異世界で四神と結婚しろと言われました

浅葱

文字の大きさ
上 下
309 / 608
第3部 周りと仲良くしろと言われました

6.久々に一人になれました

しおりを挟む
 いったい何をそんなにがんばっていたのか。
 蓋を開けてみればなんてことはない。香子は自分の胸の大きさにいつまでもこだわっていたが、それはこだわっても仕方ないことである。大きさだけが問題ならば白虎に身を任せてしまえばいいのだ。
 一人でベッドに転がるなどいつぶりだろうか。寝転がると寝台の広さがよくわかる。大の字になっても両手の端が床の端に触れない。
(うん、広い)と香子は改めて思った。四神の床はどうだっただろうか。いつも抱き上げて運ばれて……。
 そういえば。

(白虎様が本性を現した時もしっかり乗っかってたっけ)

 そう考えると四神の床は香子の部屋の床よりも広い。きちんと考えられているようである。
 そんなことよりも秋の大祭のことである。
 皇太后は香子が今回も参加して当然だと考えているようだったが、正直もういいかなと香子は思っていた。春の大祭の準備と称していろいろあったし、衣裳決めもたいへんだった。ただ今回は春の大祭の時よりは時間がかからないかもしれない。

(秋の大祭で何をするかを聞いてからにした方がいいかな。でも……聞いたら出ることになっちゃうのかな)

 四神に尋ねようかと一瞬考えたが香子は首を振った。春の大祭に出る出ないであれだけすったもんだあったのだ。秋の大祭の内容など聞こうものなら床から出してもらえる気がしない。

(どうしよう……)

 いろいろ気になってしまう。
 あと一月もすれば中秋だ。そうしたら、ほぼ半年が経ってしまうことになる。この五か月、とてもゆっくり時間が過ぎていると感じていた。でもこの四神宮にいられる期間はあと七か月なのだ。

(あ、でも)

 先日の話では、一年と言わずもっと長い期間王城にいた花嫁もかつてはいたと聞いた。その花嫁はどんなひとだったのだろう。その花嫁のことをわかる者はいるのだろうか。

『玄武様』
如何どうした』

 とても小さい声で呟くように発したのに、居間から玄武のいらえがあった。

『玄武様たちは、かつての花嫁のことはわかるのでしょうか。確か、長い期間王城にいた花嫁がいたと聞いたような気がしますが』
『……しばし待て』

 玄武はそう言うと沈黙した。四神の記憶を精査しているのだろうか。それとも三神と会話しているのだろうか。ここらへんのことは聞いてもよくわからない。四神の説明がうまくないというのもあるだろうが、香子に理解できることではないのかもしれなかった。

『確かに……時の施政者が死ぬまで王城にいた花嫁がいたはずだ。理由まではわからぬが』
『ありがとうございます』

 当時の花嫁にもなんらかの思いがあったのだろう。そこまで考えて、張錦飛に聞けばいいのではないかと思い至った。

香子シャンズは……にずっといたいのか?』

 一瞬何を聞かれたのかわからなかった。
 ここ、と言われて四神宮のことかと理解する。ずっと四神宮にいたいのかと自問する。
 建物自体は好きだと香子は思う。元の世界にいた時、壮大な建築物だと目を輝かせたものだった。ただここにずっと住んでいたいかと言われれば答えは否だ。四神宮にいるということは自由がないということである。景山に向かうにも許可がいるし、他に出られるとしても王城内の御花園のみ。紅児に向かわせた頤和園へだってそう簡単には行けない。
 そこまで考えて、

『いいえ。ここにいたいわけではありません』

 香子はきっぱりと答えた。

『では何故?』
『私は……まだどなたに嫁ぐか決められない。今の段階では一年経っても決められる気がしないのです』

 ククッと笑う声がした。以前、決めなくてもよいと玄武が言っていたことを思い出す。でもそれではだめなのだ。

『そなたは真面目すぎる』
『……そうでしょうか』
『だが……それがそなたのいいところでもある。我らのことでそなに悩む香子は可哀そうでもあり、また言葉に尽くせないほど愛おしい……』

 居間から響く甘いバリトンに、香子はふるり、と身を震わせた。顔がものすごく熱い。香子は両頬に手を当てた。きっと今真っ赤になっているに違いなかった。

(もうっ、もうっ、そんなこと言うなんて玄武様ってば反則っっ!!)

 惚れ直してしまうではないか。すぐに声をかけたくなってしまうではないか。

『……それは、玄武様の想いですか。それとも四神としての……』
『この胸の高鳴りは我自身の物に相違ない。香子、愛している』
(ぎゃーーーーーーっっ!!)

 反則なのに、そんなことをさらりと言ってくれるなと怒りたいのに、もう香子は頭を押さえて何も言えなくなった。

『香子』

 だから頼むからそんなに甘く名を呼ばないでほしい。

『……そろそろそちらに行ってはならぬのだろうか……』
『うううう……』

 どきどきが止まらない。
 今日居間で控えているのは玄武のみ。今声をかければ玄武と二人きりで抱き合うことになる。

『…………』

 それから香子がどうしたのかは、朝までの秘密。
 ただ、香子は四神にとても甘いとだけ言っておこう。



ーーーーー
小説家になろうのムーンライトに加筆修正しながら転載を始めています。
R18版になります。よろしければご覧くださいませー。つい先日青龍との情事も載せました!(ぉぃ
https://novel18.syosetu.com/n0386fx/
しおりを挟む
感想 86

あなたにおすすめの小説

誰でもイイけど、お前は無いわw

猫枕
恋愛
ラウラ25歳。真面目に勉強や仕事に取り組んでいたら、いつの間にか嫁き遅れになっていた。 同い年の幼馴染みランディーとは昔から犬猿の仲なのだが、ランディーの母に拝み倒されて見合いをすることに。 見合いの場でランディーは予想通りの失礼な発言を連発した挙げ句、 「結婚相手に夢なんて持ってないけど、いくら誰でも良いったってオマエは無いわww」 と言われてしまう。

巻き戻ったから切れてみた

こもろう
恋愛
昔からの恋人を隠していた婚約者に断罪された私。気がついたら巻き戻っていたからブチ切れた! 軽~く読み飛ばし推奨です。

聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい

金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。 私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。 勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。 なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。 ※小説家になろうさんにも投稿しています。

完)嫁いだつもりでしたがメイドに間違われています

オリハルコン陸
恋愛
嫁いだはずなのに、格好のせいか本気でメイドと勘違いされた貧乏令嬢。そのままうっかりメイドとして馴染んで、その生活を楽しみ始めてしまいます。 ◇◇◇◇◇◇◇ 「オマケのようでオマケじゃない〜」では、本編の小話や後日談というかたちでまだ語られてない部分を補完しています。 14回恋愛大賞奨励賞受賞しました! これも読んでくださったり投票してくださった皆様のおかげです。 ありがとうございました! ざっくりと見直し終わりました。完璧じゃないけど、とりあえずこれで。 この後本格的に手直し予定。(多分時間がかかります)

玉の輿を狙う妹から「邪魔しないで!」と言われているので学業に没頭していたら、王子から求婚されました

歌龍吟伶
恋愛
王立学園四年生のリーリャには、一学年下の妹アーシャがいる。 昔から王子様との結婚を夢見ていたアーシャは自分磨きに余念がない可愛いらしい娘で、六年生である第一王子リュカリウスを狙っているらしい。 入学当時から、「私が王子と結婚するんだからね!お姉ちゃんは邪魔しないで!」と言われていたリーリャは学業に専念していた。 その甲斐あってか学年首位となったある日。 「君のことが好きだから」…まさかの告白!

王家に生まれたエリーザはまだ幼い頃に城の前に捨てられた。が、その結果こうして幸せになれたのかもしれない。

四季
恋愛
王家に生まれたエリーザはまだ幼い頃に城の前に捨てられた。

王様の恥かきっ娘

青の雀
恋愛
恥かきっ子とは、親が年老いてから子供ができること。 本当は、元気でおめでたいことだけど、照れ隠しで、その年齢まで夫婦の営みがあったことを物語り世間様に向けての恥をいう。 孫と同い年の王女殿下が生まれたことで巻き起こる騒動を書きます 物語は、卒業記念パーティで婚約者から婚約破棄されたところから始まります これもショートショートで書く予定です。

処理中です...