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第2部 嫁ぎ先を決めろと言われました

132.保護者は心配するものです

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 紅児が頤和園に行った翌朝の早い時間に、香子は頭を抱えていた。どうも昨夜紅児が紅夏の室を訪ねたらしい。そしてそのまま今まで出てこないという。

「あーーーー……」

 思わず出た声に濁点がつきそうである。
 紅児に関しては何かあればすぐ知らせるようにと侍女たちにも伝えてあるので、部屋に戻ってこない紅児を心配して黒月に知らせてくれたようである。その為本来なら香子はまだ眠っている時間だったが、早起きしてこうして頭を抱えているのだった。

(手を出すなと言ったはずなのにあいつはああああああ!!)

 そうはいっても、紅児は自分の意志で紅夏の室を訪ねたというから尚困るのだ。

『……朱雀さま』
『如何した』

 聞くだけ無駄だということはわかっているが、香子は聞かずにはいられなかった。

『紅夏は……エリーザをその……抱いたと思いますか……?』
『ふむ』

 朱雀は少しだけ考えるような顔をした。

『気持ちが盛り上がって、ということは考えられるが……まだ抱いてはおらぬだろう』
『その理由を教えて下さい』
『”つがい”であれば”熱”を与えるはずだ。”熱”を受けた”つがい”を置いて外出するとは考えられぬ』
『そうなのですね』

 そう、紅夏は今紅児が住んでいた秦皇島の村に出かけている。紅児や馬に頼まれた荷物を紅児の養父母に届けに行ったのだ。それは事前に朱雀に伝えられていたので今紅夏が室にいないことは香子も知っていた。
 朱雀だけでなく朱雀の眷属もまた”つがい”には”熱”を与えるらしい。確かにあの”熱”を受けたなら紅児が無事でいられるはずはないと香子も思う。一日動き回った後に”熱”を与えられて奪われ、翌日仕事に出てくるというのは無理な話だ。
 やっと香子は安心した。

『……寝ます』
香子シャンズ?』
『せっかく起きたのだからそのまま起きていてもよいではないか』

 いつもより早く起こされたことで眠気を感じそのまま寝ようとしたが、隣で寝転がっている玄武と朱雀が許してくれるはずはなかった。だが今回は香子も譲らなかった。

『じゃあごはんが食べたいです。まだ時間早そうですし、厨师コックや侍女たちにはすっごく迷惑をかけると思いますけど、どうしても起きていろとおっしゃるならばごはんを食べます』
『……わかった。だが口付けならばよいだろう?』
『顔だけですよ』
『それは残念だ』

 玄武が苦笑し、朱雀がククッと喉の奥で笑う。香子としては非常に不本意だがしかたないではないかと思う。四神の誰かと交わった翌朝はとても腹が減るのだ。空腹で二神の相手をするのは無理というものである。
 いつもの時間までいちゃいちゃし、朝食を食べてから香子は朱雀に部屋へと送ってもらった。
 果たして紅児は香子の部屋で控えていた。
 長椅子に下ろされる。すぐ隣に朱雀が腰掛けた。紅児がタイミングよくお茶を淹れてくれた。一口飲み、茶杯を卓に置く。
 そしてできるだけ動揺を悟られないように昨日のデートのことを尋ねた。
 頤和園には昆明湖という大きな湖がある。船が用意されており遊覧できると聞いていたが、紅児は具合が悪くなったらしく乗らなかったらしい。残念なことである。
 ただ石舫という湖の端に設置された、船の形を石で模して造った建物の中では食事をしたらしい。

(杞憂かしら?)

 具合が悪くなったということに香子は少し引っかかるものを感じたが、紅児の心配そうな表情を見てなんでもないと、昨夜の件に持っていくことで話を反らした。
 案の定昨夜紅夏は紅児を抱かなかったらしい。だが何もなかったわけではないようで、紅児が真っ赤になる。香子はにこやかな笑みを浮かべながら紅夏に殺意を覚えた。

『……エリーザは、紅夏に決めたのよね?』
『……はい』
『それならいいわ。でも、困ったことがあればなんでも言ってね。なにせ相手は人じゃないから』

 延夕玲はどうもそれに異論があるらしく不満そうな声を上げた。だが夕玲は夕玲で青藍との関係はそれなりに苦労しているように見受けられるのだ。黒月も何やら異論があるらしかったが、まだ彼女は未成年で”つがい”がどういう者なのかもわからない。黒月は同じ玄武の眷属と一緒になるかもしれないし、もしかしたら人が”つがい”になるかもしれない。その時常識の違いで苦労するのは当人たちだ。そんな時相談できる相手がいるといないのとでは違うと香子は思うのだ。
 朱雀にも諭され、夕玲と黒月はしぶしぶ黙った。正直後が恐い。
 朱雀は穏やかな表情を紅児に向けた。

『紅児とやら……紅夏と添い遂げる覚悟をしたのだな。親として礼を言う』
『……え……はい、あの……』

 紅児は目に見えて戸惑っているようだった。
 香子は朱雀の”親”という科白に内心首を傾げたが、一応自覚はあったのだなと納得することにした。それならばもう少し紅夏の暴走を止めてくれないものだろうかと考えて、即座に否定する。
”つがい”を得た眷族を止められる者はどこにもいないのである。



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「貴方色に染まる」55、56話辺りです。
https://www.alphapolis.co.jp/novel/977111291/934161364
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