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40.王妃様はいつも通りです
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数日後、ヴィクトーリア様は王妃に呼び出された。
……うん、まぁ予想はしていた。貴女の息子さんの件ですよね。いくら物を知らない私でもわかります。
王妃は笑顔でヴィクトーリア様を迎えたけど、その笑顔は引きつっていた。とても怖い。
挨拶をして促された席にヴィクトーリア様が腰掛ける。私には女装したとても美しい男性にしか見えないんだけど、他の人たちには絶世の美少女に見えるんだよね。そう思ったら噴き出すのをこらえるのに苦労した。
考えてはだめだ。平常心、平常心。
「……ヴィクトーリア、どういうことなのかしら?」
にこやかに王妃が尋ねる。例によって目が笑っていません。すごく怖い。ヴィクトーリア様は首を傾げた。
「? なんのことでございましょう?」
「しらばっくれないで。アルノルトに側室を勧めたのは貴女でしょう!?」
えええええ? 側室がほしければかまわないとは言ったけど勧めてはいないはず……。私は首を傾げそうになった。いけないいけない。
「私が、ですか? 王太子様に何のために側室を勧めるのですか? 側室にしたいご令嬢がいるとは聞きましたのでどうぞとお伝えはしましたが……」
ヴィクトーリア様は困惑したような顔をして答えた。王妃の顔が真っ赤になった。
あれ? もしかしたら王妃はしっかり話を聞いていなかったのだろうか。誰から聞いたのかまではわからないけど。
「……側室候補はイセンテ伯爵令嬢だと聞いたわ」
「はい。イセンテ伯爵家は名門ですから、王太子様がそれを望まれるのでしたらと思いましたが……」
「そうね……名門だわ。話はわかりました。こちらで調整しましょう。ヴィクトーリアには苦労をかけるわね」
「そんなことはございませんわ。王妃様の国と民を思われる優しいお心、見習わせていただきたいと常々思っております」
「……そうね。アルノルトは側室を迎えることになるでしょう。できるだけ仲良く過ごしてもらいたいものだわ……」
「はい。王妃様のお心遣い、感謝します」
ヴィクトーリア様がにこやかにそう返した。王妃はそれ以上何も言えなくなった。
聞いていると全くかみ合ってない会話なんだけど、王妃は自分が持ち上げられているものだから全然違和感に気づいていないようだった。ヴィクトーリア様が一枚上手なのか、王妃が愚かなのか、はたまたその両方なのかはわからない。
これによって言質はとったも同然で、それから二月後マリーンは正式に王太子の側室として迎えられることとなった。それに伴いマリーンは王立学園を卒業したこととなった。私と同じ措置である。
「ヴィクトーリア様」
「なんだ?」
月の物が終わり、王太子を寝室に迎え入れていつもと同じ処置をしてから、私はヴィクトーリア様にベッドへ運ばれた。
「マリーンは、本当に王太子の側室になりたかったのでしょうか」
「さぁな。だが私が退場すれば王太子妃に繰り上がるだろう。さすがに自動的にとはいかないから彼女なりに努力はするようだろうが」
「そうですね……以前、マリーンが転生者ではないかとヴィクトーリア様はおっしゃられていましたよね」
「ああ、言った」
「転生者だというならどうしてマリーンはここに来たのでしょうか」
もっと他にいい人がいたのではないかとかどうしても考えてしまう。マリーンは王太子にはもったいない気がするからなおさらだった。
「……マリーン嬢は婚約者を亡くしたと聞いた」
「はい」
「相手は婚約者だが、それを不吉と考えられるには十分だろう」
婚約者を亡くした女性は縁起が悪いってこと?
「そんな……マリーンには何も関係ないじゃないですかっ!?」
「だが周りはそう考えない。貰い手がなければマリーン嬢はどこへ嫁がされるだろうか」
「……あ……」
もしかしたら奥さんを亡くしたどこぞの貴族に嫁がされるかもしれない。その方がどんなにいい人でも、それなりに年をとっているに違いなかった。
この世界は完全な男尊女卑だ。行き遅れは恥とされ、おそらく私もあのまま男爵家にいたらどこかの金持ちとかに売られるようにして嫁がされたに違いない。
確かにそれならば、王太子の側室は望むべくしてなるものだろう。
「……マリーンが幸せならばそれでいいんです」
「大丈夫だ。彼女はそのまま王太子に嫁いでくればいい。私が王宮にいる間はローゼの友人も守ってやる」
「……ありがとうございます!」
ヴィクトーリア様に抱き着く。早くこんな恐ろしい王宮なんてところから逃げ出したいけど、もう少しだけいた方がいいと思った。
どうか、友人が幸せになれますように。
心の底から祈った。
……うん、まぁ予想はしていた。貴女の息子さんの件ですよね。いくら物を知らない私でもわかります。
王妃は笑顔でヴィクトーリア様を迎えたけど、その笑顔は引きつっていた。とても怖い。
挨拶をして促された席にヴィクトーリア様が腰掛ける。私には女装したとても美しい男性にしか見えないんだけど、他の人たちには絶世の美少女に見えるんだよね。そう思ったら噴き出すのをこらえるのに苦労した。
考えてはだめだ。平常心、平常心。
「……ヴィクトーリア、どういうことなのかしら?」
にこやかに王妃が尋ねる。例によって目が笑っていません。すごく怖い。ヴィクトーリア様は首を傾げた。
「? なんのことでございましょう?」
「しらばっくれないで。アルノルトに側室を勧めたのは貴女でしょう!?」
えええええ? 側室がほしければかまわないとは言ったけど勧めてはいないはず……。私は首を傾げそうになった。いけないいけない。
「私が、ですか? 王太子様に何のために側室を勧めるのですか? 側室にしたいご令嬢がいるとは聞きましたのでどうぞとお伝えはしましたが……」
ヴィクトーリア様は困惑したような顔をして答えた。王妃の顔が真っ赤になった。
あれ? もしかしたら王妃はしっかり話を聞いていなかったのだろうか。誰から聞いたのかまではわからないけど。
「……側室候補はイセンテ伯爵令嬢だと聞いたわ」
「はい。イセンテ伯爵家は名門ですから、王太子様がそれを望まれるのでしたらと思いましたが……」
「そうね……名門だわ。話はわかりました。こちらで調整しましょう。ヴィクトーリアには苦労をかけるわね」
「そんなことはございませんわ。王妃様の国と民を思われる優しいお心、見習わせていただきたいと常々思っております」
「……そうね。アルノルトは側室を迎えることになるでしょう。できるだけ仲良く過ごしてもらいたいものだわ……」
「はい。王妃様のお心遣い、感謝します」
ヴィクトーリア様がにこやかにそう返した。王妃はそれ以上何も言えなくなった。
聞いていると全くかみ合ってない会話なんだけど、王妃は自分が持ち上げられているものだから全然違和感に気づいていないようだった。ヴィクトーリア様が一枚上手なのか、王妃が愚かなのか、はたまたその両方なのかはわからない。
これによって言質はとったも同然で、それから二月後マリーンは正式に王太子の側室として迎えられることとなった。それに伴いマリーンは王立学園を卒業したこととなった。私と同じ措置である。
「ヴィクトーリア様」
「なんだ?」
月の物が終わり、王太子を寝室に迎え入れていつもと同じ処置をしてから、私はヴィクトーリア様にベッドへ運ばれた。
「マリーンは、本当に王太子の側室になりたかったのでしょうか」
「さぁな。だが私が退場すれば王太子妃に繰り上がるだろう。さすがに自動的にとはいかないから彼女なりに努力はするようだろうが」
「そうですね……以前、マリーンが転生者ではないかとヴィクトーリア様はおっしゃられていましたよね」
「ああ、言った」
「転生者だというならどうしてマリーンはここに来たのでしょうか」
もっと他にいい人がいたのではないかとかどうしても考えてしまう。マリーンは王太子にはもったいない気がするからなおさらだった。
「……マリーン嬢は婚約者を亡くしたと聞いた」
「はい」
「相手は婚約者だが、それを不吉と考えられるには十分だろう」
婚約者を亡くした女性は縁起が悪いってこと?
「そんな……マリーンには何も関係ないじゃないですかっ!?」
「だが周りはそう考えない。貰い手がなければマリーン嬢はどこへ嫁がされるだろうか」
「……あ……」
もしかしたら奥さんを亡くしたどこぞの貴族に嫁がされるかもしれない。その方がどんなにいい人でも、それなりに年をとっているに違いなかった。
この世界は完全な男尊女卑だ。行き遅れは恥とされ、おそらく私もあのまま男爵家にいたらどこかの金持ちとかに売られるようにして嫁がされたに違いない。
確かにそれならば、王太子の側室は望むべくしてなるものだろう。
「……マリーンが幸せならばそれでいいんです」
「大丈夫だ。彼女はそのまま王太子に嫁いでくればいい。私が王宮にいる間はローゼの友人も守ってやる」
「……ありがとうございます!」
ヴィクトーリア様に抱き着く。早くこんな恐ろしい王宮なんてところから逃げ出したいけど、もう少しだけいた方がいいと思った。
どうか、友人が幸せになれますように。
心の底から祈った。
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