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第2部 嫁ぎ先を決めろと言われました
116.晩餐会は平和でした
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朝と同じように王英明の案内で朱雀の腕に抱かれて移動する。今回は青龍、玄武、白虎と続き、付き従うのは白雲、黒月、延夕玲、青藍だった。紅夏は紅児についているのだろう。香子にとって紅夏はなんとももやもやする眷属である。
(エリーザを守ってくれていると思えば……)
と思ってはみたが四神宮にいて何を守る必要があるのか。むしろ紅夏から紅児を守らなければならないのではないかと、香子は難しい顔をした。
『香子、如何した?』
『……なんでもありません』
朱雀に聞かれる。四神は非常に嫉妬深いので四神以外の者のことを口にするのは危険だった。それが女性であってもヤキモチを焼くのでそこらへんは面倒だなと香子は思う。ただ愚痴を言うのも相手による。
まだ表は明るいが、太陽の光が橙色に染まってきている。あと一時間もすれば日が落ちてくるかもしれないと香子はぼんやり思った。
『日が長くなってきましたね』
『そうだな』
まだ端午の頃なので新暦では六月ぐらいだろう。七月、八月とどんどん日が長くなり、最終的には九時近くまで日が落ちなくなる。緯度が高いからそうなるのだろう。反面冬になると朝はけっこういつまでも暗いし、夜も暗くなるのが早い。大陸は基本時間を北京で設定しているので西に行くほど時差がずれる。唐も国の中で時差など設定していないだろう。西で暮らす人たちはたいへんだなと香子はちら、と思った。
そんなことを考えている間に晩餐会の会場に着いたようである。どうやら皇帝はすでに入場していたらしく、立ち上がったまま朱雀を迎えた。
皇帝以下招待されたと思しき人々もみな立っていたが、四神は全く頓着しなかった。案内された席の前で長袍をざっと整えると席に着く。その流れるような動きに非難の目を向ける者は一人もいなかった。
『この目出度い日に四神、並びに白香娘娘をここに迎えられたのは僥倖である。陵光神君、孟章神君、白香娘娘に天壇にて祭祀を行っていただいた。天へ祈りは届けられ、大唐は更なる繁栄と発展を約束された。これをみなと喜び、分かち合いたいと思う。今宵は大いに楽しむように』
皇帝が話を終え席に着くと同時に、続々と料理が運ばれてきた。他の者たちもみな席に着く。演奏が再開され、会場の中心では美しい女性たちによる舞が始まった。ひらひらとした天女の羽衣のような物が目を引く。
今回も香子は椅子に下ろしてはもらえなかった。当り前のように朱雀の腕の中で給餌をされる。
『食べたいものはあるか?』
『まずは前菜です。そこのえのきとか野菜を取ってください』
『内臓類は苦手であったな』
『どうしても匂いと食感がだめで』
四神はあまり食べないのであれもこれも香子に回ってくることとなる。
『トマトは砂糖がかかってるんですよね。それはさすがにちょっと……』
『苦手か?』
『文化の違いです』
丁寧に皮を剥かれ、キレイに飾り付けられたトマトに白い雪のようなものがかかっている。香子は最初塩かと思ったが大陸では残念ながら砂糖だった。その為大陸でトマトジュースを飲むと甘酸っぱかった。しょっぱいトマトジュースが好きな香子としてはそれが残念でならなかったのは余談である。中央で演技をしている者たちを挟んで反対側には皇太后や年若い者たちの姿が見えた。あれらは皇子たちなのだろう。皇后は皇帝の隣である。出席を許された官吏や皇帝皇后の身内の他に外国からの賓客と思しき姿もあった。明らかに肌の色や髪の色が薄い者たちがいるので一目瞭然だった。
彼らはちらちらと香子たちを窺っていたが、当然ながら香子は黙殺した。面倒事はごめんである。
(あ、でも……)
『朱雀さま。他国からの者たちと思われる姿が見えるのですが、海の向こうからもこういう晩餐会に参加する人っているんですかね?』
『どうだろうな。確か……海向こうの大陸なら一番近くても船で二ヶ月以上はかかるのではなかったか』
『ああ……そうでしたね。そしたらセレスト王国から来てる人はいないかなぁ』
どうしても交通機関が不便であることを忘れてしまう。この世界に、というか少なくともこの亜州大陸とセレスト王国のあるセレスティアル大陸には飛行機というものは存在しない。唐はこの大陸の中で一番大きな国だと香子は聞いているので、もしかしたら他の大陸からも大祭に出席する者がいるのではないかと思ったのだ。
(私がここに来てから、まだ四ヶ月も経ってないものね……)
往復だけで四ヶ月以上もかかるところからお祝いに訪れる者はいないだろう。
(遠いなぁ)
魚を取り分けてもらいながら香子はしみじみと思う。清蒸魚(魚の姿蒸し)はどの魚もとてもおいしい。日本でよく食べられているエビチリのような料理もあるが、こちらは乾燒明蝦といって四川料理である。唐辛子の粉や豆板醤により赤く見えるが、トマトケチャップは使われていない。辛く、甘みは全く感じられないが香子は辛い物も好きである。
(海老大好き~)
ご機嫌で海鮮を味わう香子を邪魔する者はいない。
『本当にそなたはおいしそうに食べる』
『おいしいですから!』
ごはんがおいしいのは幸せだ。朱雀以下四神にいろいろ取り分けてもらい香子はごちそうに舌鼓を打った。舞や演技も興味がないわけではないが基本花より団子である。その日の晩餐会は誰にも邪魔されることなく香子は料理を堪能することができた。
だがその日がそれで終わるわけはない。
『香子、今宵は青龍とも共にでよいのだな』
『あ……』
朱雀の甘いテナーに確認され、香子は青くなった。
ーーーーー
「貴方色に染まる」は31話辺りです。
https://www.alphapolis.co.jp/novel/977111291/934161364
4/10 R18シーンの116.5話はムーンライトに掲載しています。
https://novel18.syosetu.com/n0386fx/
(エリーザを守ってくれていると思えば……)
と思ってはみたが四神宮にいて何を守る必要があるのか。むしろ紅夏から紅児を守らなければならないのではないかと、香子は難しい顔をした。
『香子、如何した?』
『……なんでもありません』
朱雀に聞かれる。四神は非常に嫉妬深いので四神以外の者のことを口にするのは危険だった。それが女性であってもヤキモチを焼くのでそこらへんは面倒だなと香子は思う。ただ愚痴を言うのも相手による。
まだ表は明るいが、太陽の光が橙色に染まってきている。あと一時間もすれば日が落ちてくるかもしれないと香子はぼんやり思った。
『日が長くなってきましたね』
『そうだな』
まだ端午の頃なので新暦では六月ぐらいだろう。七月、八月とどんどん日が長くなり、最終的には九時近くまで日が落ちなくなる。緯度が高いからそうなるのだろう。反面冬になると朝はけっこういつまでも暗いし、夜も暗くなるのが早い。大陸は基本時間を北京で設定しているので西に行くほど時差がずれる。唐も国の中で時差など設定していないだろう。西で暮らす人たちはたいへんだなと香子はちら、と思った。
そんなことを考えている間に晩餐会の会場に着いたようである。どうやら皇帝はすでに入場していたらしく、立ち上がったまま朱雀を迎えた。
皇帝以下招待されたと思しき人々もみな立っていたが、四神は全く頓着しなかった。案内された席の前で長袍をざっと整えると席に着く。その流れるような動きに非難の目を向ける者は一人もいなかった。
『この目出度い日に四神、並びに白香娘娘をここに迎えられたのは僥倖である。陵光神君、孟章神君、白香娘娘に天壇にて祭祀を行っていただいた。天へ祈りは届けられ、大唐は更なる繁栄と発展を約束された。これをみなと喜び、分かち合いたいと思う。今宵は大いに楽しむように』
皇帝が話を終え席に着くと同時に、続々と料理が運ばれてきた。他の者たちもみな席に着く。演奏が再開され、会場の中心では美しい女性たちによる舞が始まった。ひらひらとした天女の羽衣のような物が目を引く。
今回も香子は椅子に下ろしてはもらえなかった。当り前のように朱雀の腕の中で給餌をされる。
『食べたいものはあるか?』
『まずは前菜です。そこのえのきとか野菜を取ってください』
『内臓類は苦手であったな』
『どうしても匂いと食感がだめで』
四神はあまり食べないのであれもこれも香子に回ってくることとなる。
『トマトは砂糖がかかってるんですよね。それはさすがにちょっと……』
『苦手か?』
『文化の違いです』
丁寧に皮を剥かれ、キレイに飾り付けられたトマトに白い雪のようなものがかかっている。香子は最初塩かと思ったが大陸では残念ながら砂糖だった。その為大陸でトマトジュースを飲むと甘酸っぱかった。しょっぱいトマトジュースが好きな香子としてはそれが残念でならなかったのは余談である。中央で演技をしている者たちを挟んで反対側には皇太后や年若い者たちの姿が見えた。あれらは皇子たちなのだろう。皇后は皇帝の隣である。出席を許された官吏や皇帝皇后の身内の他に外国からの賓客と思しき姿もあった。明らかに肌の色や髪の色が薄い者たちがいるので一目瞭然だった。
彼らはちらちらと香子たちを窺っていたが、当然ながら香子は黙殺した。面倒事はごめんである。
(あ、でも……)
『朱雀さま。他国からの者たちと思われる姿が見えるのですが、海の向こうからもこういう晩餐会に参加する人っているんですかね?』
『どうだろうな。確か……海向こうの大陸なら一番近くても船で二ヶ月以上はかかるのではなかったか』
『ああ……そうでしたね。そしたらセレスト王国から来てる人はいないかなぁ』
どうしても交通機関が不便であることを忘れてしまう。この世界に、というか少なくともこの亜州大陸とセレスト王国のあるセレスティアル大陸には飛行機というものは存在しない。唐はこの大陸の中で一番大きな国だと香子は聞いているので、もしかしたら他の大陸からも大祭に出席する者がいるのではないかと思ったのだ。
(私がここに来てから、まだ四ヶ月も経ってないものね……)
往復だけで四ヶ月以上もかかるところからお祝いに訪れる者はいないだろう。
(遠いなぁ)
魚を取り分けてもらいながら香子はしみじみと思う。清蒸魚(魚の姿蒸し)はどの魚もとてもおいしい。日本でよく食べられているエビチリのような料理もあるが、こちらは乾燒明蝦といって四川料理である。唐辛子の粉や豆板醤により赤く見えるが、トマトケチャップは使われていない。辛く、甘みは全く感じられないが香子は辛い物も好きである。
(海老大好き~)
ご機嫌で海鮮を味わう香子を邪魔する者はいない。
『本当にそなたはおいしそうに食べる』
『おいしいですから!』
ごはんがおいしいのは幸せだ。朱雀以下四神にいろいろ取り分けてもらい香子はごちそうに舌鼓を打った。舞や演技も興味がないわけではないが基本花より団子である。その日の晩餐会は誰にも邪魔されることなく香子は料理を堪能することができた。
だがその日がそれで終わるわけはない。
『香子、今宵は青龍とも共にでよいのだな』
『あ……』
朱雀の甘いテナーに確認され、香子は青くなった。
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「貴方色に染まる」は31話辺りです。
https://www.alphapolis.co.jp/novel/977111291/934161364
4/10 R18シーンの116.5話はムーンライトに掲載しています。
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