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第3部 周りと仲良くしろと言われました
9.感情がついていかないのです
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今後のことについて四神に宣言した後、もう一度かつての花嫁について尋ねてみた。四神は過去の四神が見た映像の断片を見ることができるらしいのだが、あくまでそれは映像であり、その時の感情などはわからないのだと言っていた。
(なんかとんでもないことを聞いた気がする……)
ということは、音はないとしてもかつての花嫁の痴態なども見ようと思えば見れるということではないか。そういうのを見て四神は興奮するものなのだろうかとかあほなことを考えてしまった。
(うん、まぁどう考えてもあほだよね)
そんなこと聞けるはずもないし、好奇心が勝って聞こうものなら床に押し倒される未来が待っている。
(忘れよう。うん、忘れるのが一番)
香子はうんうんと頷いた。ちなみに書の老師である張錦飛に聞いた通り、かつての花嫁の中で国の行事などに参加した者はいないらしい。晩餐会に出ることや、春節の集まりに出たことはあったかもしれないが、それ以外に顔を出すことは四神が許さなかったようである。そして花嫁たちもそれに異議を唱えなかったらしい。
(まぁ、時代だよね)
儒教の国である。夫に従うのが当たり前だった。今でこそ男女平等が謳われているが、実際のところ不均衡だなと香子は思っている。それでも昔よりはましだ。
そして、この世界というか、この国では妻が夫に従うのは当然のことである。かつて張は”四神の花嫁”は違うと言ってくれた。異なる世界から、”四神の花嫁”として呼ばれたのだ。この国の常識に捕らわれる必要はない。
だから香子は主張する。
どうしてもできないというのならば諦めるが、香子が秋の大祭に参加するのを反対しているのは四神だけだ。
(って、四神が反対してるのが大問題なんだけど)
茶室で『秋の大祭に出ます』と宣言した時、玄武が一番難色を示した。
青龍と朱雀は微妙な顔をしたが、あからさまに反対はしなかった。すでに春の大祭で二神は出ている。反対などできようはずもないだろう。大祭などの行事に参加するのはこの一年だけだと伝えた。それでも、とても嫌そうだった。
そして今香子は青龍の室にいて、青龍の膝の上に納まっている。
青藍が淹れてくれたお茶を啜って、茶杯を卓に置く。
『青龍様は……』
『如何した?』
上目遣いに、後ろにいる青龍を見つめる。
『やっぱり私が……秋の大祭に出るのは反対されますか?』
青龍の眉が一瞬ピクリと動いた。
『……反対はせぬ。そうする立場には、我はない。だが……』
『嫌、ですか』
『嫌だ』
これは四神の本能のようなものだからしかたないと香子も思う。四神にとって花嫁は唯一無二で、それこそ誰にも見せたくないほど大事な存在なのだ。
『そうですよね』
四神が嫌がっているのに出るのかと、香子は自問する。
だけど、とも思う。
『……四神には理解できないと思います。私は四神と共にとても長い時間を生きていくのですよね?』
『そうなるな』
『私、国の行事に出るのはこの一年間だけだって言いました』
『…………』
『長い、長い生の中で各行事に出るのはたった一度きりです』
青龍がはっとしたように香子を優しく抱きしめた。
『その一度を諦めたら、きっと私後悔すると思います。何百年も私、後悔し続けるのは嫌なんです』
『……そなたの思うようにすればいい。我らがそなたを人に見せたくないという感情は我らの本能だ。だから主張だけはさせてほしいが……どうするか決めるのは香子、そなただ』
『……ごめんなさい』
でもわがままを通させてほしい。
きっと春節の頃も似たようなやりとりをするのだろうなと香子は思った。
とはいえ、秋の大祭に出るということは四神の反対を押し切っただけでは成せない。
春の大祭に出る為に青龍に抱かれたように、秋の大祭に出るには白虎に抱かれておかなければならない。
『中秋って、いつでしたっけ? あとどれぐらいですか?』
『……あと一月ほどではないか』
『あと一月かぁ……』
衣裳は多分また誰かが用意してくれるからいいだろうが、白虎に抱かれるのは香子がしなければならない。
(白虎様……虎の姿なんだよなぁ……)
獣姦とかホント勘弁してほしい。気持ちとしてはできるだけ後にしてほしいがそういうわけにはいかないだろう。
『先代の花嫁って……どれぐらいで先代の白虎様を受け入れたんですかね……』
『さぁな。白虎兄でもわかるかどうか……』
そういえば映像だけだと言っていた。やっぱり当時の記録などを探してもらわないとだめだろうか。そんなことを考えてしまうのは現実逃避だとわかっていながら、香子は何かきっかけがほしかったのである。
そして翌日、香子は白虎の室にいた。
どうしたらいいのか、わからぬまま。
ーーーーー
張が香子に話したことについては第二部71話参照のこと。
(なんかとんでもないことを聞いた気がする……)
ということは、音はないとしてもかつての花嫁の痴態なども見ようと思えば見れるということではないか。そういうのを見て四神は興奮するものなのだろうかとかあほなことを考えてしまった。
(うん、まぁどう考えてもあほだよね)
そんなこと聞けるはずもないし、好奇心が勝って聞こうものなら床に押し倒される未来が待っている。
(忘れよう。うん、忘れるのが一番)
香子はうんうんと頷いた。ちなみに書の老師である張錦飛に聞いた通り、かつての花嫁の中で国の行事などに参加した者はいないらしい。晩餐会に出ることや、春節の集まりに出たことはあったかもしれないが、それ以外に顔を出すことは四神が許さなかったようである。そして花嫁たちもそれに異議を唱えなかったらしい。
(まぁ、時代だよね)
儒教の国である。夫に従うのが当たり前だった。今でこそ男女平等が謳われているが、実際のところ不均衡だなと香子は思っている。それでも昔よりはましだ。
そして、この世界というか、この国では妻が夫に従うのは当然のことである。かつて張は”四神の花嫁”は違うと言ってくれた。異なる世界から、”四神の花嫁”として呼ばれたのだ。この国の常識に捕らわれる必要はない。
だから香子は主張する。
どうしてもできないというのならば諦めるが、香子が秋の大祭に参加するのを反対しているのは四神だけだ。
(って、四神が反対してるのが大問題なんだけど)
茶室で『秋の大祭に出ます』と宣言した時、玄武が一番難色を示した。
青龍と朱雀は微妙な顔をしたが、あからさまに反対はしなかった。すでに春の大祭で二神は出ている。反対などできようはずもないだろう。大祭などの行事に参加するのはこの一年だけだと伝えた。それでも、とても嫌そうだった。
そして今香子は青龍の室にいて、青龍の膝の上に納まっている。
青藍が淹れてくれたお茶を啜って、茶杯を卓に置く。
『青龍様は……』
『如何した?』
上目遣いに、後ろにいる青龍を見つめる。
『やっぱり私が……秋の大祭に出るのは反対されますか?』
青龍の眉が一瞬ピクリと動いた。
『……反対はせぬ。そうする立場には、我はない。だが……』
『嫌、ですか』
『嫌だ』
これは四神の本能のようなものだからしかたないと香子も思う。四神にとって花嫁は唯一無二で、それこそ誰にも見せたくないほど大事な存在なのだ。
『そうですよね』
四神が嫌がっているのに出るのかと、香子は自問する。
だけど、とも思う。
『……四神には理解できないと思います。私は四神と共にとても長い時間を生きていくのですよね?』
『そうなるな』
『私、国の行事に出るのはこの一年間だけだって言いました』
『…………』
『長い、長い生の中で各行事に出るのはたった一度きりです』
青龍がはっとしたように香子を優しく抱きしめた。
『その一度を諦めたら、きっと私後悔すると思います。何百年も私、後悔し続けるのは嫌なんです』
『……そなたの思うようにすればいい。我らがそなたを人に見せたくないという感情は我らの本能だ。だから主張だけはさせてほしいが……どうするか決めるのは香子、そなただ』
『……ごめんなさい』
でもわがままを通させてほしい。
きっと春節の頃も似たようなやりとりをするのだろうなと香子は思った。
とはいえ、秋の大祭に出るということは四神の反対を押し切っただけでは成せない。
春の大祭に出る為に青龍に抱かれたように、秋の大祭に出るには白虎に抱かれておかなければならない。
『中秋って、いつでしたっけ? あとどれぐらいですか?』
『……あと一月ほどではないか』
『あと一月かぁ……』
衣裳は多分また誰かが用意してくれるからいいだろうが、白虎に抱かれるのは香子がしなければならない。
(白虎様……虎の姿なんだよなぁ……)
獣姦とかホント勘弁してほしい。気持ちとしてはできるだけ後にしてほしいがそういうわけにはいかないだろう。
『先代の花嫁って……どれぐらいで先代の白虎様を受け入れたんですかね……』
『さぁな。白虎兄でもわかるかどうか……』
そういえば映像だけだと言っていた。やっぱり当時の記録などを探してもらわないとだめだろうか。そんなことを考えてしまうのは現実逃避だとわかっていながら、香子は何かきっかけがほしかったのである。
そして翌日、香子は白虎の室にいた。
どうしたらいいのか、わからぬまま。
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張が香子に話したことについては第二部71話参照のこと。
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