上 下
335 / 598
第3部 周りと仲良くしろと言われました

32.中華料理はどれもおいしい

しおりを挟む
 そろそろ夕食の時間だと侍女が呼びにきてくれた。香子は青龍の腕に抱かれて青龍の室を出る。

『お召しかえを』

 と言われたので一度香子の部屋に運んでもらった。いつもならばそこで別れるのだが、今日は離れがたいと思ってくれたらしい。青龍に居間で待っていると言われてしまい、香子ははにかんだ。衣裳を着替えさせられ、髪形も綺麗に直される。鏡に映る香子は侍女たちによって作られる芸術品だ。

『如何でしょうか』

 手鏡で後ろ髪などを確認をする。

『今日も素敵ね。ありがとう』

 微笑んで礼を言えば侍女たちの頬がほんのりと赤く染まる。これも香子の不安定故かと思ったら、香子はとても申し訳なくなった。
 寝室から出て居間に移動する。青龍が長椅子から立ち上がり、当たり前のように香子を抱き上げた。侍女たちの頬が更に赤くなったが、自分のことで精いっぱいな香子は気づかなかった。

『何をせずともそなたは愛らしいが、こうして着飾った姿もまた格別だ。お前たち、礼を言うぞ』
『も、もったいないお言葉……』

 侍女たちは全身を真っ赤に染めて平伏した。

『平身』(立ちなさい)
『謝孟章神君!』(青龍様、ありがとうございます!)

 香子は目を丸くする。こういう時、自分がそこにいることが信じられなくなってしまう。

(まんま時代劇のやりとりなんだよねー……)

 こんな時、香子はどうしたらいいのかわからなくて、首を少し傾げて青龍を見た。

香子シャンズ、如何した?』

 甘い、と香子は思う。涼やかな声の中に、甘い色気が含まれている気がする。

(心臓に悪すぎる……)
『いいえ、行きましょう』

 侍女に先導され、食堂へ移動した。すでに他の三神は席についていた。青龍と香子の席が隣り合って空いている。圓卓の上にはお茶と、前菜が載せられている。香子は青龍の隣に下ろされ、礼を言った。反対隣には白虎がいる。今日のメニューはなんだろうかと香子はドキドキした。

『香子』

 白虎に声をかけられた。

『身体が硬くなっているようだが、如何か』

 白虎の観察力に香子は舌を巻いた。確かに今の香子は緊張で硬くなっているだろう。だってその食べ物が出てきたら、決めるのだから。

『……なんでもないです。白虎様、気になさらないでください』
『何かあれば言うのだぞ』
『はい、ありがとうございます』

 なにか……とはどう言えばいいのだろうか。香子はそんなことを思いながら前菜に手をつけた。今日もとてもおいしい。えのきの和え物など、いつもどんな味付けをすればこんなにおいしくなるのだろうかと不思議でしかたない。やっぱりニンニクが肝なのだろうか。
 前菜をあらかた食べ終えればスープが出され、その後メインの料理が出てくる。その主菜の中に……。

『花嫁さま、こちらでよろしいですか?』

 侍女に皿を見せられて香子は頷いた。

『ええ、ありがとう。房から出して調理してくれたのね。厨師コックに礼を言っておいてもらえる?』
『もったいないお言葉でございます』

 果たして、雪菜炒毛豆(枝豆と漬物の炒め)が出てきた。ひき肉も入っているようで、白いごはんがほしいなと香子は思った。

『ねえ、これはごはんと一緒に食べたいのだけど、今日の主食はなぁに?』
『本日は炒飯でございますが……』

 侍女が戸惑っている。

『じゃあ一緒に器に乗せて食べたいから、早めに持ってくるように頼んでもらっていい?』
『かしこまりました』

 そういう食べ方は行儀が悪いのかもしれないが、ここは四神宮である。外部の人間が見るわけでもないので香子はけっこう好きなように食べさせてもらっていた。基本四神宮から出られないし、娯楽が少ないのだからしかたない。
 厨師はよくわがままを聞いてくれるな~、と時折申し訳なくも思うが、中華料理はおいしいもの! という意識が香子の中にあるので妥協はできないのだった。

『深みのある皿をいただいてもいい? 行儀は悪いかもしれないのだけど、雪菜炒毛豆を混ぜて食べたいの』

 炒飯でそれをやるのかよとお叱りを受けそうだが、ごはんに関しての主導権は香子にある。

『かしこまりました』

 厨師もそれを汲んでくれたのだろう。運ばれてきた炒飯は卵が混ざっているだけのシンプルなものだった。香子はニンマリした。わかってるう~というやつである。
 深みのある皿に卵炒飯をよそってもらい、その上に雪菜炒毛豆を乗せ、軽く混ぜて食べる。

『~~~~っ! ……おいしい……おいしい……』

 にまにましながら香子は何度も呟いた。枝豆と漬物、そしてひき肉。卵炒飯のふんわりした食感とあいまって最高だった。

『どれ』

 四神もそれに倣い、同じようにして食べた。

『うむ、うまいな』
『これはこれで……面白い食感です』
『ふむ……これが香子の好きな味か』
『なかなか』

 白虎、青龍、玄武、朱雀が言葉を発する。みなの顔がほんの少し綻んで見えることから、四神もおいしいと思ってくれたことが伝わって香子は嬉しかった。もちろん他のメニューもどれもおいしくて、今日もおなかがぱんぱんになるまで食べてしまったのである。

(ふー、満腹満腹……あとは……)

 香子はちら、と白虎を窺った。

(んーと、んーと……どうやって誘ったらいいんだろう……)

 白虎に抱かれる覚悟はできたが、今度はどう声をかけたらいいのかわからなくなってしまった。香子は途方に暮れた。
しおりを挟む
感想 86

あなたにおすすめの小説

旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハー異世界ラブコメ〜

ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉 転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!? のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました…… イケメン山盛りの逆ハーです 前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります 小説家になろう、カクヨムに転載しています

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~

恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん) は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。 しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!? (もしかして、私、転生してる!!?) そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!! そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?

目が覚めたら男女比がおかしくなっていた

いつき
恋愛
主人公である宮坂葵は、ある日階段から落ちて暫く昏睡状態になってしまう。 一週間後、葵が目を覚ますとそこは男女比が約50:1の世界に!?自分の父も何故かイケメンになっていて、不安の中高校へ進学するも、わがままな女性だらけのこの世界では葵のような優しい女性は珍しく、沢山のイケメン達から迫られる事に!? 「私はただ普通の高校生活を送りたいんです!!」 ##### r15は保険です。 2024年12月12日 私生活に余裕が出たため、投稿再開します。 それにあたって一部を再編集します。 設定や話の流れに変更はありません。

私の部屋で兄と不倫相手の女が寝ていた。

ほったげな
恋愛
私が家に帰ってきたら、私の部屋のベッドで兄と不倫相手の女が寝ていた。私は不倫の証拠を見つけ、両親と兄嫁に話すと…?!

明智さんちの旦那さんたちR

明智 颯茄
恋愛
 あの小高い丘の上に建つ大きなお屋敷には、一風変わった夫婦が住んでいる。それは、妻一人に夫十人のいわゆる逆ハーレム婚だ。  奥さんは何かと大変かと思いきやそうではないらしい。旦那さんたちは全員神がかりな美しさを持つイケメンで、奥さんはニヤケ放題らしい。  ほのぼのとしながらも、複数婚が巻き起こすおかしな日常が満載。  *BL描写あり  毎週月曜日と隔週の日曜日お休みします。

軽い気持ちで超絶美少年(ヤンデレ)に告白したら

夕立悠理
恋愛
容姿平凡、頭脳平凡、なリノアにはひとつだけ、普通とちがうところがある。  それは極度の面食いということ。  そんなリノアは冷徹と名高い公爵子息(イケメン)に嫁ぐことに。 「初夜放置? ぜーんぜん、問題ないわ! だって旦那さまってば顔がいいもの!!!」  朝食をたまに一緒にとるだけで、満足だ。寝室別でも、他の女の香水の香りがしてもぜーんぜん平気。……なーんて、思っていたら、旦那さまの様子がおかしい? 「他の誰でもない君が! 僕がいいっていったんだ。……そうでしょ?」  あれ、旦那さまってば、どうして手錠をお持ちなのでしょうか?  それをわたしにつける??  じょ、冗談ですよね──!?!?

二度目の人生は異世界で溺愛されています

ノッポ
恋愛
私はブラック企業で働く彼氏ナシのおひとりさまアラフォー会社員だった。 ある日 信号で轢かれそうな男の子を助けたことがキッカケで異世界に行くことに。 加護とチート有りな上に超絶美少女にまでしてもらったけど……中身は今まで喪女の地味女だったので周りの環境変化にタジタジ。 おまけに女性が少ない世界のため 夫をたくさん持つことになりー…… 周りに流されて愛されてつつ たまに前世の知識で少しだけ生活を改善しながら異世界で生きていくお話。

最愛の番~300年後の未来は一妻多夫の逆ハーレム!!? イケメン旦那様たちに溺愛されまくる~

ちえり
恋愛
幼い頃から可愛い幼馴染と比較されてきて、自分に自信がない高坂 栞(コウサカシオリ)17歳。 ある日、学校帰りに事故に巻き込まれ目が覚めると300年後の時が経ち、女性だけ死に至る病の流行や、年々女子の出生率の低下で女は2割ほどしか存在しない世界になっていた。 一妻多夫が認められ、女性はフェロモンだして男性を虜にするのだが、栞のフェロモンは世の男性を虜にできるほどの力を持つ『α+』(アルファプラス)に認定されてイケメン達が栞に番を結んでもらおうと近寄ってくる。 目が覚めたばかりなのに、旦那候補が5人もいて初めて会うのに溺愛されまくる。さらに、自分と番になりたい男性がまだまだいっぱいいるの!!? 「恋愛経験0の私にはイケメンに愛されるなんてハードすぎるよ~」

処理中です...