上 下
286 / 598
第2部 嫁ぎ先を決めろと言われました

132.保護者は心配するものです

しおりを挟む
 紅児が頤和園に行った翌朝の早い時間に、香子は頭を抱えていた。どうも昨夜紅児が紅夏の室を訪ねたらしい。そしてそのまま今まで出てこないという。

「あーーーー……」

 思わず出た声に濁点がつきそうである。
 紅児に関しては何かあればすぐ知らせるようにと侍女たちにも伝えてあるので、部屋に戻ってこない紅児を心配して黒月に知らせてくれたようである。その為本来なら香子はまだ眠っている時間だったが、早起きしてこうして頭を抱えているのだった。

(手を出すなと言ったはずなのにあいつはああああああ!!)

 そうはいっても、紅児は自分の意志で紅夏の室を訪ねたというから尚困るのだ。

『……朱雀さま』
『如何した』

 聞くだけ無駄だということはわかっているが、香子は聞かずにはいられなかった。

『紅夏は……エリーザをその……抱いたと思いますか……?』
『ふむ』

 朱雀は少しだけ考えるような顔をした。

『気持ちが盛り上がって、ということは考えられるが……まだ抱いてはおらぬだろう』
『その理由を教えて下さい』
『”つがい”であれば”熱”を与えるはずだ。”熱”を受けた”つがい”を置いて外出するとは考えられぬ』
『そうなのですね』

 そう、紅夏は今紅児が住んでいた秦皇島の村に出かけている。紅児や馬に頼まれた荷物を紅児の養父母に届けに行ったのだ。それは事前に朱雀に伝えられていたので今紅夏が室にいないことは香子も知っていた。
 朱雀だけでなく朱雀の眷属もまた”つがい”には”熱”を与えるらしい。確かにあの”熱”を受けたなら紅児が無事でいられるはずはないと香子も思う。一日動き回った後に”熱”を与えられて奪われ、翌日仕事に出てくるというのは無理な話だ。
 やっと香子は安心した。

『……寝ます』
香子シャンズ?』
『せっかく起きたのだからそのまま起きていてもよいではないか』

 いつもより早く起こされたことで眠気を感じそのまま寝ようとしたが、隣で寝転がっている玄武と朱雀が許してくれるはずはなかった。だが今回は香子も譲らなかった。

『じゃあごはんが食べたいです。まだ時間早そうですし、厨师コックや侍女たちにはすっごく迷惑をかけると思いますけど、どうしても起きていろとおっしゃるならばごはんを食べます』
『……わかった。だが口付けならばよいだろう?』
『顔だけですよ』
『それは残念だ』

 玄武が苦笑し、朱雀がククッと喉の奥で笑う。香子としては非常に不本意だがしかたないではないかと思う。四神の誰かと交わった翌朝はとても腹が減るのだ。空腹で二神の相手をするのは無理というものである。
 いつもの時間までいちゃいちゃし、朝食を食べてから香子は朱雀に部屋へと送ってもらった。
 果たして紅児は香子の部屋で控えていた。
 長椅子に下ろされる。すぐ隣に朱雀が腰掛けた。紅児がタイミングよくお茶を淹れてくれた。一口飲み、茶杯を卓に置く。
 そしてできるだけ動揺を悟られないように昨日のデートのことを尋ねた。
 頤和園には昆明湖という大きな湖がある。船が用意されており遊覧できると聞いていたが、紅児は具合が悪くなったらしく乗らなかったらしい。残念なことである。
 ただ石舫という湖の端に設置された、船の形を石で模して造った建物の中では食事をしたらしい。

(杞憂かしら?)

 具合が悪くなったということに香子は少し引っかかるものを感じたが、紅児の心配そうな表情を見てなんでもないと、昨夜の件に持っていくことで話を反らした。
 案の定昨夜紅夏は紅児を抱かなかったらしい。だが何もなかったわけではないようで、紅児が真っ赤になる。香子はにこやかな笑みを浮かべながら紅夏に殺意を覚えた。

『……エリーザは、紅夏に決めたのよね?』
『……はい』
『それならいいわ。でも、困ったことがあればなんでも言ってね。なにせ相手は人じゃないから』

 延夕玲はどうもそれに異論があるらしく不満そうな声を上げた。だが夕玲は夕玲で青藍との関係はそれなりに苦労しているように見受けられるのだ。黒月も何やら異論があるらしかったが、まだ彼女は未成年で”つがい”がどういう者なのかもわからない。黒月は同じ玄武の眷属と一緒になるかもしれないし、もしかしたら人が”つがい”になるかもしれない。その時常識の違いで苦労するのは当人たちだ。そんな時相談できる相手がいるといないのとでは違うと香子は思うのだ。
 朱雀にも諭され、夕玲と黒月はしぶしぶ黙った。正直後が恐い。
 朱雀は穏やかな表情を紅児に向けた。

『紅児とやら……紅夏と添い遂げる覚悟をしたのだな。親として礼を言う』
『……え……はい、あの……』

 紅児は目に見えて戸惑っているようだった。
 香子は朱雀の”親”という科白に内心首を傾げたが、一応自覚はあったのだなと納得することにした。それならばもう少し紅夏の暴走を止めてくれないものだろうかと考えて、即座に否定する。
”つがい”を得た眷族を止められる者はどこにもいないのである。



ーーーー
「貴方色に染まる」55、56話辺りです。
https://www.alphapolis.co.jp/novel/977111291/934161364
しおりを挟む
感想 86

あなたにおすすめの小説

旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハー異世界ラブコメ〜

ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉 転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!? のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました…… イケメン山盛りの逆ハーです 前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります 小説家になろう、カクヨムに転載しています

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~

恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん) は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。 しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!? (もしかして、私、転生してる!!?) そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!! そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?

目が覚めたら男女比がおかしくなっていた

いつき
恋愛
主人公である宮坂葵は、ある日階段から落ちて暫く昏睡状態になってしまう。 一週間後、葵が目を覚ますとそこは男女比が約50:1の世界に!?自分の父も何故かイケメンになっていて、不安の中高校へ進学するも、わがままな女性だらけのこの世界では葵のような優しい女性は珍しく、沢山のイケメン達から迫られる事に!? 「私はただ普通の高校生活を送りたいんです!!」 ##### r15は保険です。 2024年12月12日 私生活に余裕が出たため、投稿再開します。 それにあたって一部を再編集します。 設定や話の流れに変更はありません。

私の部屋で兄と不倫相手の女が寝ていた。

ほったげな
恋愛
私が家に帰ってきたら、私の部屋のベッドで兄と不倫相手の女が寝ていた。私は不倫の証拠を見つけ、両親と兄嫁に話すと…?!

明智さんちの旦那さんたちR

明智 颯茄
恋愛
 あの小高い丘の上に建つ大きなお屋敷には、一風変わった夫婦が住んでいる。それは、妻一人に夫十人のいわゆる逆ハーレム婚だ。  奥さんは何かと大変かと思いきやそうではないらしい。旦那さんたちは全員神がかりな美しさを持つイケメンで、奥さんはニヤケ放題らしい。  ほのぼのとしながらも、複数婚が巻き起こすおかしな日常が満載。  *BL描写あり  毎週月曜日と隔週の日曜日お休みします。

軽い気持ちで超絶美少年(ヤンデレ)に告白したら

夕立悠理
恋愛
容姿平凡、頭脳平凡、なリノアにはひとつだけ、普通とちがうところがある。  それは極度の面食いということ。  そんなリノアは冷徹と名高い公爵子息(イケメン)に嫁ぐことに。 「初夜放置? ぜーんぜん、問題ないわ! だって旦那さまってば顔がいいもの!!!」  朝食をたまに一緒にとるだけで、満足だ。寝室別でも、他の女の香水の香りがしてもぜーんぜん平気。……なーんて、思っていたら、旦那さまの様子がおかしい? 「他の誰でもない君が! 僕がいいっていったんだ。……そうでしょ?」  あれ、旦那さまってば、どうして手錠をお持ちなのでしょうか?  それをわたしにつける??  じょ、冗談ですよね──!?!?

二度目の人生は異世界で溺愛されています

ノッポ
恋愛
私はブラック企業で働く彼氏ナシのおひとりさまアラフォー会社員だった。 ある日 信号で轢かれそうな男の子を助けたことがキッカケで異世界に行くことに。 加護とチート有りな上に超絶美少女にまでしてもらったけど……中身は今まで喪女の地味女だったので周りの環境変化にタジタジ。 おまけに女性が少ない世界のため 夫をたくさん持つことになりー…… 周りに流されて愛されてつつ たまに前世の知識で少しだけ生活を改善しながら異世界で生きていくお話。

最愛の番~300年後の未来は一妻多夫の逆ハーレム!!? イケメン旦那様たちに溺愛されまくる~

ちえり
恋愛
幼い頃から可愛い幼馴染と比較されてきて、自分に自信がない高坂 栞(コウサカシオリ)17歳。 ある日、学校帰りに事故に巻き込まれ目が覚めると300年後の時が経ち、女性だけ死に至る病の流行や、年々女子の出生率の低下で女は2割ほどしか存在しない世界になっていた。 一妻多夫が認められ、女性はフェロモンだして男性を虜にするのだが、栞のフェロモンは世の男性を虜にできるほどの力を持つ『α+』(アルファプラス)に認定されてイケメン達が栞に番を結んでもらおうと近寄ってくる。 目が覚めたばかりなのに、旦那候補が5人もいて初めて会うのに溺愛されまくる。さらに、自分と番になりたい男性がまだまだいっぱいいるの!!? 「恋愛経験0の私にはイケメンに愛されるなんてハードすぎるよ~」

処理中です...