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第2部 嫁ぎ先を決めろと言われました
105.また採寸するそうです
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紅児の純粋さに地味にダメージを受けながらも、翌日の予定を思うと香子はまたうんざりした。
『衣裳の調整が明日なのよね……』
明日にはまた改めて針子がくるらしい。そんなに身体にぴったりした衣裳を着るわけではないだろうと思うだけに意味がわからない。椅子になっている青龍が香子の髪を優しく撫でる。
『香子、そなに憂鬱なれば断ってもよいのだぞ』
(またそうやって甘やかすー)
香子は一瞬青龍を睨んだ。そして首を振る。
春の大祭に出たいと言ったのは自分である。
「踊る阿呆に見る阿呆、同じ阿呆なら踊らにゃ損々」という阿波踊りの歌の出だしの部分を、香子は青龍に話した。青龍は感心したようだったがどうも言葉通り踊るものと勘違いしたのかもしれなかった。そうではないとは言ったがどういう解釈をしたかは謎である。毎日一緒に過ごしていてもその思考は読めない。
それよりもその話をしている時紅児がきらきらした眼差しを向けてきたことで、また少しダメージを受けたのは余談である。
翌日、言われていた通り何人もの女性が「謁見の間」に足を踏み入れた。さすがに四神宮の中に人を入れるわけにはいかない。その中には以前慈寧宮で仮の衣裳決めをした際にいた、王都でも評判の仕立て屋から来ている者たちもいた。以前会ったことがある者たちは同席している朱雀の姿を見ても平然としていたが、それ以外の者たちはさすがに一瞬ぎょっとしたような顔をした。
女性の採寸に神様とはいえ男性が同席するとは思わなかったのだろう。香子は少しだけ彼女たちに同情した。
彼女たちを案内した趙文英は当然ながら謁見の間の中には入らなかった。朱雀の他紅夏、黒月、延夕玲が今回は付き従っている。更に皇太后から女官が一人派遣されてきた。先日後宮で対応してくれた王である。
衣裳は仮縫いとはいえほぼ出来上がっているように見えた。
香子が当日着替えを四回することは前述した。移動中の衣裳は比較的かっちりとしているが、天壇で祭祀を行う際は緩めのものが用意された。何故だろうと首を傾げたが朱雀は笑むばかりで教えてくれない。
『できるだけ早く終らせる故、そなたは我らの言う通りにしておればよい』
という思わせぶりな言葉をもらった。
(やっぱり私、早まった……?)
冷汗をかいたがここまで準備をされて今更止めますというわけにもいかない。四神に言えば有無を言わさず中止にしてくれるだろうが、みなに迷惑をかけてまで止めたいとまでは思わなかった。
(つーかここで止めたら何のために青龍さまに抱かれたのか……。いや、青龍さまのことは好きだけど、意味が、うん)
そこまで考えて香子は胸の痛みを覚えた。青龍のことは好きだ。好きだから抱かれたのは間違いない。そのきっかけが春の大祭に出たいという香子の思いだというだけで。
誰に言い訳をしているのだと思いながら次々と着替えをし、終った頃にはぐったりだった。正直立っているのもつらいぐらいだったので、終ってすぐに香子を抱き上げた朱雀に無意識に頭をすり寄せたほどである。朱雀の言葉を王と夕玲が伝え、女性たちはしずしずと謁見の間から出て行った。そこで香子もぐだっとだれてしまいたかったが黒月と夕玲の目がある為さすがに耐えた。夕玲はあからさまに呆れたような表情はしないだろうが、黒月の視線は本当に容赦がない。
謁見の間から四神宮に戻ったところで香子は朱雀にぐったりとその身をもたせかけた。
『少し休むか?』
『はい、あと……』
これから大祭までのスケジュールを思い浮かべる。張老師は大祭が終るまではこないし、あとはプロポーションの維持につとめるぐらいである。四神に抱かれることで体型は変わっていないので香子のやることはない。
ならば。
だがそれを香子から言い出すのは些か恥ずかしい。ただそれを四神に察しろと言っても無理な話で。
朱雀の室に移動してから、香子は真っ赤な顔をし朱雀の耳元で囁いた。
『今宵は、青龍さまもご一緒に……』
『よいのだな?』
コクリと頷く。
丸一日拘束されることも覚悟の上。また朱雀の”熱”を受けて、甘く啼かされるのだろう。
香子はあらぬところが熱くなるのを感じ、戸惑うことしかできなかった。
翌日の夜、『おなかすいた!』と泣きそうな声で香子が訴えたことで厨師たちは待ってましたとばかりに腕を振るった。
『やっぱり……つらいいいいい』
『……これでも短い方なのだが……』
青龍の呟きに香子はふるふると首を振る。やはり一年で結婚相手を決めるというのはかなり無謀だと思った。
───
「貴方色に染まる」23話と連動しています。
https://www.alphapolis.co.jp/novel/977111291/934161364
先日慈寧宮に行った件については、「第二部79.衣裳を決めるのはたいへんです」参照のこと。
『衣裳の調整が明日なのよね……』
明日にはまた改めて針子がくるらしい。そんなに身体にぴったりした衣裳を着るわけではないだろうと思うだけに意味がわからない。椅子になっている青龍が香子の髪を優しく撫でる。
『香子、そなに憂鬱なれば断ってもよいのだぞ』
(またそうやって甘やかすー)
香子は一瞬青龍を睨んだ。そして首を振る。
春の大祭に出たいと言ったのは自分である。
「踊る阿呆に見る阿呆、同じ阿呆なら踊らにゃ損々」という阿波踊りの歌の出だしの部分を、香子は青龍に話した。青龍は感心したようだったがどうも言葉通り踊るものと勘違いしたのかもしれなかった。そうではないとは言ったがどういう解釈をしたかは謎である。毎日一緒に過ごしていてもその思考は読めない。
それよりもその話をしている時紅児がきらきらした眼差しを向けてきたことで、また少しダメージを受けたのは余談である。
翌日、言われていた通り何人もの女性が「謁見の間」に足を踏み入れた。さすがに四神宮の中に人を入れるわけにはいかない。その中には以前慈寧宮で仮の衣裳決めをした際にいた、王都でも評判の仕立て屋から来ている者たちもいた。以前会ったことがある者たちは同席している朱雀の姿を見ても平然としていたが、それ以外の者たちはさすがに一瞬ぎょっとしたような顔をした。
女性の採寸に神様とはいえ男性が同席するとは思わなかったのだろう。香子は少しだけ彼女たちに同情した。
彼女たちを案内した趙文英は当然ながら謁見の間の中には入らなかった。朱雀の他紅夏、黒月、延夕玲が今回は付き従っている。更に皇太后から女官が一人派遣されてきた。先日後宮で対応してくれた王である。
衣裳は仮縫いとはいえほぼ出来上がっているように見えた。
香子が当日着替えを四回することは前述した。移動中の衣裳は比較的かっちりとしているが、天壇で祭祀を行う際は緩めのものが用意された。何故だろうと首を傾げたが朱雀は笑むばかりで教えてくれない。
『できるだけ早く終らせる故、そなたは我らの言う通りにしておればよい』
という思わせぶりな言葉をもらった。
(やっぱり私、早まった……?)
冷汗をかいたがここまで準備をされて今更止めますというわけにもいかない。四神に言えば有無を言わさず中止にしてくれるだろうが、みなに迷惑をかけてまで止めたいとまでは思わなかった。
(つーかここで止めたら何のために青龍さまに抱かれたのか……。いや、青龍さまのことは好きだけど、意味が、うん)
そこまで考えて香子は胸の痛みを覚えた。青龍のことは好きだ。好きだから抱かれたのは間違いない。そのきっかけが春の大祭に出たいという香子の思いだというだけで。
誰に言い訳をしているのだと思いながら次々と着替えをし、終った頃にはぐったりだった。正直立っているのもつらいぐらいだったので、終ってすぐに香子を抱き上げた朱雀に無意識に頭をすり寄せたほどである。朱雀の言葉を王と夕玲が伝え、女性たちはしずしずと謁見の間から出て行った。そこで香子もぐだっとだれてしまいたかったが黒月と夕玲の目がある為さすがに耐えた。夕玲はあからさまに呆れたような表情はしないだろうが、黒月の視線は本当に容赦がない。
謁見の間から四神宮に戻ったところで香子は朱雀にぐったりとその身をもたせかけた。
『少し休むか?』
『はい、あと……』
これから大祭までのスケジュールを思い浮かべる。張老師は大祭が終るまではこないし、あとはプロポーションの維持につとめるぐらいである。四神に抱かれることで体型は変わっていないので香子のやることはない。
ならば。
だがそれを香子から言い出すのは些か恥ずかしい。ただそれを四神に察しろと言っても無理な話で。
朱雀の室に移動してから、香子は真っ赤な顔をし朱雀の耳元で囁いた。
『今宵は、青龍さまもご一緒に……』
『よいのだな?』
コクリと頷く。
丸一日拘束されることも覚悟の上。また朱雀の”熱”を受けて、甘く啼かされるのだろう。
香子はあらぬところが熱くなるのを感じ、戸惑うことしかできなかった。
翌日の夜、『おなかすいた!』と泣きそうな声で香子が訴えたことで厨師たちは待ってましたとばかりに腕を振るった。
『やっぱり……つらいいいいい』
『……これでも短い方なのだが……』
青龍の呟きに香子はふるふると首を振る。やはり一年で結婚相手を決めるというのはかなり無謀だと思った。
───
「貴方色に染まる」23話と連動しています。
https://www.alphapolis.co.jp/novel/977111291/934161364
先日慈寧宮に行った件については、「第二部79.衣裳を決めるのはたいへんです」参照のこと。
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