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46.それは恋愛結婚というのでしょうか
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王妃からの追求ものらりくらりとかわして数か月が過ぎました。王宮に来てからはとっくに半年が過ぎ、まもなく八か月が終ろうとしています。
これまで、いろいろなことが起こった気がします。
ヴィクトーリア様は公務の傍らマリーンにいろいろなことを教え込んでいます。ご自分が去った後、スムーズに王太子妃になれるようにでしょう。いわゆる引き継ぎというもののように思えます。
ここまでは丁寧に状況を伝えてきましたが、つらいのでやめます。
「マリーン、王太子様とはどう?」
「あ、ハイ。気にかけていただいていますわ……」
私の前ではそれなりにぶっちゃけるけどヴィクトーリア様の前ではそうもいかないみたい。一緒に刺繍などをしながらもマリーンの声は固い。どうやらお互いに刺繍入りのハンカチを作るという話になったそうだ。ヴィクトーリア様は苦笑していたがなかなかどうして上手だった。
「こういったものは苦手なのだけど……」
「妃殿下は……謙遜が過ぎますわ……」
二人で刺繍をしているのでお互いのものがよく見えるのだ。ヴィクトーリア様は全くマリーンの方は見ていないが。
ヴィクトーリア様って本当になんでも手際よくできるんだよね。そのことをベッドの上で聞いたら嫌そうな顔をされた。
「……いろいろあるのだ」
答えてはくれなかったところをみると、もしかしたら前世に関係のあることだったのかもしれない。そういえばお姉さんがいたとか言っていたし。おっと、いけないいけない。
ヴィクトーリア様は淡々と公務をこなし、王太子の訪れもいつものようにさばいていた。
王妃に呼ばれ、お茶をしていたある日のこと、王太子がすごい形相で庭園に現れた。その手には何やら紙を握っている。
「まぁ、アルノルト。そんな険しい顔をしてどうしたというの?」
王妃が驚いて王太子に声をかけた。王太子は王妃を一瞥する。
「もしや、母上がお膳立てしたのではないでしょうな!?」
王妃は王太子の剣幕に、慌てて扇子を広げ口元を隠した。って、王太子とはいえ自分の息子に負けちゃだめでしょうが。
王太子がデーデン、デーデンとジ〇ーズのテーマを背にヴィクトーリア様に近づいてきた。
「ヴィクトーリア……ヴィクトーリア! これはいったいどういうことだ!?」
目の前に出されたくしゃくしゃの紙を見て、ヴィクトーリア様は扇子で口元を隠しながら首を傾げた。
「王太子様? なんのことでございましょう?」
「しばらっくれるな!」
王太子はものすごい剣幕でヴィクトーリア様を怒鳴りつけた。
私は思わず肩を竦めた。いるよねー、大声出して威圧して自分の思い通りにしたがる人。今の王太子はそんなわがままな人みたいだ。
「……ローゼがお前の弟のヴィクトールと婚約とはいったいどういうことなんだ!」
……はい?
私は一瞬耳を疑った。
私がヴィクトール様と婚約、ですって?
私はちら、とヴィクトーリア様を見た。涼し気な顔で王太子を見返している。
「それがどうかしまして?」
平然と言われ、王太子は口をぱくぱくと動かした。ヴィクトーリア様が知らないとでもいうと思っていたのだろうか。
「……どういうことなのかと聞いている」
「そのままですわ。弟のヴィクトールはローゼが侍女見習いとして公爵家にいた際、恋をしましたの。私と共に王宮に上がることは知っていましたがどうしても気持ちを抑えきれないというので……妾ではなく正式な妻として迎えるのならばと伝えましたわ」
「そ、そんな……だが、ローゼは……」
王太子は動揺が隠せないようでわなわなと身体が震えだした。
「ま、まぁ……公爵家の妻に男爵家の娘を?」
王妃が口を挟んだ。ヴィクトーリア様はにっこりする。
「ええ。プランタ公爵家はみな恋愛体質でして……政略結婚よりも恋愛結婚を望んでおりますわ」
「まぁ……」
王妃が絶句した。私もそんなことは初耳だった。
「れ、恋愛だと! ならばローゼはヴィクトールに恋をしているとでもいうのか!?」
恋? ヴィクトーリア様は嫌いではないけど……確かにこの方と結婚するしか王太子から逃れるすべはなさそうなんだけど、それは私がヴィクトーリア様の側にいることが一番安全だからであって……。そんな、好きかどうかなんてこんな公衆の面前でいうことではないし。
カッと頭全体が熱を持つのを感じた。
「ローゼ……そうか……プランタ公爵家にいる時にはすでに、ということだったのか……」
それには異論があります。でもここで否定して、また王太子のよいように解釈されたら困るので私はそっと目を伏せた。
「……この、売女め! 私の恋心を弄んだ罪は重いぞ!」
えええええ? 指をビシッとさされたんですけど。なんで王太子が逆上してるんですか?
王妃はとても困ったような顔をしている。ヴィクトーリア様はあきれ顔だ。
「王太子様、少し落ち着かれたらどうでしょう?」
にっこりと笑み、ヴィクトーリア様はわかりやすく王太子に拘束の魔法を使った。私はのん気に、魔法ってこんな演出もできるんだと感心していた。
これまで、いろいろなことが起こった気がします。
ヴィクトーリア様は公務の傍らマリーンにいろいろなことを教え込んでいます。ご自分が去った後、スムーズに王太子妃になれるようにでしょう。いわゆる引き継ぎというもののように思えます。
ここまでは丁寧に状況を伝えてきましたが、つらいのでやめます。
「マリーン、王太子様とはどう?」
「あ、ハイ。気にかけていただいていますわ……」
私の前ではそれなりにぶっちゃけるけどヴィクトーリア様の前ではそうもいかないみたい。一緒に刺繍などをしながらもマリーンの声は固い。どうやらお互いに刺繍入りのハンカチを作るという話になったそうだ。ヴィクトーリア様は苦笑していたがなかなかどうして上手だった。
「こういったものは苦手なのだけど……」
「妃殿下は……謙遜が過ぎますわ……」
二人で刺繍をしているのでお互いのものがよく見えるのだ。ヴィクトーリア様は全くマリーンの方は見ていないが。
ヴィクトーリア様って本当になんでも手際よくできるんだよね。そのことをベッドの上で聞いたら嫌そうな顔をされた。
「……いろいろあるのだ」
答えてはくれなかったところをみると、もしかしたら前世に関係のあることだったのかもしれない。そういえばお姉さんがいたとか言っていたし。おっと、いけないいけない。
ヴィクトーリア様は淡々と公務をこなし、王太子の訪れもいつものようにさばいていた。
王妃に呼ばれ、お茶をしていたある日のこと、王太子がすごい形相で庭園に現れた。その手には何やら紙を握っている。
「まぁ、アルノルト。そんな険しい顔をしてどうしたというの?」
王妃が驚いて王太子に声をかけた。王太子は王妃を一瞥する。
「もしや、母上がお膳立てしたのではないでしょうな!?」
王妃は王太子の剣幕に、慌てて扇子を広げ口元を隠した。って、王太子とはいえ自分の息子に負けちゃだめでしょうが。
王太子がデーデン、デーデンとジ〇ーズのテーマを背にヴィクトーリア様に近づいてきた。
「ヴィクトーリア……ヴィクトーリア! これはいったいどういうことだ!?」
目の前に出されたくしゃくしゃの紙を見て、ヴィクトーリア様は扇子で口元を隠しながら首を傾げた。
「王太子様? なんのことでございましょう?」
「しばらっくれるな!」
王太子はものすごい剣幕でヴィクトーリア様を怒鳴りつけた。
私は思わず肩を竦めた。いるよねー、大声出して威圧して自分の思い通りにしたがる人。今の王太子はそんなわがままな人みたいだ。
「……ローゼがお前の弟のヴィクトールと婚約とはいったいどういうことなんだ!」
……はい?
私は一瞬耳を疑った。
私がヴィクトール様と婚約、ですって?
私はちら、とヴィクトーリア様を見た。涼し気な顔で王太子を見返している。
「それがどうかしまして?」
平然と言われ、王太子は口をぱくぱくと動かした。ヴィクトーリア様が知らないとでもいうと思っていたのだろうか。
「……どういうことなのかと聞いている」
「そのままですわ。弟のヴィクトールはローゼが侍女見習いとして公爵家にいた際、恋をしましたの。私と共に王宮に上がることは知っていましたがどうしても気持ちを抑えきれないというので……妾ではなく正式な妻として迎えるのならばと伝えましたわ」
「そ、そんな……だが、ローゼは……」
王太子は動揺が隠せないようでわなわなと身体が震えだした。
「ま、まぁ……公爵家の妻に男爵家の娘を?」
王妃が口を挟んだ。ヴィクトーリア様はにっこりする。
「ええ。プランタ公爵家はみな恋愛体質でして……政略結婚よりも恋愛結婚を望んでおりますわ」
「まぁ……」
王妃が絶句した。私もそんなことは初耳だった。
「れ、恋愛だと! ならばローゼはヴィクトールに恋をしているとでもいうのか!?」
恋? ヴィクトーリア様は嫌いではないけど……確かにこの方と結婚するしか王太子から逃れるすべはなさそうなんだけど、それは私がヴィクトーリア様の側にいることが一番安全だからであって……。そんな、好きかどうかなんてこんな公衆の面前でいうことではないし。
カッと頭全体が熱を持つのを感じた。
「ローゼ……そうか……プランタ公爵家にいる時にはすでに、ということだったのか……」
それには異論があります。でもここで否定して、また王太子のよいように解釈されたら困るので私はそっと目を伏せた。
「……この、売女め! 私の恋心を弄んだ罪は重いぞ!」
えええええ? 指をビシッとさされたんですけど。なんで王太子が逆上してるんですか?
王妃はとても困ったような顔をしている。ヴィクトーリア様はあきれ顔だ。
「王太子様、少し落ち着かれたらどうでしょう?」
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