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54.公爵家に無事到着しました
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どかっ!
「ぶっ!? ヴィ、ヴィクトール?」
「ああ、申し訳ありません。つい足が」
ヴィクトール様が突然プランタ公爵の足を蹴った。公爵の衣裳に靴の跡がくっきりとついてしまっている。
「……全く」
公爵は眉を寄せながら魔法を二回使った。最初は打ち身を治したのだろうか。二回目は衣裳の靴の跡が消えていたことから洗浄魔法を使ったに違いなかった。
「おお、痛い……足が折れてしまったじゃあないか。嫉妬がすぎるのも大概だぞ」
「折れてしまいましたか。それほど強い力をかけたわけではないのですが」
「ぶっ!?」
親子の会話が怖すぎです。そして足が折れてもそれを魔法で普通に治してしまう公爵ぱないです。絶対この二人の背中には真っ黒い羽が生えているに違いありません。
「……あ……」
ヴィクトール様に、より密着するように引き寄せられて思わず声が漏れた。
「ローゼ、今宵邪魔が入らない。……わかっているな」
「……そ、それは……」
顔がカーッ! と熱くなった。目の前に公爵がいるのになんてことを言うのだ。公爵が手をひらひらと振った。
「あー甘い甘い、虫歯にでもなりそうだ」
「歯磨きが足りないのではないですか?」
「悪かったよ」
公爵の方が降参したらしい。ってことは、魔王様はやっぱりヴィクトール様なんだろうか。って、魔王様って何?
やがて馬車は王都のプランタ公爵家に入っていった。私がいたのもこちらの館の方である。公爵家の土地は王都から馬車を走らせて二日ほどいったところにあるらしい。ヴィクトール様と結婚した後はそちらに住むことになるそうだ。王都から離れるのはちょっと寂しいけど王太子と絶対に顔を合わせなくて済むと思ったら早くそちらへ行きたいと思った。
ちなみに、ルガリシ男爵領は王都から馬車で五日はかかる位置にある。おかげで正妻はそちらにがんとして行かず、男爵が一年に一度ぐらい顔を出すぐらいだったようだ。男爵領には当然のことながら代官が置かれていたが、土地はそれほどいい土地とはいえないらしく、そこの領民はいつも食べる物に困るほどだと王宮に上がってから聞いた。
私と母がプランタ公爵家に仕え始めてから、それまで全然話題に上らなかったルガリシ男爵家が脚光を浴びたのである。私たち親子をプランタ公爵が引き取ったことで公爵の株が上がり、母共々引き取られるなど尋常ではないと思った人々が男爵家を叩き始めた。最初のうちは話題にされて喜んでいた正妻と異母兄も、その領民への仕打ちのひどさを知られて今では王都で歩けないぐらいだとか。自業自得だとは思うけど、学園に入れてもらえたのはありがたかったと思う。おかげでいっぱい勉強できたし、ヴィクトール様にも会うことができた。でももう二度と会うことはないだろう。
公爵家では公爵夫人と母が待っていた。母は公爵夫人付きの侍女となったらしい。それでも身分が低いことには変わりはないので、あくまで館にいる間だけである。公爵夫人が出かける際は留守番をしているようだ。
「おかえりなさいませ、あなた。ローゼを連れてきてくれたのね、嬉しいわ」
馬車からは先にヴィクトール様が降りて馬車の脇に控え、公爵を先に下ろした。それから私の手をとって下ろしてくれた。
そうだよね、今は遣いに扮しているのだものね。でも私にはヴィクトーリア様のドレスを着たヴィクトール様にしか見えない。もうなんか美しすぎてドレス姿でも違和感が全くない。
私は公爵の後ろに控え、その後ろからヴィクトール様が続いた。そのまま館に招き入れられる。扉が閉まると、公爵夫人はいたずらが成功したような表情になった。
「館の中は結界が張ってあるから大丈夫よ」
「母上、ありがとうございます」
ヴィクトール様は幻術を解いたようだった。公爵夫人がまじまじとドレス姿のヴィクトール様を眺めた。
「……相変わらず似合うわねぇ。早く着替えていらっしゃいな。そうしないとローゼに見限られてしまうかもしれませんよ」
「わかりました。ローゼ、おいで」
腕をそっと取られたかと思うと、ヴィクトール様はドレス姿のまま私を抱き上げた。
「っ!?」
「着替えはローゼに付き合ってもらいます」
「あらあら。着替えたらすぐに居間にいらっしゃい。ローゼのドレスを貴方の部屋のクローゼットに入れておいたわ」
「ありがとうございます」
どういうことなのかと聞きたくてたまらなかったが、きょろきょろするわけにもいかないので熱くなる頬をどうしようと思いながら私はヴィクトール様に部屋まで運ばれてしまったのだった。
「ぶっ!? ヴィ、ヴィクトール?」
「ああ、申し訳ありません。つい足が」
ヴィクトール様が突然プランタ公爵の足を蹴った。公爵の衣裳に靴の跡がくっきりとついてしまっている。
「……全く」
公爵は眉を寄せながら魔法を二回使った。最初は打ち身を治したのだろうか。二回目は衣裳の靴の跡が消えていたことから洗浄魔法を使ったに違いなかった。
「おお、痛い……足が折れてしまったじゃあないか。嫉妬がすぎるのも大概だぞ」
「折れてしまいましたか。それほど強い力をかけたわけではないのですが」
「ぶっ!?」
親子の会話が怖すぎです。そして足が折れてもそれを魔法で普通に治してしまう公爵ぱないです。絶対この二人の背中には真っ黒い羽が生えているに違いありません。
「……あ……」
ヴィクトール様に、より密着するように引き寄せられて思わず声が漏れた。
「ローゼ、今宵邪魔が入らない。……わかっているな」
「……そ、それは……」
顔がカーッ! と熱くなった。目の前に公爵がいるのになんてことを言うのだ。公爵が手をひらひらと振った。
「あー甘い甘い、虫歯にでもなりそうだ」
「歯磨きが足りないのではないですか?」
「悪かったよ」
公爵の方が降参したらしい。ってことは、魔王様はやっぱりヴィクトール様なんだろうか。って、魔王様って何?
やがて馬車は王都のプランタ公爵家に入っていった。私がいたのもこちらの館の方である。公爵家の土地は王都から馬車を走らせて二日ほどいったところにあるらしい。ヴィクトール様と結婚した後はそちらに住むことになるそうだ。王都から離れるのはちょっと寂しいけど王太子と絶対に顔を合わせなくて済むと思ったら早くそちらへ行きたいと思った。
ちなみに、ルガリシ男爵領は王都から馬車で五日はかかる位置にある。おかげで正妻はそちらにがんとして行かず、男爵が一年に一度ぐらい顔を出すぐらいだったようだ。男爵領には当然のことながら代官が置かれていたが、土地はそれほどいい土地とはいえないらしく、そこの領民はいつも食べる物に困るほどだと王宮に上がってから聞いた。
私と母がプランタ公爵家に仕え始めてから、それまで全然話題に上らなかったルガリシ男爵家が脚光を浴びたのである。私たち親子をプランタ公爵が引き取ったことで公爵の株が上がり、母共々引き取られるなど尋常ではないと思った人々が男爵家を叩き始めた。最初のうちは話題にされて喜んでいた正妻と異母兄も、その領民への仕打ちのひどさを知られて今では王都で歩けないぐらいだとか。自業自得だとは思うけど、学園に入れてもらえたのはありがたかったと思う。おかげでいっぱい勉強できたし、ヴィクトール様にも会うことができた。でももう二度と会うことはないだろう。
公爵家では公爵夫人と母が待っていた。母は公爵夫人付きの侍女となったらしい。それでも身分が低いことには変わりはないので、あくまで館にいる間だけである。公爵夫人が出かける際は留守番をしているようだ。
「おかえりなさいませ、あなた。ローゼを連れてきてくれたのね、嬉しいわ」
馬車からは先にヴィクトール様が降りて馬車の脇に控え、公爵を先に下ろした。それから私の手をとって下ろしてくれた。
そうだよね、今は遣いに扮しているのだものね。でも私にはヴィクトーリア様のドレスを着たヴィクトール様にしか見えない。もうなんか美しすぎてドレス姿でも違和感が全くない。
私は公爵の後ろに控え、その後ろからヴィクトール様が続いた。そのまま館に招き入れられる。扉が閉まると、公爵夫人はいたずらが成功したような表情になった。
「館の中は結界が張ってあるから大丈夫よ」
「母上、ありがとうございます」
ヴィクトール様は幻術を解いたようだった。公爵夫人がまじまじとドレス姿のヴィクトール様を眺めた。
「……相変わらず似合うわねぇ。早く着替えていらっしゃいな。そうしないとローゼに見限られてしまうかもしれませんよ」
「わかりました。ローゼ、おいで」
腕をそっと取られたかと思うと、ヴィクトール様はドレス姿のまま私を抱き上げた。
「っ!?」
「着替えはローゼに付き合ってもらいます」
「あらあら。着替えたらすぐに居間にいらっしゃい。ローゼのドレスを貴方の部屋のクローゼットに入れておいたわ」
「ありがとうございます」
どういうことなのかと聞きたくてたまらなかったが、きょろきょろするわけにもいかないので熱くなる頬をどうしようと思いながら私はヴィクトール様に部屋まで運ばれてしまったのだった。
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