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第3部 周りと仲良くしろと言われました
6.久々に一人になれました
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いったい何をそんなにがんばっていたのか。
蓋を開けてみればなんてことはない。香子は自分の胸の大きさにいつまでもこだわっていたが、それはこだわっても仕方ないことである。大きさだけが問題ならば白虎に身を任せてしまえばいいのだ。
一人で床に転がるなどいつぶりだろうか。寝転がると寝台の広さがよくわかる。大の字になっても両手の端が床の端に触れない。
(うん、広い)と香子は改めて思った。四神の床はどうだっただろうか。いつも抱き上げて運ばれて……。
そういえば。
(白虎様が本性を現した時もしっかり乗っかってたっけ)
そう考えると四神の床は香子の部屋の床よりも広い。きちんと考えられているようである。
そんなことよりも秋の大祭のことである。
皇太后は香子が今回も参加して当然だと考えているようだったが、正直もういいかなと香子は思っていた。春の大祭の準備と称していろいろあったし、衣裳決めもたいへんだった。ただ今回は春の大祭の時よりは時間がかからないかもしれない。
(秋の大祭で何をするかを聞いてからにした方がいいかな。でも……聞いたら出ることになっちゃうのかな)
四神に尋ねようかと一瞬考えたが香子は首を振った。春の大祭に出る出ないであれだけすったもんだあったのだ。秋の大祭の内容など聞こうものなら床から出してもらえる気がしない。
(どうしよう……)
いろいろ気になってしまう。
あと一月もすれば中秋だ。そうしたら、ほぼ半年が経ってしまうことになる。この五か月、とてもゆっくり時間が過ぎていると感じていた。でもこの四神宮にいられる期間はあと七か月なのだ。
(あ、でも)
先日の話では、一年と言わずもっと長い期間王城にいた花嫁もかつてはいたと聞いた。その花嫁はどんな女だったのだろう。その花嫁のことをわかる者はいるのだろうか。
『玄武様』
『如何した』
とても小さい声で呟くように発したのに、居間から玄武の応えがあった。
『玄武様たちは、かつての花嫁のことはわかるのでしょうか。確か、長い期間王城にいた花嫁がいたと聞いたような気がしますが』
『……しばし待て』
玄武はそう言うと沈黙した。四神の記憶を精査しているのだろうか。それとも三神と会話しているのだろうか。ここらへんのことは聞いてもよくわからない。四神の説明がうまくないというのもあるだろうが、香子に理解できることではないのかもしれなかった。
『確かに……時の施政者が死ぬまで王城にいた花嫁がいたはずだ。理由まではわからぬが』
『ありがとうございます』
当時の花嫁にもなんらかの思いがあったのだろう。そこまで考えて、張錦飛に聞けばいいのではないかと思い至った。
『香子は……ここにずっといたいのか?』
一瞬何を聞かれたのかわからなかった。
ここ、と言われて四神宮のことかと理解する。ずっと四神宮にいたいのかと自問する。
建物自体は好きだと香子は思う。元の世界にいた時、壮大な建築物だと目を輝かせたものだった。ただここにずっと住んでいたいかと言われれば答えは否だ。四神宮にいるということは自由がないということである。景山に向かうにも許可がいるし、他に出られるとしても王城内の御花園のみ。紅児に向かわせた頤和園へだってそう簡単には行けない。
そこまで考えて、
『いいえ。ここにいたいわけではありません』
香子はきっぱりと答えた。
『では何故?』
『私は……まだどなたに嫁ぐか決められない。今の段階では一年経っても決められる気がしないのです』
ククッと笑う声がした。以前、決めなくてもよいと玄武が言っていたことを思い出す。でもそれではだめなのだ。
『そなたは真面目すぎる』
『……そうでしょうか』
『だが……それがそなたのいいところでもある。我らのことでそなに悩む香子は可哀そうでもあり、また言葉に尽くせないほど愛おしい……』
居間から響く甘いバリトンに、香子はふるり、と身を震わせた。顔がものすごく熱い。香子は両頬に手を当てた。きっと今真っ赤になっているに違いなかった。
(もうっ、もうっ、そんなこと言うなんて玄武様ってば反則っっ!!)
惚れ直してしまうではないか。すぐに声をかけたくなってしまうではないか。
『……それは、玄武様の想いですか。それとも四神としての……』
『この胸の高鳴りは我自身の物に相違ない。香子、愛している』
(ぎゃーーーーーーっっ!!)
反則なのに、そんなことをさらりと言ってくれるなと怒りたいのに、もう香子は頭を押さえて何も言えなくなった。
『香子』
だから頼むからそんなに甘く名を呼ばないでほしい。
『……そろそろそちらに行ってはならぬのだろうか……』
『うううう……』
どきどきが止まらない。
今日居間で控えているのは玄武のみ。今声をかければ玄武と二人きりで抱き合うことになる。
『…………』
それから香子がどうしたのかは、朝までの秘密。
ただ、香子は四神にとても甘いとだけ言っておこう。
ーーーーー
小説家になろうのムーンライトに加筆修正しながら転載を始めています。
R18版になります。よろしければご覧くださいませー。つい先日青龍との情事も載せました!(ぉぃ
https://novel18.syosetu.com/n0386fx/
蓋を開けてみればなんてことはない。香子は自分の胸の大きさにいつまでもこだわっていたが、それはこだわっても仕方ないことである。大きさだけが問題ならば白虎に身を任せてしまえばいいのだ。
一人で床に転がるなどいつぶりだろうか。寝転がると寝台の広さがよくわかる。大の字になっても両手の端が床の端に触れない。
(うん、広い)と香子は改めて思った。四神の床はどうだっただろうか。いつも抱き上げて運ばれて……。
そういえば。
(白虎様が本性を現した時もしっかり乗っかってたっけ)
そう考えると四神の床は香子の部屋の床よりも広い。きちんと考えられているようである。
そんなことよりも秋の大祭のことである。
皇太后は香子が今回も参加して当然だと考えているようだったが、正直もういいかなと香子は思っていた。春の大祭の準備と称していろいろあったし、衣裳決めもたいへんだった。ただ今回は春の大祭の時よりは時間がかからないかもしれない。
(秋の大祭で何をするかを聞いてからにした方がいいかな。でも……聞いたら出ることになっちゃうのかな)
四神に尋ねようかと一瞬考えたが香子は首を振った。春の大祭に出る出ないであれだけすったもんだあったのだ。秋の大祭の内容など聞こうものなら床から出してもらえる気がしない。
(どうしよう……)
いろいろ気になってしまう。
あと一月もすれば中秋だ。そうしたら、ほぼ半年が経ってしまうことになる。この五か月、とてもゆっくり時間が過ぎていると感じていた。でもこの四神宮にいられる期間はあと七か月なのだ。
(あ、でも)
先日の話では、一年と言わずもっと長い期間王城にいた花嫁もかつてはいたと聞いた。その花嫁はどんな女だったのだろう。その花嫁のことをわかる者はいるのだろうか。
『玄武様』
『如何した』
とても小さい声で呟くように発したのに、居間から玄武の応えがあった。
『玄武様たちは、かつての花嫁のことはわかるのでしょうか。確か、長い期間王城にいた花嫁がいたと聞いたような気がしますが』
『……しばし待て』
玄武はそう言うと沈黙した。四神の記憶を精査しているのだろうか。それとも三神と会話しているのだろうか。ここらへんのことは聞いてもよくわからない。四神の説明がうまくないというのもあるだろうが、香子に理解できることではないのかもしれなかった。
『確かに……時の施政者が死ぬまで王城にいた花嫁がいたはずだ。理由まではわからぬが』
『ありがとうございます』
当時の花嫁にもなんらかの思いがあったのだろう。そこまで考えて、張錦飛に聞けばいいのではないかと思い至った。
『香子は……ここにずっといたいのか?』
一瞬何を聞かれたのかわからなかった。
ここ、と言われて四神宮のことかと理解する。ずっと四神宮にいたいのかと自問する。
建物自体は好きだと香子は思う。元の世界にいた時、壮大な建築物だと目を輝かせたものだった。ただここにずっと住んでいたいかと言われれば答えは否だ。四神宮にいるということは自由がないということである。景山に向かうにも許可がいるし、他に出られるとしても王城内の御花園のみ。紅児に向かわせた頤和園へだってそう簡単には行けない。
そこまで考えて、
『いいえ。ここにいたいわけではありません』
香子はきっぱりと答えた。
『では何故?』
『私は……まだどなたに嫁ぐか決められない。今の段階では一年経っても決められる気がしないのです』
ククッと笑う声がした。以前、決めなくてもよいと玄武が言っていたことを思い出す。でもそれではだめなのだ。
『そなたは真面目すぎる』
『……そうでしょうか』
『だが……それがそなたのいいところでもある。我らのことでそなに悩む香子は可哀そうでもあり、また言葉に尽くせないほど愛おしい……』
居間から響く甘いバリトンに、香子はふるり、と身を震わせた。顔がものすごく熱い。香子は両頬に手を当てた。きっと今真っ赤になっているに違いなかった。
(もうっ、もうっ、そんなこと言うなんて玄武様ってば反則っっ!!)
惚れ直してしまうではないか。すぐに声をかけたくなってしまうではないか。
『……それは、玄武様の想いですか。それとも四神としての……』
『この胸の高鳴りは我自身の物に相違ない。香子、愛している』
(ぎゃーーーーーーっっ!!)
反則なのに、そんなことをさらりと言ってくれるなと怒りたいのに、もう香子は頭を押さえて何も言えなくなった。
『香子』
だから頼むからそんなに甘く名を呼ばないでほしい。
『……そろそろそちらに行ってはならぬのだろうか……』
『うううう……』
どきどきが止まらない。
今日居間で控えているのは玄武のみ。今声をかければ玄武と二人きりで抱き合うことになる。
『…………』
それから香子がどうしたのかは、朝までの秘密。
ただ、香子は四神にとても甘いとだけ言っておこう。
ーーーーー
小説家になろうのムーンライトに加筆修正しながら転載を始めています。
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