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第3部 周りと仲良くしろと言われました
34.翌朝はいつだっていたたまれない
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……香子は顔を両手で覆った。
後悔した。確かに盛大に後悔した。
白虎に抱かれたことを、ではない。先に湯浴みをしなかったことをだ。抱かれている最中はもう翻弄されることしかできなくて、全てされるがままだった。湯浴みをしていなかったのにあんなに舐めなくてもいいじゃないかと思った。
『そなたの香りは心地良い』
なんて言われて全身を嗅がれて味わわれて、香子はただただ感じて啼くことしかできなかった。朱雀に与えられた”熱”のおかげであまり抵抗なく抱かれた、と思う。
二人に与えられる快感に翻弄されているうちに、白虎がいつ本性を現したのかも曖昧だった。
思い出してみる。
(確か……うつ伏せにされて……)
長い舌で全身を舐められて、白虎自身を後背位で受け入れた。痛みはあったと思うが、すぐに気持ちよくなって……。
両手が外せない。思い出してはいけなかったと後悔したけど、一度思い出し始めたらあれよあれよと詳細に出てきてしまい、香子は身もだえることとなった。恥ずかしいなんて言葉では表せない。というか言葉で表現できない羞恥である。これはもう穴を掘って埋まるしかないと香子が考えた時、誰かが香子の手を外させた。
『香子、何故顔を隠すのか』
ゾクリ、とするような低い声に香子は震えた。玄武のバリトンではない。あれは香子の全身を絡めとる。対するこれは、香子を身動きすらさせなくしてしまう。
香子は真っ赤になってぱくぱくと唇を動かすことしかできなかった。
目の前に金の瞳をした白銀の長い髪を持つ美丈夫がおり、至近距離で香子を見つめている。昨夜、白虎はぎりぎりまで人の姿で香子を愛でた。それにはものすごい忍耐が必要であったのだが、香子にはそんなことはわからない。ただ今、昨夜自分を甘く啼かせた美丈夫が香子を抱き寄せている。そのシチュエーションに胸のときめきが止まらないのである。
『言葉もないか』
『……あ……ええと……私、どうしたら……』
香子はパニックを起こしていて、何をどう言ったらいいのかもわからないようだった。香子は少しでもこの状況から抜け出そうと視線を巡らせた。すぐ隣に朱雀がおり、寝転がって肘をつきながら楽しそうにこちらを眺めている。朱雀ではだめだ、と香子は思った。
『香子』
(……あ……)
白虎に唇を奪われた。香子はそれを素直に受ける。
「んんっ……」
少しざらついた白虎の舌に舌を絡め取られると、ツキン、と首の後ろに甘さを感じた。そうして、白虎もまたおそるおそる香子に触れているのだということに気づいた。
(よかった……)
白虎も少し緊張しているらしい。安心してほっとしたところで、お約束のように腹が鳴った。それと同時に凄まじい空腹が香子を襲った。白虎が唇を離す。
『おなか……すきました……』
別の意味での恥ずかしさで、香子は真っ赤になりながら訴えた。
朝食はほどなくして届けられた。香子が目を覚ました時に朱雀が連絡しておいてくれたらしい。
『朱雀様、ありがとうございます……』
睡衣の上から白虎の長袍を着せられた状態で居間に連れて行かれた。並べられた料理に一通り手をつけた辺りで、香子は朱雀に礼を言った。
『いつものことだろう。我も腹は減った』
『…………』
香子はそれに何も返すことができなかった。なんとも恥ずかしいのである。朱雀が空腹、ということはそういうことなのだ。
『これが腹がすくという状態なのか』
白虎が新鮮だというようにひょいひょいと肉包(肉まん)を食べる。その豪快な食事につられて香子も菜包(野菜まん)や春巻を食べた。春巻はとにかく毎朝だって食べたい香子の大好物である。
『んー……お昼は水餃(水餃子)が食べたいわ』
『かしこまりました』
控えている侍女が応えた。
北京の食事といえば水餃である。香子にとっては米の代わりだ。スープには入っていない。茹でた水餃を皿に上げたものが出されるので、好きなたれなどをつけて食べるのだ。肉厚でもちもちの手作りの皮は、皮と言うよりまさに主食である。
『香子は本当に食べることが好きなのだな』
『ここのごはんはとてもおいしいです。慣れ親しんだものを食べさせていただいているからやってられるんですよ』
ごはんは重要だ、と香子は思っている。
おなかがいっぱいになれば解散、のはずなのだが、今朝はそうはいかなかった。
『湯浴みしたいな……』
と呟いてしまったら、
『そうだな。昨夜はつい床になだれ込んでしまったしな。我らが洗ってやろう』
朱雀が楽しそうに答えた。
『ええ? いえ、大丈夫です。一人で入れますからっ!』
『我らも湯浴みはしておらぬ。遠慮するな』
『え、遠慮じゃなくて……』
『香子、諦めろ』
白虎の腕ががっしりと香子を捕らえて離さない。
『あーもう……』
こうなったら逃れられない。暴れてもどうしようもないので、香子は観念して身体の力を抜いた。抵抗してどうにかなる場合とならない場合がある。今回は後者だった。
侍女たちが急いで浴室の支度を整える。そうして香子は白虎の腕に抱かれながら浴室へ運ばれた。これぞまさに後悔。そして口は災いの元だった。
浴室に連れ込まれて、ただ身体を洗うだけで済むはずがない。香子はまた全身に触れられ、舐められてしまった。
(やっぱりお風呂、重要……)
これからは絶対に風呂に入ってからにしようと、香子は決意した。
後悔した。確かに盛大に後悔した。
白虎に抱かれたことを、ではない。先に湯浴みをしなかったことをだ。抱かれている最中はもう翻弄されることしかできなくて、全てされるがままだった。湯浴みをしていなかったのにあんなに舐めなくてもいいじゃないかと思った。
『そなたの香りは心地良い』
なんて言われて全身を嗅がれて味わわれて、香子はただただ感じて啼くことしかできなかった。朱雀に与えられた”熱”のおかげであまり抵抗なく抱かれた、と思う。
二人に与えられる快感に翻弄されているうちに、白虎がいつ本性を現したのかも曖昧だった。
思い出してみる。
(確か……うつ伏せにされて……)
長い舌で全身を舐められて、白虎自身を後背位で受け入れた。痛みはあったと思うが、すぐに気持ちよくなって……。
両手が外せない。思い出してはいけなかったと後悔したけど、一度思い出し始めたらあれよあれよと詳細に出てきてしまい、香子は身もだえることとなった。恥ずかしいなんて言葉では表せない。というか言葉で表現できない羞恥である。これはもう穴を掘って埋まるしかないと香子が考えた時、誰かが香子の手を外させた。
『香子、何故顔を隠すのか』
ゾクリ、とするような低い声に香子は震えた。玄武のバリトンではない。あれは香子の全身を絡めとる。対するこれは、香子を身動きすらさせなくしてしまう。
香子は真っ赤になってぱくぱくと唇を動かすことしかできなかった。
目の前に金の瞳をした白銀の長い髪を持つ美丈夫がおり、至近距離で香子を見つめている。昨夜、白虎はぎりぎりまで人の姿で香子を愛でた。それにはものすごい忍耐が必要であったのだが、香子にはそんなことはわからない。ただ今、昨夜自分を甘く啼かせた美丈夫が香子を抱き寄せている。そのシチュエーションに胸のときめきが止まらないのである。
『言葉もないか』
『……あ……ええと……私、どうしたら……』
香子はパニックを起こしていて、何をどう言ったらいいのかもわからないようだった。香子は少しでもこの状況から抜け出そうと視線を巡らせた。すぐ隣に朱雀がおり、寝転がって肘をつきながら楽しそうにこちらを眺めている。朱雀ではだめだ、と香子は思った。
『香子』
(……あ……)
白虎に唇を奪われた。香子はそれを素直に受ける。
「んんっ……」
少しざらついた白虎の舌に舌を絡め取られると、ツキン、と首の後ろに甘さを感じた。そうして、白虎もまたおそるおそる香子に触れているのだということに気づいた。
(よかった……)
白虎も少し緊張しているらしい。安心してほっとしたところで、お約束のように腹が鳴った。それと同時に凄まじい空腹が香子を襲った。白虎が唇を離す。
『おなか……すきました……』
別の意味での恥ずかしさで、香子は真っ赤になりながら訴えた。
朝食はほどなくして届けられた。香子が目を覚ました時に朱雀が連絡しておいてくれたらしい。
『朱雀様、ありがとうございます……』
睡衣の上から白虎の長袍を着せられた状態で居間に連れて行かれた。並べられた料理に一通り手をつけた辺りで、香子は朱雀に礼を言った。
『いつものことだろう。我も腹は減った』
『…………』
香子はそれに何も返すことができなかった。なんとも恥ずかしいのである。朱雀が空腹、ということはそういうことなのだ。
『これが腹がすくという状態なのか』
白虎が新鮮だというようにひょいひょいと肉包(肉まん)を食べる。その豪快な食事につられて香子も菜包(野菜まん)や春巻を食べた。春巻はとにかく毎朝だって食べたい香子の大好物である。
『んー……お昼は水餃(水餃子)が食べたいわ』
『かしこまりました』
控えている侍女が応えた。
北京の食事といえば水餃である。香子にとっては米の代わりだ。スープには入っていない。茹でた水餃を皿に上げたものが出されるので、好きなたれなどをつけて食べるのだ。肉厚でもちもちの手作りの皮は、皮と言うよりまさに主食である。
『香子は本当に食べることが好きなのだな』
『ここのごはんはとてもおいしいです。慣れ親しんだものを食べさせていただいているからやってられるんですよ』
ごはんは重要だ、と香子は思っている。
おなかがいっぱいになれば解散、のはずなのだが、今朝はそうはいかなかった。
『湯浴みしたいな……』
と呟いてしまったら、
『そうだな。昨夜はつい床になだれ込んでしまったしな。我らが洗ってやろう』
朱雀が楽しそうに答えた。
『ええ? いえ、大丈夫です。一人で入れますからっ!』
『我らも湯浴みはしておらぬ。遠慮するな』
『え、遠慮じゃなくて……』
『香子、諦めろ』
白虎の腕ががっしりと香子を捕らえて離さない。
『あーもう……』
こうなったら逃れられない。暴れてもどうしようもないので、香子は観念して身体の力を抜いた。抵抗してどうにかなる場合とならない場合がある。今回は後者だった。
侍女たちが急いで浴室の支度を整える。そうして香子は白虎の腕に抱かれながら浴室へ運ばれた。これぞまさに後悔。そして口は災いの元だった。
浴室に連れ込まれて、ただ身体を洗うだけで済むはずがない。香子はまた全身に触れられ、舐められてしまった。
(やっぱりお風呂、重要……)
これからは絶対に風呂に入ってからにしようと、香子は決意した。
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