尋ねられる。今日も晴れていい天気だ。
『庭で、お願いします』
そうして午後は穏やかに、香子は白虎と青龍と過ごすことができたのだった。
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