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第3部 周りと仲良くしろと言われました

13.堂々巡りは勘弁してほしいのです

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 茶会の後は大変だった。
 御花園を出てから、香子は白虎の腕から朱雀の腕に移された。

香子シャンズ、やはり我は反対だ』

 四神宮に戻ると、香子は朱雀にすごい剣幕で迫られた。
 香子は困ってしまった。玄武が反対を貫いていることは承知している。でも春の大祭に共に出た朱雀にまで反対されるのはつらい。
 わかってはいるのだ。四神は花嫁を人に見せたくはない。何故なら花嫁は元々人だからだ。

(……あれー……?)

 そこまで考えて香子は首を傾げた。本能で嫌がっていることはわかるが、それは花嫁のことを信用していないことに他ならないか。

『朱雀様は……私が四神以外の誰かに想いを寄せる可能性があるとでも思っていらっしゃるのですか?』
『そうではない。そなたはまだ不安定だ。無意識に人を誘惑していると聞いた』

 そんな話もあったな、と香子も思い出した。四神や眷属は人と感じ方が違うのであくまで伝聞である。
 しかし。

『でも……それって白虎様に抱かれれば解消しますよね?』
『む……それは確かに……』

 珍しく朱雀が詰まる。香子はなんだか嬉しくなった。

『正直白虎様に抱かれるのは想像しただけでも怖いです。でも抱かれれば一応安定? しますよね。そうしたら出てもいいのではないですか?』

 朱雀は眉を寄せた。

『……もし……白虎にそなたが抱かれる際我が手伝わぬと言ったら……』

 そんなに嫌なのか。香子は朱雀を睨みつけた。

『……そんなことをおっしゃる朱雀様なんて嫌いです!!』

 四神同士は嫉妬しないのではなかったか。白虎は例外だが朱雀は今まで玄武や青龍に香子が抱かれる時も寛容だった。まるでそれが当たり前といわんばかりに共に何度も交わった。
 なのに。

『香子……』
『……下ろしてください』

 あまり表情は動かないがおろおろしているのがわかる。だが言った言葉は戻らないのだ。

『下ろしてください。部屋に戻ります!』

 自分を抱きしめる朱雀の腕を外させようとする。だが朱雀の腕は少しも緩まない。香子は更に腹が立った。

『香子、すまぬ。我は言ってはならぬことを……』
『わかってますよ! 朱雀様が、私を人目に晒したくないことぐらいわかってます。でももう何度も話したじゃないですか! 一度きりだって約束したじゃないですか。なのになんでそれすらもダメだって……もう、もう嫌あっっ!!』
『香子』
『離して! 離してください! もう一人にして! もうやだぁっっ!!』

 朱雀は暴れようとする香子をきつく抱きしめ、決して逃がさなかった。
 バカみたいだと香子だって思う。秋の大祭に出るか出ないかということをいつまでも言い合っているのは不毛だ。いっそのこと諦めてもいいのではないかと思ってしまう。だけどそれではだめなのだ。ここで諦めたら香子は一生引きずるだろう。中学生の頃のとても嫌だった記憶が蘇った。
 それはなんてことない席替えだった。くじを引いて、香子は前から二番目の席になった。そしたら一番前の席になった子が替えろと言い出したのだ。もちろん香子は拒否した。けれどその子はわざわざ友達まで呼び、改めてじゃんけんまでしろと香子に強要したのだ。結果根負けした香子はじゃんけんをして負けた。香子は一番前の席になった。一番前の席になったことで特に不利益はなかったと思う。けれどその、何がなんでも自分の思い通りにしようとした子のことを香子は今でも大嫌いだし、一時期は頻繁に思い出し、当時根負けした自分が許せなくてずっとくやしい思いをしていた。
 自分は駄々をこねていたあの子と同じなのだろうか。秋の大祭に出たいと望むことはそんなにわがままなことだろうか。

「わかんない……わかんないよ……なんでなのよ……なんでこんなことで言い争わなきゃいけないの……」

 一人になりたい。もう四神の側にはいたくない。王城から逃げ出したい。家に帰りたい。もう一年以上も日本に帰っていない。
 理不尽だ。あまりにも理不尽だった。なんの確認もなくいきなり異世界に連れてこられて、四神の言うことを聞かなければいけないなんて。物語は自分が読んでいる分にはいいのだ。自分が登場人物になんてなるものじゃない。

『香子……白虎に抱かれよ。我が……そなたが恐れぬように側にいる。どうしても怖いというのなら玄武兄も青龍も呼ぼう』

 朱雀が何度も香子の頭を撫でた。今更そんなことを言われても嬉しくはなかった。
 早くこの腕の中から出してほしかった。

『……離してください』
『……それはできぬ』
『朱雀様なんか大っ嫌い!』
『我は……そなたを愛している……』

 涙が出た。それまで香子が我慢していた涙がこぼれた。
 愛しているなんて言葉でごまかされる自分が嫌だった。でも朱雀のことを嫌いになんてなれない。

「ううう~~~……」

 くやし涙が後から後から流れた。それを朱雀が唇で吸う。

『香子……香子……』

 むかつく、と香子は思う。なかなか涙は止まらなかった。
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