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第3部 周りと仲良くしろと言われました

7.かつての花嫁のことが気になります

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 ……もうなんというかすごかった。
”熱”のない恥ずかしさ半端ないと香子は布団を被る。1:1はものすごく甘かった。身体の中をあの長い舌で舐められる感覚は筆舌にしがたい。

「……はうう~……」

 布団を被ったまま声を出した。香子も恥ずかしくて見ることはできなかったが、玄武のソレはとても大きいのではないかと思う。昔の彼氏の大きさを考えそうになったが急いでぶんぶんと首を振った。

「あああああ……」
香子シャンズ?』

 布団の向こうから甘いバリトンが響く。香子はびくっと震えた。

『……いいかげん顔を見せてはくれぬか』
『……まだだめです』

 何度も言うが香子はメンクイなのだ。四神の顔はドストライクなのだ。最近は多少慣れてきたとは思うが、それでもなんというかふとした瞬間に「はうう~!」となってしまうのだ。香子自身にとっても意味不明である。このなんとも言い難い身体の感覚はどうにかならないものか。

『香子、そなたの顔が見たい』
「っっ!」

 有言実行とばかりに布団をやんわりと剥がれる。香子は布団を押さえていた手で顔を覆った。朝から玄武の幸せそうな顔を見たら目が潰れてしまう。……いっそ潰してしまえば……とかあほなことを思うぐらい香子は恥ずかしがっていた。

『……こら』

 抱き寄せられ、両手を外される。そんなことより玄武の科白に香子は呆然とした。

(こらって……玄武様がこらって言った!)

 先日の白虎の「うるさい」も新鮮だったが、玄武の「こら」も同じぐらい衝撃であった。きっと気を許している証拠なのだと思う。
 それよりも今ちゅっちゅっと顔中に口づけを落とされていることの方が問題だった。

『やっ……玄武様……』
『何がいけない?』
『……もう朝でしょう?』
『そうだな』

 いつまでもベッドにいたくない。それに……。
 香子のおなかがぐ~~~っと鳴った。香子の胃は平常運転のようである。

『ごはん!』
『……そなたはいつも通りだな。愛しくて、どうにもたまらぬ……』

 コツン、と額を合わせて玄武がそんなことを言う。色気より食い気の女のどこが愛しいのか小一時間問い詰めたいが、そんなことをしている暇があったらごはんが食べたい。でももちろん至近距離の玄武に香子はどきどきしていた。朝から甘すぎて砂を吐きそうだと香子は思った。


 玄武と自分の部屋で朝食をとった香子はやっと玄武を追い出した。
 延夕玲を始め、侍女たちがせわしなく動いているような気がする。彼女たちの動きは洗練したもので、ばたばたという表現をするほどではないが、どこか落ち着かない気がした。用意された着替えを見て香子は今日張錦飛が来る日だということを思い出した。

(老師が来る日を忘れるとかどうなってんの!?)

 自分の頭を叩きたい気持ちでいっぱいになったが、叩いたら頭も手も大怪我をしそうなので諦めた。なにせ結い上げられた髪には簪が何本も刺されているのである。それに叩くことで髪形が崩れたら侍女たちの顔が般若になりそうだ。

『今なんどきかしら?』
『巳の刻(朝九時ぐらい)でございます』

 だとしたらあと一時間ぐらいで張が来てしまう。それは侍女たちが準備に追われるはずだと香子は納得した。

(あ、そうだ)

 香子は昨日疑問に思ったことを張に尋ねてみることにした。もちろん字の練習をしっかりした後である。
 それなりに上手になってきたのではないかと思うのだが、字をキレイに書くなどというのは日々の積み重ねである。これは言語を学ぶことにも通じると香子は思う。

(筆のせいにしちゃいけないよねー)

 習字を嫌がって授業と宿題ぐらいでしか書かなかったのが敗因だった。中国にも書はあるのだから、真面目にやっていればよかったとここに来て何度も思う。

(中国にも、じゃなくて中国が発祥だよね。私のバーカ)

 雑念がよぎったせいか字が曲がった。張のため息がまた増えてしまったことを申し訳なく思った。
 教わる時間はだいたい二刻(一時間)ほどである。その後はいつも通りお茶を飲むのだが、今日は庭で飲むことにした。

『まだまだ暑い季節ですが、四神宮は快適ですのぅ』

 陽射しは強いので日傘は用意してもらった。侍女たちには面倒をかけてしまうが、もう気にしないことにした。あまりに香子は気にしすぎるので、かえって夕玲に怒られてしまった。働く者たちを気に掛けるのはいいが、それが仕事なのだから過度の遠慮はかえって失礼だと昨日改めて叱られた。確かにそれもそうだと香子は反省した。いつまで経っても慣れない自分が香子は少し嫌になったが、これは余談である。

『はい。四神がいると快適な気候になるようですね』
『涼石もありますが、なかなかに夏は堪えます』
『どうかご自愛ください』

 そんなことを言いながらお茶を飲む。

『そういえば……かつての四神の花嫁についてお聞きしたいことがあるのです』
『わしに答えられることでしたらお答えしましょう』

 どう尋ねたものかと香子は考える。言葉の選びはなかなかに難しい。

『張老師は歴史学者でもあると伺っています。私が王城で暮らすのは一年と聞いていますが、かつては一年以上、いえ……確か時の施政者が身罷るまで王城で過ごした花嫁がいたと聞きました』
『ああ……商代ですかな。確か湯王の時代に降臨されたと伺っております』

 湯王といえば、夏王朝を倒し商(殷)王朝を興した易姓革命の立役者である。

『とすると、湯王の在位期間が十二年ぐらいですからそれ以上ということですか』
『さよう。花嫁様の知識の深さは素晴らしいですな』
『理由までは……ご存知ではないですよね?』

 張はあごひげをゆっくりと撫でた。

『残念ながら』
『ありがとうございます』

 十二年以上も王城に留まった理由はなんだろう。もし聞けるならば尋ねてみたいと香子は思った。




ーーーーー
かつての花嫁については、
「花嫁は笑わない~傾国異聞~」
https://ncode.syosetu.com/n4007ee/
を参照してください。

殷の湯王については↓を参照しました。(百度/中国語のページです)
https://baike.baidu.com/item/%E5%95%86%E6%B1%A4/549626?fromtitle=%E5%A4%A9%E4%B9%99&fromid=1028626
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