291 / 608
第2部 嫁ぎ先を決めろと言われました
137.立場が逆転しているような気がします
しおりを挟む
四神全員とまた改めて話さなければいけないのではないかと香子は思う。だがどう話したらいいのかわからない。この支離滅裂な思考を理解してもらおうなど、図々しいにもほどがあると香子は思うのだ。かといって他に相談に乗ってくれそうな相手もいない。なんとも八方塞だった。
(張老師……も、聞かされても困るよね……)
書の老師である張錦飛が脳裏に浮かんだ。だがだめだと思い直す。
四神との関係は香子自身が考えなければならないこと。それは春の大祭に出るか出ないか程度の話ではない。
四神のうちの誰かを選ばなければならないのだ。
(そういえば秋の大祭って中秋節だよね。まだ先の話だけど……)
昼食までの間ぼうっと部屋でお茶を飲んでいる。部屋付の侍女(紅児含む)と延夕玲が控えているので独り言もままならない。
中秋節には月餅を食べる習慣があるらしい。月餅の由来といえば、香子は元代末期に異民族王朝を打倒する為に農民が決起の日を書いた紙を月餅に忍ばせて贈り合い、それによって中秋節に一斉に決起したのだとか聞いたことがあった。それが本当ならこの世界に月餅を食べる習慣があることが不思議だ。そこらへんは張錦飛に尋ねるとして、秋の大祭も春の大祭のような形であれば、その機会に白虎に身を任せることになるのだろうと香子は想像する。
(秋の大祭も出たいし)
何よりも四神が出れば民衆が喜ぶだろう。
香子は自分があくまでおまけだと思っている。実際のところ孤児院などお金が足りないところへ多額の寄付をしている為四神の花嫁は庶民からは大人気なのだが、そんなことを香子自身が知っているはずもなかった。香子から言わせれば不必要な贈物を金に換えて渡すように言っているだけである。購入した人も安く買えて嬉しいし、贈物をした人には孤児院などから礼状も届く。いいことずくめだと思ってはいるが、同時にただ自分は仲介しているだけとも香子は思っている。ただ身分の高い者たちは贈物をどれだけもらえているかということがステータスなので、必要ないものも保管しているのが普通だ。それらの品はまた袖の下にも使える。そう考えると香子がしていることは異例であった。
閑話休題。
『やめた! 青龍さまのところへ行くわ』
今考えてもしかたがないことをつらつらと考えてはみたが答えなんか出るはずがないので、香子は青龍と過ごすことにした。もちろん青藍も一緒である。青龍のところへ行くと言った時、延夕玲がピクリと反応したが香子は気づいていないフリをした。
皇太后は当然のことながら延夕玲と青藍のことを知っている。鄭嬷嬷から青藍の手紙を受け取ったということもあるが、それ以外にも情報を得る方法はいくらだってあるのだ。青藍はまず隠していない。苦労するのは夕玲である。
青龍が迎えに来てくれたので、香子はその腕の中におさまった。
部屋の外へ出ると、綺麗なストレートの緑の髪が太陽の光を浴びてキラキラと光った。それがまるで宝石のように見えて、香子はぽかんと口を開けた。
『香子?』
『……いえ……』
自分の髪はどうだろうと垂らしている部分を日に翳してみると、まるで燃えているかのように見えた。それは朱雀の赤である。
『四神はみな美しいですよね』
他にどうとも言いようがなくて、香子は呟いた。だけど。
『そなたには叶わぬ』
『っっ』
青龍がさらりとそんなことを言うから、香子は頬をぼんっと赤く染めることしかできなかった。
『な、夏の空ですね』
『そうだな』
入道雲を見上げてそんなことを言いながら青龍の室に入り、青藍にお茶を淹れさせた。青龍はそのまま寝室に連れ込みたかったようだがそれはお断りした。
『そなたはつれない』
『昼間からは嫌だとお伝えしているはずです』
ククッと笑いながら言われたことなので軽く返すに留めた。それほど夜の相手はできていないが昼は白虎と交替で過ごしているではないかと香子は思う。
『もしかして……青龍さまって私の身体だけが目当てですか?』
『香子』
『だってそうじゃないですか。青龍さまはかなりの頻度で寝室に連れて行こうとなさいますよね』
『……そなたが愛しくてたまらぬのだ』
『……わかっています。ごめんなさい』
困ったような表情で言い聞かせるように言う青龍に、大人気なかったと香子は反省した。最初の頃に比べればましかもしれないが、香子は四神の花嫁であるが故に不安定なのである。
『そなたが謝ることはない』
青龍は香子の手の中にある蓋碗を卓の上に置かせると、少し震えている香子の口唇に口付けた。
なんだかくやしいと香子は思う。最初の頃文句を言っていたのは青龍なのに、今ではすっかり落ち着いてしまった。
(青藍にはまた今度……やっぱ先に老佛爷に相談してからにしようかな)
ちら、と延夕玲に関することを考えて、とりあえず今は青龍との口付けに集中することにした。
(張老師……も、聞かされても困るよね……)
書の老師である張錦飛が脳裏に浮かんだ。だがだめだと思い直す。
四神との関係は香子自身が考えなければならないこと。それは春の大祭に出るか出ないか程度の話ではない。
四神のうちの誰かを選ばなければならないのだ。
(そういえば秋の大祭って中秋節だよね。まだ先の話だけど……)
昼食までの間ぼうっと部屋でお茶を飲んでいる。部屋付の侍女(紅児含む)と延夕玲が控えているので独り言もままならない。
中秋節には月餅を食べる習慣があるらしい。月餅の由来といえば、香子は元代末期に異民族王朝を打倒する為に農民が決起の日を書いた紙を月餅に忍ばせて贈り合い、それによって中秋節に一斉に決起したのだとか聞いたことがあった。それが本当ならこの世界に月餅を食べる習慣があることが不思議だ。そこらへんは張錦飛に尋ねるとして、秋の大祭も春の大祭のような形であれば、その機会に白虎に身を任せることになるのだろうと香子は想像する。
(秋の大祭も出たいし)
何よりも四神が出れば民衆が喜ぶだろう。
香子は自分があくまでおまけだと思っている。実際のところ孤児院などお金が足りないところへ多額の寄付をしている為四神の花嫁は庶民からは大人気なのだが、そんなことを香子自身が知っているはずもなかった。香子から言わせれば不必要な贈物を金に換えて渡すように言っているだけである。購入した人も安く買えて嬉しいし、贈物をした人には孤児院などから礼状も届く。いいことずくめだと思ってはいるが、同時にただ自分は仲介しているだけとも香子は思っている。ただ身分の高い者たちは贈物をどれだけもらえているかということがステータスなので、必要ないものも保管しているのが普通だ。それらの品はまた袖の下にも使える。そう考えると香子がしていることは異例であった。
閑話休題。
『やめた! 青龍さまのところへ行くわ』
今考えてもしかたがないことをつらつらと考えてはみたが答えなんか出るはずがないので、香子は青龍と過ごすことにした。もちろん青藍も一緒である。青龍のところへ行くと言った時、延夕玲がピクリと反応したが香子は気づいていないフリをした。
皇太后は当然のことながら延夕玲と青藍のことを知っている。鄭嬷嬷から青藍の手紙を受け取ったということもあるが、それ以外にも情報を得る方法はいくらだってあるのだ。青藍はまず隠していない。苦労するのは夕玲である。
青龍が迎えに来てくれたので、香子はその腕の中におさまった。
部屋の外へ出ると、綺麗なストレートの緑の髪が太陽の光を浴びてキラキラと光った。それがまるで宝石のように見えて、香子はぽかんと口を開けた。
『香子?』
『……いえ……』
自分の髪はどうだろうと垂らしている部分を日に翳してみると、まるで燃えているかのように見えた。それは朱雀の赤である。
『四神はみな美しいですよね』
他にどうとも言いようがなくて、香子は呟いた。だけど。
『そなたには叶わぬ』
『っっ』
青龍がさらりとそんなことを言うから、香子は頬をぼんっと赤く染めることしかできなかった。
『な、夏の空ですね』
『そうだな』
入道雲を見上げてそんなことを言いながら青龍の室に入り、青藍にお茶を淹れさせた。青龍はそのまま寝室に連れ込みたかったようだがそれはお断りした。
『そなたはつれない』
『昼間からは嫌だとお伝えしているはずです』
ククッと笑いながら言われたことなので軽く返すに留めた。それほど夜の相手はできていないが昼は白虎と交替で過ごしているではないかと香子は思う。
『もしかして……青龍さまって私の身体だけが目当てですか?』
『香子』
『だってそうじゃないですか。青龍さまはかなりの頻度で寝室に連れて行こうとなさいますよね』
『……そなたが愛しくてたまらぬのだ』
『……わかっています。ごめんなさい』
困ったような表情で言い聞かせるように言う青龍に、大人気なかったと香子は反省した。最初の頃に比べればましかもしれないが、香子は四神の花嫁であるが故に不安定なのである。
『そなたが謝ることはない』
青龍は香子の手の中にある蓋碗を卓の上に置かせると、少し震えている香子の口唇に口付けた。
なんだかくやしいと香子は思う。最初の頃文句を言っていたのは青龍なのに、今ではすっかり落ち着いてしまった。
(青藍にはまた今度……やっぱ先に老佛爷に相談してからにしようかな)
ちら、と延夕玲に関することを考えて、とりあえず今は青龍との口付けに集中することにした。
1
お気に入りに追加
4,026
あなたにおすすめの小説

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります
真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」
婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。
そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。
脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。
王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。
聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい
金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。
私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。
勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。
なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。
※小説家になろうさんにも投稿しています。

できれば穏便に修道院生活へ移行したいのです
新条 カイ
恋愛
ここは魔法…魔術がある世界。魔力持ちが優位な世界。そんな世界に日本から転生した私だったけれど…魔力持ちではなかった。
それでも、貴族の次女として生まれたから、なんとかなると思っていたのに…逆に、悲惨な将来になる可能性があるですって!?貴族の妾!?嫌よそんなもの。それなら、女の幸せより、悠々自適…かはわからないけれど、修道院での生活がいいに決まってる、はず?
将来の夢は修道院での生活!と、息巻いていたのに、あれ。なんで婚約を申し込まれてるの!?え、第二王子様の護衛騎士様!?接点どこ!?
婚約から逃れたい元日本人、現貴族のお嬢様の、逃れられない恋模様をお送りします。
■■両翼の守り人のヒロイン側の話です。乳母兄弟のあいつが暴走してとんでもない方向にいくので、ストッパーとしてヒロイン側をちょいちょい設定やら会話文書いてたら、なんかこれもUPできそう。と…いう事で、UPしました。よろしくお願いします。(ストッパーになれればいいなぁ…)
■■

誰でもイイけど、お前は無いわw
猫枕
恋愛
ラウラ25歳。真面目に勉強や仕事に取り組んでいたら、いつの間にか嫁き遅れになっていた。
同い年の幼馴染みランディーとは昔から犬猿の仲なのだが、ランディーの母に拝み倒されて見合いをすることに。
見合いの場でランディーは予想通りの失礼な発言を連発した挙げ句、
「結婚相手に夢なんて持ってないけど、いくら誰でも良いったってオマエは無いわww」
と言われてしまう。

転生したら乙女ゲームの主人公の友達になったんですが、なぜか私がモテてるんですが?
rita
恋愛
田舎に住むごく普通のアラサー社畜の私は車で帰宅中に、
飛び出してきた猫かたぬきを避けようとしてトラックにぶつかりお陀仏したらしく、
気付くと、最近ハマっていた乙女ゲームの世界の『主人公の友達』に転生していたんだけど、
まぁ、友達でも二次元女子高生になれたし、
推しキャラやイケメンキャラやイケオジも見れるし!楽しく過ごそう!と、
思ってたらなぜか主人公を押し退け、
攻略対象キャラからモテまくる事態に・・・・
ちょ、え、これどうしたらいいの!!!嬉しいけど!!!

玉の輿を狙う妹から「邪魔しないで!」と言われているので学業に没頭していたら、王子から求婚されました
歌龍吟伶
恋愛
王立学園四年生のリーリャには、一学年下の妹アーシャがいる。
昔から王子様との結婚を夢見ていたアーシャは自分磨きに余念がない可愛いらしい娘で、六年生である第一王子リュカリウスを狙っているらしい。
入学当時から、「私が王子と結婚するんだからね!お姉ちゃんは邪魔しないで!」と言われていたリーリャは学業に専念していた。
その甲斐あってか学年首位となったある日。
「君のことが好きだから」…まさかの告白!

完)嫁いだつもりでしたがメイドに間違われています
オリハルコン陸
恋愛
嫁いだはずなのに、格好のせいか本気でメイドと勘違いされた貧乏令嬢。そのままうっかりメイドとして馴染んで、その生活を楽しみ始めてしまいます。
◇◇◇◇◇◇◇
「オマケのようでオマケじゃない〜」では、本編の小話や後日談というかたちでまだ語られてない部分を補完しています。
14回恋愛大賞奨励賞受賞しました!
これも読んでくださったり投票してくださった皆様のおかげです。
ありがとうございました!
ざっくりと見直し終わりました。完璧じゃないけど、とりあえずこれで。
この後本格的に手直し予定。(多分時間がかかります)

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる