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第3部 周りと仲良くしろと言われました

2.凍石が役に立っているようです

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 庭では陽射しを避ける為に大きな傘が用意された。
 別に香子自身はいらないと思ったが、自分が傘の下にいないと侍女たちが傘の下に入れないとわかっているので文句は言わなかった。

(やっぱり迷惑だよね……)

 香子が庭でお茶をするだけでも大人数が動く。それでも四神宮では動員される数も少なく、香子が謙虚なので仕える者たちに不満は全くないのだが、香子は相変わらず考えすぎていた。
 そんな香子の様子を青龍が見逃すはずもなく。

香子シャンズ、如何した?』
『いえ、別に……』

 俯きがちだった顔を上げると、あまり動かない表情の中に心配そうな色を見つけて香子はうっと詰まった。もうこのメンクイはどうにかならないのかと香子は思う。

『そなたはいろいろと考えすぎる。やはり一日ベッドから出さぬ方がよさそうだ』

 頬に大きな手が触れて、不穏なことを言われた。香子は慌てて、

『いえいえ……もう考えませんから!』

 と答え、思い悩むのを止めた。日が出てるうちからエロエロとかダメ絶対。
 それよりも凍石ドンシーを香子が発見したことで、海産物が続々と王都に集まってきているらしいという話を聞いた。今まで沿海側でしか消費されなかった、もしくは塩漬けにしたものしか流通しなかった海産物が一躍脚光を浴びている。
 さすがに凍石の件については皇帝に話した。

『……凍る、石か……確かに盲点であったな。生活に密着したものではなかった故に思いつきもしなかった』
『そうなんですか。確かに黒竜江は遠いですものね』

 冷たいものを冷たく、というのは贅沢だろう。熱石というのがあるのだから凍石があると考えてもおかしくはないだろうが、元々これらの便利な石は高価である。紅児は光石など王都では一般的に使われている石も初めて見たと言っていたから、地方などでは特権階級しか使っていないのかもしれない。
 凍石の産地は玄武の領地に集中しているようで、どれぐらいの量があるのかを尋ねたら、また領地から眷属がやってきてしまった。いくら足が早いとはいえそう何度も足を運ばせるのは申し訳ない限りである。
 黒羽は連絡役なので気にしないでほしいと言ってくれたが、香子は平謝りするばかりである。四神による念話が一方的なのも困りものだ。

『凍石の量でございましたね。質や大きさにこだわらなければ山三つ分ぐらいはあるかと思われます』
『…………は?』

 黒羽の言葉に香子は目が点になった。

『……ええと、その山というのは……基準がわからないのですが……』

 黒羽は少し考えるような顔をした。

『そうですね。どこと比べましたら花嫁様にも伝わるでしょうか』
『うーん、王城の裏の景山ではどうでしょう?』

 黒羽は難しい顔をした。

『失礼ですが、あの高さですと平地とほぼ変わりませぬ』
『あー……ってことはもしかして長城がある山よりも高い山基準ですか?』
『そうなりますな』

 イメージとしては標高千メートルぐらいの山三つ分ぐらいの凍石があるという話である。あくまで概算なのでもっとあるかもしれない。香子は頭を抱えた。さすが中国、スケールがでかすぎる。

『凍石を切り出す作業ってたいへんですよね』
『人の仕事とするならばそれなりに厳しいかと』
『暖石を身につけて作業とか可能なんですかね?』
『石同士が干渉することはありませんので可能かと思われます』

 話しているうちにおぼろげながら香子にもアイデアが浮かんできた。玄武に向き直る。

『玄武様、凍石を唐の人々に流通させてもいいですか?』
『かまわぬ』

 という風に確認をしてから香子は皇帝に話を持っていった。
 とはいえ今まで流通したことのない石である。多くはないが氷で生計を立てていた者もいたことから、それらの補償はさせるとして(香子が皇帝に釘を刺した)、まずは王城に出入りをしている商人からという規制をし凍石の存在を知らせたところ。
 商人たちが目の色を変えた。
 その他の石の切り出しなども国の事業なので、凍石の切り出しも国が担い、それらを後押ししたい商人たちが出資することになったそうだ。

『凍石のとれる山に住んでいた人はいないのかしら?』
『人も動物もとても住める土地ではございません。全て凍りますので』
『……大きさとか制限しないといけませんね……』

 問題はこれからも出てくるだろうが、とりあえず今関わっている人たちは笑いが止まらない状態らしい。皇帝もよほど気に入ったらしく祝宴を開きたいと言ってきたが断わった。正式行事以外で見世物になるのはごめんである。
 話を戻そう。
 四神宮の庭で出された茶菓子はゼリーだった。凍石のおかげかこういった冷たいデザートが作りやすくなったと厨房から感謝された。

『冷たくて、おいしいですね』

 香子は一口食べて顔をほころばせた。

『そなたの功績だ』
『いいえ。厨师コックの腕がいいんですよ』

 道具は使いようである。どんないい道具も使い方を誤れば何も生み出すことはできない。
 まだ秋が遠く感じられた。




ーーーーー
凍石については第二部120話、142話を参照のこと。
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