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第2部 嫁ぎ先を決めろと言われました
117.色気もなんにもありません
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―後悔不及(後悔先に立たず)とは本当によく言ったものだと香子は思う。
もう何回目になる後悔だろう。目を覚ますと、朱雀の美しい面があった。後ろからは誰かに抱きこまれている。これは青龍だろう。香子はあまりのつらさにべそをかいた。
『香子』
朱雀の甘いテナーは嬉しそうに聞こえた。それが香子は非常にむかついた。
『う……』
『如何した?』
『うわあああああん! おなかすいたよおおおおお!!』
朝方まで延々貪られ、目を覚ましたらもう夜である。身体はもっと寝ていたいと眠気も主張しているがそれよりも空腹に耐えられなかったらしい。香子は抱き込んでいる青龍の腕をがじがじと容赦なくかじる。それでも歯型一つつけられないのがくやしい。
『準備はできているようだ。しばし待て』
朱雀が香子の髪を撫でながら宥めようとするが、香子は聞かなかった。
『身体の疲れとかはどうにかできてもこの空腹だけはどうにもならないんですかっ!?』
『どうにもならぬな』
『きいいいいいいっっ!!』
とんでもない憤りっぷりだがそれもしかたない。青龍との睦み合いは基本丸一日を使う。その間簡単にでも食事をしなければとても持たない。それをどうにか朱雀の補助により凝縮させ、半日に短縮させているのだ。今にも死んでしまいそうな空腹はそれ故であり、目覚めたと連絡をもらった厨師たちは急いで料理を準備するのだった。
『花嫁さま、前菜を運んで参りました』
『食べる……』
作り置きができる食べ物を急いで見繕ってくれたらしい。四神と花嫁に出す物については基本作り置きはできない。前菜以外は下ごしらえだけしておき、目覚められたと連絡が来次第作るという形をとっていた。厨師はたいへんだが喜んでくれる人がいるのは励みになっているらしい。四神宮の料理はよくも悪くも香子のリクエストで用意されていた。
朱雀の腕に抱かれて居間へ移動する。居間の卓子にはお茶だけでなく前菜が沢山並べられていた。ほぼ香子の為に作られていると言っても過言ではないので肉や内臓類は少ない。
「いただきます」
両手を合わせてから箸を持つ。これは四神宮のみで行っていた。
『トマト……かけてくれてるのは塩?』
『はい、花嫁さまのご希望通りだと聞いています』
侍女頭が答えた。
『ありがとう……』
皮も剥いてくれているのがありがたい。香子がトマトの皮は剥いた方がおいしいと言っていたことを厨師はしっかり覚えていたし、砂糖じゃなくて塩かけて! と言われたこともきちんと記録していた。花嫁が食べたい物を作るのは厨師たちの使命となりつつあった。
香子はスライスされたトマトを食べる。たったそれだけが胃に沁みた。
『おいしーい!』
黄瓜やえのき茸のあえもの、揚げピーナッツ、皮蛋豆腐(ピータン豆腐)、ハムなどいろいろなものが並んでいる。両隣に腰掛けている朱雀と青龍も空腹を感じてはいるが、香子の方がたいへんだとわかっているのであまり手は出さなかった。食い物の恨みは恐ろしいのである。
『お待たせしました。料理をお持ちしました』
侍女が次から次へと料理の載った托盘(お盆)を運んでくる。炒め物や揚げ物、肉包(肉まん)、菜包(野菜まん)で卓子の上はいっぱいになるが、皿が載った端から香子と二神が食べていくので全く問題はなかった。
『ふー……』
三本目の春巻をバリバリと食べ終えてから、香子はやっと一息ついた。こうしてすぐにでも料理が出てくるような環境でなければとても四神の相手はできないと香子は思う。抱かれた後は四神も香子ほどではないがよく食べる。食べ方は香子と違い上品で美しい。食べている姿まで絵になるのかと香子は目を据わらせた。
『香子、如何した?』
『なんでもないですー』
『落ち着いたか?』
『ええ、多少は落ち着きました。まだまだ食べられますが』
朱雀と青龍が少し心配そうに香子に尋ねる。いつものことといえばいつものことだが、こうして気にしてくれていると思うとそれだけで胸が疼くのだから自分がチョロすぎると香子は思った。
水餃子、炒飯、スープと、普通の人ならとっくの昔にギブアップする量を食べてようやく香子は落ち着いた。本来水餃子とごはんは一緒に食べないものだがそれだけでは満腹にならなかったのだ。
「ごちそうさまでした」
手を合わせて挨拶する。そうして皿が片付けられ、出入りしていた侍女たちが戻っていってから香子は昨夜のことを思い出した。蓋碗に淹れてもらったお茶を啜る。
(昨夜は玄武様はいらっしゃらなかったのよね……)
香子は頬を染めた。朱雀の”熱”を受けないとまだみなに抱かれるのは難しい。どういうわけか青龍に抱かれている間のことはあまり覚えていない。玄武と朱雀に抱かれている時のことは思い出すのに。
(何かあるんだよね、きっと)
少し気にはなるが聞くつもりはない。きっと香子にとって何か不都合があるから記憶が曖昧なのだろうと彼女は考えた。
『今何時ですか?』
『戌の刻(19時)でございます』
延夕玲の答えに香子は天を仰いだ。また一日潰れてしまった。
『朱雀さま、そのう……今夜は……』
『玄武兄と参る』
『あ、ハイ……』
抱かれて起きて、食事してまた抱かれる。
(まんまエロマンガだわ……)
香子は居間から回り廊下に続く扉を見た。
(庭に埋りたい)
それが叶うことはないと知っていた。
ーーーーー
「貴方色に染まる」32話辺りです。
https://www.alphapolis.co.jp/novel/977111291/934161364
4/10 R18シーンの116.5話はムーンライトに掲載しています。
https://novel18.syosetu.com/n0386fx/
もう何回目になる後悔だろう。目を覚ますと、朱雀の美しい面があった。後ろからは誰かに抱きこまれている。これは青龍だろう。香子はあまりのつらさにべそをかいた。
『香子』
朱雀の甘いテナーは嬉しそうに聞こえた。それが香子は非常にむかついた。
『う……』
『如何した?』
『うわあああああん! おなかすいたよおおおおお!!』
朝方まで延々貪られ、目を覚ましたらもう夜である。身体はもっと寝ていたいと眠気も主張しているがそれよりも空腹に耐えられなかったらしい。香子は抱き込んでいる青龍の腕をがじがじと容赦なくかじる。それでも歯型一つつけられないのがくやしい。
『準備はできているようだ。しばし待て』
朱雀が香子の髪を撫でながら宥めようとするが、香子は聞かなかった。
『身体の疲れとかはどうにかできてもこの空腹だけはどうにもならないんですかっ!?』
『どうにもならぬな』
『きいいいいいいっっ!!』
とんでもない憤りっぷりだがそれもしかたない。青龍との睦み合いは基本丸一日を使う。その間簡単にでも食事をしなければとても持たない。それをどうにか朱雀の補助により凝縮させ、半日に短縮させているのだ。今にも死んでしまいそうな空腹はそれ故であり、目覚めたと連絡をもらった厨師たちは急いで料理を準備するのだった。
『花嫁さま、前菜を運んで参りました』
『食べる……』
作り置きができる食べ物を急いで見繕ってくれたらしい。四神と花嫁に出す物については基本作り置きはできない。前菜以外は下ごしらえだけしておき、目覚められたと連絡が来次第作るという形をとっていた。厨師はたいへんだが喜んでくれる人がいるのは励みになっているらしい。四神宮の料理はよくも悪くも香子のリクエストで用意されていた。
朱雀の腕に抱かれて居間へ移動する。居間の卓子にはお茶だけでなく前菜が沢山並べられていた。ほぼ香子の為に作られていると言っても過言ではないので肉や内臓類は少ない。
「いただきます」
両手を合わせてから箸を持つ。これは四神宮のみで行っていた。
『トマト……かけてくれてるのは塩?』
『はい、花嫁さまのご希望通りだと聞いています』
侍女頭が答えた。
『ありがとう……』
皮も剥いてくれているのがありがたい。香子がトマトの皮は剥いた方がおいしいと言っていたことを厨師はしっかり覚えていたし、砂糖じゃなくて塩かけて! と言われたこともきちんと記録していた。花嫁が食べたい物を作るのは厨師たちの使命となりつつあった。
香子はスライスされたトマトを食べる。たったそれだけが胃に沁みた。
『おいしーい!』
黄瓜やえのき茸のあえもの、揚げピーナッツ、皮蛋豆腐(ピータン豆腐)、ハムなどいろいろなものが並んでいる。両隣に腰掛けている朱雀と青龍も空腹を感じてはいるが、香子の方がたいへんだとわかっているのであまり手は出さなかった。食い物の恨みは恐ろしいのである。
『お待たせしました。料理をお持ちしました』
侍女が次から次へと料理の載った托盘(お盆)を運んでくる。炒め物や揚げ物、肉包(肉まん)、菜包(野菜まん)で卓子の上はいっぱいになるが、皿が載った端から香子と二神が食べていくので全く問題はなかった。
『ふー……』
三本目の春巻をバリバリと食べ終えてから、香子はやっと一息ついた。こうしてすぐにでも料理が出てくるような環境でなければとても四神の相手はできないと香子は思う。抱かれた後は四神も香子ほどではないがよく食べる。食べ方は香子と違い上品で美しい。食べている姿まで絵になるのかと香子は目を据わらせた。
『香子、如何した?』
『なんでもないですー』
『落ち着いたか?』
『ええ、多少は落ち着きました。まだまだ食べられますが』
朱雀と青龍が少し心配そうに香子に尋ねる。いつものことといえばいつものことだが、こうして気にしてくれていると思うとそれだけで胸が疼くのだから自分がチョロすぎると香子は思った。
水餃子、炒飯、スープと、普通の人ならとっくの昔にギブアップする量を食べてようやく香子は落ち着いた。本来水餃子とごはんは一緒に食べないものだがそれだけでは満腹にならなかったのだ。
「ごちそうさまでした」
手を合わせて挨拶する。そうして皿が片付けられ、出入りしていた侍女たちが戻っていってから香子は昨夜のことを思い出した。蓋碗に淹れてもらったお茶を啜る。
(昨夜は玄武様はいらっしゃらなかったのよね……)
香子は頬を染めた。朱雀の”熱”を受けないとまだみなに抱かれるのは難しい。どういうわけか青龍に抱かれている間のことはあまり覚えていない。玄武と朱雀に抱かれている時のことは思い出すのに。
(何かあるんだよね、きっと)
少し気にはなるが聞くつもりはない。きっと香子にとって何か不都合があるから記憶が曖昧なのだろうと彼女は考えた。
『今何時ですか?』
『戌の刻(19時)でございます』
延夕玲の答えに香子は天を仰いだ。また一日潰れてしまった。
『朱雀さま、そのう……今夜は……』
『玄武兄と参る』
『あ、ハイ……』
抱かれて起きて、食事してまた抱かれる。
(まんまエロマンガだわ……)
香子は居間から回り廊下に続く扉を見た。
(庭に埋りたい)
それが叶うことはないと知っていた。
ーーーーー
「貴方色に染まる」32話辺りです。
https://www.alphapolis.co.jp/novel/977111291/934161364
4/10 R18シーンの116.5話はムーンライトに掲載しています。
https://novel18.syosetu.com/n0386fx/
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