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第2部 嫁ぎ先を決めろと言われました
126.知りたいこともたくさんあります
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便利な石があることに関して言えば、四神はその来歴について知らないようだった。もしかしたら四神を守護とした国への恩恵かもしれないが、四神は感知していないらしい。それならば眷属はどうだろうと尋ねてみたが、眷族たちも首を傾げていた。
よく考えたら四神も眷属も自分たちで体温調節しているし、そもそも暑いだの寒いだのを感じているかどうかもあやしい。石の活用についても人が気づいて採り始めたようなので、四神が知っているはずもなかった。
(天皇なら知ってるのかな)
石などというのは天の神からしたら些細なものだ。例え天皇が作ったとしてもそんなものは覚えていないだろうと思われた。
(張老師に聞いた方が早いかな)
この国の歴史に関して張錦飛はスペシャリストである。史学者というだけでなく神官だったなんて驚きだった。否、むしろ神官だからこそ歴史に精通しているのかもしれない。知りたいと思えば、香子は黙っていることなどできなかった。
『張老師にできるだけ早く訪ねていただけるようお伝えして』
そうと決まったら書の練習をしなければと、その日香子は夕飯の後も少し練習していた。
もちろんそう簡単に字がうまくなるわけはない。
翌々日、張が来てくれたが、相変わらずなんとも言えないような顔をされた。お世辞を言うような人でないのが救いである。
『……なかなか上達はしませんな』
『……申し訳ありません』
サボッていたのがバレバレである。青龍には少し褒められたがあれは惚れた欲目というやつなのだろう。
(うん、あれは世辞!)
そう思えば気が楽である。実際香子が自分で書いた字に納得がいかないのだ。これは納得がいくまで習うしかなかった。
終ってから四神宮の庭に出て張とお茶をする。香子はこの雑談の時間が一番好きだ。
『張老師が神官だなんて知りませんでした』
過ぎたことではあったが言わずにはいられない。この国には秋の大祭や春節もあるのだ。少なくともどちらかにはまた張が神官として出るに違いない。
『ほっほっほっ、聞かれませんでしたからのぅ』
どこかで聞いた科白である。誰がそんな突拍子もないことを聞くものかと香子は目を眇めた。
『老師、神官とは普段どのようなことをするのですか』
『毎日四神に祈る以外は普通の者と何も変わりません。今年はそう……少しありましたが後は秋の大祭と春節の準備がありますかな』
少し、というのは神官長がやらかした件だろうと香子は思う。あれのおかげで序列なりなんなりが変わったのかもしれない。
『老師、今年はたいへんですか?』
単刀直入に尋ねると、張は笑った。
『お気遣いありがとうございます。皇上(皇帝)をお迎えするのが四神と花嫁さまに変わるぐらいですから、私共は例年とそれほど変わらずに済んだと考えております。そうは言いましても、やはり陵光神君と孟章神君のお姿は神々しかったです。よいものを拝見しました。花嫁さま、本当にありがとうございます』
『いえ……』
朱雀と青龍が本性を現したことを言っているのだろう。確かに四神の本性など普通は見れるものではない。そう考えると今年はこの国の人々にとってもすごい年なのかもしれなかった。
『あ』
香子はふと聞きたかったことを思い出した。
『老師、光石とか、涼石などはこの国にしか存在しないようなことを聞きました。何か謂れがあれば教えてください』
張は目を細めた。
『花嫁さまの世界にはなかったのですか』
『はい、ありませんでした。元の世界のこの国にも、他の国にもそんな便利な石はなかったと思います。ですがこれらの石は唐の国にしかないとも聞きました。ご存知ないですか』
『……そうですな。光石に関しては比較的古い時代から使われていたようです。他の石については偶然見つけたものでありましょう。この国にしか存在しないというのも不思議な話ですな。地形なのか、それとも神々の加護なのか。残念ながら私は存じません。一応地質学を専門としている者がおりますので聞いてみましょう』
『そうですか』
香子はがっかりした。どうやら石の類がこの国のみに存在しているということも知らなかったようである。
(じゃあなんで四神は唐の国でしか産出されないことを知っていたのかしら?)
そこに答えがあるような気がした。
『急いではいませんから、もし聞けるようでしたらお願いします』
張は満足そうにうんうんと頷いた。
『花嫁さまは探究心が旺盛でいらっしゃる。私も負けてはいられませぬな』
『いえ、またいろいろご教授ください』
こういう話ができる人は貴重である。四神ではこうはいかない。
四神はこの国のいろいろなことに興味がなさそうに見える。自分たちで何かを深く考えるというのもなさそうだ。
それはきっと四神がそういう風に作られているからなのだろう。
(人間も遺伝子で全部決まってるっていうしね)
きっとこの性格も体質も何もかも遺伝子に操作されていると思えば、四神が自分たちでは感知していないことを知っていたとしてもおかしなことではないように、香子は思えた。
ーーーー
神官長については第二部80話を参照のこと。
「貴方色に染まる」43話辺りです。
https://www.alphapolis.co.jp/novel/977111291/934161364
よく考えたら四神も眷属も自分たちで体温調節しているし、そもそも暑いだの寒いだのを感じているかどうかもあやしい。石の活用についても人が気づいて採り始めたようなので、四神が知っているはずもなかった。
(天皇なら知ってるのかな)
石などというのは天の神からしたら些細なものだ。例え天皇が作ったとしてもそんなものは覚えていないだろうと思われた。
(張老師に聞いた方が早いかな)
この国の歴史に関して張錦飛はスペシャリストである。史学者というだけでなく神官だったなんて驚きだった。否、むしろ神官だからこそ歴史に精通しているのかもしれない。知りたいと思えば、香子は黙っていることなどできなかった。
『張老師にできるだけ早く訪ねていただけるようお伝えして』
そうと決まったら書の練習をしなければと、その日香子は夕飯の後も少し練習していた。
もちろんそう簡単に字がうまくなるわけはない。
翌々日、張が来てくれたが、相変わらずなんとも言えないような顔をされた。お世辞を言うような人でないのが救いである。
『……なかなか上達はしませんな』
『……申し訳ありません』
サボッていたのがバレバレである。青龍には少し褒められたがあれは惚れた欲目というやつなのだろう。
(うん、あれは世辞!)
そう思えば気が楽である。実際香子が自分で書いた字に納得がいかないのだ。これは納得がいくまで習うしかなかった。
終ってから四神宮の庭に出て張とお茶をする。香子はこの雑談の時間が一番好きだ。
『張老師が神官だなんて知りませんでした』
過ぎたことではあったが言わずにはいられない。この国には秋の大祭や春節もあるのだ。少なくともどちらかにはまた張が神官として出るに違いない。
『ほっほっほっ、聞かれませんでしたからのぅ』
どこかで聞いた科白である。誰がそんな突拍子もないことを聞くものかと香子は目を眇めた。
『老師、神官とは普段どのようなことをするのですか』
『毎日四神に祈る以外は普通の者と何も変わりません。今年はそう……少しありましたが後は秋の大祭と春節の準備がありますかな』
少し、というのは神官長がやらかした件だろうと香子は思う。あれのおかげで序列なりなんなりが変わったのかもしれない。
『老師、今年はたいへんですか?』
単刀直入に尋ねると、張は笑った。
『お気遣いありがとうございます。皇上(皇帝)をお迎えするのが四神と花嫁さまに変わるぐらいですから、私共は例年とそれほど変わらずに済んだと考えております。そうは言いましても、やはり陵光神君と孟章神君のお姿は神々しかったです。よいものを拝見しました。花嫁さま、本当にありがとうございます』
『いえ……』
朱雀と青龍が本性を現したことを言っているのだろう。確かに四神の本性など普通は見れるものではない。そう考えると今年はこの国の人々にとってもすごい年なのかもしれなかった。
『あ』
香子はふと聞きたかったことを思い出した。
『老師、光石とか、涼石などはこの国にしか存在しないようなことを聞きました。何か謂れがあれば教えてください』
張は目を細めた。
『花嫁さまの世界にはなかったのですか』
『はい、ありませんでした。元の世界のこの国にも、他の国にもそんな便利な石はなかったと思います。ですがこれらの石は唐の国にしかないとも聞きました。ご存知ないですか』
『……そうですな。光石に関しては比較的古い時代から使われていたようです。他の石については偶然見つけたものでありましょう。この国にしか存在しないというのも不思議な話ですな。地形なのか、それとも神々の加護なのか。残念ながら私は存じません。一応地質学を専門としている者がおりますので聞いてみましょう』
『そうですか』
香子はがっかりした。どうやら石の類がこの国のみに存在しているということも知らなかったようである。
(じゃあなんで四神は唐の国でしか産出されないことを知っていたのかしら?)
そこに答えがあるような気がした。
『急いではいませんから、もし聞けるようでしたらお願いします』
張は満足そうにうんうんと頷いた。
『花嫁さまは探究心が旺盛でいらっしゃる。私も負けてはいられませぬな』
『いえ、またいろいろご教授ください』
こういう話ができる人は貴重である。四神ではこうはいかない。
四神はこの国のいろいろなことに興味がなさそうに見える。自分たちで何かを深く考えるというのもなさそうだ。
それはきっと四神がそういう風に作られているからなのだろう。
(人間も遺伝子で全部決まってるっていうしね)
きっとこの性格も体質も何もかも遺伝子に操作されていると思えば、四神が自分たちでは感知していないことを知っていたとしてもおかしなことではないように、香子は思えた。
ーーーー
神官長については第二部80話を参照のこと。
「貴方色に染まる」43話辺りです。
https://www.alphapolis.co.jp/novel/977111291/934161364
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