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第3部 周りと仲良くしろと言われました

31.ずっと理由を探しています

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 陰暦では8月になったばかり。太陽暦では9月。陰暦の八月十五が中秋節だ。
 秋の風が吹いているのに8月とはこれ如何に、と香子は思ってしまう。大陸もカレンダーは太陽暦だったが、春節(旧正月)、端午節、中秋節は陰暦を採用していた。だから年間のスケジュールなどいろいろ毎年日付が変わってよくわからなかった。

(二学期の始まりとかも春節が基準だったよね。おかげで毎年微妙に開始日とか休みとか違ったなー)

 日付をチェックしておくのが面倒だったなと香子は思う。陰暦だと歳の数え方も違う。数え年というのがよくわからない。産まれた時はすでに1歳で、正月に2歳になる。そう考えると香子はこちらでは23歳になるはずだ。年が明けたら24歳かと思ったら、香子はなんか嫌になった。別に年を取るのが嫌なわけではない。まだ自分は22歳だと思っていたから24歳? と考えたら嫌になったのだ。
 青龍と穏やかに外でお茶を飲み、とりとめもない話をした。香子の留学時代の話がどうしてもメインになってしまうのだが、四神はみな機嫌よさそうに香子の話を聞いてくれる。助言が欲しいなと思えば四神なりに考えた言葉をくれたりして、もちろん的を射てない答えも多いのだが、香子は怒ったり笑ったりしながらもこの日々を愛しく感じていた。

(いつまでも不安定な状態じゃ困るよね)

 周りにとってもそうだが、何よりも香子自身がつらい。

(情緒を安定させる為に抱かれるのかぁ……)

 ちょっと抵抗はあるが、それはそれでありかなと香子も思った。大祭に出る為に抱かれるよりは理由としてしっくりしている気がしたのだ。
 青龍の室に移動し、居間の長椅子に腰掛けて、香子は青龍の腕をぎゅーっと抱きしめた。

香子シャンズ……あまりそういうかわいいことをしてくれるな』

 青龍が苦笑する。

『青龍様は何もしちゃだめです』
『酷なことを言う』
『私が抱きしめたいんです』
『……抱きしめるぐらいはよかろう?』

 笑いを含んだ声に、香子は少しだけ考えた。

『口づけ禁止、胸とか、その……下半身に触るのも禁止です』
『足に触れるのもだめか』
『……膝から下でしたら……』
『……わかった。だが髪に口づけることは許してくれまいか』
『っっ! だ、だめですっ!』

 髪に口づけるぐらい、と思うかもしれないが、この四神という連中は髪を一房取って香子の目の前で口づけたりするのだ。もうなんていうか恥ずかしくていたたまれなくなるからだめだと香子は思っている。

『香子が厳しい……』

 落胆したように言われてもだめなものはだめなのである。口づけだけなら……なんて答えたら全身に口づけしたりするのだ。もちろんそれは足の間も例外ではない。昼間から甘く啼かされるのは、香子としては勘弁してほしいところである。

『しかたないな……だがそなたを領地に連れ帰ることができたなら……わかっているな?』
(いやあああ~~~愛欲の日々はいやあああ~~~)

 エロマンガのような日々を思い浮かべて香子は真っ赤になった。青龍がふふっと笑う。

『愛らしいものだ』

 むかつく、と香子は思ったがしょうがない。生きている年数も経験も違うのだ。そのわりにはかなり子どもっぽいところもあるのだが。
 ふと香子は考える。

『その……青龍様の初めての相手ってどんな女性だったんですか?』
『気になるのか?』
『いえ、別に。ただ、どんな人とどんな風に抱き合ったのかなーって』

 嫉妬も何もなく純粋な興味である。ここらへんが香子に色気がない所以だろう。それでも四神に抱かれた影響で周りを色気で悩殺していたりもするのだが。
 青龍は少し黙った。記憶を辿っているのだろうと、香子は茶杯に手を伸ばした。丸一日飲んでいても飽きない。お茶を飲むのは幸せである。

『ふむ……あまりよくは覚えていないが、確かそれなりに男に慣れた女性であったな。一から手ほどきをしてもらい、何度か相手をさせた記憶はある。我はあまりそういうことに興味は持てなかった故、すぐに眷属に下げ渡したが……』
『それって、何年ぐらい前の話ですか?』
『成人してすぐだ。そうだな……五十年ほど前だろうか』

 普通に考えたらその女性はもう生きていないだろう。だが眷属に下げ渡しと言っていた。

『その方の消息はご存知ですか?』
『いや……知らぬな』
『そうですか』

 それならそれでいいだろうと、香子は追及しないことにした。青龍に抱かれたとはいえ、その女性が眷属の誰かの”つがい”であったらいいなと思ってしまった。”つがい”であればその眷属と共に長い時を過ごすことになる。まだ当時の美貌を留めたまま青龍の領地で暮らしているのではないかと思ったら、なんだか嬉しくなった。本当にそうだったらいいと香子は思う。でもそうでなかったら悲しいから、香子は聞かないことにした。だからその女性は、香子の想像の中で幸せに過ごすのだ。
 光石が光り始めた。表が暗くなってきたのだろう。
 香子はなんとなくおなかがすいてきたなと思った。
 さて、夕飯に雪菜炒毛豆(漬物と枝豆の炒め物)は出てくるだろうか。
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