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第2部 嫁ぎ先を決めろと言われました
127.”つがい”だなんて話をされても困るのです
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張錦飛はまた三、四日に一度の頻度で来てくれるそうだ。香子は深く感謝し、書をもう少し真面目に練習しなければと、思いを新たにした。
そんなこんなで平穏な日々が戻ってきたように思われたが、そうは問屋が卸さなかったらしい。
四神宮の中の気温は変わらないが、陽射しが夏を感じさせるようになってきたある昼下がり。
『花嫁さま、ただいま紅児が食堂にて紅夏に怒鳴り散らしているという報告を受けました』
『あー……』
黒月からそれを知らされた香子は天を仰いだ。
また紅夏が紅児を困らせるようなことを言ったのだろう。
(まだ十四の少女を困らせるとか、アイツはいったいなんなの!?)
『白雲、エリーザと紅夏を四神宮の食堂に連れてきて』
『承知しました』
白雲が出て行った後、白虎を促して四神宮の食堂へ移動する。大事な話をするのには香子の部屋は狭いのだ。その為に謁見の間があるわけだが、紅児との話はさすがに四神宮の外でするわけにはいかない。
『今度は何を言ったのでしょうね』
ため息交じりに呟く。
『さぁな。だいたい予想はつくが』
『そうですね』
紅夏が紅児を困らせる内容なんて、”つがい”に関することに決まっている。ただでさえ不安定になっている少女を追いつめないでほしかった。
食堂で待っていると、紅児を抱き上げた紅夏がやってきた。紅児の目元が赤くなっているのがわかる。
(泣かせたのね)
ふつふつと怒りがこみ上げてくるが、白虎に手を撫でられることでどうにか抑えた。
『お呼びと伺いました』
紅夏の全く悪びれない態度に毒気が抜ける。眷族というのはこうなのだとわかってはいるが、香子は嘆息しないではいられなかった。
『……あんまりね……馬に蹴られるような真似はしたくないんだけど……。紅夏、頼むからエリーザをあまり追い詰めないでほしいのよ』
紅児が紅夏の腕の中で小さく縮こまるのがわかる。紅児は全く悪くない。悪いのは紅夏である。
『紅児の質問に答えていました。それが追い詰める結果になったしまったことは否定いたしませぬ』
紅児が紅夏にいろいろ聞いているということは香子も知っていた。侍女たちよりは紅夏の方がこの大陸について詳しいだろう。
なんの話をしていたのかと尋ねれば、やはり”つがい”の件であった。何故紅夏は紅児が己の”つがい”だとわかったのか。確かにこの辺りの話は感覚的である為に説明もしずらい。
前提条件としてまず紅児は紅夏のことが好きでも嫌いでもないらしい。いろいろなことがありすぎて誰かに想いを寄せることができないでいるようだ。
紅夏への気持ちはわからない。
ならば今”つがい”の話をしても理解はできないだろうと香子は判断した。
だが四神やその眷属の存在については伝えなければならない。
見た目は人間と同じだが、彼らは神とその眷属である。人間は慈しむものであっても、普通ならば恋愛感情を抱く相手ではない。
四神や眷属にとって好ましい人間、といってもせいぜい愛玩動物のようなものだろう。
だが”つがい”は違う。
”つがい”とは終生を伴にする存在だ。
『……”つがい”というのは変わらないものなのですか?』
やっと少しなんとなくわかりかけてきたらしく、紅児が呟くように問う。
『代わりのない者。それが”つがい”だ』
紅夏の言葉に一応納得したらしい。紅児の顔に笑みが浮かんだ。
紅児も不安だったのだろう。人間のような形をしているがやはり人とは違う美丈夫が自分を本気で口説いているなんて、彼女にとってとても信じられることではなかったのだ。
食後は休むように言ったが紅児は働くという。曇りが晴れたような表情をしていた。
それならば香子も言うことはない。
『じゃあよろしくね』
とはいえ紅児はこの国の者ではない。例え紅夏の”つがい”であっても一緒になれるという保証はないのだ。
『香子、如何した?』
眉が寄っていたらしい。白虎の声かけに香子ははっとした。
『んー……なんでもないです。疲れたからごろごろしましょう』
香子が考えても仕方がない。こういうことは本人たちと、時間が解決するものである。
ーーーー
「貴方色に染まる」43~45話辺りです。
https://www.alphapolis.co.jp/novel/977111291/934161364
そんなこんなで平穏な日々が戻ってきたように思われたが、そうは問屋が卸さなかったらしい。
四神宮の中の気温は変わらないが、陽射しが夏を感じさせるようになってきたある昼下がり。
『花嫁さま、ただいま紅児が食堂にて紅夏に怒鳴り散らしているという報告を受けました』
『あー……』
黒月からそれを知らされた香子は天を仰いだ。
また紅夏が紅児を困らせるようなことを言ったのだろう。
(まだ十四の少女を困らせるとか、アイツはいったいなんなの!?)
『白雲、エリーザと紅夏を四神宮の食堂に連れてきて』
『承知しました』
白雲が出て行った後、白虎を促して四神宮の食堂へ移動する。大事な話をするのには香子の部屋は狭いのだ。その為に謁見の間があるわけだが、紅児との話はさすがに四神宮の外でするわけにはいかない。
『今度は何を言ったのでしょうね』
ため息交じりに呟く。
『さぁな。だいたい予想はつくが』
『そうですね』
紅夏が紅児を困らせる内容なんて、”つがい”に関することに決まっている。ただでさえ不安定になっている少女を追いつめないでほしかった。
食堂で待っていると、紅児を抱き上げた紅夏がやってきた。紅児の目元が赤くなっているのがわかる。
(泣かせたのね)
ふつふつと怒りがこみ上げてくるが、白虎に手を撫でられることでどうにか抑えた。
『お呼びと伺いました』
紅夏の全く悪びれない態度に毒気が抜ける。眷族というのはこうなのだとわかってはいるが、香子は嘆息しないではいられなかった。
『……あんまりね……馬に蹴られるような真似はしたくないんだけど……。紅夏、頼むからエリーザをあまり追い詰めないでほしいのよ』
紅児が紅夏の腕の中で小さく縮こまるのがわかる。紅児は全く悪くない。悪いのは紅夏である。
『紅児の質問に答えていました。それが追い詰める結果になったしまったことは否定いたしませぬ』
紅児が紅夏にいろいろ聞いているということは香子も知っていた。侍女たちよりは紅夏の方がこの大陸について詳しいだろう。
なんの話をしていたのかと尋ねれば、やはり”つがい”の件であった。何故紅夏は紅児が己の”つがい”だとわかったのか。確かにこの辺りの話は感覚的である為に説明もしずらい。
前提条件としてまず紅児は紅夏のことが好きでも嫌いでもないらしい。いろいろなことがありすぎて誰かに想いを寄せることができないでいるようだ。
紅夏への気持ちはわからない。
ならば今”つがい”の話をしても理解はできないだろうと香子は判断した。
だが四神やその眷属の存在については伝えなければならない。
見た目は人間と同じだが、彼らは神とその眷属である。人間は慈しむものであっても、普通ならば恋愛感情を抱く相手ではない。
四神や眷属にとって好ましい人間、といってもせいぜい愛玩動物のようなものだろう。
だが”つがい”は違う。
”つがい”とは終生を伴にする存在だ。
『……”つがい”というのは変わらないものなのですか?』
やっと少しなんとなくわかりかけてきたらしく、紅児が呟くように問う。
『代わりのない者。それが”つがい”だ』
紅夏の言葉に一応納得したらしい。紅児の顔に笑みが浮かんだ。
紅児も不安だったのだろう。人間のような形をしているがやはり人とは違う美丈夫が自分を本気で口説いているなんて、彼女にとってとても信じられることではなかったのだ。
食後は休むように言ったが紅児は働くという。曇りが晴れたような表情をしていた。
それならば香子も言うことはない。
『じゃあよろしくね』
とはいえ紅児はこの国の者ではない。例え紅夏の”つがい”であっても一緒になれるという保証はないのだ。
『香子、如何した?』
眉が寄っていたらしい。白虎の声かけに香子ははっとした。
『んー……なんでもないです。疲れたからごろごろしましょう』
香子が考えても仕方がない。こういうことは本人たちと、時間が解決するものである。
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「貴方色に染まる」43~45話辺りです。
https://www.alphapolis.co.jp/novel/977111291/934161364
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