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第3部 周りと仲良くしろと言われました
20.夜の散歩は楽しいのです
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いつも通り入浴をする。片方の浴室はいつでも入れるようにはなっている。それは四神の入浴が変則的だからである。
黒月は何か言いたそうにしていたが沈黙を守った。きっと香子にも息抜きのようなものが必要だと思ったのだろう。あくまでそれは香子の想像ではあるが。ようは藪をつついて蛇が出てくるなんて事態になったら困るのだ。何も言わないならそれでいい。
そうでなくても今夜のことは基本ないしょである。延夕玲や紅児にも知られてはならない。自然香子は黙った。
今日は一旦朱雀の室に向かうことになっている。部屋に朱雀が迎えにきてくれた。
『香子、待たせたか』
『いいえ、大丈夫です』
はにかみながらいつも通り抱き上げられて朱雀の室に向かう。その様子を見守っていた侍女が身もだえていたのもいつも通りだったが、香子は知らない。
『……目のやり場に困るな』
寝室に連れ込まれて、床に下ろされる。朱雀は薄い睡衣姿の香子を眺めてそう呟いた。香子は急いで睡衣の前をかき合わせた。
『今日は駄目ですからね……』
『戻ってきた後ならばよかろう』
『う……そ、それは、まぁ……』
どうせ明日は何もない。張錦飛が次に来るのもその二日後なので明日は一日眠っていても大丈夫である。
(帰ってきたら……何をされちゃうのかしら……)
いつもと変わらなかったとしても、四神との交わりはかなりハードだと香子は思う。抱かれている最中はわけがわからなくなっているからいいのだが、翌朝全てフラッシュバックしてしまうのがいたたまれない。どれだけ喘いで求めて抱かれ続けたかを鮮明に思い出してしまうのだ。
(……ん……?)
香子は少し違和感を覚えた。青龍との交わりに曖昧な部分があったことを香子は思い出した。だがそれならそれでいいと香子は思い直した。もしかしたらそこには、香子がまだ耐えらない何かがあるのかもしれなかった。
香子は基本的にそういうことは追及しない。自分が知らなくてもいいことはあると思っている。何より、まだ知らなくていいことを知ってそれを思い悩むのは違うと思うのだ。
白虎がやってきた。居間から寝室に入ってきたことから、堂々と室から歩いてきたのかと香子は首を傾げた。
『朱雀兄……抱くのか?』
『いや? 出かけるのだろう』
『うむ』
床に香子が下ろされていることから、白虎は香子を抱くのかと勘違いしたようだった。そこで朱雀が否定してくれたことで香子は胸を撫で下ろした。ちょっと心臓に悪いやりとりである。
白虎は長袍を脱ぐと香子に着せ、そのままふわりと抱き上げた。
『捕まっておれ』
『……はい』
香子は思わず頬を染めた。なんだか、白虎がとても頼もしく映ったのだ。
素直に白虎の胸に寄り掛かる。白虎が喉の奥でククッと笑った。
『香子、あまりかわいいことをしてくれるな……』
何が……と思った時、目を塞がれた。そして、パァッと瞼越しにもわかる光が朱雀の室を満たした。
『……参るぞ』
普段のバスよりも更に低い声。香子はいつのまにかもふもふの白虎の背に乗せられ、四神宮の外に出ていた。
『わぁ……』
大きな白い虎が空を駆ける。その横を朱い燃えているような鳥が飛んでいた。
『あれは……朱雀様……?』
『さよう』
前回はその背に乗せてもらったからこうして全貌を見ることは叶わなかった。離れたところからだといろいろな色があるようには見えなかったが、波打つ羽がまるでめらめらと燃えているようでとても美しかった。
『好漂亮啊……』(なんて綺麗)
『着くぞ』
『あ、はい……』
白虎の真っ白い毛に包まれたまま前方を見る。もう景山の上だった。
『こうしてみると近いですね』
『そなたが望むならもっと遠くまで行こう』
『いいえいいえ……大丈夫です。……今はまだ……』
今夜は景山に連れてきてもらっただけで十分だった。人口の山の頂にある万春亭のベランダにふわりと降り立つ。元の世界であれば街の明かりが沢山あって、ライトアップされた紫禁城が見下ろせるのだろう。だがこの世界の光源は蝋燭や光石が頼りだからほとんど何も見えなかった。
『ここからの景色は……夕方に見るのがいいかもしれませんね……』
『そのようだな』
四神が側にいるから、はっきりと外気を感じられるほどではない。でもなんというか、王城の外にいるというのがいいのだ。
『今日ではないですけど……またこうして外に連れ出してほしいです』
『……人には見せぬぞ』
白虎の物言いに香子は笑んだ。
『はい、人に会いたいとは思いません。ただ……王城に閉じこもっているだけでは気が塞ぐのです。だからこうして、誰もいないようなところに連れていってほしいです』
『そなたが望むのならばいくらでも』
『ありがとうございます』
何かを見たいとイメージしたわけではないのだ。香子は元々必要以上に想像しない。そうすればいつだって驚きが待っていると香子は思っていた。
暗くて、王城の全貌もよくわからない。王城の向こうには街があることもわかっているが、その灯りはそれほど明るくはなかった。
(全て違う……)
香子にとって、北京はそれほど明るい街ではなかった。でもこんなに暗くもなかったのだ。
(本当に、違う世界にいるのだわ……)
だからなんだということもないが、香子はこうやって世界に順応していくのだと思った。
黒月は何か言いたそうにしていたが沈黙を守った。きっと香子にも息抜きのようなものが必要だと思ったのだろう。あくまでそれは香子の想像ではあるが。ようは藪をつついて蛇が出てくるなんて事態になったら困るのだ。何も言わないならそれでいい。
そうでなくても今夜のことは基本ないしょである。延夕玲や紅児にも知られてはならない。自然香子は黙った。
今日は一旦朱雀の室に向かうことになっている。部屋に朱雀が迎えにきてくれた。
『香子、待たせたか』
『いいえ、大丈夫です』
はにかみながらいつも通り抱き上げられて朱雀の室に向かう。その様子を見守っていた侍女が身もだえていたのもいつも通りだったが、香子は知らない。
『……目のやり場に困るな』
寝室に連れ込まれて、床に下ろされる。朱雀は薄い睡衣姿の香子を眺めてそう呟いた。香子は急いで睡衣の前をかき合わせた。
『今日は駄目ですからね……』
『戻ってきた後ならばよかろう』
『う……そ、それは、まぁ……』
どうせ明日は何もない。張錦飛が次に来るのもその二日後なので明日は一日眠っていても大丈夫である。
(帰ってきたら……何をされちゃうのかしら……)
いつもと変わらなかったとしても、四神との交わりはかなりハードだと香子は思う。抱かれている最中はわけがわからなくなっているからいいのだが、翌朝全てフラッシュバックしてしまうのがいたたまれない。どれだけ喘いで求めて抱かれ続けたかを鮮明に思い出してしまうのだ。
(……ん……?)
香子は少し違和感を覚えた。青龍との交わりに曖昧な部分があったことを香子は思い出した。だがそれならそれでいいと香子は思い直した。もしかしたらそこには、香子がまだ耐えらない何かがあるのかもしれなかった。
香子は基本的にそういうことは追及しない。自分が知らなくてもいいことはあると思っている。何より、まだ知らなくていいことを知ってそれを思い悩むのは違うと思うのだ。
白虎がやってきた。居間から寝室に入ってきたことから、堂々と室から歩いてきたのかと香子は首を傾げた。
『朱雀兄……抱くのか?』
『いや? 出かけるのだろう』
『うむ』
床に香子が下ろされていることから、白虎は香子を抱くのかと勘違いしたようだった。そこで朱雀が否定してくれたことで香子は胸を撫で下ろした。ちょっと心臓に悪いやりとりである。
白虎は長袍を脱ぐと香子に着せ、そのままふわりと抱き上げた。
『捕まっておれ』
『……はい』
香子は思わず頬を染めた。なんだか、白虎がとても頼もしく映ったのだ。
素直に白虎の胸に寄り掛かる。白虎が喉の奥でククッと笑った。
『香子、あまりかわいいことをしてくれるな……』
何が……と思った時、目を塞がれた。そして、パァッと瞼越しにもわかる光が朱雀の室を満たした。
『……参るぞ』
普段のバスよりも更に低い声。香子はいつのまにかもふもふの白虎の背に乗せられ、四神宮の外に出ていた。
『わぁ……』
大きな白い虎が空を駆ける。その横を朱い燃えているような鳥が飛んでいた。
『あれは……朱雀様……?』
『さよう』
前回はその背に乗せてもらったからこうして全貌を見ることは叶わなかった。離れたところからだといろいろな色があるようには見えなかったが、波打つ羽がまるでめらめらと燃えているようでとても美しかった。
『好漂亮啊……』(なんて綺麗)
『着くぞ』
『あ、はい……』
白虎の真っ白い毛に包まれたまま前方を見る。もう景山の上だった。
『こうしてみると近いですね』
『そなたが望むならもっと遠くまで行こう』
『いいえいいえ……大丈夫です。……今はまだ……』
今夜は景山に連れてきてもらっただけで十分だった。人口の山の頂にある万春亭のベランダにふわりと降り立つ。元の世界であれば街の明かりが沢山あって、ライトアップされた紫禁城が見下ろせるのだろう。だがこの世界の光源は蝋燭や光石が頼りだからほとんど何も見えなかった。
『ここからの景色は……夕方に見るのがいいかもしれませんね……』
『そのようだな』
四神が側にいるから、はっきりと外気を感じられるほどではない。でもなんというか、王城の外にいるというのがいいのだ。
『今日ではないですけど……またこうして外に連れ出してほしいです』
『……人には見せぬぞ』
白虎の物言いに香子は笑んだ。
『はい、人に会いたいとは思いません。ただ……王城に閉じこもっているだけでは気が塞ぐのです。だからこうして、誰もいないようなところに連れていってほしいです』
『そなたが望むのならばいくらでも』
『ありがとうございます』
何かを見たいとイメージしたわけではないのだ。香子は元々必要以上に想像しない。そうすればいつだって驚きが待っていると香子は思っていた。
暗くて、王城の全貌もよくわからない。王城の向こうには街があることもわかっているが、その灯りはそれほど明るくはなかった。
(全て違う……)
香子にとって、北京はそれほど明るい街ではなかった。でもこんなに暗くもなかったのだ。
(本当に、違う世界にいるのだわ……)
だからなんだということもないが、香子はこうやって世界に順応していくのだと思った。
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