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第3部 周りと仲良くしろと言われました
8.これからのことを話してみます
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かつての四神の花嫁のことが気になったのはいいが、かえって香子はもやもやしてしまった。あれからどのような人だったのか等張錦飛に尋ねてはみたが、花嫁についての記述はほとんどないのだという。それは四神が花嫁を表に出さなかったからだろうと香子は想像する。そしてきっと当時の花嫁も行事などに参加はしなかったのだろう。
そして初めて知ったことだが、花嫁が春の大祭のような祭祀に参加したのは香子が初めてだったらしい。(あくまで歴史書の記述を信用するならばではある)
(えええええ……)
そんな例外を作るつもりはなかったが、香子の好奇心は留まるところを知らない。実のところ、やはり秋の大祭のことも気にはなっていた。
秋の大祭といえば前述した通り中秋節である。中秋節は夜がメインで昼は各国の要人が訪れたりするらしい。いわゆる収穫祭の扱いなのだろうと香子は自分なりに解釈した。
『香子、如何した?』
せっかくの昼食なのに気もそぞろだった。玄武に声をかけられてはっとする。
『いえ、すいません。少し……その、まだ気になっていたものですから……』
こういう時になんでもないと返すのはあまりいいことではないと香子は学んでいる。
『かつての花嫁のことか』
『そのこともあるのですが……後でまたお聞きしてもいいですか』
『……答えられることはそうないが……』
『それでもいいですから……』
申し訳ないと苦笑して、料理を取る。夏も終わりの時期ではあるがなんということのない野菜炒めがとてもおいしい。豆苗のニンニク炒めや空心菜のニンニク炒めなどいくらでも食べられる。
『これって、夏の野菜よね』
空心菜は確か東南アジア原産の野菜のはずだ。こちらの世界ではこの国の南方原産になるのだろうか。それともこの大陸にあるというバージースータンやボースーが原産なのか悩ましいところである。どちらにせよ十度以下で葉も茎も枯れるというからそろそろ終わりの時期だろう。
『あとどれぐらいの期間食べられるのかしら』
『聞いて参ります』
侍女がそう言ってスッと食堂を出て行った。少し悪いなと思ってしまったが、適当に答えられるよりはいいかもしれない。香子のリクエストで作ってもらった水餃子を食べていると、侍女が戻ってきた。
『遅くなりまして申し訳ありません。厨房に確認したところ、あと十日程は入ってくる予定だそうです』
『そうなの? ありがとう』
あと十日かぁ、と思うともっと食べたくなる。元いた世界でも北京の飯館でよく食べていたものだった。
『香子はこの野菜が好きなのだな』
『はい、とっても好きなんです。北京では夏の間しか食べられないようなので、そろそろ食べられる時期が終わりだから残念だなと思いまして』
『温暖な気候なれば育つのか?』
朱雀が聞いた。
『はい。元々南の方の野菜だと聞いています。寒さに弱いそうで……』
『この野菜の名は?』
『私は空心菜と教わりました。筒菜とも言うそうです』
『そうか』
朱雀がわかったというように頷いた。
『そなたはいろいろな食べ物を知っているのだな』
『食べたことがあるものしか知りませんよ?』
『この水餃も不思議な味わいだ』
『中身は香菜(パクチー)と卵ですね。けっこう好きなんです』
『香子といるといろいろな物が食べられる』
朱雀の言に三神も頷く。野菜程度でそんなことを言われてもと思ってしまう。なんかどこかで聞いた科白だなとも香子は思った。そういえばかつての友人がそんなことを言っていたかもしれない。香子は少しだけ懐かしくなった。
昼食後は青龍と過ごすことになっていたが、今日は茶室に移動した。
人払いをし、みなにお茶を振舞ってから香子は本題に入ることにした。
『まずは私の話を聞いてください』
先に断っておく。二回目だからいいのではないかとか、そんなことは一つも思わない。
『まだ概要はわかりませんが、もし出られるのならば……秋の大祭に出てみたいと思います』
『だめだ』
玄武が即答する。反対されることは予想済みだった。
『……四神が私を見世物にしたくない気持ちはわかっています。でも、私がそういった行事参加するのはここにいる間だけですから』
『そなたは王城から離れたくないのではないか?』
玄武の憤りと、不安とが香子にも伝わってきた。
『玄武様。確かに、私は一年でどなたに嫁ぐか決められるかわからないとお伝えしました。かつての花嫁のように、一年より先もこの四神宮に留まることを少しだけ考えてはいます』
『なれば……』
『でも、この国の大祭等に参加するのは一年だけです』
香子はきっぱりと答えた。もう決めたのだ。
『秋の大祭が終われば次は新年ですか。春節で何をするかはわかりませんが、その後もしここに留まることになったとしても来年の春の大祭には出ません』
『……それはまことか』
『はい。お約束します』
香子はまっすぐ玄武を見る。何人たりともこれを覆すことはできないと、強い視線を返した。
四神は花嫁を心から愛している。
『……香子にはかなわぬ』
根負けしたのはやはり彼らの方だった。
そして初めて知ったことだが、花嫁が春の大祭のような祭祀に参加したのは香子が初めてだったらしい。(あくまで歴史書の記述を信用するならばではある)
(えええええ……)
そんな例外を作るつもりはなかったが、香子の好奇心は留まるところを知らない。実のところ、やはり秋の大祭のことも気にはなっていた。
秋の大祭といえば前述した通り中秋節である。中秋節は夜がメインで昼は各国の要人が訪れたりするらしい。いわゆる収穫祭の扱いなのだろうと香子は自分なりに解釈した。
『香子、如何した?』
せっかくの昼食なのに気もそぞろだった。玄武に声をかけられてはっとする。
『いえ、すいません。少し……その、まだ気になっていたものですから……』
こういう時になんでもないと返すのはあまりいいことではないと香子は学んでいる。
『かつての花嫁のことか』
『そのこともあるのですが……後でまたお聞きしてもいいですか』
『……答えられることはそうないが……』
『それでもいいですから……』
申し訳ないと苦笑して、料理を取る。夏も終わりの時期ではあるがなんということのない野菜炒めがとてもおいしい。豆苗のニンニク炒めや空心菜のニンニク炒めなどいくらでも食べられる。
『これって、夏の野菜よね』
空心菜は確か東南アジア原産の野菜のはずだ。こちらの世界ではこの国の南方原産になるのだろうか。それともこの大陸にあるというバージースータンやボースーが原産なのか悩ましいところである。どちらにせよ十度以下で葉も茎も枯れるというからそろそろ終わりの時期だろう。
『あとどれぐらいの期間食べられるのかしら』
『聞いて参ります』
侍女がそう言ってスッと食堂を出て行った。少し悪いなと思ってしまったが、適当に答えられるよりはいいかもしれない。香子のリクエストで作ってもらった水餃子を食べていると、侍女が戻ってきた。
『遅くなりまして申し訳ありません。厨房に確認したところ、あと十日程は入ってくる予定だそうです』
『そうなの? ありがとう』
あと十日かぁ、と思うともっと食べたくなる。元いた世界でも北京の飯館でよく食べていたものだった。
『香子はこの野菜が好きなのだな』
『はい、とっても好きなんです。北京では夏の間しか食べられないようなので、そろそろ食べられる時期が終わりだから残念だなと思いまして』
『温暖な気候なれば育つのか?』
朱雀が聞いた。
『はい。元々南の方の野菜だと聞いています。寒さに弱いそうで……』
『この野菜の名は?』
『私は空心菜と教わりました。筒菜とも言うそうです』
『そうか』
朱雀がわかったというように頷いた。
『そなたはいろいろな食べ物を知っているのだな』
『食べたことがあるものしか知りませんよ?』
『この水餃も不思議な味わいだ』
『中身は香菜(パクチー)と卵ですね。けっこう好きなんです』
『香子といるといろいろな物が食べられる』
朱雀の言に三神も頷く。野菜程度でそんなことを言われてもと思ってしまう。なんかどこかで聞いた科白だなとも香子は思った。そういえばかつての友人がそんなことを言っていたかもしれない。香子は少しだけ懐かしくなった。
昼食後は青龍と過ごすことになっていたが、今日は茶室に移動した。
人払いをし、みなにお茶を振舞ってから香子は本題に入ることにした。
『まずは私の話を聞いてください』
先に断っておく。二回目だからいいのではないかとか、そんなことは一つも思わない。
『まだ概要はわかりませんが、もし出られるのならば……秋の大祭に出てみたいと思います』
『だめだ』
玄武が即答する。反対されることは予想済みだった。
『……四神が私を見世物にしたくない気持ちはわかっています。でも、私がそういった行事参加するのはここにいる間だけですから』
『そなたは王城から離れたくないのではないか?』
玄武の憤りと、不安とが香子にも伝わってきた。
『玄武様。確かに、私は一年でどなたに嫁ぐか決められるかわからないとお伝えしました。かつての花嫁のように、一年より先もこの四神宮に留まることを少しだけ考えてはいます』
『なれば……』
『でも、この国の大祭等に参加するのは一年だけです』
香子はきっぱりと答えた。もう決めたのだ。
『秋の大祭が終われば次は新年ですか。春節で何をするかはわかりませんが、その後もしここに留まることになったとしても来年の春の大祭には出ません』
『……それはまことか』
『はい。お約束します』
香子はまっすぐ玄武を見る。何人たりともこれを覆すことはできないと、強い視線を返した。
四神は花嫁を心から愛している。
『……香子にはかなわぬ』
根負けしたのはやはり彼らの方だった。
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