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第2部 嫁ぎ先を決めろと言われました

122.誰かの為に何かしたいのです

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 あれから玄武の室に連れ込まれ、香子は例によってあーんなことやそーんなことをされてしまった。が、さすがに夕飯前には解放された。それはもちろん夜も共に過ごすことが前提である。
 紅児と養父の会話は白雲がこっそり聞いていてくれたようである。どうやら紅児の養父は、明後日の朝秦皇島の村に帰ることにしたらしい。

『見送りはいらない、ね』

 泣かれるのは嫌だし自分も涙を見せたくないということなのだろうが、この先紅児が養父に会う機会があるかどうかもわからない。見送りぐらいさせるべきだと香子は思う。後悔しても遅いのだ。香子はもう家族に会うことができない。自分がどこにいると伝えることもできない。だからこそ、紅児には限られた機会を大事にしてほしかった。
 陳秀美は紅児から休暇の取り消しをお願いされたらしい。それは保留しておくように香子は伝えた。
 夕食の際、珍しく趙文英から書状が届けられた。

『私に?』
『できるだけ早く渡すよう言われました』

 延夕玲から書状を受け取る。行儀はよくないが食堂の席で広げた。

『んん?』

 漢字を追うが、やっぱりよくわからなかった。よほど急いで書かれたらしく字はかろうじて行書のようだが、繁体字で句読点もない。こんなの読めるか! と地板ゆかに叩きつけたい心境である。

『白虎さま、読んでください』
『要点だけでいいか』
『はい、それでお願いします』

 いちいちつらつらと読まれるのも苦行である。なんだかどこぞから客人が来ているらしいようなことが書いてあるのだが要領を得ない。読める人がいるのだから読んでもらうのが一番である。

『セレスト王国から来ている貿易商が明日北京を発つそうだ』
『はあっ!?』

 香子は思わずすっとんきょうな声を上げた。
 思いもかけぬ情報を伝えられ、なんだそれはどういうことだと混乱する。
 セレスト王国といえば紅児の祖国である。その貿易商が北京に滞在していたらしいが明日北京を発つらしい。

『せめて、手紙! エリーザの問い合わせ! ああもう、ああもう!!』

 発つ前に知ることができたのはいいが、明日というのはどういうことだと香子は混乱の極みだった。

香子シャンズ、落ち着け』
『落ち着けません! なんでいることがわからなかったのかとか。とりあえずいるうちに知れてよかったとか。ああもうどうしたらどうしたら……』
『花嫁さま、お静かに。これからどう対応するかをまとめましょう』
『……はい』

 白雲に諭されて、香子は立ち上がっていたが、椅子に再び腰掛けた。取り乱しているヒマなんてないのである。
 セレスト王国にかつての問い合わせへの返答を届けること。セレスト王国へは船で約二ヶ月かかる。往復で四ヶ月。余裕をもって半年以内に紅児をどうしたらいいかという答えをもらうこと。

『例えばなんですけど、船に沈没しない加護をつける、みたいなことってできるんですか?』

 紅児は帰国しようとした船が難破して秦皇島に流れ着いたのだ。書状を託したとしてその船が必ずセレスト王国に戻れるとは限らないのである。
 四神は少し考えるような顔をした。

『船自体にというのは難しいが、契約という形ならば可能かもしれぬ』

 朱雀が何か思いついたらしい。

『契約?』
『書状を届け、その答えを持って半年以内に戻ってくるならば、その後も船は無事である。書状自体に加護があるという状態だ』
『はー、なんだか魔法みたいですね』

 チートである。ご都合主義である。でも香子もそういうのは嫌いではない。せっかく神さまと共にいるのだ。それぐらいできてほしいと思う。

『じゃあ手紙の準備と貿易商に面会を取り付けてもらえばいいのね。よろしく』
『承知しました』

 白雲が趙に伝えに行く。これで明日中に面会できれば半年以内になんらかの回答は得られるはずである。
 あとは紅児が無事養父の見送りをできればいい。紅児を説得しなくてはと拳をぐっと握ったが、その日は無理だった。
 玄武の腕に捕らわれたら、香子が逃げられるわけがないのである。

(またドナドナだわ……)

 嫌ではないけど、爛れているのは、エロマンガ状態は……と葛藤をしても好きなのだから逆らえるはずもない。

(また明日……)

 入浴を終えて玄武の室に連れ込まれ、口付けを受けたらもう香子は何も考えられなくなった。



ーーーーー
「貴方色に染まる」36、37話辺りです。
https://www.alphapolis.co.jp/novel/977111291/934161364
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