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第2部 嫁ぎ先を決めろと言われました
124.おせっかいも時には必要です
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翌朝、太陽が昇る前に紅児は紅夏と共に王城を出発した。
夜のうちに、香子は玄武と朱雀に翌朝は早く起きたいと希望を伝えていた。紅児が出て行った頃には起きていたい。紅児の身が心配なのだと訴えた。
『そこまでそなたが気にする必要もあるまい』
つまらなそうに朱雀が言う。玄武も同意しているようだったが、紅児は未成年である。
『紅夏が手を出したらたいへんです。エリーザは他の大陸からきたお嬢さんなんですよ』
玄武と朱雀は顔を見合わせた。少しばかり思うところはあったようだった。
『ふむ』
今までの四神との会話の内容から総合すると、他の大陸には他の神が住んでいるはずである。セレスト王国のあるセレスティアル大陸にどんな神がいるのか香子は知らない。けれど他の大陸出身の者にこちらの大陸の神の眷属が手を出すのは問題ではないかと思うのだ。
『だがな。香子、相思相愛なればよいのではないのか?』
朱雀が言う。
『まだ相思相愛じゃないから言っているんですよ。そりゃあエリーザが身も心も紅夏に捧げますというぐらい紅夏を愛しているのなら、こちらとしても言うことはありません。ただ彼女はまだ未成年ですし、紅夏に惚れたとしても勘違いの可能性もあります。そういう部分は大人が注意してあげないといけません』
『……成人しているか、未成年であるかは我らにとってさほど問題にはならぬが、心のありようが未熟というのは同意しよう。……だが、そなたが誰かのことを思うのはな……』
朱雀の色を含んだ流し目に香子はくらくらしてきた。
(やばい、この目はやヴぁいい……)
『明日の夜は……その……』
自分から誘うようなことはできないが、四神の嫉妬は厄介なのだ。香子は頬を染めながら朱雀と玄武の袍の袖をそっと引いた。玄武が満足そうに笑んだ。
『かわいいことをする』
『今宵は手加減してやろう。起こしてもやる。だが明日の夜は……』
『は、はい……』
薄絹の睡衣の中に朱雀が顔を落とす。後はもう、香子はただその身を玄武と朱雀に捧げることしかできなかった。
(今夜が怖すぎる……)
毎晩どろどろに愛されるのは変わらないが、確かに昨夜は多少手加減してくれたのがわかった。香子の目覚めは相変わらずすっきりで、すごくおなかがすいているのもいつも通りだ。紅児が出かけたという報告を聞きながら早めの朝食に舌鼓を打つ。夜が明ける前に仕事をさせてしまうのは申し訳ないが、香子は紅児が心配でならなかった。
紅児は今日一日休みである。香子は四神の今までの行動から、紅夏が暴走するのではないかと予想していた。
養父が秦皇島の村に帰ることで紅児はナーバスになっている。その心の隙をつく、というと聞こえは悪いが、この機会を紅夏が逃すとは思えなかった。
案の定、紅夏は戻ってきたと同時に自分の室へ紅児を連れ込んだらしい。
『朱雀さま! 何がなんでも止めますよ!』
『承知した』
朱雀を足として紅夏の室に急行する。
ダンダンダンッッ!! ダンダンダンッッ!! ダンダンダンダンダンダンダンッッ!!
三三七拍子じゃないんだぞ、と自分にツッコミを入れながら扉を壊さんばかりに叩く。
『紅夏!! 開けなさい!! そこにエリーザがいるのはわかっているのよっっ!! あーけーなーさーいっっ!!』
周囲の迷惑など知ったことではない。香子は必死だった。
少し間を置いて、扉の向こうから不機嫌そうな声がした。
『どうなされました』
平静を装ってはいるが、香子からすればバレバレである。
『紅夏、エリーザを出しなさい。語らいなら部屋でなくてもできるはずよ。……それとも、既成事実でも作ろうとしたのかしら?』
紅夏の返しは予想だにしないものだった。
『そうですね。それで紅児が私に嫁いでくるならそうしましょう』
『開き直った!』
愕然とした。ありえない、と香子は思う。やはり二人きりにするのは危険だ。
紅児が何か言ったのか、紅夏はしぶしぶ扉を開けた。紅児は恥ずかしそうに、頬をほんのりと染めていた。
のちほどお茶をする約束を取り付け、香子はやっと一息つくことができた。
四神宮の庭で、香子は朱雀の腕に抱かれたまま紅児を待っていた。
紅夏に伴われてやってきた紅児は、薄桃色の衣装を身に着けていた。何もしてないだろうな、と香子は紅夏を睨む。紅夏はどこ吹く風だ。
気を取り直して、香子は昨日セレスト王国の貿易商に会ったことと、問い合わせに対する書状を渡したということを紅児に伝えた。紅児は信じられないというような顔をしながら、一つ一つ香子に質問した。それに丁寧に答え、半年以内には返事がくるはずだと納得させた。
本題はもう一つある。
香子は紅夏に、紅児が15歳になるまでは手を出すなと命令した。紅夏は不満を隠しもしなかったが、香子は引き下がるわけにはいかなかった。
性交渉は許さんとは言ったが二人が付き合うのまでは制限するつもりはないということを伝えると、紅夏はしぶしぶながらも了承した。
『花嫁様のお心づかい、感謝いたします』
全くそんなことは思っていないだろう。紅夏が礼をとると朱雀がククッと笑った。
『まぁせいぜいあがくといい』
それには紅夏が冷たい目で応戦する。
『ひとのことを言える立場ですか』
(あ、飛び火した)
香子は俯いた。
『ふむ、それもそうだな。ではせいぜい我もがんばるとしよう』
何故そこで同意するのだろうか。朱雀は香子を抱いたまま席を立つ。己の室に連れ込むつもりだろう。香子は慌てた。
『朱雀様! これ以上がんばらなくていいですから!』
『何を言う。ただでさえ昼間は遅れをとっているのだ。これまで以上にがんばらねばな』
『朱雀様の愛はちゃんと届いてますーー!!』
言っても無駄だということはわかっているが足掻かずにはいられない。紅夏がほくそ笑んでいるのを横目でとらえる。
『紅夏!! 覚えてなさいよ!!』
あ、これ負け負けの悪役のセリフだと思いながら、香子は叫ばずにはいられなかった。
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「貴方色に染まる」39~41話辺りです。
https://www.alphapolis.co.jp/novel/977111291/934161364
夜のうちに、香子は玄武と朱雀に翌朝は早く起きたいと希望を伝えていた。紅児が出て行った頃には起きていたい。紅児の身が心配なのだと訴えた。
『そこまでそなたが気にする必要もあるまい』
つまらなそうに朱雀が言う。玄武も同意しているようだったが、紅児は未成年である。
『紅夏が手を出したらたいへんです。エリーザは他の大陸からきたお嬢さんなんですよ』
玄武と朱雀は顔を見合わせた。少しばかり思うところはあったようだった。
『ふむ』
今までの四神との会話の内容から総合すると、他の大陸には他の神が住んでいるはずである。セレスト王国のあるセレスティアル大陸にどんな神がいるのか香子は知らない。けれど他の大陸出身の者にこちらの大陸の神の眷属が手を出すのは問題ではないかと思うのだ。
『だがな。香子、相思相愛なればよいのではないのか?』
朱雀が言う。
『まだ相思相愛じゃないから言っているんですよ。そりゃあエリーザが身も心も紅夏に捧げますというぐらい紅夏を愛しているのなら、こちらとしても言うことはありません。ただ彼女はまだ未成年ですし、紅夏に惚れたとしても勘違いの可能性もあります。そういう部分は大人が注意してあげないといけません』
『……成人しているか、未成年であるかは我らにとってさほど問題にはならぬが、心のありようが未熟というのは同意しよう。……だが、そなたが誰かのことを思うのはな……』
朱雀の色を含んだ流し目に香子はくらくらしてきた。
(やばい、この目はやヴぁいい……)
『明日の夜は……その……』
自分から誘うようなことはできないが、四神の嫉妬は厄介なのだ。香子は頬を染めながら朱雀と玄武の袍の袖をそっと引いた。玄武が満足そうに笑んだ。
『かわいいことをする』
『今宵は手加減してやろう。起こしてもやる。だが明日の夜は……』
『は、はい……』
薄絹の睡衣の中に朱雀が顔を落とす。後はもう、香子はただその身を玄武と朱雀に捧げることしかできなかった。
(今夜が怖すぎる……)
毎晩どろどろに愛されるのは変わらないが、確かに昨夜は多少手加減してくれたのがわかった。香子の目覚めは相変わらずすっきりで、すごくおなかがすいているのもいつも通りだ。紅児が出かけたという報告を聞きながら早めの朝食に舌鼓を打つ。夜が明ける前に仕事をさせてしまうのは申し訳ないが、香子は紅児が心配でならなかった。
紅児は今日一日休みである。香子は四神の今までの行動から、紅夏が暴走するのではないかと予想していた。
養父が秦皇島の村に帰ることで紅児はナーバスになっている。その心の隙をつく、というと聞こえは悪いが、この機会を紅夏が逃すとは思えなかった。
案の定、紅夏は戻ってきたと同時に自分の室へ紅児を連れ込んだらしい。
『朱雀さま! 何がなんでも止めますよ!』
『承知した』
朱雀を足として紅夏の室に急行する。
ダンダンダンッッ!! ダンダンダンッッ!! ダンダンダンダンダンダンダンッッ!!
三三七拍子じゃないんだぞ、と自分にツッコミを入れながら扉を壊さんばかりに叩く。
『紅夏!! 開けなさい!! そこにエリーザがいるのはわかっているのよっっ!! あーけーなーさーいっっ!!』
周囲の迷惑など知ったことではない。香子は必死だった。
少し間を置いて、扉の向こうから不機嫌そうな声がした。
『どうなされました』
平静を装ってはいるが、香子からすればバレバレである。
『紅夏、エリーザを出しなさい。語らいなら部屋でなくてもできるはずよ。……それとも、既成事実でも作ろうとしたのかしら?』
紅夏の返しは予想だにしないものだった。
『そうですね。それで紅児が私に嫁いでくるならそうしましょう』
『開き直った!』
愕然とした。ありえない、と香子は思う。やはり二人きりにするのは危険だ。
紅児が何か言ったのか、紅夏はしぶしぶ扉を開けた。紅児は恥ずかしそうに、頬をほんのりと染めていた。
のちほどお茶をする約束を取り付け、香子はやっと一息つくことができた。
四神宮の庭で、香子は朱雀の腕に抱かれたまま紅児を待っていた。
紅夏に伴われてやってきた紅児は、薄桃色の衣装を身に着けていた。何もしてないだろうな、と香子は紅夏を睨む。紅夏はどこ吹く風だ。
気を取り直して、香子は昨日セレスト王国の貿易商に会ったことと、問い合わせに対する書状を渡したということを紅児に伝えた。紅児は信じられないというような顔をしながら、一つ一つ香子に質問した。それに丁寧に答え、半年以内には返事がくるはずだと納得させた。
本題はもう一つある。
香子は紅夏に、紅児が15歳になるまでは手を出すなと命令した。紅夏は不満を隠しもしなかったが、香子は引き下がるわけにはいかなかった。
性交渉は許さんとは言ったが二人が付き合うのまでは制限するつもりはないということを伝えると、紅夏はしぶしぶながらも了承した。
『花嫁様のお心づかい、感謝いたします』
全くそんなことは思っていないだろう。紅夏が礼をとると朱雀がククッと笑った。
『まぁせいぜいあがくといい』
それには紅夏が冷たい目で応戦する。
『ひとのことを言える立場ですか』
(あ、飛び火した)
香子は俯いた。
『ふむ、それもそうだな。ではせいぜい我もがんばるとしよう』
何故そこで同意するのだろうか。朱雀は香子を抱いたまま席を立つ。己の室に連れ込むつもりだろう。香子は慌てた。
『朱雀様! これ以上がんばらなくていいですから!』
『何を言う。ただでさえ昼間は遅れをとっているのだ。これまで以上にがんばらねばな』
『朱雀様の愛はちゃんと届いてますーー!!』
言っても無駄だということはわかっているが足掻かずにはいられない。紅夏がほくそ笑んでいるのを横目でとらえる。
『紅夏!! 覚えてなさいよ!!』
あ、これ負け負けの悪役のセリフだと思いながら、香子は叫ばずにはいられなかった。
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「貴方色に染まる」39~41話辺りです。
https://www.alphapolis.co.jp/novel/977111291/934161364
応援ありがとうございます!
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