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第3部 周りと仲良くしろと言われました
32.中華料理はどれもおいしい
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そろそろ夕食の時間だと侍女が呼びにきてくれた。香子は青龍の腕に抱かれて青龍の室を出る。
『お召しかえを』
と言われたので一度香子の部屋に運んでもらった。いつもならばそこで別れるのだが、今日は離れがたいと思ってくれたらしい。青龍に居間で待っていると言われてしまい、香子ははにかんだ。衣裳を着替えさせられ、髪形も綺麗に直される。鏡に映る香子は侍女たちによって作られる芸術品だ。
『如何でしょうか』
手鏡で後ろ髪などを確認をする。
『今日も素敵ね。ありがとう』
微笑んで礼を言えば侍女たちの頬がほんのりと赤く染まる。これも香子の不安定故かと思ったら、香子はとても申し訳なくなった。
寝室から出て居間に移動する。青龍が長椅子から立ち上がり、当たり前のように香子を抱き上げた。侍女たちの頬が更に赤くなったが、自分のことで精いっぱいな香子は気づかなかった。
『何をせずともそなたは愛らしいが、こうして着飾った姿もまた格別だ。お前たち、礼を言うぞ』
『も、もったいないお言葉……』
侍女たちは全身を真っ赤に染めて平伏した。
『平身』(立ちなさい)
『謝孟章神君!』(青龍様、ありがとうございます!)
香子は目を丸くする。こういう時、自分がそこにいることが信じられなくなってしまう。
(まんま時代劇のやりとりなんだよねー……)
こんな時、香子はどうしたらいいのかわからなくて、首を少し傾げて青龍を見た。
『香子、如何した?』
甘い、と香子は思う。涼やかな声の中に、甘い色気が含まれている気がする。
(心臓に悪すぎる……)
『いいえ、行きましょう』
侍女に先導され、食堂へ移動した。すでに他の三神は席についていた。青龍と香子の席が隣り合って空いている。圓卓の上にはお茶と、前菜が載せられている。香子は青龍の隣に下ろされ、礼を言った。反対隣には白虎がいる。今日のメニューはなんだろうかと香子はドキドキした。
『香子』
白虎に声をかけられた。
『身体が硬くなっているようだが、如何か』
白虎の観察力に香子は舌を巻いた。確かに今の香子は緊張で硬くなっているだろう。だってその食べ物が出てきたら、決めるのだから。
『……なんでもないです。白虎様、気になさらないでください』
『何かあれば言うのだぞ』
『はい、ありがとうございます』
なにか……とはどう言えばいいのだろうか。香子はそんなことを思いながら前菜に手をつけた。今日もとてもおいしい。えのきの和え物など、いつもどんな味付けをすればこんなにおいしくなるのだろうかと不思議でしかたない。やっぱりニンニクが肝なのだろうか。
前菜をあらかた食べ終えればスープが出され、その後メインの料理が出てくる。その主菜の中に……。
『花嫁さま、こちらでよろしいですか?』
侍女に皿を見せられて香子は頷いた。
『ええ、ありがとう。房から出して調理してくれたのね。厨師に礼を言っておいてもらえる?』
『もったいないお言葉でございます』
果たして、雪菜炒毛豆(枝豆と漬物の炒め)が出てきた。ひき肉も入っているようで、白いごはんがほしいなと香子は思った。
『ねえ、これはごはんと一緒に食べたいのだけど、今日の主食はなぁに?』
『本日は炒飯でございますが……』
侍女が戸惑っている。
『じゃあ一緒に器に乗せて食べたいから、早めに持ってくるように頼んでもらっていい?』
『かしこまりました』
そういう食べ方は行儀が悪いのかもしれないが、ここは四神宮である。外部の人間が見るわけでもないので香子はけっこう好きなように食べさせてもらっていた。基本四神宮から出られないし、娯楽が少ないのだからしかたない。
厨師はよくわがままを聞いてくれるな~、と時折申し訳なくも思うが、中華料理はおいしいもの! という意識が香子の中にあるので妥協はできないのだった。
『深みのある皿をいただいてもいい? 行儀は悪いかもしれないのだけど、雪菜炒毛豆を混ぜて食べたいの』
炒飯でそれをやるのかよとお叱りを受けそうだが、ごはんに関しての主導権は香子にある。
『かしこまりました』
厨師もそれを汲んでくれたのだろう。運ばれてきた炒飯は卵が混ざっているだけのシンプルなものだった。香子はニンマリした。わかってるう~というやつである。
深みのある皿に卵炒飯をよそってもらい、その上に雪菜炒毛豆を乗せ、軽く混ぜて食べる。
『~~~~っ! ……おいしい……おいしい……』
にまにましながら香子は何度も呟いた。枝豆と漬物、そしてひき肉。卵炒飯のふんわりした食感とあいまって最高だった。
『どれ』
四神もそれに倣い、同じようにして食べた。
『うむ、うまいな』
『これはこれで……面白い食感です』
『ふむ……これが香子の好きな味か』
『なかなか』
白虎、青龍、玄武、朱雀が言葉を発する。みなの顔がほんの少し綻んで見えることから、四神もおいしいと思ってくれたことが伝わって香子は嬉しかった。もちろん他のメニューもどれもおいしくて、今日もおなかがぱんぱんになるまで食べてしまったのである。
(ふー、満腹満腹……あとは……)
香子はちら、と白虎を窺った。
(んーと、んーと……どうやって誘ったらいいんだろう……)
白虎に抱かれる覚悟はできたが、今度はどう声をかけたらいいのかわからなくなってしまった。香子は途方に暮れた。
『お召しかえを』
と言われたので一度香子の部屋に運んでもらった。いつもならばそこで別れるのだが、今日は離れがたいと思ってくれたらしい。青龍に居間で待っていると言われてしまい、香子ははにかんだ。衣裳を着替えさせられ、髪形も綺麗に直される。鏡に映る香子は侍女たちによって作られる芸術品だ。
『如何でしょうか』
手鏡で後ろ髪などを確認をする。
『今日も素敵ね。ありがとう』
微笑んで礼を言えば侍女たちの頬がほんのりと赤く染まる。これも香子の不安定故かと思ったら、香子はとても申し訳なくなった。
寝室から出て居間に移動する。青龍が長椅子から立ち上がり、当たり前のように香子を抱き上げた。侍女たちの頬が更に赤くなったが、自分のことで精いっぱいな香子は気づかなかった。
『何をせずともそなたは愛らしいが、こうして着飾った姿もまた格別だ。お前たち、礼を言うぞ』
『も、もったいないお言葉……』
侍女たちは全身を真っ赤に染めて平伏した。
『平身』(立ちなさい)
『謝孟章神君!』(青龍様、ありがとうございます!)
香子は目を丸くする。こういう時、自分がそこにいることが信じられなくなってしまう。
(まんま時代劇のやりとりなんだよねー……)
こんな時、香子はどうしたらいいのかわからなくて、首を少し傾げて青龍を見た。
『香子、如何した?』
甘い、と香子は思う。涼やかな声の中に、甘い色気が含まれている気がする。
(心臓に悪すぎる……)
『いいえ、行きましょう』
侍女に先導され、食堂へ移動した。すでに他の三神は席についていた。青龍と香子の席が隣り合って空いている。圓卓の上にはお茶と、前菜が載せられている。香子は青龍の隣に下ろされ、礼を言った。反対隣には白虎がいる。今日のメニューはなんだろうかと香子はドキドキした。
『香子』
白虎に声をかけられた。
『身体が硬くなっているようだが、如何か』
白虎の観察力に香子は舌を巻いた。確かに今の香子は緊張で硬くなっているだろう。だってその食べ物が出てきたら、決めるのだから。
『……なんでもないです。白虎様、気になさらないでください』
『何かあれば言うのだぞ』
『はい、ありがとうございます』
なにか……とはどう言えばいいのだろうか。香子はそんなことを思いながら前菜に手をつけた。今日もとてもおいしい。えのきの和え物など、いつもどんな味付けをすればこんなにおいしくなるのだろうかと不思議でしかたない。やっぱりニンニクが肝なのだろうか。
前菜をあらかた食べ終えればスープが出され、その後メインの料理が出てくる。その主菜の中に……。
『花嫁さま、こちらでよろしいですか?』
侍女に皿を見せられて香子は頷いた。
『ええ、ありがとう。房から出して調理してくれたのね。厨師に礼を言っておいてもらえる?』
『もったいないお言葉でございます』
果たして、雪菜炒毛豆(枝豆と漬物の炒め)が出てきた。ひき肉も入っているようで、白いごはんがほしいなと香子は思った。
『ねえ、これはごはんと一緒に食べたいのだけど、今日の主食はなぁに?』
『本日は炒飯でございますが……』
侍女が戸惑っている。
『じゃあ一緒に器に乗せて食べたいから、早めに持ってくるように頼んでもらっていい?』
『かしこまりました』
そういう食べ方は行儀が悪いのかもしれないが、ここは四神宮である。外部の人間が見るわけでもないので香子はけっこう好きなように食べさせてもらっていた。基本四神宮から出られないし、娯楽が少ないのだからしかたない。
厨師はよくわがままを聞いてくれるな~、と時折申し訳なくも思うが、中華料理はおいしいもの! という意識が香子の中にあるので妥協はできないのだった。
『深みのある皿をいただいてもいい? 行儀は悪いかもしれないのだけど、雪菜炒毛豆を混ぜて食べたいの』
炒飯でそれをやるのかよとお叱りを受けそうだが、ごはんに関しての主導権は香子にある。
『かしこまりました』
厨師もそれを汲んでくれたのだろう。運ばれてきた炒飯は卵が混ざっているだけのシンプルなものだった。香子はニンマリした。わかってるう~というやつである。
深みのある皿に卵炒飯をよそってもらい、その上に雪菜炒毛豆を乗せ、軽く混ぜて食べる。
『~~~~っ! ……おいしい……おいしい……』
にまにましながら香子は何度も呟いた。枝豆と漬物、そしてひき肉。卵炒飯のふんわりした食感とあいまって最高だった。
『どれ』
四神もそれに倣い、同じようにして食べた。
『うむ、うまいな』
『これはこれで……面白い食感です』
『ふむ……これが香子の好きな味か』
『なかなか』
白虎、青龍、玄武、朱雀が言葉を発する。みなの顔がほんの少し綻んで見えることから、四神もおいしいと思ってくれたことが伝わって香子は嬉しかった。もちろん他のメニューもどれもおいしくて、今日もおなかがぱんぱんになるまで食べてしまったのである。
(ふー、満腹満腹……あとは……)
香子はちら、と白虎を窺った。
(んーと、んーと……どうやって誘ったらいいんだろう……)
白虎に抱かれる覚悟はできたが、今度はどう声をかけたらいいのかわからなくなってしまった。香子は途方に暮れた。
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