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第2部 嫁ぎ先を決めろと言われました
129.人の身になって考えるのは難しいのです
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本格的な夏がきた。
四神宮にいる間は避暑など必要はないが、一歩四神宮を離れると夏の空気に襲われる。
四神宮の中はとにかく快適だ。どうも東西南北に四神がいるせいか、四神宮の空間の大気が固定されているようである。
そこらへんの難しいことは香子にはわからない。ただ特に汗ばむようなこともない気候は香子を少し鈍感にさせていたようだった。
(? 体調でも悪いのかしら?)
午後、昼食を終えた後たまたま部屋で過ごしていた香子は、紅児が眠そうにしているのに気づいた。最初は紅夏が無理をさせたりしているのではないかと思ったが、顔色も少し悪そうである。もしかしたら具合が悪いのではないかと心配したが、それなら紅夏が休ませるはずだと思い、寝不足なのではないかと当たりをつけた。
迎えがきたので白虎に抱かれて移動していると、日が射した。
『まぶしっ』
『大丈夫か?』
『はい、大丈夫です。……すっかり夏ですね』
ほんの少ししか浴びていないはずなのに、その陽射しは強烈だった。そこでふと、四神宮の中はともかく従業員が暮らすところはどうなのだろうと考えた。
『あれ? もしかして働いてる人たちの宿舎って暑い?』
『如何した』
白虎の室に入り、お茶を啜る。香子は白雲を見た。白雲は確か四神宮の外側の宿舎に部屋を持っているはずである。
『白雲、ここで働いている人たちの宿舎って、ここほど快適ではないの?』
『……何を聞かれているのかわかりかねますが、気温という意味でしたら今の季節はそれなりに高いかと』
香子は頭を抱えた。自分が恵まれた場所にいるからこそ気づけなかった。
『陳は暑そうにしているの?』
『共にいる際はその限りではありませんが』
『……それはそうよね。陳を呼んで』
『承知しました』
四神の眷属に聞いた自分がバカだったとこめかみを押さえ、侍女頭である陳を呼んでもらうことにした。当事者に話を聞くのが一番早いだろう。
『陳です。お呼びと伺いましたが……』
『ありがとう。少し教えてもらってもいいかしら』
『はい』
最近は陳も慣れてきたらしく、こんな風に突然呼ばれてもあまり動じなくなっている。香子はどう尋ねたものか少し考えた。
『ここにいるとさっぱり気温の変化は感じないのだけど、四神宮の外はもうかなり暑いのかしら』
『そうですね。四神宮の外に出ると一気に暑く感じられます』
『やっぱりそうなのね。そうなると、もしかして夜も暑くて眠れなかったりするのかしら?』
陳は少し考えるような顔をした。
『そう、ですね……確かに大部屋は……ああ……』
陳は一瞬焦ったような表情をした。大部屋は侍女たちが暮らしている部屋である。確かその中に紅児が暮らす小部屋があって、とそこまで考えて香子は青くなった。
『凉石は手に入る? 床ぐらいの広さの場所が冷えるものがあるといいのだけど……』
『花嫁さま、たいへん申し訳ありません!』
陳が腰を落とし、地板に頭を擦り付ける。
『お叱りは如何様にも……!』
『立ちなさい。貴方が気にすることではないわ』
『しかし……!』
『エリーザの保護者は私よ。気づかなかった私が悪いの。でも、凉石の手配はお願いしてもいいかしら?』
『……花嫁さま、ありがとうございます!』
大部屋ならばいくら暑いといっても多少は空気の流れがあるはずだ。それに侍女たちはそれなりの家の出だから自分の分の凉石ぐらい持っているはずである。だが紅児はこれまで石を使ったことがなかった。光石の存在は知っていたが使ったことはないと言っていた。だとしたら凉石の存在自体知らないだろうし、紅夏にそこらへんの気遣いができるとは思えない。
陳もまた最近は白雲の室に連れ込まれているということもあり、大部屋の中の小部屋がどういう状態だったか忘れていたようだった。だがそれに責任を感じる必要はない。毎日ほぼ一緒にいる香子が気づかなかったのが一番の問題である。
『ねぇ、ここに仕えている人たちってみんな凉石とか持っているものなの?』
『大体は所持しているかと……』
『やっぱりそうなのね。ありがとう。エリーザに渡す分の凉石の手配、よろしくね』
『承知しました!』
陳が白虎の室を出て行く。香子は白雲を見やった。
『凉石の使い方って、紅夏は知っているのかしら?』
『どうでしょうな』
そもそもそれらの石を使う必要がない眷族が使えるものだろうか。
『陳に渡してもらって、紅夏に使い方を教えてもらえるといいと思うだけど』
『紅夏に伝えておきます』
『よろしくね』
こうして紅児は大きめの凉石を陳に手渡され、この国の夏を快適に過ごすことができるようになった。
紅児はとても喜んで、凉石を準備したのだろう香子に感謝した。
『……保護者失格だわ』
その裏で香子が落ち込んでいたことは秘密である。
ーーーー
「貴方色に染まる」48話の裏話的な回でした。
https://www.alphapolis.co.jp/novel/977111291/934161364
四神宮にいる間は避暑など必要はないが、一歩四神宮を離れると夏の空気に襲われる。
四神宮の中はとにかく快適だ。どうも東西南北に四神がいるせいか、四神宮の空間の大気が固定されているようである。
そこらへんの難しいことは香子にはわからない。ただ特に汗ばむようなこともない気候は香子を少し鈍感にさせていたようだった。
(? 体調でも悪いのかしら?)
午後、昼食を終えた後たまたま部屋で過ごしていた香子は、紅児が眠そうにしているのに気づいた。最初は紅夏が無理をさせたりしているのではないかと思ったが、顔色も少し悪そうである。もしかしたら具合が悪いのではないかと心配したが、それなら紅夏が休ませるはずだと思い、寝不足なのではないかと当たりをつけた。
迎えがきたので白虎に抱かれて移動していると、日が射した。
『まぶしっ』
『大丈夫か?』
『はい、大丈夫です。……すっかり夏ですね』
ほんの少ししか浴びていないはずなのに、その陽射しは強烈だった。そこでふと、四神宮の中はともかく従業員が暮らすところはどうなのだろうと考えた。
『あれ? もしかして働いてる人たちの宿舎って暑い?』
『如何した』
白虎の室に入り、お茶を啜る。香子は白雲を見た。白雲は確か四神宮の外側の宿舎に部屋を持っているはずである。
『白雲、ここで働いている人たちの宿舎って、ここほど快適ではないの?』
『……何を聞かれているのかわかりかねますが、気温という意味でしたら今の季節はそれなりに高いかと』
香子は頭を抱えた。自分が恵まれた場所にいるからこそ気づけなかった。
『陳は暑そうにしているの?』
『共にいる際はその限りではありませんが』
『……それはそうよね。陳を呼んで』
『承知しました』
四神の眷属に聞いた自分がバカだったとこめかみを押さえ、侍女頭である陳を呼んでもらうことにした。当事者に話を聞くのが一番早いだろう。
『陳です。お呼びと伺いましたが……』
『ありがとう。少し教えてもらってもいいかしら』
『はい』
最近は陳も慣れてきたらしく、こんな風に突然呼ばれてもあまり動じなくなっている。香子はどう尋ねたものか少し考えた。
『ここにいるとさっぱり気温の変化は感じないのだけど、四神宮の外はもうかなり暑いのかしら』
『そうですね。四神宮の外に出ると一気に暑く感じられます』
『やっぱりそうなのね。そうなると、もしかして夜も暑くて眠れなかったりするのかしら?』
陳は少し考えるような顔をした。
『そう、ですね……確かに大部屋は……ああ……』
陳は一瞬焦ったような表情をした。大部屋は侍女たちが暮らしている部屋である。確かその中に紅児が暮らす小部屋があって、とそこまで考えて香子は青くなった。
『凉石は手に入る? 床ぐらいの広さの場所が冷えるものがあるといいのだけど……』
『花嫁さま、たいへん申し訳ありません!』
陳が腰を落とし、地板に頭を擦り付ける。
『お叱りは如何様にも……!』
『立ちなさい。貴方が気にすることではないわ』
『しかし……!』
『エリーザの保護者は私よ。気づかなかった私が悪いの。でも、凉石の手配はお願いしてもいいかしら?』
『……花嫁さま、ありがとうございます!』
大部屋ならばいくら暑いといっても多少は空気の流れがあるはずだ。それに侍女たちはそれなりの家の出だから自分の分の凉石ぐらい持っているはずである。だが紅児はこれまで石を使ったことがなかった。光石の存在は知っていたが使ったことはないと言っていた。だとしたら凉石の存在自体知らないだろうし、紅夏にそこらへんの気遣いができるとは思えない。
陳もまた最近は白雲の室に連れ込まれているということもあり、大部屋の中の小部屋がどういう状態だったか忘れていたようだった。だがそれに責任を感じる必要はない。毎日ほぼ一緒にいる香子が気づかなかったのが一番の問題である。
『ねぇ、ここに仕えている人たちってみんな凉石とか持っているものなの?』
『大体は所持しているかと……』
『やっぱりそうなのね。ありがとう。エリーザに渡す分の凉石の手配、よろしくね』
『承知しました!』
陳が白虎の室を出て行く。香子は白雲を見やった。
『凉石の使い方って、紅夏は知っているのかしら?』
『どうでしょうな』
そもそもそれらの石を使う必要がない眷族が使えるものだろうか。
『陳に渡してもらって、紅夏に使い方を教えてもらえるといいと思うだけど』
『紅夏に伝えておきます』
『よろしくね』
こうして紅児は大きめの凉石を陳に手渡され、この国の夏を快適に過ごすことができるようになった。
紅児はとても喜んで、凉石を準備したのだろう香子に感謝した。
『……保護者失格だわ』
その裏で香子が落ち込んでいたことは秘密である。
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「貴方色に染まる」48話の裏話的な回でした。
https://www.alphapolis.co.jp/novel/977111291/934161364
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