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第2部 嫁ぎ先を決めろと言われました
146.開き直りではないのです(本編第二部完結。この後番外編)
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香子にとってはちょっとした事件だったが、四神が嫉妬にかられて暴走するのはそれほど珍しいことではない。それは番を持った眷族たちも同様なのでしかたないことといえた。
『香子、如何した?』
入浴後お茶を飲んでいると、今夜は玄武が迎えにきた。香子のなんともいえない表情に気づき、隣に腰掛ける。香子は頬を染めた。
(うー、うー、うー……)
こういうちょっとした気遣いがたまらなく好きだと香子は思う。もちろん朱雀のように気づいていても強引に連れて行くというのも好きなのだが。どちらにせよ好きな人が自分にすることならなんでもいいのだ。暴力や暴言などではない限り。
『……白虎さまを怒らせてしまって……』
既に四神は知っていることだろうが、それによる香子の心の動きまではわからない。そういうことは面倒でも伝えなければならない。なんでわかってくれないの? は四神には一切通用しないのだ。
玄武は香子の顔を覗きこんだ。
『香子、あれはそなたに怒っていたわけではない。そなたが愛しすぎるが故に、そなたが他のものに心を寄せることに嫉妬したのだ』
『……はい』
そんなことは言われなくてもわかっている。だが四神以外を気にするなと言われても無理だ。そうでなくても紅児は不安定なのだから。
玄武は困ったような顔をした香子に優しく笑んだ。
『だが、そなたが気にすることはない』
『……え?』
『香子は香子の好きにすればよい。人の心までは縛れぬ。ただし』
『はい』
『そなたが我ら以外と添うことは決して認めぬ』
玄武のエメラルドを思わせる瞳がぎらぎらと光った。香子はその瞳の中に赤を認め、ぼんっ! と音がしたかと思うぐらい真っ赤になった。
「あうう……はい……」
いつのまにか香子の手の中にあった茶器は床の隣にある卓の上に置かれ、香子は玄武の腕の中に囚われていた。
このまま攫っていってほしいとさえ香子は思ったが、まだ流されるわけにはいかないと口を噤む。目の前に自分を愛しくてならないという顔をした玄武がいるのに、朱雀や青龍、そして白虎の顔まで浮かぶのだ。香子は泣きたくなった。
(なんでこんなに私、気が多いの?)
『香子、大丈夫だ』
『?』
『そなたが我ら全員に想いを寄せてくれるのは、なにものにも変えがたいほど喜ばしい』
そう言って玄武は香子の口唇にそっと口付けた。
そういえば四神はそうだったと香子は再確認する。香子にとって障害となるのは香子自身の倫理観だけだ。四神宮に勤める者たちは香子が四神と愛し愛されることは当然だと思っている。皇帝からしたら四神とその花嫁の仲がいいのは歓迎すべきことだし、皇太后も多少白虎に思い入れはあるものの四神と香子の決定に異を唱えることはないはずだ。
一番の問題は香子が己の倫理観に従って四神の誰も選べないという情況である。
(ああ、だから……)
皇太后が指摘したのはこれだったのかと香子はようやく気づいた。
四神の誰を選ぶ、ではなく誰も選べないという迷いに対し皇太后は反応したのだ。
『花嫁殿がしなければならぬことは他にあるのではないのかえ?』
慈寧宮に招かれて豪華な夕食を振舞われた際に言われた言葉。皇太后はその後謝罪したが、どっちつかずな行動をしている香子には非常に痛い科白だった。この国の歴史を、文字を、いろいろなことを知りたいと思う香子にとって、四神との関わりは全てではない。きっと香子が四神としっかり向き合って愛を交わしているのならそれでもいいだろう。だがあの時は玄武と朱雀に抱かれながらも揺れていて、青龍や白虎のことについて向き合う余裕はなかった。
香子は誰に嫁ぐかをまず決めろと言われていたのだと思っていた。
だがそれは建前で、香子は四神全てと向き合わなければならなかったのだ。
(今頃気づくなんて……)
もちろんまずは誰に嫁ぐのか決める必要はあるだろう。だがそれは四神と向き合い、お互いをできるだけ理解し、愛し合いされてからの話だったのだ。
(結局私が納得しなきゃ、全員の嫁になんかなれないものね)
先代の白虎は花嫁に考える時間を与えなかった。溺れるほどの愛で花嫁を包んだのに先に逝ってしまった。
(なんて身勝手で、でもらしいといえばらしい……)
本能に従って奪い、他の三神すら近づけなかった。四神が花嫁と愛を交わすことが最大の仕事だというのはそうなのだろう。四神はそういう風に作られている。それはなんとも気に食わないことではあるが、香子が四神の花嫁であることは変わらない。
『玄武さま、連れて行ってください』
玄武の腕の中にいるのは本当に心地いい。それは四神全てに共通することだ。四神は花嫁を守り、愛し抜く。それが天皇によって作られたものであろうともどうでもよかった。
なんで自分が召喚されたとか。なんで自分が四神の花嫁なのかとかそんなことは些細なことなのだ。もろもろのことに意味を求める方がおかしい。世の中というのは理不尽なもの。香子はまた一つなにかを学んだ。
玄武が頷いて香子を抱き上げる。今夜も玄武と朱雀の腕の中で何も考えられなくなるのだろう。毎晩の営みを思い出し、香子はまた赤くなった。
ーーーーー
「貴方色に染まる」63話辺りです
https://www.alphapolis.co.jp/novel/977111291/934161364
皇太后の科白については第二部60話参照のこと。
この後香子以外の視点の話をいくつか書いて、第二部を終えたいと思います。
長かった。。。バタッ
『香子、如何した?』
入浴後お茶を飲んでいると、今夜は玄武が迎えにきた。香子のなんともいえない表情に気づき、隣に腰掛ける。香子は頬を染めた。
(うー、うー、うー……)
こういうちょっとした気遣いがたまらなく好きだと香子は思う。もちろん朱雀のように気づいていても強引に連れて行くというのも好きなのだが。どちらにせよ好きな人が自分にすることならなんでもいいのだ。暴力や暴言などではない限り。
『……白虎さまを怒らせてしまって……』
既に四神は知っていることだろうが、それによる香子の心の動きまではわからない。そういうことは面倒でも伝えなければならない。なんでわかってくれないの? は四神には一切通用しないのだ。
玄武は香子の顔を覗きこんだ。
『香子、あれはそなたに怒っていたわけではない。そなたが愛しすぎるが故に、そなたが他のものに心を寄せることに嫉妬したのだ』
『……はい』
そんなことは言われなくてもわかっている。だが四神以外を気にするなと言われても無理だ。そうでなくても紅児は不安定なのだから。
玄武は困ったような顔をした香子に優しく笑んだ。
『だが、そなたが気にすることはない』
『……え?』
『香子は香子の好きにすればよい。人の心までは縛れぬ。ただし』
『はい』
『そなたが我ら以外と添うことは決して認めぬ』
玄武のエメラルドを思わせる瞳がぎらぎらと光った。香子はその瞳の中に赤を認め、ぼんっ! と音がしたかと思うぐらい真っ赤になった。
「あうう……はい……」
いつのまにか香子の手の中にあった茶器は床の隣にある卓の上に置かれ、香子は玄武の腕の中に囚われていた。
このまま攫っていってほしいとさえ香子は思ったが、まだ流されるわけにはいかないと口を噤む。目の前に自分を愛しくてならないという顔をした玄武がいるのに、朱雀や青龍、そして白虎の顔まで浮かぶのだ。香子は泣きたくなった。
(なんでこんなに私、気が多いの?)
『香子、大丈夫だ』
『?』
『そなたが我ら全員に想いを寄せてくれるのは、なにものにも変えがたいほど喜ばしい』
そう言って玄武は香子の口唇にそっと口付けた。
そういえば四神はそうだったと香子は再確認する。香子にとって障害となるのは香子自身の倫理観だけだ。四神宮に勤める者たちは香子が四神と愛し愛されることは当然だと思っている。皇帝からしたら四神とその花嫁の仲がいいのは歓迎すべきことだし、皇太后も多少白虎に思い入れはあるものの四神と香子の決定に異を唱えることはないはずだ。
一番の問題は香子が己の倫理観に従って四神の誰も選べないという情況である。
(ああ、だから……)
皇太后が指摘したのはこれだったのかと香子はようやく気づいた。
四神の誰を選ぶ、ではなく誰も選べないという迷いに対し皇太后は反応したのだ。
『花嫁殿がしなければならぬことは他にあるのではないのかえ?』
慈寧宮に招かれて豪華な夕食を振舞われた際に言われた言葉。皇太后はその後謝罪したが、どっちつかずな行動をしている香子には非常に痛い科白だった。この国の歴史を、文字を、いろいろなことを知りたいと思う香子にとって、四神との関わりは全てではない。きっと香子が四神としっかり向き合って愛を交わしているのならそれでもいいだろう。だがあの時は玄武と朱雀に抱かれながらも揺れていて、青龍や白虎のことについて向き合う余裕はなかった。
香子は誰に嫁ぐかをまず決めろと言われていたのだと思っていた。
だがそれは建前で、香子は四神全てと向き合わなければならなかったのだ。
(今頃気づくなんて……)
もちろんまずは誰に嫁ぐのか決める必要はあるだろう。だがそれは四神と向き合い、お互いをできるだけ理解し、愛し合いされてからの話だったのだ。
(結局私が納得しなきゃ、全員の嫁になんかなれないものね)
先代の白虎は花嫁に考える時間を与えなかった。溺れるほどの愛で花嫁を包んだのに先に逝ってしまった。
(なんて身勝手で、でもらしいといえばらしい……)
本能に従って奪い、他の三神すら近づけなかった。四神が花嫁と愛を交わすことが最大の仕事だというのはそうなのだろう。四神はそういう風に作られている。それはなんとも気に食わないことではあるが、香子が四神の花嫁であることは変わらない。
『玄武さま、連れて行ってください』
玄武の腕の中にいるのは本当に心地いい。それは四神全てに共通することだ。四神は花嫁を守り、愛し抜く。それが天皇によって作られたものであろうともどうでもよかった。
なんで自分が召喚されたとか。なんで自分が四神の花嫁なのかとかそんなことは些細なことなのだ。もろもろのことに意味を求める方がおかしい。世の中というのは理不尽なもの。香子はまた一つなにかを学んだ。
玄武が頷いて香子を抱き上げる。今夜も玄武と朱雀の腕の中で何も考えられなくなるのだろう。毎晩の営みを思い出し、香子はまた赤くなった。
ーーーーー
「貴方色に染まる」63話辺りです
https://www.alphapolis.co.jp/novel/977111291/934161364
皇太后の科白については第二部60話参照のこと。
この後香子以外の視点の話をいくつか書いて、第二部を終えたいと思います。
長かった。。。バタッ
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