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第3部 周りと仲良くしろと言われました
16.自分の気持ちがわからなくなったので一緒に過ごしてみようと思います
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『というわけで今日は白虎様と一日過ごしますのでよろしくお願いします』
白虎は珍しくなんともいえない表情をした。表情が少しでも動くと嬉しくなる。香子は笑んだ。
『聞いてはいるが……』
念話で昨日のうちに四神間の意思の疎通はできているのだろう。そうと決まれば話は早い。
『私、なんかいろいろわからなくなってしまったんです』
『わからない、とは』
香子は今白虎の腕の中だ。長椅子に悠然と腰かけた白虎を椅子にした状態で、顔を少し俯かせた。
『……白虎様のことが好きなのかどうか、です』
『……そなたを悩ませてしまったか』
白虎が香子の髪に口づける。
『考えすぎてしまって……抱かれる抱かれない以前の話でどうなのかな、と』
『何かしたいことはあるか?』
『したいこと……』
考える。外に出たいな、と思った。
『……言うだけならただですよね』
『我にできることならばなんなりと』
そもそも四神に叶えられないことなどあるのだろうか。感情として叶えたくないことはあるだろうが。
『……白虎様と外に出たいです。白虎様の背に乗って遠くまで行くとかしてみたいです』
『ふむ』
そもそも本性を現した白虎の背に乗れるのかという問題もあるだろうが、春の大祭で朱雀の背に乗せてもらったぐらいなのだから大丈夫だろう。あれは飛んだのだ。香子が止めなければ万里の長城まで飛んでいったに違いない。やっぱり何もかも放棄して行けばよかったのではないかとあの後ちら、と思ったことは内緒だ。
『……景山ぐらいならばよいだろう』
『でも御姿が』
『夜に向かえばよい』
夜、白虎の背に乗って景山を駆けてもらえるなんて、想像しただけでわくわくしてしまう。香子は目を輝かせた。
『それでそなたとの愛が育めるのならば安いものだ』
『……そうですね』
そういえば四神はその領地から駆けてきたと聞いたような気がする。今更ではあるが、どうやってきたのだろうかと興味が湧いた。
『そういえば、四神は各自領地から出てここまで来たわけですよね。走ってきたんですか? それとも……』
『跳んできたが』
ということは空間転移だろうか。なんとも面白くない話である。
『なんかこう、四神の威を示す的な行動は取らなかったのですか?』
『天皇からの神託の後、皇帝の前に出たぐらいか』
『ああ……』
目の前に四神がいきなり現れるとか心臓に悪いだろうなと、香子はほんの少しだけ皇帝に同情した。あくまでほんの少しだが。
『よく皇帝の心臓が止まりませんでしたね』
止まっていたら大事だったろうなと香子はおかしくなった。
『神託なれば皇帝にも届いたであろう』
心構えが少しはあったということか。
(どこまで神託が届いたんだろう?)
ちら、と思う。今更ながらどうでもいいことだが、香子もそんな神託を聞いてみたかったなと思ったのだ。もちろんただの好奇心である。
『夜、白虎様と景山に外出ってできそうですか?』
『いちいち断らなければできるのではないか』
確かに、よく考えなくても四神が人に従う必要などないのだ。自由に領地と行き来をしてもいいだろうし、きっとどこにだって行ける。ただ四神には何がしたい、ということがないからおとなしく四神宮にいるのだろう。
室の隅に控えている白雲を見る。
『白虎様、まずは四神同士でお話を』
『すでに伝えてある。見つからなければなんということもなかろう』
『……見つからないなんてことができるのですか?』
『姿を一時見せないようにするなど造作もないことだ』
『ええー……』
本当に神様というのはチートだと香子は思う。
『じゃあ、本当はどこか行こうと思えばどこへでも行けたってことですか?』
ここから出てどこかへ行きたいという香子の思いはなんだったのだ。
『……我ら四神はこの大陸の中ならばどこへでも行けるが、そなたはそうではない』
『どういうことですか』
『そなたと我らの心が繋がっていなければできぬ。それまでは出すわけにはいかなかった』
(心が繋がった、って……?)
香子は不思議そうな顔をした。
玄武と朱雀とは毎晩のように抱き合っている。朝の凄まじいほどの空腹は未だに慣れないが、抱かれることを嫌だとは思わない。むしろそこまで愛されていることを嬉しいとすら感じている。青龍も、一度抱かれると丸一日潰れてしまう為抱かれるには心の準備がいるが、嫌だとは思わない。あのすました黒い瞳に色が混じるのはどきどきしてしまう。
白虎は……。
そうだ、と香子は思う。
デリカシーはないし、抱く時は獣の姿になってしまうというが、こうして腕の中に囚われるのは嫌ではない。
でも誰の腕の中でも自分はこうなのだろうかという疑問が浮かぶ。
趙文英や王英明の顔を思い出す。二人とも見た目はいい男だ。その腕の中にいる自分を思い浮かべて……。
(ないわー絶対にないわー)
勘弁してほしいと香子は思った。
『……香子?』
ゆらり、と不穏な何かが立ち上るのを感じた。やヴぁい、と香子は思う。こんなに触れ合っていたら香子がなんとなく考えていたことが伝わったかもしれなかった。
『私……白虎様のこと、なんか好きみたいです……』
『香子!』
しまった! と香子は思ったが、それはそれで後の祭りだった。
白虎は珍しくなんともいえない表情をした。表情が少しでも動くと嬉しくなる。香子は笑んだ。
『聞いてはいるが……』
念話で昨日のうちに四神間の意思の疎通はできているのだろう。そうと決まれば話は早い。
『私、なんかいろいろわからなくなってしまったんです』
『わからない、とは』
香子は今白虎の腕の中だ。長椅子に悠然と腰かけた白虎を椅子にした状態で、顔を少し俯かせた。
『……白虎様のことが好きなのかどうか、です』
『……そなたを悩ませてしまったか』
白虎が香子の髪に口づける。
『考えすぎてしまって……抱かれる抱かれない以前の話でどうなのかな、と』
『何かしたいことはあるか?』
『したいこと……』
考える。外に出たいな、と思った。
『……言うだけならただですよね』
『我にできることならばなんなりと』
そもそも四神に叶えられないことなどあるのだろうか。感情として叶えたくないことはあるだろうが。
『……白虎様と外に出たいです。白虎様の背に乗って遠くまで行くとかしてみたいです』
『ふむ』
そもそも本性を現した白虎の背に乗れるのかという問題もあるだろうが、春の大祭で朱雀の背に乗せてもらったぐらいなのだから大丈夫だろう。あれは飛んだのだ。香子が止めなければ万里の長城まで飛んでいったに違いない。やっぱり何もかも放棄して行けばよかったのではないかとあの後ちら、と思ったことは内緒だ。
『……景山ぐらいならばよいだろう』
『でも御姿が』
『夜に向かえばよい』
夜、白虎の背に乗って景山を駆けてもらえるなんて、想像しただけでわくわくしてしまう。香子は目を輝かせた。
『それでそなたとの愛が育めるのならば安いものだ』
『……そうですね』
そういえば四神はその領地から駆けてきたと聞いたような気がする。今更ではあるが、どうやってきたのだろうかと興味が湧いた。
『そういえば、四神は各自領地から出てここまで来たわけですよね。走ってきたんですか? それとも……』
『跳んできたが』
ということは空間転移だろうか。なんとも面白くない話である。
『なんかこう、四神の威を示す的な行動は取らなかったのですか?』
『天皇からの神託の後、皇帝の前に出たぐらいか』
『ああ……』
目の前に四神がいきなり現れるとか心臓に悪いだろうなと、香子はほんの少しだけ皇帝に同情した。あくまでほんの少しだが。
『よく皇帝の心臓が止まりませんでしたね』
止まっていたら大事だったろうなと香子はおかしくなった。
『神託なれば皇帝にも届いたであろう』
心構えが少しはあったということか。
(どこまで神託が届いたんだろう?)
ちら、と思う。今更ながらどうでもいいことだが、香子もそんな神託を聞いてみたかったなと思ったのだ。もちろんただの好奇心である。
『夜、白虎様と景山に外出ってできそうですか?』
『いちいち断らなければできるのではないか』
確かに、よく考えなくても四神が人に従う必要などないのだ。自由に領地と行き来をしてもいいだろうし、きっとどこにだって行ける。ただ四神には何がしたい、ということがないからおとなしく四神宮にいるのだろう。
室の隅に控えている白雲を見る。
『白虎様、まずは四神同士でお話を』
『すでに伝えてある。見つからなければなんということもなかろう』
『……見つからないなんてことができるのですか?』
『姿を一時見せないようにするなど造作もないことだ』
『ええー……』
本当に神様というのはチートだと香子は思う。
『じゃあ、本当はどこか行こうと思えばどこへでも行けたってことですか?』
ここから出てどこかへ行きたいという香子の思いはなんだったのだ。
『……我ら四神はこの大陸の中ならばどこへでも行けるが、そなたはそうではない』
『どういうことですか』
『そなたと我らの心が繋がっていなければできぬ。それまでは出すわけにはいかなかった』
(心が繋がった、って……?)
香子は不思議そうな顔をした。
玄武と朱雀とは毎晩のように抱き合っている。朝の凄まじいほどの空腹は未だに慣れないが、抱かれることを嫌だとは思わない。むしろそこまで愛されていることを嬉しいとすら感じている。青龍も、一度抱かれると丸一日潰れてしまう為抱かれるには心の準備がいるが、嫌だとは思わない。あのすました黒い瞳に色が混じるのはどきどきしてしまう。
白虎は……。
そうだ、と香子は思う。
デリカシーはないし、抱く時は獣の姿になってしまうというが、こうして腕の中に囚われるのは嫌ではない。
でも誰の腕の中でも自分はこうなのだろうかという疑問が浮かぶ。
趙文英や王英明の顔を思い出す。二人とも見た目はいい男だ。その腕の中にいる自分を思い浮かべて……。
(ないわー絶対にないわー)
勘弁してほしいと香子は思った。
『……香子?』
ゆらり、と不穏な何かが立ち上るのを感じた。やヴぁい、と香子は思う。こんなに触れ合っていたら香子がなんとなく考えていたことが伝わったかもしれなかった。
『私……白虎様のこと、なんか好きみたいです……』
『香子!』
しまった! と香子は思ったが、それはそれで後の祭りだった。
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