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第3部 周りと仲良くしろと言われました
12.茶会に招かれたら皇帝も来ていました
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覚悟なんかできない。
ただ先代の花嫁より時間はあったと香子は思う。
翌々日は皇太后に呼ばれて御花園でお茶をした。白虎と過ごす日なので特に調整も必要なく、白虎に抱かれ、朱雀を供にして御花園に向かった。なんで二神体制なのかというといろいろあったからだ。もちろん延夕玲、黒月、白雲も一緒である。だからなんで紅夏がこないのか。やっぱり説教しなければならないと香子は思った。
『老佛爷におかれましてはご機嫌麗しく……』
『うむ。機嫌はいいのじゃが、かような挨拶は不要よの』
『失礼しました』
挨拶するにしてもしないにしても白虎の腕の中からだ。不敬には違いないが下ろしてくれないのだからしかたない。これはいつものことである。
今日は皇太后の他に皇帝と皇后の姿もあった。
『仲が良くて何よりです』
皇帝がにこやかに言う。こっちのことよりそっちをどうにかしろと香子は思う。
『万瑛、皇帝は貴女に無礼を働いてはいないかしら?』
『え……あ、はい。つつがなく……』
皇后が戸惑ったように答える。皇帝の顔が引きつった。
『花嫁様は手厳しい……』
どの口が言うかと香子は睨む。
『家庭円満で暮らせない皇帝に国をきちんと治められるとは思えません。玄宗の例もありますし』
若い頃玄宗皇帝はかなりカッコよかったのだ。前半の治世は「開元の治」と称され、唐の絶頂期であったと言われている。楊貴妃に惑わされた晩年のおかげで評判は地に落ちてしまったが。
『ほ……花嫁様はほんに博学じゃのう』
皇太后がころころと笑う。
『歴史が好きなだけですわ』
正確には中国の歴史が好きなのだ。日本の歴史はさっぱりである。それはそれでどうなのだといつも香子は思うが、日本の歴史書は持っていない。そしてこの世界には残念ながら日本はなさそうである。
ちょっと言い過ぎたかなとは思ったが、女性がひどい目に遭うのを見過ごすことはできない。DVをするぐらいなら関わるなと思ってしまう。今度皇后とガールズトークした方がいいかなと思ってしまった。
皇帝が咳払いをした。
『老佛爷』
『うむ、こたびは皇上から話があるようで声をかけたが……かまわなかったじゃろうか』
『なんだ』
白虎が不機嫌そうに唸る。どうせそんなところだろうと香子も思ってはいたが、皇帝からの直接の呼び出しだったら断る可能性もあったことから、これはこれでよかったのかもしれない。
『はい……このような席で恐縮ですが、秋の大祭の話をしてもよろしいでしょうか?』
『ならぬ』
『……は』
白虎の即答に皇帝は目を見開いた。香子は呆れて白虎の腕を軽くぽんぽんと叩く。
『秋の大祭については正直決めかねています。すでに準備に取り掛からねばならない時期だとは理解していますが……こればかりはまだわかりません』
『何か問題でも?』
『我らのことだ』
白虎が暗に口を出すなとけん制する。本当にこれは香子と白虎の間のことだ。四神が手伝うことはできるかもしれないが、他の誰にも原因を伝えることも相談もできない。
『……こたびは各国から要人が訪れることとなっております。できましたら……』
『光基』
『……は』
白虎の唸り声が地を這った。さすがにまずいと思ったらしく、皇帝は冷汗をかいた。
『……光基、我らが何のためにここにいるのか、わかっていないとは言わせぬぞ』
とうとう朱雀が口を開いた。
『……申し訳ありませぬ。妾が軽率でございました』
皇太后が取り成した。確かにこのように人目があるところで皇帝が頭を下げることなどできようはずもない。四神が皇帝を叱責するであろうことを微塵も考えていなかったのだろうか。香子は内心首を傾げた。
(皇帝だもんね。誰も皇帝を叱ることなんてできないもんね)
そこはしかたないと思うが、それで今まできてしまったことも問題である。専制君主制の弊害であろう。
(この先関わらなければどうでもいいんだけど……)
直接は関わらないかもしれないが、国に何かあった場合老百姓が気の毒だ。皇太后は聡明な人ではあるが、則天武后(中国唯一の女帝)などの例もあってか、唐は女性を政治に関わらせることはしていない。
『……秋の大祭については……まだわからないとしか言えないのです』
『かしこまりました』
そう、わからない。
気持ちの問題といったような簡単な話ではない。
香子も正直面倒くさくなっていたが、じゃあしましょうと言って、やっぱり無理です! とは言いたくないのである。
(獣姦コワイ)
蓋碗で用意されたお茶を啜る。龍井だった。なんにでも合うお茶だと香子は思う。
お茶菓子には杏仁酥(アーモンドクッキー)が用意されていて香子の頬が綻んだ。もしかしたらこれが好きだと以前伝えていたかもしれない。両手で持って食べていたら、皇太后と皇后に微笑ましそうに見られていた。
『花嫁様はほんにおいしそうにいただかれますのう』
『……杏仁酥大好きなんです』
乾き物の多いお菓子の中で一番ぐらいに好きだ。女官が侍女に目配せしたのがわかった。これから皇太后と皇后が関わったお茶会では必ず出てくるだろう。
和やかとは言い難かったが、その日の茶会はそんな風にして幕を閉じた。
ーーーーー
万瑛 皇后の名前
光基 皇帝の名前
玄宗については、世界の歴史まっぷを参照のこと。
https://sekainorekisi.com/glossary/%E7%8E%84%E5%AE%97%EF%BC%88%E5%94%90%EF%BC%89/
ただ先代の花嫁より時間はあったと香子は思う。
翌々日は皇太后に呼ばれて御花園でお茶をした。白虎と過ごす日なので特に調整も必要なく、白虎に抱かれ、朱雀を供にして御花園に向かった。なんで二神体制なのかというといろいろあったからだ。もちろん延夕玲、黒月、白雲も一緒である。だからなんで紅夏がこないのか。やっぱり説教しなければならないと香子は思った。
『老佛爷におかれましてはご機嫌麗しく……』
『うむ。機嫌はいいのじゃが、かような挨拶は不要よの』
『失礼しました』
挨拶するにしてもしないにしても白虎の腕の中からだ。不敬には違いないが下ろしてくれないのだからしかたない。これはいつものことである。
今日は皇太后の他に皇帝と皇后の姿もあった。
『仲が良くて何よりです』
皇帝がにこやかに言う。こっちのことよりそっちをどうにかしろと香子は思う。
『万瑛、皇帝は貴女に無礼を働いてはいないかしら?』
『え……あ、はい。つつがなく……』
皇后が戸惑ったように答える。皇帝の顔が引きつった。
『花嫁様は手厳しい……』
どの口が言うかと香子は睨む。
『家庭円満で暮らせない皇帝に国をきちんと治められるとは思えません。玄宗の例もありますし』
若い頃玄宗皇帝はかなりカッコよかったのだ。前半の治世は「開元の治」と称され、唐の絶頂期であったと言われている。楊貴妃に惑わされた晩年のおかげで評判は地に落ちてしまったが。
『ほ……花嫁様はほんに博学じゃのう』
皇太后がころころと笑う。
『歴史が好きなだけですわ』
正確には中国の歴史が好きなのだ。日本の歴史はさっぱりである。それはそれでどうなのだといつも香子は思うが、日本の歴史書は持っていない。そしてこの世界には残念ながら日本はなさそうである。
ちょっと言い過ぎたかなとは思ったが、女性がひどい目に遭うのを見過ごすことはできない。DVをするぐらいなら関わるなと思ってしまう。今度皇后とガールズトークした方がいいかなと思ってしまった。
皇帝が咳払いをした。
『老佛爷』
『うむ、こたびは皇上から話があるようで声をかけたが……かまわなかったじゃろうか』
『なんだ』
白虎が不機嫌そうに唸る。どうせそんなところだろうと香子も思ってはいたが、皇帝からの直接の呼び出しだったら断る可能性もあったことから、これはこれでよかったのかもしれない。
『はい……このような席で恐縮ですが、秋の大祭の話をしてもよろしいでしょうか?』
『ならぬ』
『……は』
白虎の即答に皇帝は目を見開いた。香子は呆れて白虎の腕を軽くぽんぽんと叩く。
『秋の大祭については正直決めかねています。すでに準備に取り掛からねばならない時期だとは理解していますが……こればかりはまだわかりません』
『何か問題でも?』
『我らのことだ』
白虎が暗に口を出すなとけん制する。本当にこれは香子と白虎の間のことだ。四神が手伝うことはできるかもしれないが、他の誰にも原因を伝えることも相談もできない。
『……こたびは各国から要人が訪れることとなっております。できましたら……』
『光基』
『……は』
白虎の唸り声が地を這った。さすがにまずいと思ったらしく、皇帝は冷汗をかいた。
『……光基、我らが何のためにここにいるのか、わかっていないとは言わせぬぞ』
とうとう朱雀が口を開いた。
『……申し訳ありませぬ。妾が軽率でございました』
皇太后が取り成した。確かにこのように人目があるところで皇帝が頭を下げることなどできようはずもない。四神が皇帝を叱責するであろうことを微塵も考えていなかったのだろうか。香子は内心首を傾げた。
(皇帝だもんね。誰も皇帝を叱ることなんてできないもんね)
そこはしかたないと思うが、それで今まできてしまったことも問題である。専制君主制の弊害であろう。
(この先関わらなければどうでもいいんだけど……)
直接は関わらないかもしれないが、国に何かあった場合老百姓が気の毒だ。皇太后は聡明な人ではあるが、則天武后(中国唯一の女帝)などの例もあってか、唐は女性を政治に関わらせることはしていない。
『……秋の大祭については……まだわからないとしか言えないのです』
『かしこまりました』
そう、わからない。
気持ちの問題といったような簡単な話ではない。
香子も正直面倒くさくなっていたが、じゃあしましょうと言って、やっぱり無理です! とは言いたくないのである。
(獣姦コワイ)
蓋碗で用意されたお茶を啜る。龍井だった。なんにでも合うお茶だと香子は思う。
お茶菓子には杏仁酥(アーモンドクッキー)が用意されていて香子の頬が綻んだ。もしかしたらこれが好きだと以前伝えていたかもしれない。両手で持って食べていたら、皇太后と皇后に微笑ましそうに見られていた。
『花嫁様はほんにおいしそうにいただかれますのう』
『……杏仁酥大好きなんです』
乾き物の多いお菓子の中で一番ぐらいに好きだ。女官が侍女に目配せしたのがわかった。これから皇太后と皇后が関わったお茶会では必ず出てくるだろう。
和やかとは言い難かったが、その日の茶会はそんな風にして幕を閉じた。
ーーーーー
万瑛 皇后の名前
光基 皇帝の名前
玄宗については、世界の歴史まっぷを参照のこと。
https://sekainorekisi.com/glossary/%E7%8E%84%E5%AE%97%EF%BC%88%E5%94%90%EF%BC%89/
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