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第2部 嫁ぎ先を決めろと言われました

112.おもてなしは完璧でした

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 ふわり、と音がしたように思えるぐらい優しく香子は地上に下ろされた。とはいえまだ朱雀の上に乗っているという事実は変わらない。朱雀も青龍も本体は巨大である。それこそ二神で祈念殿の前の広場が埋ってしまうぐらいだった。
 黒月と延夕玲、そして青藍の姿を探す。彼らは祭天禮儀館の横辺りに控えていた。彼らが二神に潰されなくてよかったと香子はほっとした。

『……そなたは我らをなんだと思うているのか……』

 朱雀がいつになく低い声を出す。あ、まずいと香子は思った。今香子の思考はほぼ朱雀に筒抜けだったのだ。

『……万が一のことを考えて心配しただけですよ?』

 フォローにもならないが言い訳ぐらいはさせてほしい。朱雀はあからさまに嘆息した。

『……覚えておれ』
(やです。忘れます)

 そんなやりとりをしていると、祈念殿の外側、基壇の前に並んでいた神官たちが一斉に拝した。

天皇ティエンホワンに祈りは捧げた』
『孟章神君、陵光神君、白香娘娘心より御礼申し上げます!!』

 朱雀の言葉に神官たちが一斉に礼を言う。特に打ち合わせもしていないのに揃っていてすごいなと香子は感心した。
 それと同時に朱雀と青龍が人の姿になる。どういうわけか香子はしっかり朱雀の腕の中に納まっていた。

(不思議だなぁ……)
『大変申し訳ありません。料理の準備がもう少しかかります。よろしければ祈念殿の中をご覧いただけないでしょうか?』
香子シャンズ

 本来は祈念殿の中で祈りを捧げるか、もしくは別の場所で行う予定だったのだろうと香子は想像する。故に準備が整っていないのはしかたない。
 神官の提案に朱雀が香子に声をかける。決めろということなのだろう。もちろん香子としても異存はない。むしろ見せてくださいとお願いしたいぐらいだった。

『見させていただきたいです。不勉強で申し訳ないのですが説明していただいても?』
『もったいないお言葉、恐悦至極に存じます。どうぞこちらへ』

 神官たちが基壇の前からさーっと左右に動く。モーセの十戒かと香子は内心ツッコミを入れた。張錦飛に促され、青龍と朱雀が大理石の基壇に足をかけた。祈念殿が載っている基壇もまた円形で三層になっている。これは地上、雲上、天上を表しているらしい。基壇は9段ずつの階段で繋がっており、その上にある祈念殿はよく見ると屋根の色がそれぞれ違っていた。

(あれ? 全部青じゃなかったっけ?)

 三層の屋根は青・黄・緑色をしていた。

(もしかして、元々はこういう色だったのかな)

 香子が元の世界の天壇公園で見た祈念殿の屋根は確かに全て青だった。これは余談である。
 とにかく香子は朱雀に抱かれたまま祈念殿の中に入った。

『わぁ……キレイですねぇ……』

 天井がとても高い。中は祭壇と太い柱、色鮮やかな屋根で構成されていた。広間になっているので柱はそれぞれ太くしっかりとしている。

『お褒めに預かり光栄です。祈念殿は二十八本の柱で屋根を支えております』

 中央の四本の龍井柱は四季を表し、その外側の十二本の赤い柱は十二ヶ月を、更に外側の十二本の柱は十二時辰(24時間を2時間ずつに分ける時法)を表しているらしい。内部に描かれた絵がこれまた見事であった。
 香子があちらを見たいと言えば朱雀が動く。張はそんな香子たちの様子をにこにこしながら見守っていた。しばらくそうして好きなように祈念殿の内部を見ているとようやく食事の準備が整ったらしい。

『たいへんお待たせしました。基壇の下に大唐の幸を集めました。どうぞご賞味下さい』
『わあ。早く行きましょう!』

 香子自身は全く動いてはいないが既にいろいろあって疲れていた。そこへきて豪華な料理である。香子は途端に元気になり、朱雀と青龍をせかした。

『きゃーーーっっ!!』

 果たして、絶対に食べきれない量のごちそうが白く大きな卓子テーブルに載せられている。香子は歓喜した。

『ふむ。どのように食べてもいいのか?』
『はい。孟章神君、陵光神君、白香娘娘のお好きなようにお召し上がりください』

 ごちそうにしか目がいっていない香子の代わりに朱雀が聞くと、張は当然というように答えた。そして食卓から離れたところに他の神官たちと共に控える。
 パッと見ただけで子豚の丸焼き、北京烤鸭(北京ダック)、清蒸大桂魚(桂魚の姿蒸し)、水餃子、色とりどりの野菜料理、沢山の前菜、各地から集めたであろう果物が山と積まれている。

(ぜっっったいに食べきれない! くやしいいいいいい~~~~!!)

 きっと今夜の宮廷での晩餐会でも似たようなごちそうが出されることは間違いないだろうが、それでも食べきれないことが香子はくやしくてならなかった。
 香子は朱雀と青龍の間に挟まれた席に下ろしてもらい、

『食べます!』

 と声も高らかに宣言して食べ始めた。さすがにここでは日本語で「いただきます」と言うわけにはいかない。
 香子は元々肉類は好きではないのだが、ここで出された豚肉はとてもおいしかった。パリパリの皮は言うまでもなく、脂身もまたまるで口の中でとろけるようである。北京ダックは大好きで、皮にたっぷりと身のついた肉を餃子の皮よりも一回り大きな薄餅に乗せ、甜麺醤をベースとしたタレ、細切りのキュウリ、ネギ、揚げワンタンと共に包んでかぶりつくのは至福のひと時だ。

『おいし~い!!』

 桂魚(ケツギョ)は高級淡水魚で高級料理店で時価で扱われる魚である。白身は淡白でありながらその存在感を主張し、口の中に入れればほろほろと崩れとにかくおいしい。水餃子の中の具材もさまざまだった。まるで西安の餃子宴かと思うほど種類があり、香子は思わず『持ち帰りできるのかな……』と呟いてしまったほどである。
 果物も国中から集めてきたらしく、北京では決して採れない荔枝ライチまであった。

『ううう……なんという贅沢……』

 後が怖い、と呟きながらも香子はおなかの限界まで料理を食べ続けたのだった。



ーーーーー
「貴方色に染まる」は28話辺りです。28話、なんか甘いですね(何
https://www.alphapolis.co.jp/novel/977111291/934161364
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